2022年12月10日、国会において精神保健福祉法改正法案が成立しました。国会審議において精神保健福祉法改正案には多くの課題が指摘されました。多くの当事者は、法律自体の問題が大き過ぎるため、現行法と改正法案の内容を比較して出し直しを求めるべきかどうかという評価をするのが難しい状況にさらされていました。結果として、当初より時間が増えたとはいえ十分な審議時間が確保されることなく賛成多数により可決してしまったことは残念でした。一方で、指摘された課題は、附帯決議にまとめられ、政府として立法の意思を真摯に受け止めて取り組んでいくことが確認されました。
附帯決議には、「国連障害者権利委員会の対日審査の総括所見における、精神保健福祉法及び心神喪失者等医療観察法の規定に基づく精神障害者への非自発的入院の廃止等の勧告を踏まえ、精神科医療と他科の医療との政策体系の関係性を整理し、精神医療に関する法制度の見直しについて、精神疾患の特性も踏まえながら、精神障害者等の意見を聴きつつ検討を行い、必要な措置を講ずること。」、「第八次医療計画の中間指標では、精神科病院の非自発的入院の縮減を把握する指標例とともに、精神病床の削減のための目標値の設定について検討すること。」が入りました。これらについては、附則第3条に基づき「政府は、精神保健福祉法の規定による本人の同意がない場合の入院の制度の在り方等に関し、精神疾患の特性及び精神障害者の実情等を勘案するとともに、障害者の権利に関する条約の実施について精神障害者等の意見を聴きつつ、必要な措置を講ずることについて検討するもの」とされています。これについては、非自発的入院の廃止に向けた議論の場を設けさせるところまでは辿り着いたわけであり、評価に値すると考えます。
全国「精神病」者集団は、精神保健福祉法を撤廃するしかないと考えています。なぜなら、いくら精神保健福祉法の手続きを厳格化したところで、手続きさえ守っていれば何をしてもよいという悪しき手続的正義に収斂していくからです。適正手続きは、現場に変革をもたらしません。私たちは、精神医療を一般医療と分離する現行の枠組みの刷新を精神保健福祉法撤廃というかたちで実現し、あるべき医療を可能にする政策基盤を確立させていく必要があると考えます。
今後の政策のスケジュールは、医療計画の中間見直しが2027年、第9次医療計画の開始が2030年、障害福祉計画は第7期が2024年、第8期が2027年、第9期が2030年、報酬のトリプル改定が2024年と2030年にあります。法律の見直しは、2027年ごろであり、障害者権利条約の第2回政府報告が2028年までとなっています。このことから報酬等の在り方を踏まえながら、2027年までをワンスパンとして精神保健福祉法の解体の足掛かりを作り、2030年には廃止を完遂させたいと思います。
【声明】37条1項大臣基準(告示)から「多動又は不穏が顕著」要件を削除するための議論をしてください
私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
2022年12月6日におこなわれた参議院厚生労働委員会の障害者関連法案に係る質疑では、身体的拘束について定めた37条1項大臣基準(告示)について数多くの質問が出されました。私たち当事者は、告示に記された要件のうち「多動又は不穏が顕著である」が全体のほとんどを占めていることから、拘束増加問題の諸悪の根源の一つとみて削除を求めてきました。しかし、厚生労働省は、多動不穏要件を残したまま、患者の治療困難という新要件を追加するというあるまじき内容で報告書をまとめました。
さて、12月6日の質疑では、新要件に対して要件の拡大であるという点にこそフォーカスが当てられましたが、肝心の多動不穏要件が残されていることへの批判がほとんど出ませんでした。そのため、多動不穏要件の存置を前提にしながら患者の治療困難要件を入れることの良し悪しを論じている状態に陥っています。
中には、多動不穏要件は削除されないだろうから告示の見直し自体をしなくてよいとする意見もありました。しかし、本来は、検討する構成員の見直しなどをしながら、そもそも論に立ち返って、多動不穏要件を削除するための議論こそはじめなければならないはずです。
つきましては、多動不穏要件をそのままにして患者の治療困難の良し悪しのみを論じる議論ではなく、多動不穏要件の削除のための告示改正に立ち返って議論をしていただきますようお願い申し上げます。
【声明】愛知県警岡崎署留置場で勾留中の男性が死亡した件について
私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
2022年12月4日、愛知県警岡崎署の留置場で勾留中の男性が死亡しました。男性は、保護室にて戒具と呼ばれるベルト型の手錠を用いて100時間以上にわたり隔離・拘束されていました。男性には精神疾患があり、裸のままでの隔離・拘束が行われていたとのことです。施設内の監視カメラには、男性を複数の署員が足で蹴って動かすような様子が映っていたとされます。また、男性には糖尿病の持病がありましたが勾留中に薬が与えられることがありませんでした。死因となった腎不全は糖尿病により悪化する疾患です。「精神疾患に気を取られ糖尿病の処置を忘れていた」と対応した署員が話したとされています。
事件を受けて、隔離・拘束した理由が適正だったか、100時間以上という隔離・拘束の時間が適正だったか、隔離・拘束中はエコノミークラス症候群等の死亡事例もあり健康上のリスクが高まるという予備知識を署員が共有していたか、そのリスクを想定した上での処遇であったのか、暴行は現場の警察官だけが責任を取るのが妥当なのか、被勾留者の持病への配慮をしなかった責任はどうなるのか、裸状態での放置という虐待にどのような責任を取るつもりなのか、など疑問を述べると枚挙にいとまがありません。
本件にかかわった警察官及び警察署には、障害者を虐殺したことを糾弾するとともに、徹底した自己省察を望みます。被勾留者が不適切な処遇によって死亡する悲劇が繰り返されないことを望みます。
2022年12月6日
【声明】参議院の障害者関連法案参考人質疑における精神障害当事者の不在について
私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
全国「精神病」者集団は、第210回国会の開始直後から衆参両院の厚生労働委員に向けて精神保健福祉法改正案の審査に当たっては精神障害当事者を入れるようにとお願いしてきました。しかし、衆議院の法案審査では精神障害当事者の参考人が招致されましたが、参議院の法案審査では精神障害当事者の参考人が招致されませんでした。障害者権利条約の勧告の後の議院運営のあり方として非常に問題があると思っています。
精神保健福祉法に基づく非自発的入院や行動制限を受ける当事者は、精神障害者を除いて他にいません。どんなに詳しい有識者であったとしても、当事者とそうではない者との間には、うめようのない非対称性が横たわっています。
そのため、衆参両院のそれぞれの審査において必ず当事者を参考人に入れるべきだと考えます。また、可能な限り色々な人から意見を聞くべきとする議院の慣習は理解していますが、その結果として、いずれかの院が当事者不在になるのであれば本末転倒であると考えます。
第193回国会に提出された精神保健福祉法改正法案は、参議院先議でありながら廃案になるという憲政史上にない前代未聞の末路を辿りました。このときの対政府質疑でも政策決定過程における当事者不在が問題となりました。このたびの参議院の法案審査は、参考人質疑も当事者不在の状態で進められ、採決されることになりますが、今後は衆参両院の立法過程における当事者参画を徹底させるよう求めていきたいと思います。
障害者関連法案の付帯決議に関する要望書(参議院)
参議院議員 山田 宏 様
参議院議員 こやり 隆史 様
参議院議員 島村 大 様
参議院議員 比嘉 奈津美 様
参議院議員 川田 龍平 様
参議院議員 山本 香苗 様
参議院議員 生稲 晃子 様
参議院議員 石田 昌宏 様
参議院議員 神谷 政幸 様
参議院議員 友納 理緒 様
参議院議員 羽生田 俊 様
参議院議員 藤井 一博 様
参議院議員 星 北斗 様
参議院議員 本田 顕子 様
参議院議員 石橋 通宏 様
参議院議員 打越 さく良 様
参議院議員 高木 真理 様
参議院議員 窪田 哲也 様
参議院議員 若松 謙維 様
参議院議員 東 徹 様
参議院議員 松野 明美 様
参議院議員 田村 まみ 様
参議院議員 芳賀 道也 様
参議院議員 倉林 明子 様
参議院議員 天畠 大輔 様
晩秋の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
去る2022年8月、国連障害者の権利に関する委員会の第27回期において第1回日本政府審査がおこなわれました。国連ジュネーブ本部では、約100人の日本人が建設的対話の傍聴にかけつけ、その注目の高さがうかがえました。委員からは、日本の精神科医療に関する質問が相次ぎ、改めて国際社会からの関心の高さがわかる結果となりました。
さて、他方で、来週にも参議院での審査が予定されている精神保健福祉法改正法案は、津久井やまゆり園事件の再発防止策として出されたガイドラインの実施状況を見て提出された経緯や医療保護入院で家族等が同意しない場合に市町村長が同意をする制度の新設など課題が多いことが指摘されています。
つきまして、障害者関連法案の付帯決議については、下記についてご配慮賜りますようお願い申し上げます。
記
一、付帯決議にしてほしい事項(衆議院付帯決議の加筆等修正見え消し版)
以 上
障害者関連法案の審査に係る要望書(参議院)
参議院議員 山田 宏 様
参議院議員 こやり 隆史 様
参議院議員 島村 大 様
参議院議員 比嘉 奈津美 様
参議院議員 川田 龍平 様
参議院議員 山本 香苗 様
参議院議員 生稲 晃子 様
参議院議員 石田 昌宏 様
参議院議員 神谷 政幸 様
参議院議員 友納 理緒 様
参議院議員 羽生田 俊 様
参議院議員 藤井 一博 様
参議院議員 星 北斗 様
参議院議員 本田 顕子 様
参議院議員 石橋 通宏 様
参議院議員 打越 さく良 様
参議院議員 高木 真理 様
参議院議員 窪田 哲也 様
参議院議員 若松 謙維 様
参議院議員 東 徹 様
参議院議員 松野 明美 様
参議院議員 田村 まみ 様
参議院議員 芳賀 道也 様
参議院議員 倉林 明子 様
参議院議員 天畠 大輔 様
晩秋の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
去る2022年8月、国連障害者の権利に関する委員会の第27回期において第1回日本政府審査がおこなわれました。国連ジュネーブ本部では、約100人の日本人が建設的対話の傍聴にかけつけ、その注目の高さがうかがえました。委員からは、日本の精神科医療に関する質問が相次ぎ、改めて国際社会からの関心の高さがわかる結果となりました。
さて、他方で、来週にも参議院での審査が予定されている精神保健福祉法改正法案は、津久井やまゆり園事件の再発防止策として出されたガイドラインの実施状況を見て提出された経緯や医療保護入院で家族等が同意しない場合に市町村長が同意をする制度の新設など課題が多いことが指摘されています。
つきまして、精神保健福祉法改正法案の審査にあたっては、下記についてご配慮賜りますようお願い申し上げます。
記
(1)参考人質疑をおこなうとともに精神保健福祉法改正の部分については専門職の参考人ばかりにならないよう、あくまで精神障害当事者の参考人を必ず入れてください。
(2)精神保健福祉法改正法案の審査にあたっては、時間を十分に確保したかたちで慎重審議をお願いします。
(3)精神保健福祉法改正法案だけを審査する日程を設けてください。
以 上
障害者関連法案の付帯決議に関する要望書(衆議院)
自由民主党 厚生労働部会長 田畑裕明 様
公 明 党 厚生労働部会長 佐藤英道 様
立憲民主党 厚生労働部会長 小川淳也 様
衆議院 厚生労働理事 中島 克仁 様
衆議院 厚生労働理事 池下 卓 様
衆議院 厚生労働委員 宮本 徹 様
紅葉の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
去る2022年8月、国連障害者の権利に関する委員会の第27回期において第1回日本政府審査がおこなわれました。国連ジュネーブ本部では、約100人の日本人が建設的対話の傍聴にかけつけ、その注目の高さがうかがえました。委員からは、日本の精神科医療に関する質問が相次ぎ、改めて国際社会からの関心の高さがわかる結果となりました。
さて、他方で、このたびの臨時国会に提出が予定されている精神保健福祉法改正法案は、津久井やまゆり園事件の再発防止策として出されたガイドラインの実施状況を見て提出された経緯や医療保護入院で家族等が同意しない場合に市町村長が同意をする制度の新設など課題が多いことが指摘されています。
つきまして、法案には付帯決議をつけていただきたいので、下記の別紙を参考にしていただきますようお願い申し上げます。
記
一、付帯決議にしてほしい事項
以 上
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)に係る質問について(与党)
衆議院議員 田畑 裕明 様
衆議院議員 佐藤 英道 様
紅葉の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、障害者関連法案が衆議院に付託され、11月9日には同法の趣旨説明が予定されています。2022年8月、国連障害者の権利に関する委員会による第1回日本政府審査がおこなわれ、委員からは日本の精神科医療に関する質問が相次ぎ、改めて国際社会からの関心の高さがわかる結果となりました。
つきましては、下記の通り精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)について質問をしていただきたくお願い申し上げます。
記
質 法案附則第3条の検討規定では、「本人の同意がない場合の入院制度の在り方等に関し、障害者権利条約の実施について精神障害者等の意見を聴きつつ、必要な措置を講ずることについて検討する」とされているが、国連の総括所見で示された勧告について、政府はどのように対応するのか。
以 上
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)に係る質問について(野党)
衆議院議員 小川淳也 様
衆議院議員 中島克仁 様
衆議院議員 早稲田ゆき 様
衆議院議員 阿部知子 様
衆議院議員 山井和則 様
衆議院議員 池下 卓 様
衆議院議員 吉田 とも代 様
衆議院議員 宮本 徹 様
衆議院議員 田中 健 様
衆議院議員 仁木 博文 様
紅葉の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、障害者関連法案が衆議院に付託され、11月9日には同法の趣旨説明が予定されています。2022年8月、国連障害者の権利に関する委員会による第1回日本政府審査がおこなわれ、委員からは日本の精神科医療に関する質問が相次ぎ、改めて国際社会からの関心の高さがわかる結果となりました。当会では、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)に係る質問をまとめました。
つきましては、参考までにご活用くださいますと嬉しく思います。
以 上
障害者関連法案の審査に係る要望書(衆議院)
自由民主党厚生労働部会長 田畑裕明 様
公明党厚生労働部会長 佐藤英道 様
立憲民主党厚生労働部会長 小川淳也 様 ・ 中島克仁 様
日本維新の会 池下 卓 様
日本共産党 宮本徹 様
国民民主党 田中健 様
紅葉の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
去る2022年8月、国連障害者の権利に関する委員会の第27回期において第1回日本政府審査がおこなわれました。国連ジュネーブ本部では、約100人の日本人が建設的対話の傍聴にかけつけ、その注目の高さがうかがえました。委員からは、日本の精神科医療に関する質問が相次ぎ、改めて国際社会からの関心の高さがわかる結果となりました。
さて、他方で、このたびの臨時国会に提出が予定されている精神保健福祉法改正法案は、津久井やまゆり園事件の再発防止策として出されたガイドラインの実施状況を見て提出された経緯や医療保護入院で家族等が同意しない場合に市町村長が同意をする制度の新設など課題が多いことが指摘されています。
つきまして、精神保健福祉法改正法案の審査にあたっては、下記についてご配慮賜りますようお願い申し上げます。
記
(1)精神保健福祉法改正法案の審査にあたっては、時間を十分に確保したかたちで慎重審議をお願いします。
(2)精神保健福祉法改正法案だけを審査する日程を設けてください。
(3)精神障害当事者を含めた参考人質疑を必ずおこなってください。
以 上