障害年金制度改革への障害当事者参画に係る行動を呼びかける緊急声明

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
来年(2015年)には、約40年ぶりの障害年金制度の大規模な見直しが予定されています。JDFは、障害者権利条約初回政府審査においてパラレルレポートを提出し、「相当な生活水準が可能な水準まで引き上げること及び認定基準をゆるやかにすること、並びに無年金障害者への救済策を講じること」を日本政府に勧告するよう求めました。これを踏まえた総括所見では、市民の平均所得に比べて、障害年金が著しく低額であることを懸念しており(パラ59)、障害者団体と協議の上で障害年金の額に関する規定を見直すことが勧告(パラ60)されました。
全国「精神病」者集団は、厚生労働省年金局に対して当該勧告に従って障害当事者団体の意見を聞くための機会(ヒアリング等)を設けるよう要望しました。しかし、年金局からは、「社会保険の仕組みについて議論している段階であり、障害当事者へのヒアリングを行なう予定はない」とする回答が返ってきました。年金法改正法案の国会提出は、2025年1月の通常国会で予定されています。このままでは、勧告を軽視した法改正になり兼ねません。障害者団体が連帯して勧告に基づき、①障害当事者団体の意見を聞く場を設けること、②支給水準及び認定基準、無年金問題についての検討の場を設けることを求める大きな運動を作っていく必要があります。
皆様に置かれましては、当該勧告が骨抜きにされないためにも、通常国会の開催に先駆けて障害年金制度改革について障害当事者参画を求める要望書を提出するなどして問題の大衆化に取り組んでください。

精神科病院におけるモバイル型通信機器の持ち込み禁止問題について

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神・障害保健課長 小林 秀幸 様

 貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 これまで厚生労働省は、スマートフォン等のモバイル通信機器の持ち込み及び使用を禁止する場合、精神保健指定医の診察が必要であると回答してきました。しかし、従前よりお伝えしてきた通り、スマートフォン等のモバイル通信機器の持ち込み及び使用を精神保健指定医の診察による通信面会制限の手続きを経ずして一律的に禁止している精神科病院が未だに散見されます。全国「精神病」者集団は、数年前から厚生労働省に情報をよせて対応を求めており、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会においても団体推薦の構成員から意見を述べるなどしてきました。しかし、指導監督制度を通しても一向に改善の気配はなく、個別病院における制限状況の実態把握を求める声まで出始めているとききます。
 つきましては、今一度、真剣に対策を検討くださいますよう、重ねてお願い申し上げます。
 以 上 

旧優生保護法被害者等の補償に向けた立法の提言

優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟
会  長  尾辻秀久 様
事務局長  福島瑞穂 様

 時下ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 さて、2024年7月3日、最高裁判所大法廷は優生保護法国家賠償請求訴訟に関して、同法を違憲としたうえで、従来の判例を変更し、除斥期間を適用せずに国に賠償を命ずる判決を下しました(令和6年7月3日・大法廷判決 令和5(受)第1323号、令和5(オ)第1341号、令和4(受)第1411号、令和4(受)第1050号、令和5(受)第1319号)。旧優生保護法被害者等に対して裁判を通さずとも速やかに補償を受けられるよう立法措置が求められています。
 つきまして、全国「精神病」者集団は、補償立法について下記の通り提言します。立法にあたって反映してくださいますようお願い申し上げます。

⑴被害
【要望】
●被害は、第一義的には、障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなし差別してきたことであることを確認されたい。
【解説】
◯旧優生保護法の被害は、極めて重大な人権侵害であったため、さまざまな角度から措定することが可能である。そのため、逆に論点が散漫になり、問題の本質が絞り込めないような状況に陥りやすい。優生保護法第1条には、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」とある。なによりも本質的問題は、障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなす差別に基づき侵襲が行われたことである。
◯結婚する機会や子を持つ機会を奪われたという論点には、慎重でなければならない。この社会には、子を持つことや結婚することを当たり前とする同調圧力があり、結婚できないことや子を持てないことをネガティブに捉える考え方とも根本ではつながっている。旧優生保護法の問題は、最高裁判所判決においても障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなす差別に基づき侵襲が行われたことを違法としている。結婚する機会や子を持つ機会を奪われた被害については、不良な子孫やその出生防止を理由とした侵襲の結果として生じた二次的な被害と位置付けるべきである。

⑵申請主義の撤廃
【要望】
●補償は、地方公共団体の職権で申請によらずとも給付できるようにされたい。また、補償法の周知については、条文による規定を設けられたい。
【解説】
◯被害者の中には、被害を受けた事実を知らない者が相当数いると考えられる。国は、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される(昭和28年6月12日・厚生省発第150号・厚生事務次官通知)とする通知を出しており、被害の事実に気づかないまま過ごしてきた人がいる。それらの者に申請主義を強いるのは酷と考えられなければならない。
◯ 被害者の中には、被害を受けた事実を理解できていない者が相当数いると考えられる。支援がなければ何をされたのか理解することが困難な機能障害を持つ者については、被害の事実を理解できていない可能性がある。それらの者に申請主義を強いるのは酷と考えられなければならない。
◯上記については家族についても同じである。
◯ 一時金支給法の検討においては、一部の被害者の「隠したい」という気持ちに寄り添う意見が出されたことで、アウティングにならないようにするという名目で申請主義に拘泥してゆくこととなった。しかし、被害者が被害を隠すのは、被害を受けたことを知られると差別されるからであり、差別が悪い以上、隠して被害を受けないようにするのではなく、差別自体をなくしていくための取り組みこそしなければならないはずである。差別をなくすためには、当事者が声をあげる必要があり、私たち当事者は声をあげられない当事者たちに先立って声をあげるべく名前や顔を出して運動をしているのである。原告も徐々に実名公表に踏み切る者が増えてゆき、これこそが当事者主権の運動のかたちである。そういう意味でアウティングへの配慮という論点は、当事者の立場から生起し得ないものである。
◯周知については、申請主義下の周知と職権給付下では意味合いが異なる。行政の中に資料等がある場合には、地方公共団体の職権による救済が可能であるが、こうした資料が残っていない被害者については、自ら名乗り出てもらう他ない。そういう意味では、周知を徹底していく必要がある。

⑶補償の範囲
【要望】
●旧優生保護法が存在した期間に旧優生保護法第3条及び第4条、第12条の手術を受けた者、旧優生保護法が存在した期間に放射線照射など旧優生保護法に基づかない手術を受けた者、母体保護法下において同様の被害を受けた者を補償の対象にされたい。
●家族を補償の対象とし、補償をうける家族の範囲は、①不良な子孫の出生に係る血縁と見做されることによる権利の侵害、②子を持つ権利の侵害、の2類型とし、①については親・兄弟姉妹・祖父母、②については配偶者(事実婚を含む)までとされたい。

【解説】
◯人工妊娠中絶手術は、補償の対象にすべきである。不良な子孫やその出生を齎す存在と位置付けた上での手術である以上、そこに優生手術と人工不妊中絶手術との間に差を設けてはならない。同一の枠組みによって補償されるべきである。
◯手術に同意したとされる者は、補償の対象に加えるべきである。そもそも、旧優生保護法問題において同意の有無は、問題にしてはならない。障害者を不良な子孫やその出生を齎す存在とみなした上で、優生手術又は人工妊娠中絶手術を働きかけて同意を求めてきた以上、そのこと自体が補償に値する人権侵害とみなされるべきである。
また、国は「真にやむを得ない限度において、身体の拘束、麻酔薬施用、又は欺罔等の手段を用いることも許される(昭和28年6月12日・厚生省発第150号・厚生事務次官通知)」と通知し、およそ同意とは言い難いものについても同意による手術だとしてきた。このことから同意の有無は、補償の有無を左右するほどの理由にはなり得ない。
◯優生保護法第1条に規定された不良な子孫の出生防止と母性の生命健康保護は、それぞれ別の目的として設定されているように見えつつも、実際には同じ法律の同じ手続きによるため、相まった運用が含まれ得ることになる。すなわち、実際は不良な子孫の出生防止と母性の生命健康保護は、境界が曖昧にされながら優生手術等がおこなわれてきたものと考えられるべきである。
◯家族については、旧優生保護法が不良な子孫やその出生を齎す存在とみなしてきたことを鑑みて、そのような遺伝の関係性を含む、あらゆる差別を受けてきたことへの補償とされるべきである。言い換えれば、子供を持てなくされたことを理由とした補償には慎重である。

⑷認定方法
【要望】
●認定方法については、一時金支給法の認定方法を基本として漏れがないようにされたい。
【解説】
〇被害者は、時の経過と共に証拠が散逸するなど証明が困難な状況にある者が少なくない。そのため、認定方法は証言に整合性があることなどとし、補償を受けられない人が出てこないようにすることこそ重きを置く必要がある。

⑸検証・再発防止
【要望】
●再発防止のための検証であることを法律の中に位置付けられたい。また、国及び地方公共団体の責務としておこなわれることを担保されるよう明文化されたい。
【解説】
◯旧優生保護法の影響で人々に植え付けられた差別意識は、今も厳然と残されており、同様の被害が続いている。例えば、母体保護法下においても強制的な不妊手術がおこなわれているし、親族等から障害を理由として中絶を強要されることがある。これらは、国が旧優生保護法によって人々に植え付けられた差別意識を解消してこなかった不作為によるところが大きく、それによって現在も旧優生保護法下の優生手術等と同様の被害がもたらされており、早急な解決が求められる。

⑹検証・再発防止の体制
【要望】
●検証の実施機関については、閣僚を成員とした委員会を設置し、内閣府が合議体の意見を聞きながら作成する検証・再発防止計画(仮称)に基づいて各省庁の実施機関が対応できるようにされたい。
●計画策定後は、子ども・家庭庁に移管して、検証に係る調査と再発防止を所轄し、各地方公共団体に協力を求められる体制を講じられたい。
【解説】
◯閣僚会議については、少なくとも、内閣総理大臣、内閣官房長官、厚生労働大臣、子ども家庭庁長官、財務大臣、外務大臣、文部科学大臣、警察庁長官は、責任を認めて参加すべきである。
◯京都新聞・森記者が滋賀県を相手取っておこなった処分取消し訴訟では、地方公共団体に保管する旧優生保護法の実態にかかわる情報について住民に公表できる範囲が明らかにされた。遺伝情報などについては、住民への公表ができない情報とされたが旧優生保護法の実態を知る上で極めて重要な情報である。声を上げた原告がいる一方、声をあげられていない約25000人の身に起きた問題を明らかにする上でも、地方公共団体が実態解明に向けて動けるように国が法律で規定を設ける必要がある。
 以 上 

山本眞理さんへの追悼

 全国「精神病」者集団で長らく活動を共にしてきた2024年7月3日に長らくの癌との闘病生活の末、逝去をされました。享年71歳でした。ここに謹んで哀悼の意をささげます。
 山本眞理さんは、国内外の反差別運動を牽引し、その活躍は障害者運動のみならず、人権をめぐる運動全般に及びました。物おじしない活動スタイルから、当事者運動はもとより、さまざまな社会運動に関わる人々からも高く評価を受けてきました。
 全国「精神病」者集団は、50年前の1974年の結成以来訴えてきたことは、私たち精神障害者は、人として当然持ちあわす諸権利を奪われ、市民社会から切捨てられ、たえず、管理の対象者としてのみ扱われ、共生の場からはずされてきたという事実です。
 今から10年前、日本は国連障害者権利条約の署名を行いました。この条約の策定のプロセスに関わった障害当事者のひとりである山本眞理さんは、条約の国内実施にむけた取り組みに大いに期待を寄せていらっしゃいました。条約のスローガンである「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」は主体性の獲得とともに、反差別に向けた社会そのものの変革としての大きな意味を説いてくれました。
 残された私たちは、山本眞理さんや山本眞理さんが慕っていた諸先輩方が訴えてきた「精神病」者の生命の尊守、「精神病」者の権利主張、「精神病」者総体の利益追求を体現していかなくてはなりません。今までの奮闘に心より感謝し、故人のご冥福をお祈りします。

声明:旧優生保護法違憲訴訟最高裁判決について

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
2024年7月3日、最高裁判所大法廷は優生保護法国家賠償請求訴訟に関して、同法を違憲としたうえで、従来の判例を変更し、除斥期間を適用せずに国に賠償を命ずる判決を下しました。全国「精神病」者集団としては、この判決を心より歓迎します。
 1930年代、旧内務省は富国強兵策を背景としつつ民族優生の目的を達するためには、精神障害・知的障害を対象とした①隔離(精神病院等の拡充)、②結婚制限、③人工妊娠中絶、④断種 (優生手術)の4つの社会政策が必要であるとしました。旧内務省は、精神医学系団体に対して「断種法制定の可否」に係る意見を求め、基本的に賛成とする立場をとりつけました。こうした経過をたどり、優生保護法の前進となる国民優生法ができました。
 1948年には、安楽死協会(現在の尊厳死協会)の設立者として知られる太田典礼らが旧優生保護法を議員立法し、全会一致で採決されました。1953年には、日本精神衛生会と日本精神病院協会が不妊手術促進への財政措置と精神衛生課の設置を求める陳情書を提出し、このころから強制不妊手術の件数が増えていきました。このように精神保健行政は、旧優生保護法を下支えしてきた歴史があり、精神障害者に対する優生思想・差別は、1930年代の政策の誤りとともに、今も厳然と残っています。
 この度の最高裁判決は、大勢のために少数を犠牲にしないという強い意志に貫かれており、まさに人権の砦たる判断であったと考えます。判決では、優生保護法によって根付いた差別を取り除く措置を講じてこなかった国の責任を問うています。片方司さんは、優生保護法で培われた優生思想に基づいて母体保護法下で手術を強いられました。今もなお、精神障害であることを理由に恋愛や結婚や出産の自由を奪われ続け、精神科病院に留め置かれている仲間がたくさんいます。
 今後は、両院の謝罪決議及び内閣総理大臣による対面による謝罪、裁判をせずとも速やかに保障を受けられるようにするための措置、そして、再発防止と検証のための仕組みを短期間でつくる必要があります。また、それに伴って具体的な方策の検討や課題の整理が急務となります。優生保護法によって培われた優生思想、差別を断ち切るために、人々の意識を変えるための政策や立法の新設や見直しが必要です。
これらの検討過程においても全国「精神病」者集団は、一貫して精神障害者に対する差別に抵抗していく観点から適宜、意見を発信していきたいと思います。

身体拘束を考える精神医療従事者の会への懇談の申し入れ

身体拘束を考える精神医療従事者の会
浅野 様

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 わたしたちは、身体的拘束をはじめとする行動制限を縮減するには、現場の努力だけでは限界があり、短期的には告示を含む法令の見直しが必要であると主張してきました。なお、この主張は、2022年当時、精神科病院の身体拘束を考える会の主要メンバーとも随時、相談しながら決めてきたことです。その中でも、告示の「多動又は不穏が顕著な場合」という文言の削除を求めてきましたが、折衝の末、当面は三要件を列挙的に示し、文言も整理したものにするということで合意に至りました。
 そんな、私たち当事者からはじまった運動が政策になろうとしている最中に、一部に告示改正反対を掲げる人たちが出始めたことを知り、大変、困惑しています。
 わたしたちとしては、改正案なき段階の告示改正反対の主張では手続き的に破綻しているのではないかと考えておりますが、まずは、率直な意見交換をしたく4月3日にお電話にて申入れをおこないました。現在、回答待ちですが、今回改めて文書によるご依頼をしたところでございます。
 つきましては、意見交換可能な日程と方法をお知らせください。誠に勝手ながら6月20日までにご回答をお願いします。当日は、行動制限ゼロを目指す者同士、忌憚なく意見交換できれば幸いです。
以 上 

規制改革推進に関する答申の情報提供

内閣府 規制改革推進室から情報提供がありました。昨日5月31日開催の第19回規制改革推進会議において、今期の「規制改革推進に関する答申」が決定されました。

▼「規制改革推進に関する答申」(本文)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/opinion/240531.pdf

▼答申の概要資料
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/opinion/240531point.pdf

▼(ご参考)R6年5月31日 第19回規制改革推進会議 資料一式
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/240531/agenda.html

皆様より御協力いただきました「オンライン診療」に関しては、WGでの議論を踏まえてP53-55「身近な場所でのオンライン診療の更なる活用・普及」として、以下の内容を盛り込むことができました。

【a項】デイサービス等におけるオンライン受診が可能な旨の明確化
⇒1/16に厚労省関係通知を発出済み(措置済み)

【b項】オンライン診療のための医師非常駐の診療所の全国拡大
⇒1/16に厚労省関係通知を発出済み(措置済み)、開設状況は継続フォロー

【c項】精神科・小児科のオンライン診療における診療報酬上の評価見直し
⇒R6年度報酬改定で算定項目を拡大(措置済み)

【d項】オンライン精神療法に関する新たな指針を策定・公表
⇒R6年より検討を開始、R7年までに結論・措置

【e項】d項の新たな指針を踏まえた診療報酬上の評価見直し
⇒R7年度検討・結論・措置

関係省庁との折衝に当たっては、皆様からの現場目線での御要望・御提言の内容が、大きな決め手となりました。改めまして、心より厚く御礼申し上げます。取り急ぎの御報告となりますが、引き続き御指導いただけましたら幸いでございます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

日本弁護士連合会の短期工程・精神保健福祉法改正案の提言に対する見解

 日本弁護士連合会(以下、「日弁連」とする。)から2023年2月16日に「精神保健福祉制度の抜本的改革を求める意見書――強制入院廃止に向けた短期工程の提言 」が公表され、さらに2024年2月16日には「精神障害のある人の尊厳を確立していくための精神保健福祉法改正案(短期工程)の提言」が公表されました。
 両提言には、重大な問題を内包しており、全国「精神病」者集団が再三指摘してきたことが踏まえられることなく、同じ誤りを繰り返すものに他なりません。また、当事者団体である全国「精神病」者集団からの協議の要請に応じようともせず、当事者の生活を左右し得る提言を無造作に出し続ける姿勢にも違和感を禁じ得ません。これら一連の行為は、当事者主権の軽視であり、ひいては民主主義の否定であると考えます。日弁連には、合意形成に向けて当事者・他団体と協調する姿勢へと改めることを強く求めます。
 さて、当該行程は、精神保健福祉法に基づく非自発的入院者数をゼロにしてから精神保健福祉法を廃止するという流れが前提となっています。しかし、このような行程は、政策論的には完全に間違っていると言わざるを得ません。
 その理由のひとつめは、障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見に基づいた非自発的入院制度廃止の勧告に反する内容になっていることが挙げられます。日弁連の提言は、中期行程が2030年までと設定されており、第2回の日本政府報告が予定されている2028年以降も精神保健福祉法に基づく非自発的入院制度の続行が前提となっています。これは、同条約の枠組みを否定するものに他ならず、障害者団体としては看過できません。障害者権利条約の枠組みに整合するように全面的な見直しが求められます。
 理由のふたつめは、実効性の観点がない政策であることが挙げられます。当該行程は、非自発的入院者数がゼロにならない限り、精神保健福祉法の廃止が実現されないものとなっています。これでは、無期限に同条約初回政府審査の総括所見の要請に答えられない状況を招きかねません。仮に百歩譲って非自発的入院の段階削減を精神保健福祉法下でおこなうとしても、日弁連が提案する非自発的入院のなくし方が要件を増やすこと手続きを強化すること、審査会制度を活用することでしかないため、従来の枠組みからまったく殻を破れておりません。このような覚束無い提案で非自発的入院者数がゼロになるまで精神保健福祉法廃止を見送り続けるようであれば、改革が実現される日は永久にこないだろうと断じます。
 最後に、日弁連は「厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究報告書に対する会長声明」において、報告書内にある「必要な期間」という概念が医師の主観的な治療方針や、病院の人的・物的体制といった医療側の事情・判断に委ねられるおそれがあると述べています。その一方で当該提言では、措置入院の要件に「相当程度」や「差し迫った」などの文言を加える提案をしており、つまるところ運用が医師の主観に委ねられるのではないかという批判がそのまま当てはまるものになっています。このように当該提言は、過去に展開した主張との間に深刻な矛盾が認められます。このような整合性のない主張をしていることについては、しかるべき政党や関係団体からも冷ややかな評価を受けています。弁護士法(第1条第1項)に規定する、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」のためには、社会の公器として、社会的な信頼を得ることは欠かせないはずですが、この間の日弁連の意見書等は、いささか目を覆いたくなるような問題が散見され、法曹団体としてあるまじき文面構成と言わざるを得ません。
今後は、きちんと当事者団体である全国「精神病」者集団とも綿密な意見交換をおこなうなどして、法曹団体に恥じない意見書等の公表を切に願います。

声明:元無実の死刑囚・赤堀政夫さんの訃報に寄せて

 2024年2月22日、元無実の死刑囚赤堀政夫さんが94歳で永眠されました。
 赤堀さんは、1954年に発生した島田事件において無実でありながら少女誘拐強姦殺人の罪で死刑を言い渡され、約34年間にわたって収監されていました。
 当時、島田事件の捜査は犯人の手かがりが得られないまま迷宮入りが騒がれましたが、無実の赤堀さんに自白を強要して犯人にデッチあげたことで表向きは解決したものと認識されていました。
 公判では、赤堀さんは一貫して無罪を主張しました。しかし、裁判官は赤堀さんが精神薄弱であるため証言に信用性がないと判断し、さらに精神鑑定書では精神薄弱があり性欲倒錯があるなどと書かれたことから犯人であるという印象を強めることになりました。まさに障害があるからこそ、理不尽に死刑に追いやられたわけです。
 全国「精神病」者集団は、1975年から「赤堀さんを殺してわれわれに明日はない」をスローガンに無実の死刑囚赤堀さんの奪還を主要な活動のひとつにすえました。そして、全国障害者解放運動連絡会議や赤堀闘争全国活動者会議とともに赤堀中央闘争委員会を結成し、初代委員長は全国「精神病」者集団の大野萌子が務めました。
 赤堀中央闘争委員会は、差別問題としての赤堀闘争に取り組み、無実の死刑囚であった赤堀さんの無罪・釈放を実現しました。
 保安処分の立法趣旨は、表向き「再犯防止」や「対象者の社会復帰」などと取り繕われてはいますが、その本音は、「危険な精神障害者を野放しにしておきたくない」ということにほかなりません。赤堀さんの置かれた実情は、まさに保安処分の本音の部分が現実に影響して体現したものでした。
 赤堀さんは、無罪・釈放を実現してから、地域で34年間を生き抜きました。決して癒えることのない刑務所での経験を抱えながら、刑務所で出会い処刑された人たちのことを片時も忘れることなく、人生をかけて死刑廃止を訴え続けてきました。私たちは、赤堀政夫さん想いを胸に、死刑と差別がない社会を目指していきたいと思います。
 今後は、共に闘う会と協議しながら、記録の整理や遺品整理などの作業を粛々とすすめてまいりたいと思います。赤堀さんのご冥福をお祈りします。

赤堀中央闘争委員会
全国「精神病」者集団

【パブリックコメント】医療DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進

「令和6年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」に関するご意見の募集について

〇一般科医療と同様にした精神科医療における遠隔医療(オンライン診療)の診療報酬の制度化へ
 障害者の権利に関する条約 第25条は、締約国に対して障害者に他の者と同質の保健医療サービスを提供する立法上及び運用上の措置を講じるよう求めています。その意味でオンライン診療については、オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月・令年5年3月一部改訂・厚生労働省)を基本としながら、精神科以外の患者と同様に医療を受ける機会を提供する手段として捉え、整備される必要があります。たとえば、情報通信機器を用いた診療(D to P with D)や初診のありかたについて、内閣府規制改革推進会議での検討も鑑みて、一般科と同様に精神科についてもオンライン診療に係る診療報酬の制度化を推進してください。

〇精神科医療における初診を含むオンライン診療の診療報酬の制度化へ
 情報通信機器を用いた精神療法に係る指針(以下、ガイドラインと記載)には、「(患者は)対面診療に心理的負担を感じる」とあります。この文言は、オンライン診療の場合なら診察室で無理矢理に押さえつけられて、そのまま非自発的入院となる心配がないという文脈で加えることが提案された経緯があります。非自発的入院の経験は、精神障害当事者にとって苦痛のために心的外傷になり得るものであり、結果として医療不信に陥ることもあります。また、深刻な虐待が常態化している病院も存在すると報道で指摘されており、精神科医療全体への信用の問題も見逃せません。
 ほかにも対面診療における心身の負担の軽減を求める声としては、「予約診療においても待ち時間が1時間~2時間にものぼることがある。待機が心身に負担がかかる」「勤務が繫忙期にかかると通院を確保するのがままならない時がある。体調は安定していて、診療は3分程度で終わるのに。」といったものがあります。また、医療アクセスの保証を求める観点からは、「ひきこもりの経験から、自宅から受診できるとありがたい。」「体調が悪いときは、通院ができないときがある。オンライン診療で先生に相談できると安心する」といったような声などが障害者団体に寄せられています。
 また、東日本大震災をはじめ被災地が直面する問題として精神疾患の増加が挙げられます。令和6年能登半島地震においても直面する問題として報道で指摘がされています。被災地にゆきとどく人的資源は限られていることから、精神科のオンライン診療による初診からの医療アクセスを保障することは精神疾患の重篤化の回避が期待されます。
 これらの患者サイドのニーズ等に鑑みて、精神科医療における初診を含む診療報酬を制度化が求められます。

〇精神科医療における遠隔医療の推進をはかるために、情報通信機器を用いた精神療法に係る指針のブラッシュアップの検討
 ガイドラインには、「初診精神療法をオンライン診療で実施することは行わないこと」とあります。これは、初診におけるオンライン診療の実践に歯止めをかけるような書きぶりです。その一方で「上記課題の解消が進めば」とあり、症例の蓄積によって課題が解決されれば、初診からのオンライン診療の可能性が開かれるかのような書きぶりもあります。初診のオンライン診療に歯止めがかけられているのにもかかわらず、症例の蓄積を前提とした内容となっています。そのため、症例の蓄積は必ずしも初診だけではなく、再診の症例等も活用するなどのあり方が必要です。
 指針づくりの検討会では海外の症例のみならず、システマティック・レビューについても、地政学的な差異から分析が困難であるとしてエビデンスに位置付けないことが確認されています。これでは、将来的な初診からのオンライン診療の可能性を示唆しつつも、事実上、可能性がほとんど閉ざされていることになります。今後の見直しに当たっては、オンライン精神療法の国内の具体的な症例などをもとにした検討を行う必要があります。その際、オンライン精神療法についての実践者を中心にしたエキスパートコンセンサスを心がける必要があります。また、検討にあたっては、情報通信機器を用いた精神療法に係る指針の検討会の委員を務めた障害者団体が推薦する精神障害の当事者を含む複数名を招聘し、障害者権利条約をはじめ時代の要請に照らして、患者市民参画を推進することが必要です。