処遇基準告示改正に係る全国「精神病」者集団の見解

 処遇基準告示の改正について様々な見解が錯綜しています。中には、理由と言えるような理由を示すことなく処遇基準告示改正阻止を掲げるものまで出てきており、混乱が著しく看過できない事態であると考えます。そこで、処遇基準告示改正阻止を掲げる立場の人が理由として挙げている、①一時性要件の必要な期間は医師が判断するため無限大に拡大し得る、②人身の自由に係るものであり告示ではなく法律によるべき、のそれぞれに対して全国「精神病」者集団としての見解を述べたいと思います。

1 これ以上、仲間に対して現行告示下の入院を強いてはならない
 現行告示にも、切迫性・非代替性・一時性の3要件が文章に溶け込んだかたちで存在します。しかし、文章にすると現場の医師が読解できないため、実際には「多動及び不穏が顕著」という理由だけで身体的拘束が開始されてしまう例が散見されます。そのため、3要件はあくまで箇条書き化して、それぞれ別々に診療録に理由を記載する必要があります。
 全国「精神病」者集団としては、これ以上「不穏及び多動が顕著な場合」を十分条件であるかのように誤解して漫然と拘束する事例が散見される現行告示下に入院者をとどめ置くべきではないと考えます。今回の告示改正も十分なものとは言いませんが、完璧を目指し過ぎて貴重な機会を失い、結果として数年先まで仲間に現行告示下の入院を強いるような事態だけは避けなければならないと考えます。よって、この度の告示改正自体は、進められるべきものと考えます。

2 一時性は医師が判断するため無限大に拡大するという指摘に対して
 野村総研が委託を受けておこなった調査報告書では、「身体的拘束は一時的におこなわれるものであり、必要な期間を越えておこなわれていないものである」が一時性要件のイメージ案として示されています。このうち、「必要な期間を越えておこなわれていない」を切り取り、必要な期間は医師が判断するものであるため、医師が判断したら無限大に必要な期間が拡大されるのではないか、という指摘が出されています。
 しかし、この指摘が告示の問題ではなく、医師が判断する枠組みである限り付きまとう問題です。むしろ、医師が判断する仕組みだからこそ、告示等に基準を設けて恣意的な運用に歯止めをかける必要があると考えられてきたわけです。
 また、前段には「必要な期間」が「一時的」と書かれているので、代替手段が見つかるまでの一時的な期間であることが自明です。仮に医師が恣意的に一時性要件を解釈して身体的拘束を開始したとしても、改正告示によって正当化されることはありません。その場合、診療録を事後的に検証し、司法救済などを検討することもできます。
 よって、この一時性は医師が判断ため無限大に拡大するという指摘は、全く理由にさえなっていません。

3 告示ではなく法律によるべきという主張に対して
 告示改正に反対する理由として、人身の自由に係るものであり告示ではなく法律によるべきというものがあります。これについては、「告示改正がよいのか」という問いではなく、「告示に定めるのが良いのか」という問いへと巧妙にすり替えられており、告示改正の良し悪しとは別のレベルの議論になっています。そのため、議論にさえならないと考えます。
 そのことはそのこととして、「告示ではなく、法律に定めろ」という主張は、一見するとよい方針のように感じますが、実は、きわめて重大な問題がいくつもあります。
 まず、大前提として身体的拘束は、それ自体をゼロ化すべきです。身体的拘束を告示から法律に位置付け直せばよいなどというものではありません。法律か、告示か、などという定める法令の種類を論じるなどナンセンスです。
次に、成文法に身体的拘束を定め合法化するということは、個別の事例から司法が判断できたであろう可能性を成文法に引き付けられることで著しく狭める結果をもたらします。これまで医事法理は、医療過誤のように司法判断に依拠して進められてきました。ここにきて、司法の可能性を摘むのはナンセンスです。
 最後に「告示ではなく、法律に定めろ」の方針は、もっとも重要である障害者権利条約の初回政府審査に係る総括所見(勧告)に基づく見直しの契機を失わせるものであり、政策としては完全に失敗していることが指摘できます。今から精神障害者の身体的拘束を法律に定める議論をはじめるとしたら、2027年ごろに予定されている次期法改正のタイミングしかありません。全国「精神病」者集団は、次期改正までに非自発的入院廃止の合意を目指して取り組んでいます。非自発的入院廃止の綱引きをしている一方で、身体的拘束を法律に位置付け直すための議論を喚起するようなことは、障害者権利条約の趣旨にも反しておりナンセンスとしか言いようがありません。「告示ではなく、法律に定めろ」という主張は、勧告実現に著しく逆行したものであり、障害者権利条約の履行を推進する障害者団体の立場としては、絶対に認めるわけにはいきません。
 以上から、「告示ではなく、法律に定めろ」は、もっともらしく聞こえるようで、実際は思い付きの域をでないものです。

4 改正の賛否について
 以上の理由から告示改正反対の主張には、現時点では理由がありませんので、間違っても先述の主張には賛意を示さないように注意を喚起します。
 一般的に法令改正への賛否は、今より良くなるのか、悪くなるのかを軸に判断するものと考えられています。そのため、例えば「もっと良くすることができたのではないか」という判断軸は、本来的なら賛否の議論には馴染みません。「もっと良くすることができたのではないか」については、今より良くするための改正を進めつつ、別枠で今後の課題として位置づけられるのが一般的です。ただ、あえて反対の立場を駆け引き的に用いて、より短い期間で課題を解決するという手法もあります。
 しかし、今回の告示改正は、全国実態調査において拘束増の原因の特定に至らなかったこともあって、エキスパートコンセンサスを政策エビデンスにして進めるほかありません。現在では、エビデンスとして国連からの勧告がありますが、それは次の見直しの検討の際の政策エビデンスであって今回の政策エビデンスではないです。すると、反対の立場を使って駆け引きをしたところで、病院団体の合意形成の段階ではじかれるので――これは国会をフィールドにしたとしても全く同じことです――大きな変革は期待できません。
 よって、結論から言うと告示改正に対しては、もっともオーソドックスに、今より良くなるのか、悪くなるのかを軸にして賛否を判断するべきです。

処遇基準告示の改正に関する要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神・障害保健課長 林修一郎 様

 新緑の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。また、障害者権利条約の国内実施に向けて、障害者権利条約対日審査に参画をした唯一の精神障害者の当事者団体です。
 さて、全国「精神病」者集団は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第37条第1項に基づく大臣基準(告示)改正について下記の通り要望します。
 つきましては、同条約に基づく障害者を代表する団体の意見として尊重し、十分な検討をいただけますようお願い申し上げます。

① これ以上「不穏及び多動が顕著な場合」を十分条件であるかのように誤って拘束する事例が散見される現行告示下に入院者をとどめ置くべきではありません。処遇基準告示の改正を進めてください。
② 処遇基準告示改正は、人身の自由にかかわるものです。様々な団体や識者から丁寧に意見を聞きながら透明性のあるかたちで進めるとともに、立法の意思である附帯決議に基づく対応を速やかにおこなってください。
③ 告示改正後の診療録への記載方法は三要件ごとの記載を基本としてください。また、報酬による評価(減算を含む)をおこなってください。告示改正後は、すみやかに初回政府審査に係る総括所見に基づいた見直しの検討に着手してください。

身体拘束等の告示改正について(お願い)

公益社団法人日本精神保健福祉士協会
 会長 田村綾子 様
認定特定非営利活動法人DPI日本会議
 議長 平野みどり 様
認定特定非営利活動法人日本障害者協議会
 代表 藤井克徳 様
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会
 理事長 岡田久実子 様

 新緑の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、身体的拘束の縮減等に係る告示改正は、第210回臨時国会の附帯決議を踏まえて「患者の治療困難」という要件を使わずに一時性、切迫性、非代替性の要件を明確化することでコンセンサスが得られました。また、勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことも併せて確認されました。精神障害当事者の立場で意見を取りまとめてきた当会としましては、告示改正に反対する理由はないと考えます。しかし、一方では、障害者団体や関連団体の間で誤信に基づく錯綜が少なからず見受けられます。
 そこで交通整理のために論点をまとめましたので、貴会におかれましては、下記の論点について十分に検討を加えるとともに、精神障害当事者団体との協議を踏まえることなく告示改正に反対及び反対集会への名義後援をすることないように留意のほど、よろしくお願い申し上げます。


① 告示改正は、不十分ではあるが、現状を悪化させるものではないです。また、不十分な改正をよしとはしませんが、これ以上、入院者を現行告示下にとどめ置いたままにしてはいけません。そのため、告示改正反対ではなく、今後の課題を明らかにしていくような議論が不可欠です。
② 人身の自由にかかわる基準は、大臣告示ではなく法律に定めるべきだとの意見があります。しかし、私たち精神障害者は、法律に身体拘束を定め直せばよいなどとは全く考えません。
③ 告示改正の議論には、大畠判例(令和2年12月16日・名古屋高裁・令2(ネ)39号)が引き合いにだされます。しかし、大畠判例は、非代替性要件の欠如を理由に当時の身体拘束の違法性を認定したもので、告示改正の要件等とは直接的な関係はありません。
④ 一時性要件の「一時的に行なわれるものであり、必要な期間を越えて行なわれていないもの」の部分は、医師の裁量で恣意的に必要な期間を定められるようになるとの意見があります。しかし、告示の内容如何にかかわらず医師が決める仕組み自体から脱することができないため、告示とは無関係な議論に陥っています。そもそも、一時的であるべきと書かれており、それを越えておこなわれないとしていることとも論理的に矛盾します。このような不毛な議論には付き合うべきではありません。
⑤ 更に踏み込んだ改正をするには、政策エビデンスが不足しています。そのため、これ以上エキスパートコンセンサスを繰り返しても結果は大きく変わりません。障害を理由とした人身の自由はく奪は、障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見の趣旨に反しており、その観点からの調査が不可欠です。

身体的拘束告示改正の件について(お礼・ご報告)

 春暖の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。障害者権利条約対日審査に参画した唯一の当事者団体です。
 さて、全国「精神病」者集団は、精神科病院における身体的拘束の縮減に向けた当面の政策として、不穏多動を要件として拘束できるとする規定の削除及び切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化に係る告示改正を要求してまいりました。しかし、検討過程では、病院団体側から不穏多動要件の削除への強い抵抗があり、文言の整理という枠組みで「患者の治療困難」という新要件が提案されるなどの混乱が見られました。
 そのような中、第210回臨時国会で成立した障害者関連法案の附帯決議において、3要件を明確にするための告示改正と患者に対する治療が困難という文言によらない方策が盛り込まれたことを受けて、現在、告示改正の検討は「患者の治療困難」という要件を使わずに一時性、切迫性、非代替性の要件を明確化することでコンセンサスが得られました。
精神障害当事者の立場としては、①患者の治療困難を用いないこと、②一時性、切迫性、非代替性の要件を明確にすること、③勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことの3点の確約が取れましたので、告示改正に反対する理由はないと考えています。但し、告示改正は当面の方策に過ぎず、すでに障害を理由とした身体拘束の廃止を目指す段階に入っています。
 引き続き、障害を理由にした身体拘束の廃止に向けた取り組みを続けていく所存ですので、今後も、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
 敬 具 

【声明】身体的拘束告示改正について

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 精神科病院における身体的拘束は、2006年から2016年の10年間で2倍に増加し、その後も高止まりし続けていることから政策的な解決が必要であると考えて取り組んできました。「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」においては、当面の方策として第37条第1項大臣基準(告示)の「不穏及び多動が顕著な場合」という要件の削除を要求しましたが、病院団体からの強い反対があり、文言の整理にとどまることになりました。また、整理された文言の案文には、「検査処置」や「患者の治療困難」などの従来の要件にはなかったと考えられるものが挿入され、事実上の緩和になるのではないかといった反対意見も出てきました。やがて、病院団体は「患者の治療困難」を入れないなら告示改正自体を阻止すると言い出し、精神科医療の身体拘束を考える会は「患者の治療困難」を入れることにしかならないから告示改正は阻止するべきだと言い出しました。
 さらに精神科医療の身体拘束を考える会は「不穏多動要件の削除を主張しない」という方針を呼びかけ団体への相談もなく強行しました。結果として本来の目的であった「不穏多動を要件として拘束できるとする規定の削除」は、運動内でコンセンサスを得ることができず、あっけなく若干の修正を経て残されることになりました。障害当事者の意見を無視して、不穏多動要件の削除を主張せず、結果として不穏多動要件を告示に残した罪は重いと言わざるを得ません。
 やむを得ず、全国「精神病」者集団は、精神科病院における身体的拘束の縮減に向けた当面の政策として、「患者の治療困難」という文言を用いずに切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化に係る告示改正を要求することにしました。その一方で障害者権利条約の初回政府審査に係る総括所見において障害を理由とした身体拘束の廃止が勧告されたため、今後の検討事項に加えることを要求していきました。
 結果として、全国「精神病」者集団の意見が反映され、①患者の治療困難を用いないこと、②一時性、切迫性、非代替性の要件を明確にすること、③勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことの3点が実現する運びとなりました。今後は、勧告に従ったかたちで精神障害を理由とした身体拘束の廃止のための見直しを実現すべく、更なる取り組みを続けていきます。

【声明】堀合研二郎さんの大和市議会選挙当選について

 大和市会議員選挙において、堀合研二郎さんが初当選されました。当選を祝し、今後のご活躍を期待します。
 堀合さんは精神障害をもちながら、同じ精神障害者を支えていくためのピアサポート活動に長年取り組んできました。今回、そのような堀合さんが市政の場で活躍することは、これまでにない画期的なことです。
 議員活動については、ご自身の健康に留意しながら、ご活躍されることを期待します。

孝山会滝山病院事件における効果的な指導監督の検討に関する要望書

東京都福祉保健局精神保健医療課長 殿

全国「精神病」者集団  
共同代表 関口明彦・桐原尚之  

一般社団法人精神障害当事者会ポルケ  
代表理事 山田悠平  

 陽春の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 わたしたち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。今年に入って、孝山会滝山病院における深刻な不祥事が明らかになりました。「精神科病院に対する指導監督等の徹底について(平成一〇年三月三日 障第一一三号・健政発第二三二号・医薬発第一七六号・社援第四九一号)」には、地方精神保健福祉審議会は精神障害者の人権に配慮しつつその適正な医療及び保護を確保するため、定期的に開催するのみならず、精神病院の不祥事があった場合には、積極的にこれを審議することとし、審議内容については、可能な限り公開するようにすることされています。また、精神病院に対する効果的な指導監督等のあり方を検討するに当たっては、地方精神保健福祉審議会を積極的に活用することともされています。
 孝山会滝山病院事件は、入院患者を日常的に虐待していたことが指摘されている前代未聞の不祥事であり、積極的かつ定期的に東京都精神保健福祉審議会において審議する必要性があると考えます。つきましては、下記の要望をいたしますので、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

① 積極的かつ定期的に東京都精神保健福祉審議会を開催すること。
② 東京都精神保健福祉審議会においては、当事者団体及び法律家等で構成される第三者調査組織の設置及び調査の実施、再発防止に向けた効果的な指導監督のあり方、そして、入院患者の転院及び退院に向けた聞き取りの方策を審議事項にすること。
以 上 

【声明】第8次医療計画の成立について

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2023年3月31日、医政局通知「第8次医療計画について」が公表されました。全国「精神病」者集団は、従来の運動が病床削減を主張する一方で、都道府県が整備する病床数について定めた基準病床算定式に意見をしてこなかったことを批判的に総括し、克服するべく第8次医療計画に対して積極的に意見を出してきました。その結果、第8次医療計画の基準病床算定式は、第7次医療計画の基準病床算定式と異なり、重度かつ慢性や治療影響値といった政策効果に係る値が取り払われ、一般医療に近いシンプルなものになりました。
 一方で、病床数のダウサイジングは念頭におかれはしているものの、ドラスティックな病床削減を示唆するようなものにはなっておらず、指標例にも非自発的入院の縮減など全国「精神病」者集団が要求してきたものが先送りにされました。
 このような結果を招いた要因の一つとして認知症問題への取り組みが不十分だったことがあげられます。第7次医療計画と第8次医療計画は、ともに認知症をその他の精神疾患から切り分けることで成り立っており、最も大きな課題を残すかたちになりました。今日の精神科病院における諸問題は、認知症の問題という側面が強く、長期入院、病床数、身体拘束の増加、死亡退院などの問題に正面から向き合うのならば認知症の問題は避けて通れないはずです。それなのにもかかわらず、我々を含む多くの団体が認知症の仲間との連帯を十分におこなおうともせず、まるで統合失調症や双極性障害、依存症、摂食障害、発達障害といった精神疾患さえ助かればよいかの如く、ふるまってきたのではないかと思います。
 これ以上、認知症を除外して成り立つ基準病床算定式をこのままにしておくことはできません。認知症も精神及び行動の障害であり、本来は同じ仲間です。私たち全国「精神病」者集団は、第8次医療計画中間評価と第9次医療計画に向けて認知症の仲間と連帯し、診断名別の分断をよしとする医学モデル的な考え方と決別すべく、取り組んでいくことをここに決意します。

孝山会滝山病院事件に係る調査の申し入れ

公益社団法人 日本精神神経学会
理事長  久住一郎 様

 陽春の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 わたしたち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。今年に入って、孝山会滝山病院における深刻な不祥事が明らかになりました。孝山会滝山病院事件は、入院患者を日常的に虐待していたことが指摘されている前代未聞の不祥事であり、貴学会において調査をおこなうべき事案であると考えます。
 つきましては、下記の要望をいたしますので、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

① 学会として孝山会滝山病院の調査をおこなうこと。
② 調査チームには精神障害当事者を入れること。
以 上 

令和4年度障害者総合福祉推進事業「障害者ピアサポーター実態把握及び研修におけるツール作成のための調査研究」報告書に記載を求める事項

◯第210回臨時国会において成立した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議には、「多様なピアサポーターの活動の価値や専門性を分かりやすく伝える観点も踏まえつつ、障害者ピアサポート研修事業の研修カリキュラムの見直しを検討すること。」が入った。現行の障害者ピアサポーター養成研修は、障害福祉サービス事業所等に雇用され、障害の経験を活用しながら対人援助する者を対象としたカリキュラムになっている。しかし、実際に地方公共団体が実施する障害者ピアサポーター養成研修の多くは、受講対象者を障害福祉サービス事業所等に雇用される障害者に限らず幅広く募っている。その事実を踏まえて、今後はカリキュラムを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯ピアサポートは、経験を活用した対人援助であると説明されているが、経験の活用はピアサポーターの専門性を裏付けるだけの排他性、特殊性が認められず、説明としては不十分である。例えば、地域移行の意欲喚起のための病院訪問・面会活動は、入院経験のあるピアサポーターじゃなくても同じ障害者の立場というだけで効果を発揮できるものである。そのため、障害者という立場に依拠した活動と定義した方が幅広い活動を捉えられるようになる。カリキュラムを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯現在のカリキュラム及びテキストは、ピアサポーターと他職種が共通の目標に向かって連携することが踏まえられているが、ピアサポーターが他職種とは異なる立場で対立・連携をしていくことを踏まえた記述に厚みがない。また、アンガーマネジメントでは、ピアサポート活動に必要な「怒り」の要素もネガティブなものとしてしか捉えられていない。カリキュラムやテキストを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯障害者ピアサポーター養成研修のテキストでは、障害者によるピアサポート活動の歴史が紹介されているが、精神障害の部分だけ大部分を海外のピアサポート活動の歴史に依拠して紹介されている。しかし、海外の歴史に依拠しているのに地理的条件を踏まえた記述にはなっておらず、今後は国内のピアサポート活動の歴史に依拠した記述に改めていく必要がある。テキストは、多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点からカリキュラムとともに見直す必要がある。

◯2021年4月からピアサポートの専門性を報酬で評価する仕組みが導入された。なお、ピアサポートに係る加算の取得要件は、障害者ピアサポーター養成研修基礎編及び専門編の受講である。報酬が付与されたのは、言わずもがな利用者へのサービス提供において、ピアサポートによる追加の効果が供与されるからである。しかし、カリキュラムの一部には、ピアサポーターが継続して雇用することを趣旨とした科目など、サービス提供における利用者の利益とは異なる観点から設定されたものも散見される。今後、カリキュラムはピアサポーターの専門性を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯カリキュラムやテキストの見直しにあたっては、ピアサポーターからの支援を受けた利用者の経験について質的調査をおこない、平成27年度 障害者支援状況等調査研究事業「障害福祉サービス事業所等におけるピアサポート活動状況調査」及び平成31年度障害者総合福祉推進事業「障害福祉サービスの種別ごとのピアサポートを担う人材の活用のための調査研究」において十分に明らかにされていない論点を抽象し、多角的な視点から政策エビデンスに位置付けていく必要がある。

◯2021年度から2023年度までの地方公共団体の取り組みを丁寧に聞き取り、それを踏まえてカリキュラムの設計を見直す必要がある。

◯リカバリーについては、テキスト中に解説があるものの出典等について明記されていない。また、テキスト中のリカバリーの含意は、統一性がなく恣意的に使われているきらいが否めない。テキストは、障害者の権利に関する条約の理念や社会モデルに基づいて執筆される必要がある。リカバリーをめぐっては、同条約との関係で「すべての人の身体的精神的な到達しうる最高水準の健康の享受の権利に関する特別報告者」のレポート(A/HRC/35/21・2017年3月28日・国連人権理事会第35会期)に記載がある。なお、その内容によると、生物学的精神医学へのオルタナティブを伴うものとされている。このような観点からテキストをブラッシュアップしていく必要がある。

【出典】
すべての人の身体的精神的な到達しうる最高水準の健康の享受の権利に関する特別報告者報告(A/HRC/35/21・2017年3月28日・国連人権理事会第35会期)
28. 政策を形成し証拠を導入する研究領域に権力あるアクターが影響を与えている。精神保健と政策の分野の科学的研究は多様な資金の欠如に苦しみ続けており、神経生物的なモデルに焦点を当てたままでいる。とりわけ、アカデミックな精神医学は、精神保健政策とサービスのための資源分配とガイドラインの原則を情報提供することで多大な影響力を行使している。アカデミックな精神医学は、その研究課題を精神的健康の生物学的素因にほぼ限定している。こうした偏りはまた医学部の教育も支配しており、次世代の専門職に伝える知識を制限し、精神的健康に影響するまたリカバリーに貢献する様々な要素の広がりについての理解を奪っている。
29. 生物学的医学への偏りのために、新たに発見された証拠と、政策の発展と実践にそれをいかに情報提供していくかの間での案ずべき遅れが生じている。何十年もたった今経験的なまた科学的な研究による情報から根拠ある証拠が蓄積され、それらは心理社会的、リカバリー志向のサービス、そして支援と非強制的な、今あるサービスに代わるオルタナティブを支持してきている。こうしたサービスへのそしてその背後にいる利害関係者に対しての促進と投資なしでは、それらは周辺化されたままになりそしてそれらがもたらすと期待される変化を不可能にしてしまうだろう。