身体拘束を考える精神医療従事者の会への懇談の申し入れ

身体拘束を考える精神医療従事者の会
浅野 様

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 わたしたちは、身体的拘束をはじめとする行動制限を縮減するには、現場の努力だけでは限界があり、短期的には告示を含む法令の見直しが必要であると主張してきました。なお、この主張は、2022年当時、精神科病院の身体拘束を考える会の主要メンバーとも随時、相談しながら決めてきたことです。その中でも、告示の「多動又は不穏が顕著な場合」という文言の削除を求めてきましたが、折衝の末、当面は三要件を列挙的に示し、文言も整理したものにするということで合意に至りました。
 そんな、私たち当事者からはじまった運動が政策になろうとしている最中に、一部に告示改正反対を掲げる人たちが出始めたことを知り、大変、困惑しています。
 わたしたちとしては、改正案なき段階の告示改正反対の主張では手続き的に破綻しているのではないかと考えておりますが、まずは、率直な意見交換をしたく4月3日にお電話にて申入れをおこないました。現在、回答待ちですが、今回改めて文書によるご依頼をしたところでございます。
 つきましては、意見交換可能な日程と方法をお知らせください。誠に勝手ながら6月20日までにご回答をお願いします。当日は、行動制限ゼロを目指す者同士、忌憚なく意見交換できれば幸いです。
以 上 

規制改革推進に関する答申の情報提供

内閣府 規制改革推進室から情報提供がありました。昨日5月31日開催の第19回規制改革推進会議において、今期の「規制改革推進に関する答申」が決定されました。

▼「規制改革推進に関する答申」(本文)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/opinion/240531.pdf

▼答申の概要資料
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/opinion/240531point.pdf

▼(ご参考)R6年5月31日 第19回規制改革推進会議 資料一式
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/240531/agenda.html

皆様より御協力いただきました「オンライン診療」に関しては、WGでの議論を踏まえてP53-55「身近な場所でのオンライン診療の更なる活用・普及」として、以下の内容を盛り込むことができました。

【a項】デイサービス等におけるオンライン受診が可能な旨の明確化
⇒1/16に厚労省関係通知を発出済み(措置済み)

【b項】オンライン診療のための医師非常駐の診療所の全国拡大
⇒1/16に厚労省関係通知を発出済み(措置済み)、開設状況は継続フォロー

【c項】精神科・小児科のオンライン診療における診療報酬上の評価見直し
⇒R6年度報酬改定で算定項目を拡大(措置済み)

【d項】オンライン精神療法に関する新たな指針を策定・公表
⇒R6年より検討を開始、R7年までに結論・措置

【e項】d項の新たな指針を踏まえた診療報酬上の評価見直し
⇒R7年度検討・結論・措置

関係省庁との折衝に当たっては、皆様からの現場目線での御要望・御提言の内容が、大きな決め手となりました。改めまして、心より厚く御礼申し上げます。取り急ぎの御報告となりますが、引き続き御指導いただけましたら幸いでございます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

日本弁護士連合会の短期工程・精神保健福祉法改正案の提言に対する見解

 日本弁護士連合会(以下、「日弁連」とする。)から2023年2月16日に「精神保健福祉制度の抜本的改革を求める意見書――強制入院廃止に向けた短期工程の提言 」が公表され、さらに2024年2月16日には「精神障害のある人の尊厳を確立していくための精神保健福祉法改正案(短期工程)の提言」が公表されました。
 両提言には、重大な問題を内包しており、全国「精神病」者集団が再三指摘してきたことが踏まえられることなく、同じ誤りを繰り返すものに他なりません。また、当事者団体である全国「精神病」者集団からの協議の要請に応じようともせず、当事者の生活を左右し得る提言を無造作に出し続ける姿勢にも違和感を禁じ得ません。これら一連の行為は、当事者主権の軽視であり、ひいては民主主義の否定であると考えます。日弁連には、合意形成に向けて当事者・他団体と協調する姿勢へと改めることを強く求めます。
 さて、当該行程は、精神保健福祉法に基づく非自発的入院者数をゼロにしてから精神保健福祉法を廃止するという流れが前提となっています。しかし、このような行程は、政策論的には完全に間違っていると言わざるを得ません。
 その理由のひとつめは、障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見に基づいた非自発的入院制度廃止の勧告に反する内容になっていることが挙げられます。日弁連の提言は、中期行程が2030年までと設定されており、第2回の日本政府報告が予定されている2028年以降も精神保健福祉法に基づく非自発的入院制度の続行が前提となっています。これは、同条約の枠組みを否定するものに他ならず、障害者団体としては看過できません。障害者権利条約の枠組みに整合するように全面的な見直しが求められます。
 理由のふたつめは、実効性の観点がない政策であることが挙げられます。当該行程は、非自発的入院者数がゼロにならない限り、精神保健福祉法の廃止が実現されないものとなっています。これでは、無期限に同条約初回政府審査の総括所見の要請に答えられない状況を招きかねません。仮に百歩譲って非自発的入院の段階削減を精神保健福祉法下でおこなうとしても、日弁連が提案する非自発的入院のなくし方が要件を増やすこと手続きを強化すること、審査会制度を活用することでしかないため、従来の枠組みからまったく殻を破れておりません。このような覚束無い提案で非自発的入院者数がゼロになるまで精神保健福祉法廃止を見送り続けるようであれば、改革が実現される日は永久にこないだろうと断じます。
 最後に、日弁連は「厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究報告書に対する会長声明」において、報告書内にある「必要な期間」という概念が医師の主観的な治療方針や、病院の人的・物的体制といった医療側の事情・判断に委ねられるおそれがあると述べています。その一方で当該提言では、措置入院の要件に「相当程度」や「差し迫った」などの文言を加える提案をしており、つまるところ運用が医師の主観に委ねられるのではないかという批判がそのまま当てはまるものになっています。このように当該提言は、過去に展開した主張との間に深刻な矛盾が認められます。このような整合性のない主張をしていることについては、しかるべき政党や関係団体からも冷ややかな評価を受けています。弁護士法(第1条第1項)に規定する、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」のためには、社会の公器として、社会的な信頼を得ることは欠かせないはずですが、この間の日弁連の意見書等は、いささか目を覆いたくなるような問題が散見され、法曹団体としてあるまじき文面構成と言わざるを得ません。
今後は、きちんと当事者団体である全国「精神病」者集団とも綿密な意見交換をおこなうなどして、法曹団体に恥じない意見書等の公表を切に願います。

声明:元無実の死刑囚・赤堀政夫さんの訃報に寄せて

 2024年2月22日、元無実の死刑囚赤堀政夫さんが94歳で永眠されました。
 赤堀さんは、1954年に発生した島田事件において無実でありながら少女誘拐強姦殺人の罪で死刑を言い渡され、約34年間にわたって収監されていました。
 当時、島田事件の捜査は犯人の手かがりが得られないまま迷宮入りが騒がれましたが、無実の赤堀さんに自白を強要して犯人にデッチあげたことで表向きは解決したものと認識されていました。
 公判では、赤堀さんは一貫して無罪を主張しました。しかし、裁判官は赤堀さんが精神薄弱であるため証言に信用性がないと判断し、さらに精神鑑定書では精神薄弱があり性欲倒錯があるなどと書かれたことから犯人であるという印象を強めることになりました。まさに障害があるからこそ、理不尽に死刑に追いやられたわけです。
 全国「精神病」者集団は、1975年から「赤堀さんを殺してわれわれに明日はない」をスローガンに無実の死刑囚赤堀さんの奪還を主要な活動のひとつにすえました。そして、全国障害者解放運動連絡会議や赤堀闘争全国活動者会議とともに赤堀中央闘争委員会を結成し、初代委員長は全国「精神病」者集団の大野萌子が務めました。
 赤堀中央闘争委員会は、差別問題としての赤堀闘争に取り組み、無実の死刑囚であった赤堀さんの無罪・釈放を実現しました。
 保安処分の立法趣旨は、表向き「再犯防止」や「対象者の社会復帰」などと取り繕われてはいますが、その本音は、「危険な精神障害者を野放しにしておきたくない」ということにほかなりません。赤堀さんの置かれた実情は、まさに保安処分の本音の部分が現実に影響して体現したものでした。
 赤堀さんは、無罪・釈放を実現してから、地域で34年間を生き抜きました。決して癒えることのない刑務所での経験を抱えながら、刑務所で出会い処刑された人たちのことを片時も忘れることなく、人生をかけて死刑廃止を訴え続けてきました。私たちは、赤堀政夫さん想いを胸に、死刑と差別がない社会を目指していきたいと思います。
 今後は、共に闘う会と協議しながら、記録の整理や遺品整理などの作業を粛々とすすめてまいりたいと思います。赤堀さんのご冥福をお祈りします。

赤堀中央闘争委員会
全国「精神病」者集団

【パブリックコメント】医療DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進

「令和6年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」に関するご意見の募集について

〇一般科医療と同様にした精神科医療における遠隔医療(オンライン診療)の診療報酬の制度化へ
 障害者の権利に関する条約 第25条は、締約国に対して障害者に他の者と同質の保健医療サービスを提供する立法上及び運用上の措置を講じるよう求めています。その意味でオンライン診療については、オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月・令年5年3月一部改訂・厚生労働省)を基本としながら、精神科以外の患者と同様に医療を受ける機会を提供する手段として捉え、整備される必要があります。たとえば、情報通信機器を用いた診療(D to P with D)や初診のありかたについて、内閣府規制改革推進会議での検討も鑑みて、一般科と同様に精神科についてもオンライン診療に係る診療報酬の制度化を推進してください。

〇精神科医療における初診を含むオンライン診療の診療報酬の制度化へ
 情報通信機器を用いた精神療法に係る指針(以下、ガイドラインと記載)には、「(患者は)対面診療に心理的負担を感じる」とあります。この文言は、オンライン診療の場合なら診察室で無理矢理に押さえつけられて、そのまま非自発的入院となる心配がないという文脈で加えることが提案された経緯があります。非自発的入院の経験は、精神障害当事者にとって苦痛のために心的外傷になり得るものであり、結果として医療不信に陥ることもあります。また、深刻な虐待が常態化している病院も存在すると報道で指摘されており、精神科医療全体への信用の問題も見逃せません。
 ほかにも対面診療における心身の負担の軽減を求める声としては、「予約診療においても待ち時間が1時間~2時間にものぼることがある。待機が心身に負担がかかる」「勤務が繫忙期にかかると通院を確保するのがままならない時がある。体調は安定していて、診療は3分程度で終わるのに。」といったものがあります。また、医療アクセスの保証を求める観点からは、「ひきこもりの経験から、自宅から受診できるとありがたい。」「体調が悪いときは、通院ができないときがある。オンライン診療で先生に相談できると安心する」といったような声などが障害者団体に寄せられています。
 また、東日本大震災をはじめ被災地が直面する問題として精神疾患の増加が挙げられます。令和6年能登半島地震においても直面する問題として報道で指摘がされています。被災地にゆきとどく人的資源は限られていることから、精神科のオンライン診療による初診からの医療アクセスを保障することは精神疾患の重篤化の回避が期待されます。
 これらの患者サイドのニーズ等に鑑みて、精神科医療における初診を含む診療報酬を制度化が求められます。

〇精神科医療における遠隔医療の推進をはかるために、情報通信機器を用いた精神療法に係る指針のブラッシュアップの検討
 ガイドラインには、「初診精神療法をオンライン診療で実施することは行わないこと」とあります。これは、初診におけるオンライン診療の実践に歯止めをかけるような書きぶりです。その一方で「上記課題の解消が進めば」とあり、症例の蓄積によって課題が解決されれば、初診からのオンライン診療の可能性が開かれるかのような書きぶりもあります。初診のオンライン診療に歯止めがかけられているのにもかかわらず、症例の蓄積を前提とした内容となっています。そのため、症例の蓄積は必ずしも初診だけではなく、再診の症例等も活用するなどのあり方が必要です。
 指針づくりの検討会では海外の症例のみならず、システマティック・レビューについても、地政学的な差異から分析が困難であるとしてエビデンスに位置付けないことが確認されています。これでは、将来的な初診からのオンライン診療の可能性を示唆しつつも、事実上、可能性がほとんど閉ざされていることになります。今後の見直しに当たっては、オンライン精神療法の国内の具体的な症例などをもとにした検討を行う必要があります。その際、オンライン精神療法についての実践者を中心にしたエキスパートコンセンサスを心がける必要があります。また、検討にあたっては、情報通信機器を用いた精神療法に係る指針の検討会の委員を務めた障害者団体が推薦する精神障害の当事者を含む複数名を招聘し、障害者権利条約をはじめ時代の要請に照らして、患者市民参画を推進することが必要です。

京都ALS嘱託殺人事件・山本被告の判決に対する緊急声明

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 さて、2023年12月19日、京都ALS嘱託殺人事件の公判で、京都地方裁判所は山本被告に対して懲役2年6か月の判決を言い渡しました。山本被告が林優里さんの殺害に関与した事実が認められ、責任の重さから執行猶予なしの実刑判決が言い渡されたことはよかったです。一方で懲役2年6カ月の刑罰は、事件の悪質性に対して軽い印象があり、山本被告が犯行を否認したことで、殺害の動機などが最後まで明らかにならなかったことは残念に思います。
 さて、判決文には、①林優里さんがALSに罹患しており、日々自らの命を絶つことを望みながら病状上それをなし得ず、その手段として他者に殺害を依頼するほかなかったこと、②被害者が苦痛なく死亡したとうかがわれることなどから量刑を軽くするように酌んだと書かれています。これについては、ALSの人の生活を鑑みたものとは考えられず、誤った理解が流布していくこと及び、本事件に対する裁判所の態度という意味で大久保被告の裁判にも影響するのではないかと深刻に憂慮します。
 判決文では、「日々自らの命を絶つことを望みながら病状上それをなし得ず」や「被害者にとっては他に命を絶つ手段がなかったにせよ」など、あたかも林優里さんが恒常的に死を望んでいたかのような印象になっています。林優里さんは、ALSの治癒を心から望んでおり、支援者も熱心に取り組んでいました。被告人らの働きかけがなければ、いずれは前向きに生きる方向に思いを向けていただろうし、被告人らの働きかけがあった段階でさえ生きる希望をもっていたことへの理解が乏しいと言わざるを得ません。近年、ALSの人に限らず、苦しいときや辛いときの状況を「死にたい」と表現することが珍しくなくなってきています。被告人らの行為は、被害者の苦悩のつぶやきに乗じて本当に死にたい気持ちにさせるよう教唆し、その上で承諾を得て殺人をおこなったものと見たほうが適当ではないかと考えます。また、林優里さんが少ない苦痛で死亡したのは、医療の知識を用いて殺害をした悪質性の結果なのであって、それを踏まえると苦痛の程度だけを取り出すかたちで量刑に酌むことも適切ではないと考えます。
 このような量刑の酌み方は、つまるところ“障害があったから量刑を軽くした”ということに収斂していくわけであり、障害者の人の命が軽んじられるようで看過できません。ついては、来年1月から始まる大久保被告の公判及び大阪高等裁判所における二審では、上記を踏まえて適切な量刑が判断されることを望みます。

【別紙】論点整理

◆判決の量刑の部分(箇条書き)
1 事実
・有印公文書偽装の事実
・嘱託殺人の事実
2(1)犯行様態
・計画性がある。
・悪質性がある。(医療の知識の悪用)
2(2)酌むべき事情
・真摯な嘱託に基づく犯行である。
・他の嘱託殺人とは同列に扱えない。(ALSに罹患し自殺するにも他者の手が必要なものを対象としている)
・苦痛なく死亡した。
3(1)責任と非難
・生命を守る立場の医師が殺人をおかしたこと。
・金銭目的で犯行に及んだこと。
・医師の立場を利用したこと。
・ろくな診察を経ず、主治医や親族に秘密にして殺害に及んだこと。
3(2)被告人個別の事情
・大久保と共謀した事実がある。
4 結論
・被告人の責任は重い。
・執行猶予なしの実刑が相当。
・殺人懲役13年を踏まえると2年6カ月が相当。

◆量刑の論点

〇自然死を装い、犯行の発覚を疑われることなく犯行を完遂するため、事前に用意した薬品を慰労に注入して被害者を殺害しているところ、その計画性は高いうえ、医師としての知識を悪用している点で悪質な犯行態様といえる。

→悪質性の根拠は、計画性と医師としての知識の悪用の2点である。

〇被害者は、ALSに罹患しており、日々自らの命を絶つことを望みながら病状上それをなし得ず、その手段として他社に自らの殺害を依頼するほかなかったことがうかがわれるのであって、このような被害者の真摯な嘱託に基づいた犯行は、自殺幇助に近い側面もあり、そのような状況にない者を被害者とする他の嘱託殺人の事案と同列に扱うことは相当でない。

→林優里さんが「自らの命を絶つことを望みながら病状上それをなし得なかった」というのは事実に反する。林優里さんは、ALSの治癒を心から望んでいたし、支援者は熱心に取り組んでいた。被告人らの働きかけがなければ、いずれは前向きに生きる方向に思いを向けていただろうし、被告人らの働きかけがあった段階でさえ生きる希望をもっていたと考えられるべきである。近年、ALSの人に限らず、苦しいときや辛いときの状況を「死にたい」と表現することが珍しくなくなってきている。被告の行為は、本当に死にたいわけでもない被害者のつぶやきを本当に死にたい気持ちにさせた上で、承諾を得て殺人をおこなったと解したほうがALSの実情を鑑みると適当ではないかと考える。その意味では、自殺ほう助に近い嘱託殺人などではなく、自殺教唆からの承諾殺人という側面をもった事件であると見なければならない。

〇また、被害者が苦痛なく死亡したとうかがわれることも、量刑上相応に酌むべき事情というべきである。

→一般論として殺害の手段と被害者に与えた苦痛の程度は量刑の判断基準となり得る。しかし、本件において林優里さんが少ない苦痛で死亡したのは、医療の知識を用いて殺害をした悪質性の結果であることを踏まえると量刑に酌むべき理由にしてはならないと考える。なぜなら、被告人の犯行は、医療の知識を用いた殺害であって、悪質性が判決の中で認められている以上、その結果として少ない苦痛で死亡したのであれば、その部分を取り出して量刑に酌むべきではないことが明らかであるからである。

〇嘱託殺人については、被害者にとっては他に命を絶つ手段がなかったにせよ、被告人らは、医師という立場にありながら、その日会ったにすぎない被害者を、わずか15分程度の間に、ろくに診察することもなく、主治医や親族等にも秘密裏に殺害に及んでいる。

→診療行為の手続きを経ていないことに係る非難は不要かつ不適切である。判決では、被害者と被告人との間に診療関係があった場合を仮定し、通常の診療手続きを経ていない点を非難する書きぶりとなっている。これでは、あたかも被害者と被告人との間に診療関係があったかのような誤解を与えかねない。本件は、診療行為の延長線上の殺害とは異なり、見ず知らずの人間が医師の立場を利用して殺害したものに過ぎない。よって医療行為の文脈に位置付けられ得るような見解を入れ込むことは適当ではない。(医療問題から切り離して理解するべき。)

〇「被害者は、ALSに罹患しており、日々自らの命を絶つことを望みながら病状上それをなし得ず、その手段として他者に自らの殺害を依頼するほかなかった」「被害者にとっては他に命を絶つ手段がなかったにせよ」

→刑事法制上は、自殺自体の違法性がないと考えられているものの、自殺とは判断能力の低下に伴う精神及び行動の障害と位置付けられており、医療によって避けられるべき事象とみなされている。自殺しようとする者を見つけた場合には、誰でも通報できることになっており、通報後に2名の精神保健指定医が自傷及び他害の恐れがあると判断した場合には都道府県知事の処分によって入院措置を講じることとなっている。このことを踏まえると「自殺をしたくてもできない」といったかたちで自殺ができることが通常の人間であるかのような書きぶりは違法・違憲を疑わざるを得ない。

◆刑法の同意殺人について
・刑法の同意殺人には、同意様態に応じて自殺教唆、自殺幇助、承諾殺人、嘱託殺人の4類型が存在する。自殺教唆は、自殺したくなるようにマインドコントロールして自殺させること、②自殺幇助は自殺志願者が自殺するための手伝いをして自殺させること、③承諾殺人は加害者が殺人をしたいと被害者に持ち掛けて承諾を得て殺すこと、④嘱託殺人は、被害者から殺してほしいと加害者に持ち掛けて加害者が応じて殺すこと、となっている。本来は、自殺教唆による承諾殺人と見たほうが実態にあっている。この点については、嘱託殺人事件として公訴するとしても、「真摯な嘱託」の判断にかかわるため見逃せない。

精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究に対する会長声明への公開質問状

小林・福井法律事務所
弁護士 小林元治 様

 晩秋の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 日本弁護士連合会(以下、「日弁連」とする。)は、2023年9月7日付けで「厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業 精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究-報告書-に対する会長声明」(以下、「会長声明」とする。)が公表されました。会長声明では、「本報告書の提言に基づいた内容となることについて強く懸念を表明するとともに、改めて、弁護士等も関与した上で、『身体的拘束のゼロ化』を推進するための議論を広く公開の場で行うことを求める」とあり、要件見直しに係る告示改正を慎重に進めることを求めた内容となっています。
 さて、会長声明は、「精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究報告書」の位置付けや内容に対する誤謬・誤読を含んだものとなっていますが、そのことはさておき、次の重要な点についてのみ、疑義がありますので僭越ながら質問をさせていただきたくお手紙をお送りいたしました。会長声明においては、2022年10月19日付「厚生労働省『地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会』報告書の身体的拘束要件の見直しに対する意見書」が「告示130号の拙速な改正に反対した」ものであると位置づけられています。しかし、繰り返し読み返しても、2022年10月19日付意見書が“拙速な改正に反対した文書”であると読むことは不可能でした。2022年10月19日付意見書は、あくまで「患者の治療困難性」を要件に入れることに反対したものとなっています。これでは、2022年10月19日付意見書に書かれていない内容を、この度の会長声明によって後から意味づけし直しているわけであり、極めて悪質で操作的な内容と言うほかありません。2022年10月19日付意見書は、どこをどのようにして読めば「告示130号の拙速な改正に反対した」と言えるのか、他の論点に先駆けて、まずはこの点について、ご回答をお願いします。誠に勝手ながら2023年大晦日までに回答をください。
 以 上 

精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究に対する会長声明への見解

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 日本弁護士連合会(以下、「日弁連」とする。)は、2023年9月7日付けで「厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業 精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究-報告書-に対する会長声明」(以下、「会長声明」とする。)が公表されました。会長声明では、「本報告書の提言に基づいた内容となることについて強く懸念を表明するとともに、改めて、弁護士等も関与した上で、『身体的拘束のゼロ化』を推進するための議論を広く公開の場で行うことを求める」とあり、要件見直しに係る告示改正を慎重に進めることを求めた内容となっています。
 このような主張は、第210回臨時国会で成立した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議とも整合するものと考えています。その一方で、精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究報告書(以下、「報告書」とする。)の位置付けや内容については、誤解・誤読によるところも大きいように感じています。全国「精神病」者集団としては、日弁連の要件見直しに係る告示改正を進める基本的な姿勢を評価するとともに、下記の箇条書きの通りに、報告書に対する誤謬を指摘し、告示改正のための議論の一助にしていただきたいと思います。

1 原告告示と比較する観点の欠如
 報告書の内容は、様々な団体の意見を反映したものであり、全国「精神病」者集団の主張が全て反映されたものではありません。そういう意味で報告書のコンセンサスは、不十分なものであると評価しています。会長声明も報告書のコンセンサスを不十分であると評価しており、その点で見解は一致します。
 しかし、報告書のコンセンサスが不十分であるとしても、それだけでは告示改正(案)の賛否を決める根拠にはなりません。賛否を決めるためには、政府の告示改正(案)が公になり、更に現行告示と比較して前進させるものなのか/後退させるものなのかという観点から精査していく必要があります。
 会長声明は、報告書の不十分な点を指摘しているだけに過ぎず、現行告示と告示改正(案)を比較する観点が欠如しています。そして、それなのにもかかわらず、どういうわけか会長声明では賛否に係る内容にまで言及しています。本来は、報告書と告示改正(案)は切り離した上で議論しなければならないはずです。

2 要件の見直しに係る意見の誤謬
 会長声明は、おおむね①切迫性要件の説明書きに「おそれ」と言う予防を示唆する文言が使用されていること、②一時性要件の説明書きに時間的な限定がないため、医師の主観に委ねられており、「必要な期間」という文言と相まって要件緩和の恐れがあること、③現行告示には、隔離の部分にしか記載がない身体合併症等への対応について具体的な言及があるため、事実上の対象拡大になり得ることを理由に不適切な身体的拘束をかえって広く認めることになるとしています。
 しかし、全国「精神病」者集団としては、最も核心となる「三要件がひとつでも欠如した場合は解除することの遵守事項への明示」が報告書のコンセンサスに至っているため、少なくとも現行告示よりも後退することはないと考えています。また、報告書は、「三要件を欠いた場合には速やかに解除する」とあり、現行告示の「できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする」よりも強い書きぶりであることから身体的拘束を減らすことができると考えています。
 仮に会長声明の主張のとおり、切迫性要件及び一時性要件、身体合併症の書きぶりに問題点があるのだとしたら、その部分さえ削除できれば反対する理由はなくなるはずです。ならば、本来今すべき行動は、告示改正(案)が出る前段階から報告書への批判を通じて告示改正に向けた意見を出していくことであり、そのような観点から意見を出していくべきだと思います。

3 後付け的な「拙速な改正反対」のポジション取りについて
 日弁連が2022年10月19日に公表した意見書は、患者の治療困難性を要件に入れることに反対をしており、結果として報告書においても、患者の治療困難性という要件は使われないことが決められました。
 しかし、2023年9月7日付の会長声明では、2022年10月19日付意見書のことを「告示130号の拙速な改正に反対した」ものであると位置づけています。繰り返し読み返しましたが、2022年10月19日付意見書には拙速な改正に反対したと読むに足る文面が見当たりません。これは、2022年10月19日付意見書に書かれていない内容を、この度の会長声明によって後付けで上書きするかたちになっており、極めて問題があると考えています。

4 告示の行政法上の位置付け
 告示は、法規命令ではなく、行政規則です。これは、令和2年12月16日名古屋高等裁判所金沢支部判決(以下、「大畠判例」とする。)においても同じで、法規命令であるとの立場に立たずに、従来の解釈を踏襲しています。告示は、国民の権利義務に関係しない行政組織内部における命令とされており、行政手続法上では指導監督制度に係る行政指導指針であるとの見方が一般的です。しかし、会長声明では、あたかも告示が国民の権利義務に関係する法規命令であるかのように誤解している節があります。あくまで告示は、行政規則なのであり、その上に存在する不文法を含む法律・条理・判例・慣習のほうにこそ問題があるわけです。
 また、会長声明には、「現行法上は許容されていない強制治療を、告示の改正によって潜脱的に許容する結果となる」と書かれていますが、ここで「現行法上許容されてない」と言い切るだけの根拠はありません。確かに精神保健福祉法には強制医療の手続き規定はありませんが、少なくとも条理・判例においては強制治療が限定的に許容されてきました。法曹団体ならば、事実に反する不適切な表現は避け、あくまで「現行告示に書かれていないことが書き込まれる」などと適切な表現で現状を言い表すべきと考えます。

5 選考過程と公開性
 会長声明には、「本報告書の作成については、提言したメンバーの選考過程やその審議経過についても不透明であり、専門的な人権保障の観点からのアプローチや公開性が欠如しており問題がある」と記されています。しかし、選考過程については、「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書のとおり、「今後、多動又は不穏が顕著である場合という要件を見直すに当たり(中略)調査研究等により(中略)検討を深めていくことが必要」と記されていることからも、当該検討会のメンバーが中心になることが想定されることがわかります。
 また、公開性については、そもそも学問・研究の過程を公開する必要があるのかどうかについて日本国憲法に定められる学問の自由との関係から法曹としての慎重な見解が示されるべきではないかと考えます。
 もちろん、シンクタンクを隠れ蓑にして政策エビデンスが構築され、その過程を知る術もないまま、それらが公にされる頃にはすでに決まっているという感覚はわからなくもないです。ただ、その一方で、我々は成果物に反映させるために政策の動向を調べて要望を出すことができます。言い換えれば要望を出していない団体の意見は成果物に反映しようがありません。少なくとも、これまで要望を出していない団体がプロセスだけを取り出して公開性や透明性を論じたとしても全く説得力がありません。日弁連は、団体として意見をまとめて発信していくためにも、当事者団体をはじめとする他団体との意見交換を積極的にしていくことが先決だと思います。

 以上、この間の日弁連の会長声明等は、いささか目を覆いたくなるほど、調査不足と政策リテラシーからの逸脱が散見され、法曹団体としてあるまじき文面構成と言わざるを得ません。今後は、きちんと当事者団体である全国「精神病」者集団とも綿密な意見交換をおこなうなどして、法曹団体に恥じない意見書等の公表を切に願います。

成年後見制度の見直しに係る民法改正に向けた院内集会

 法務省は、これまで当事者団体が要求してきた成年後見制度の見直しに係る民法改正の検討について、成年後見制度利用促進基本計画(第二期)に則って着手しました。さて、成年被後見人権利制限適正化法案の附帯決議には、障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見(勧告)を踏まえた法制度等の見直しが明記されており、この度の検討においても最重要テーマの一つになっています。この間の検討は、高度に法学的な議論であるため、私たち当事者の間でも浸透していませんが、本来は私たち当事者の生活に直接かかわる問題ではないかと思います。現在、検討において課題になっている事項などをわかりやすく理解していくとともに、障害者権利条約初回政府審査にかかわる勧告の実現を求めていくため成年後見制度の見直しに係る民法改正に向けた院内集会を開催します。

日 時:2023年11月28日・11時30~13時30分
場 所:衆議院第二議員会館第3会議室
    Zoomによるハイブリット(ID 965 0393 6779  パスコード 269591)  

プログラム:
   主催者挨拶 障害者権利条約に整合した民法改正
    桐原尚之さん (全国「精神病」者集団)
   基調 成年後見制度の見直しに係る民法改正の検討の状況
    上山 泰さん (新潟大学教授)
   指定発言
    鎌田松代さん 公益社団法人認知症の人と家族の会・代表理事
    認定NPO法人DPI日本会議から1名(調整中)
    日本障害者協議会から1名(調整中)

主催:全国「精神病」者集団 (協力:成年後見制度を見直す会)
後援:公益社団法人認知症の人と家族の会、日本障害フォーラム(依頼中)、認定NPO法人日本障害者協議会、全国自立生活センター協議会、全国精神障害者団体連合会、日本ピアスタッフ協会(依頼中)、一般社団法人精神障害当事者会ポルケ、大阪精神障害者連絡会

障害者基本法改正に係る全国「精神病」者集団の意見

日本障害フォーラム政策委員会 御中

全国「精神病」者集団として障害者基本法改正に係る意見を次の通りまとめましたので提出します。

◆趣旨
◯精神障害条項は、医療条項の中に入れて精神医療の一般医療への編入を旨としたものに変えたらよいと思います。
◯成年後見については、成年後見制度という単語を使わずに制度の趣旨のみを書き、趣旨に照らして、成年後見制度を含む法制度のあり方を見直すという観点が含みこまれるようなかたちでの書きぶりにした方がよいと思います。

◆書きぶりに係る提案
例1;個別の条文で担保するスタイル。(※文章は現行法をベースにしています。)

(相談)
第〇条 国及び地方公共団体は、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務、権利擁護、その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならない。
2 国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの各種の相談に総合的に応ずることができるようにするため、関係機関相互の有機的連携の下に必要な相談体制の整備を図るとともに、障害者の家族に対し、障害者の家族が互いに支え合うための活動の支援その他の支援を適切に行うものとする。
3 国及び地方公共団体は、障害者の意思決定の支援に資するため、制度の見直しを含む必要な施策を講じなければならない。

(保健及び医療)
第◯条 国及び地方公共団体は、障害者が障害を理由に分け隔てられることなく適切な保健及び医療が受けられるよう必要な施策を講じなければならない。

例2;勧告への対応をまとめて列挙するスタイル。
(障害者基本計画等に基づく政策の見直し)
第〇条 政府は、障害者基本計画等やその他関連する法令等に基づき次の各号について必要な措置を講じなければならない。
 一 初回政府審査に係る総括所見に基づく法制度の見直し
 二 精神科病院への非自発的入院制度の見直し
 三 成年後見制度のあり方等の見直し
 四 などなど

例3;見直しに係る検討の条文に限り、附則で詳細を担保し、それらを障害者政策委員会が監視できるようにするスタイル。

例4;個別の条文に見直しのロードマップを含めてきていする。この方法には、消極的である。いつ改正されるかわからない基本法に廃止すべき政策の枠組みを規定したくない。しかし、この方法によることなく、具体的な見直し作業を法律成文で担保することは難しい。どうしたものか。

◆その他
身体的拘束については、当面の課題として告示改正や報酬誘導による仕組み、医療計画指標例による評価が必要である。入院者訪問支援をはじめとする入院者の権利擁護の仕組みについてもなんらかの言及が必要と考える。