行動計画(2017年―2020年)

Ⅰ 基本的な活動

1.1 草の根の助け合いを通じた仲間作り

全国「精神病」者集団は、大前提となる行動規範に草の根の互助を据える。手紙、電話、メール等を通じた仲間との草の根のつながりを重視し、誰かが困っているときには、その権利主張をサポートする。

 

1.2 運動の啓発、継承

全国「精神病」者集団は、組織の持続における深刻な課題を抱えている。会員の高齢化や財政面での課題が長期化しており、これまでの活動の蓄積の継承を通じて持続的な活動を展開できるようにしていく必要がある。

 

Ⅱ 障害者権利条約の完全履行

2.1 政府審査に係る行動

全国「精神病」者集団は、国連障害者権利委員会の日本政府審査に備えてパラレルレポートの準備に取り組む。とくに実効性のある総括所見を勝ちとるためにも、国内法の課題を明確化し、確実に総括所見に反映されるような事前質問を設定したパラレルレポートを作成していく必要がある。また、政府が総括所見を無視できないようにするために総括所見に関わる国内世論を喚起していく。条約の解釈は、政府の解釈が国における唯一有効な解釈なわけであって、明らかに間違った政府の解釈に変更を迫っていくためには、学説、判例の積み重ね、そして、条約審査を通じて地道に方向付けていかなければならない。

 

2.2 勧告実現に向けた検討の場の要求

総括所見によい勧告が記されたとしても、それが実行されなければ絵に描いた餅に終わる。そのため、総括所見の内容を国内法に反映させていくための継続的な取り組みが不可欠となる。法制度の見直しのための検討は、総括所見の勧告を実現していくためものでなければならず、その担保を得るための取り組みをしていく。また、総括所見実現の実効性を高めるため障害当事者の政策決定過程への参画を求めていく。

 

Ⅲ 差別への抵抗

3.1 精神保健福祉法撤廃

全国「精神病」者集団は、結成当初から精神衛生法撤廃を掲げてきた。引き続き、あくまで精神保健福祉法撤廃を掲げ、次のとおり取り組みをしていく。

・当面は、医療保護入院制度の在り方の検討を通じた医療保護入院制度の廃止実現に向けて取り組む。医療保護入院制度の廃止を皮切りに精神障害を理由とした非自発的入院制度の完全廃止を勢い付けていく。

・精神障害を理由とした隔離・身体拘束の廃止に向けて被害者らと連帯し、当面は多動及び不穏要件の削除など恣意性の排除を通じた段階的な削減のための取り組みを重ねていく。

・精神医療審査会は、医師以外に病状について意見を出せず、かつ医師が医師に異議申せない構造があるため見切りをつけて、この仕組みを認めない。

 

3.2 医療観察法の廃止

全国「精神病」者集団は、結成当初から保安処分反対を掲げてきた。医療観察法は、患者利益か/患者以外の大衆の利益か、という利益帰属こそ異なるものの、改正刑法草案の治療処分に等しい制度構造を有している点で結局のところ保安処分である。保安処分と精神障害者の関係は、つまるところ精神障害者を危険素因者と見なし、意識の中で自分とは違う存在と他者化することで、共に生きる社会ではなくしていく点で重大な問題であると認識してきた。この法律の廃止に向けて大衆運動を中心に取り組む。

 

3.3 成年後見制度及び訴訟無能力の廃止

成年後見制度被害者の支援活動を通じて連帯を深め、成年後見制度の廃止に向けて大衆的な運動を形成していく。

成年後見制度利用促進法案については、医療同意拡大の徹底阻止に向けて取り組む。具体的には、後見人の業務として医療同意を可能にさせるのではなく、従来からおこなわれてきた第三者同意を成年後見人等がおこなう場合に、どのようなことに留意すべきかをまとめたガイドラインの作成を要求していく。

 

3.4 欠格条項の廃止

欠格条項の廃止に向けた取り組みを展開する。

 

3.5 監獄

鑑定留置及び警察官職務執行法に基づく精神異常者保護規定の廃止、精神障害者に対する獄中処遇や獄中医療の問題について引き続き関心を払い、大衆運動を中心に取り組んでいく。

 

Ⅳ 権利擁護制度

4.1 医療基本法の制定、患者の命と人権を守る権利法制の制定

医療における患者の権利の規範となる法律が必要であり、医療基本法の制定、患者の命と人権を守る権利法制の制定が喫緊の課題である。政権与党は、すでに医療基本法の策定に向けて動きだしており、ハンセン病をはじめ難病や医療過誤など幅広い患者組織と連帯して医療者中心のものではなく、患者中心のものになるように意見を強めていく。これによって供給側の論理で組み立てられ歪められた医療制度を患者の権利に基づくものに変更を迫っていく。

 

4.2 法律家の活用

精神科病院に入院している者等の権利擁護を進めていくうえで法的解決が求められる場合があることを認め弁護士の活用拡大を求めていく。権利擁護は、弁護士業務独占との影響を勘案して、職種との兼ね合いを考慮する。また、全国「精神病」者集団は、裁判の支援を進めてきたが民間レベルでの支援では限界があり、総合法律支援法による経済的な補助が不可欠である。

 

4.3 人身保護法の活用

人身保護請求は、人身保護規則第4条において「拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合」とされており、原告側に「著しいこと」や「顕著であること」など多くの挙証を要求する仕組みになっている。これを原告側に有利なものにするべく、「著しい」基準及び「顕著である」場合などの基準を作成し、精神科病院における基準を設けることで精神科病院側に挙証を求める手続きへと回転を加え、人身保護請求の実効性を高める。また、そのことで効果的に強制入院から釈放されるための方策を精神保健福祉の枠外に広げていく。

 

4.4 虐待防止法

障害者虐待防止法の通報義務のスキームの対象に精神科病院ほかを入れることを求めていく。また、虐待防止法のスキームにのせて虐待件数や内容の把握に努めることを求めていく。

 

4.5 重度訪問介護

このたび重度訪問介護は、精神科病院への入院中の利用が可能になった。重度訪問介護の基本は、その人のための介助者(パーソナルアシスタンス)であり、入院前から入院中、入院後とシームレスな関わりができる点で権利擁護や地域移行の観点からも非常に有効である。しかし、現状では重度訪問介護それ自体の利用が進んでおらず、医師の恣意的判断で面会制限ができてしまう点で問題がある。入院中の利用が意思疎通のための利用に限定されており、医療者中心で進められてしまう点でも医学モデル的で課題が多い。こうした課題の解決に向けて取り組んでいく。

 

4.6 意思決定及び意思表明支援

アドボケーターガイドラインでは、精神科病院に一方的に情報提供することを求める内容になっており、情報に係る力関係が非対称すぎること、ピアサポーターの独立性が担保されていないこと、医療者との利益相反を帰結する場合の方策などが記されていないことなどの点で不十分であるため、修正を要求していく。

 

Ⅴ 障害者の権利及び地域生活の実現

5.1 障害者基本改正

障害者基本法を改正し、障害者基本計画における課題が散見され、とりわけ「重度かつ慢性」者の存在を前提とした地域移行目標値の設定やmECTやクロザピン治療の計画的普及により地域移行が進むとされる治療影響値については社会モデルの観点から抜本的に見直されなければならない。また、障害者政策委員会の構成員に障害者団体を代表する精神障害者の委員を復活させ、障害者権利条約の監視機関としての権能拡大に向けて取り組んでいく。

 

5.2 障害者差別解消法改正

障害者差別解消法の改正にあたって実効性の観点から次の重点について取り組んでいく。

・不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供義務の範囲に民間事業者を入れること。(とくに賃貸借物件への入居拒否、私立学校における合理的配慮の提供、航空会社における合理的配慮の提供など公共性の高い民間事業者は必須である)

・不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供義務の範囲に国会及び司法を入れること。

・裁判をはじめとする事後救済を可能とする仕組みを設けること。

・パリ原則に基づく国内監視機関を設けて、差別解消のための監視機関として機能させること。

 

5.3 所得保障

生きるために必要な所得保障(生活保護、年金、無年金特例を含む)を要求する。障害者雇用促進法改正に伴い、平成30年度4月から精神障害者の雇用義務化が始まる。法定雇用率は2パーセントから2. 3パーセントに引き上げられるが、精神障害者雇用の実数が向上する限りではないことを憂慮する。いまだに、職場環境における合理的配慮のあり方など精神障害者が働きやすい環境は未整備であり、定着率も極めて低い。この状況に対して、社会一般への障害理解啓発を進める必要がある。とりわけ、精神障害者のインテグリティが侵されることのないように、労働の言説を通じて、働き方や働く環境、働かない事も含めた自己選択の機会など多様な人生設計が担保されるように当事者自らが声を上げていく。他方で障害であることを秘匿にして働かざるを得ない精神障害者の仲間がいることも忘れてはならない。健康のプライバシーは守られるべきではあるが、申告を望む場合も社会の差別・偏見は根強いために困難が伴っている。この状況の改善に障害者運動のみならず、労働運動も含めた連帯が求められる。

 

5.4 介護保障

精神障害者にとって利用しやすい介護保障制度を勝ちとる。

移動支援については、義務経費化及び自治体による支給上限の撤廃、介助者の交通費助成の獲得に向けた取り組みをしていく。現在JRをはじめとした多くの鉄道、バス等の公共交通運賃は身体・知的障害者には同行支援者も含め運賃割引制度が適用されている。精神障害者が交通手段にアクセスする際大きな障壁となっているのは、同行支援者も含む交通費負担の問題である。精神障害者にも他障害同様の運賃割引制度を設けることを各方面に粘り強く働きかけていく。

重度訪問介護については、利用拡大を中心に取り組んでいく。精神障害者の重度訪問介護利用は、重度のみの利用に限定されているため、実際にはほとんど利用が進んでいない。また、居宅において常時見守りという方法も馴染まず、居宅外待機など新たな仕組みの介助が求められるところである。そのため、一人でも多くの人が重度訪問介護の支給決定がなされるように応援し、見直しを通じてより利用しやすい制度に改変していく。

 

5.5 地域移行

基本的に全ての入院者は、支援があれば地域生活が可能であるとの立場に立つ。そのため、長期在院を入院者の疾病の問題に帰属する「重度かつ慢性」「治療抵抗性」に反対し、支援の地域間格差の是正を当面の課題とする。だが、あくまで誰かが退院することで支援を用意せざるを得なくなり、結果として地域の支援が整うとの立場に立つため、支援の整備状況を退院の条件とするような論理には反対の立場を貫く。また、入院医療に依拠した精神科病院の経営と地域移行の両立は根本的には不可能と考えるため、両立策として示されてきた「敷地内施設」「病棟転換型居住系施設」等には反対の立場を貫く。

 

Ⅵ 国際的な活動
6.1 WNUSP

全国「精神病」者集団は、WNUSP(当時はWFPU)の結成当初からの会員であり、過去10年にわたって理事を出してきた。アジアの理事は、中央・東南アジアなど日本以外の国からの選出を応援し、アジア太平洋障害者の10年の推進など日本が積極的にできる取り組みを提起していく。

 

6.2 TCI-Asia

アジアの精神障害者の連帯を確実なものにしていくため、TCI-Asiaの会議に出席し、実務を担うなど綿密な協力体制を構築していく。

 

6.3 恣意的拘禁作業部会への個人通報の促進

精神科病院入院者・隔離拘束者の訴えに基づき恣意的拘禁作業部会への個人通報を促進し、恣意的拘禁作業部会の日本訪問・視察、勧告を実現する。

 

Ⅶ その他の重点課題

7.1 死刑廃止

元無実の死刑囚赤堀政夫さんの差別裁判弾劾の経験に基づき、引き続き死刑制度の完全廃止に向けた取り組みをおこなう。死刑は、国権をもって人を殺す制度であり、これに反対する理由は、ひとえに卑しいからである。この制度が赤堀さんに与えた心的外傷は計り知れず、一日でも早い死刑完全廃止を勝ちとるための運動を展開する。

 

7.2 障害の開発

持続可能な開発目標(SDGs)を使いながら国内外での運動を展開していく。議連をつくっていない政党には、議連やPTの組織化をうったえかける。アジア太平洋障害者の10年に参画し、障害の開発を効果的に進めていく。また、障害の開発については、SDGsの「誰一人取り残さない」「全ての関係者の役割を重視」という観点と障害者権利条約の趣旨である社会モデルの理念に従い、医療者中心から障害当事者運動(ピアサポート)の解決能力を引き延ばすかたちでの援助が主流になっていくように国際協力のあり方に変更を与えていく。

 

7.3 国連勧告の実現・国内監視機関

国連勧告の実現及びパリ原則に基づく国内人権機関の設置に向けた運動を他の反差別運動と連帯しておこなう。

 

7.4 反戦

戦争によって障害者が増え、障害者は戦争のあるところでは生きていけない。戦争につながる動きについては、反対の立場を貫く。

 

7.5 障害を理由とした親子分離

精神障害の影響で家事ができない親をネグレクトと位置付けて親子分離する例が公然とおこなわれている。精神障害により体調不良で育児が困難であったとしても、障害があっても親として子と共に地域で暮らしていけるように支援をするべきである。障害を理由とした親子分離に反対する。

 

7.6 上記のほか精神障害者の権利に係る行動を随時おこなう