日本精神科病院協会の声明に対する見解

関 係 各 位

 時下ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 日本精神科病院協会(以下、「日精協」とする。)が「令和3年(受)第526号上告受理申立て事件に対する最高裁第3小法廷の不受理決定について」と題する声明を出しました。当該声明は、精神科病院における身体拘束中の死亡事故について損害賠償を認めた名古屋高等裁判所金沢支部判決の上告を棄却する最高裁判所決定に対して向けられたものです。また、当該声明の主張は、主として① 判決は精神保健指定医の裁量に過度な制限をもたらすものである、②判決が想定する人員体制は非現実的である、③入院者を受け入れられなくなり患者が不利益をうける、というものになっています。
 この声明は、下記の点で問題があると考えますので、関係各位におかれましては理解を深めてくださいますと嬉しく思います。

1.精神保健指定医の裁量は一般医事法理の適用を免責させるようなものではない
 日精協の「判決は精神保健指定医の裁量に過度な制限をもたらすもの」という主張は、法律を間違って理解していることに基づいています。
 まず、判決文には、「精神保健指定医の(身体的拘束に関する)治療的判断が、その裁量を逸脱して違法である」とあり、精神保健指定医の裁量それ自体は認めた上で、被告病院が、その裁量を逸脱していたために責任が発生したという内容になっていることがわかると思います。よって精神保健指定医の裁量を制限した判決と読むべきではなく、もとより、精神保健指定医の裁量は医事法理の中で決められていたものであると読むのが適当です。
 また、精神保健指定医の裁量は、あくまで一般的な医事法理の下で認められているのであって、37条1項大臣基準の位置付けも医事法を念頭におきながら、さらに厳格な手続きとして定められたものとなっています。
 精神保健指定医は、医事法理の適用を受けないほどの裁量までは認められていません。そのため、判決が精神保健指定医の裁量を過度に制限したわけではありません。

2.常時8人の看護師がいないと違法になるなどとは判決文には書かれていない
 本判決をめぐっては、常時8人の看護師がいないと身体拘束が違法になるとする誤解が流布されているようですが完全に事実と異なります。判決文には、平成28年12月13日に看護師5人でおさえ付けて注射したところ顕著な不穏多動が見られたが、平成28年12月14日に医師と看護師8人で拘束開始の診察時をしたときにら顕著な不穏多動が見られなかったことから、注射や診察などの際に一時的に人員を割くことができるなら人員を割くことで拘束を回避するべきであるとは書かれています。
あくまで人員をさける余力があるなら拘束に先駆けて人員をさくことを検討するべきとしたものであり(現に12月14日の拘束時に8人確保してます)、余力がない中で看護師を8人揃えないと違法になるなどという内容の判決文ではありません。

3.過誤の有無についての論拠が未完成であること
 先述した通り、もとより精神保健指定医の裁量は、従来においても、そこまでの裁量は認められておらず、判決文の一部を抜き取って裁量への過度な制限であると主張するのは適当ではありません。
 本件に限っては、被告病院側が37条1項大臣基準に従って行動制限したといい得るだけの高い蓋然性のある証拠を示し得ておらず、一般的な医事法の考え方に基づき過誤を認める判決になったものと考えるべきでしょう。とりわけ、日精協は声明において「多動又は不穏が顕著な場合」の不穏の中身までは態度が明らかにされていますが、それが顕著であったかどうか、何をもって顕著と言いうるのかまでは、態度が明らかにされていません。
過誤の有無について裁判所とは別の見解を述べるのであれば、最低限、これら形式面をきちんと理論形成してから公表する必要があります。そのため、日精協の声明は、過誤の有無についての論拠が未完成のまま、見切り発車したかたちになっています。

4.精神科病院でしか通用しない常識があることを彷彿させる弁明
 山崎会長は、記者会見の場で「裁判官は精神科病院を見たことがない」旨を発言されたようですが、このように精神科病院でしか通らないルールがあるかのような言い方をしてしまうと、逆に精神科医は一般社会のルールを知らないのではないかと疑われることになるのではないかと思います。
 被告側病院は、行動制限を開始できる程度の病状であったと考えていたようです。しかし、裁判所は、行動制限を開始することに疑義を持つに値すると判断したため、被告病院側の主張は大部分が斥けられました。ここに精神科病院の内側と外側の認識の差異が如実にあらわれる結果になったのだと思います。
 むしろ、精神科病院こそ、一般医療に近づくために、従来の慣習を改めていく必要があるのではないかと思います。

5.精神障害者を受け入れるのは誰であるべきか
 日精協声明の最大の問題点は、社会が精神障害者を排除しており、精神障害者を受け入れるのは精神科病院であるというドグマに陥っているところにあります。本来、精神科病院関係者は、精神障害者に係る問題をなんでもかんでも精神科病院に押しつけないでほしいと主張すべきだし、医療外のことは病院ではなく社会が担うべきであると主張しなければならないはずです。しかし、日精協声明からは、精神科病院があらゆる問題を引き受けてきたことを誇りにさえ思っている節を禁じ得ません。
 もちろん、ある意味では、精神科病院が社会の闇を一身に背負ってきたともいえなくはないですが、本来は社会がもっと精神障害者とかかわりを持つべきです。精神科病院が世の中にとって便利に機能すればするほど、精神障害者と社会の接点は閉ざされていくことになります。当然ながら医療体制は患者の受入態勢のことであり、受入態勢が十分でない状態では患者の受け入れはできません。精神科病院が何もかもをできるわけではないという観点に立ち、判決を肯定的に受け止めることが必要であると考えます。
以 上 

北新地ビル火災の報道に関する緊急要望書

報道機関各位

 日頃、貴社におかれましては迅速で正確な報道のためご尽力されていることを心より敬意を表します。私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
さて、2021年12月17日に大阪の堂島北ビルで火災が発生し、その影響で24名の死亡が確認されています。火元は、心療内科に通院する男性が放火した疑いがもたれているなどの事実が報じられています。こうした報道は、精神疾患を持った人に対して「怖い」「危険」「何をするかわからない」「社会から排除すべきである」「監視の対象にするべきだ」といった偏見・予断を助長させるため、たいへん深刻に憂慮しています。
すでに事件と精神疾患を結びつける偏見に基づいた声が散見されます。このように報道は、一般国民に対して多大なる影響力をもっています。貴職については、自らの影響力を考慮し、精神障害者を排除するような社会的偏見がひろがらないよう、報道機関には地域で生活している精神障害者の立場や気持ちも含めて、配慮のある報道を望みます。
以 上 

「障害者ピアサポート研修事業に係る情報提供等について」に係る要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
障害福祉課地域生活支援推進室長 殿

 寒冷の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、現在、国は障害者ピアサポーター研修(地域生活支援事業)を受講した障害者を雇用した相談支援事業所等に対して加算報酬を付与するなどピアサポートの専門性の評価に係る政策を推進しています。障害者ピアサポーター研修事業は、各都道府県政令市において障害当事者を交えた運営会議を設置し、企画段階から関与させることが推奨されています。全国「精神病」者集団としては、各地の仲間が各都道府県政令市の運営会議に参画しやすいようにサポートする取り組みをしてきました。
 令和3年3月31日付、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課地域生活支援推進室発・各都道府県指定都市地域生活支援事業担当者宛の事務連絡「障害者ピアサポート研修事業に係る情報提供等について」には、「障害者ピアサポート研修事業の検討に当たって、「障害者ピアサポートの専門性を高めるための研修に関する研究」(厚生労働科学研究費補助金)にて標準的な研修テキストの作成に携わった研究代表者・関係団体の皆様に、障害者ピアサポート研修事業の実施方法やテキスト内容、講師の紹介などの都道府県・指定都市の担当者からの相談・問い合わせにご協力いただくこととしておりますので、必要に応じて相談・問い合わせいただくようお願いいたします。」と書かれています。これについて都道府県・政令市の担当者は、当該事務連絡に記載された団体以外には問い合わせをしなくてよいものと解釈する傾向にあり、いくつかの都道府県・政令市においては全国「精神病」者集団の成員の参画が見送られる事態が生じています。当該事務連絡は、表現が不適切です。
 つきましては、当該事務連絡の修正あるいは主管課長会議資料等の方法を用いて、多くのグループの積極的な参加を担保し得るような解説を入れてください。対応についてご検討いただけますと嬉しく思います。
以 上 

精神科入院患者の重症度にもとづく医療・看護必要度の評価の手引き(案)への意見

持続可能で良質かつ適切な精神医療とモニタリング体制の確保に関する研究
 研究代表者 竹島 正 様
精神科入院患者の重症度に応じた医療体制の確保に関する研究
 研究分担者 福田正人 様

 紅葉の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、下記に精神科入院患者の重症度にもとづく医療・看護必要度の評価の手引き(案)への意見をまとめました。ご検討くださいますようお願い申し上げます。

(1)精神科生物学的医療ニーズ
 保険原理的には、入院医療でなくてもできる治療は入院医療によるべきではないこととされている。“どんなに病気が重くても入院せずに地域生活できる”という理解のもと報酬等の政策を設計していく必要がある。重症度、医療看護必要度については、生物学的な意味での疾病が重症であるとしても、そのことがただちに入院医療が必要であることを帰結しないという点を確認しておく必要がある。入院医療は、治療メニューのひとつであり、入院ニーズに基づいて施される処遇である。“病気が重いから入院している”という図式は、回避されなければならない。また、入院医療の必要性を高い蓋然性をもって担保するものが必要である。

(2)重症者の数について
 重症者の数は、最初に母数を決めて、母数を超えないような判定基準を設ける手順が妥当であると考える。判定の結果、重症者が続出するようであれば、入院医療の量的な必要性を政策的に裏付けることにもつながりうるため、入院医療の必要性を絞り込むような形で設計していく必要がある。他方で人員を動員する根拠としての重症度、医療看護必要度という側面もあるため、人員の必要性から逆算したかたちで母数を設定していくことも考えられなければならない。

(3)精神科心理社会支援ニーズ
 精神科心理社会支援ニーズは、退院後の居住地がないために入院している状態など、現実の問題としては人員を動員して解消すべき問題ではあるものの、本来は健康保険を使って入院医療に報酬を発生させるべきものとは認めがたいものでもあった。

(4)その他
このたびの手引き(案)は、B項目にかかわる手引きのみであり、A項目とC項目にかかわる手引きが示されていなかった。そのため、全体像が見えにくく、非常にコメントが難しかった。引き続き、必要に応じて意見を出していきたいと考えている。
以 上 

基準病床算定式に係わる指標例に関する第二次意見書

持続可能で良質かつ適切な精神医療とモニタリング体制の確保に関する研究
研究代表者 竹島正さま

 日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
2021年6月に提出した基準病床算定式に係わる指標例に関する第一次意見書の内容に加えて、下記の通り基準病床算定式に係わる指標例について意見を申し上げます。

1.非自発的入院の段階的な解消に向けた指標の設定
 障害者の権利に関する委員会は、初回の日本政府報告に関する質問事項において「知的又は精神障害のある者の入院件数が増加していることに対応すること、及び彼らの無期限の入院を終わらせること」について講じた措置にかかわる情報提供を求めている。他方で、2021年10月15日、日本弁護士連合会は「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」を採択し、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく非自発的入院の廃止と非同意入院の段階的な縮減を提言しました。これらの動向を踏まえて、指標にはアウトプット指標として非自発的入院の段階的な縮減を加えること、また、それらは医療保護入院の届出件数や措置入院件数、措置入院診察件数等、6月30日時点の非自発的入院者の入院者数及び入院期間等で評価できるようにすることを提案します。

【資料】障害者虐待防止法改正の論点整理

1.障害者虐待防止法の改正をしない理由について
 厚生労働省は、同法附則第2条の検討の結果、①障害の有無に関係なく利用する機関においては、障害者への虐待のみが通報対象となる不整合が生じることと、②各機関における虐待に類似した事案を防止する学校教育法や精神保健福祉法等の既存法令と重複する部分の調整の必要性が生じることの2点を挙げて法改正を見送ることとした。しかし、政府による法改正しない理由は、理由にまではなり得ていない。
(1)障害者への虐待のみが通報対象となることへの不整合の有無について
 障害者虐待防止法には、使用者による虐待を定めている。仮に障害者への虐待のみが通報対象となる不整合が問題とされるなら、職場において障害者への虐待のみが通報義務にされることの不整合という議論さえも起こり得るわけである。その意味では、法改正しない理由と本法律の立て付けとの間で深刻な矛盾が生じている。
(2)既存法令と重複する部分の調整が必要かどうかについて
 通報義務及び通報者保護は、障害者虐待防止法に定められた特有の制度であり、既存の制度による対応が不可能となっている。精神保健福祉法における精神医療審査会制度は、申立人が本人と家族に限られており、通報者保護もなく、制度の趣旨自体が虐待防止を目的としているわけではない。また、仮に精神医療審査会の機能と一部オーバーラップしていたとしてもオーバーラップしても良いと整理することができるはずである。肝心なのは、各制度の窓口間の連携でなければならない。

2.精神科病院については精神保健福祉法で対応すべきとの答弁について
 厚生労働省が法改正に踏み切らない本当の理由は、①所轄省庁及び部局との調整に躊躇していることと、②日本精神科病院協会をはじめとする病院団体との調整への躊躇の2点によるところが大きい。
(1)行政内の所轄問題について
 精神科病院を所轄しているのは、精神・障害保健課である。障害福祉課としては、精神・障害保健課との調整に躊躇しているのかもしれないが、同じ障害保健福祉部であり法務省や文部科学省との調整と同じレベルで論じられるものではない。仮にその主張が通るなら「障害者虐待防止法の使用者による虐待は労働局ですべき」という議論さえも起こり得るわけで明らかに矛盾する。精神・障害保健課の事務をおこなう都道府県の部局は、多くの場合、障害福祉課の事務をおこなう都道府県の部局と同じ部局内にあり、混乱が少ないことが明らかである。そのため、精神科病院に限っては、法改正を困難せしめるほどの所轄問題が生じているとは言い難い。
(2)病院団体との調整について
 日本精神科病院協会は、非医療専門職から見たら身体拘束等の行動制限と虐待の判別が困難であり、精神医療審査会での対応が求められるものとしている。しかし、虐待は処遇ではない。身体拘束等の行動制限は、精神保健福祉法第37条第1項において厚生労働大臣が定めた基準に基づく処遇という位置づけを得ている。兵庫錦秀会神出病院の事件に代表されるような深刻な虐待は、同基準に基づく処遇には該当し得ない。同事件のような深刻な虐待が医療行為でないことは一目瞭然である。そのため、制度的、実際的に見ても医療者が立ち入らずとも外形的に見て判別が可能であることは自明と言わざるを得ない。

3.精神保健福祉法で対応することの問題点
 1~2の論点から精神科病院における虐待防止を精神保健福祉法で対応すべきとする政府の理由は、理由とはなり得ていないことが指摘できた。
 精神科病院における虐待は、精神保健福祉法体制という精神保健指定医の判断に依拠した閉鎖的な制度設計の帰結によるところが大きい。外部の目が届かない閉鎖的な環境では、医療者の集合的なモラルの低下を招きやすい。そのため、精神保健福祉法体制の外部からのチェックにこそ効果が期待される。

◆障害者虐待防止法附則第2条検討概要資料
https://jngmdp.net/wp-content/uploads/2021/09/障害者虐待防止法附則第2条検討概要資料.pdf

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく訪問系サービスの見直しの検討に関する要望書

2021年9月16日
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
企画課長    矢田貝 泰之 様
障害福祉課長  津曲  共和 様

初秋の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
第112回社会保障審議会障害者部会(以下、「障害者部会」とする。)の資料1「団体ヒアリングにおける主な御意見等」からは、訪問系サービスの内容や対象者等の見直しを求める意見が団体から多数出されたことがわかります。ところが、第112回障害者部会資料2「障害者総合支援法等の見直しについて (論点等)」では、「I 地域における障害者支援について」、「II 障害児支援について」、「III 障害者の就労支援について」、「IV 精神障害者に対する支援について」、「V その他」が障害者総合支援法見直しの検討事項とされており、居住系サービスや就労支援系サービスが明示的に検討事項とされたのに対して、訪問系サービスは明示的に検討事項として取り上げられていないことがわかります。
唯一、関連しそうな事項としては、「Ⅴ.その他」の部分の「その他、障害福祉サービス等のサービス内容や対象者等、高齢の障害者や意思疎通に関する支援の在り方など、既存の制度・運用面の見直しについてどう考えるか」があります。訪問系サービスは、障害者の地域生活の核心的な基盤となるものです。
つきましては、「Vその他」の部分では必ず下記について訪問系サービスの見直しの検討をしてくださいますようお願い申し上げます。

(1)育児支援
居宅介護における育児支援の周知徹底を図るための議論。

(2)通院等介助の自宅発着要件
通院等介助の自宅発着要件の削除、あるいは、勤務先から通院先までの移動にも使えるようにするための議論。

(3)重度訪問介護の利用
行動障害10点の撤廃あるいは緩和、支援区分4以下への適用拡大のための議論。また、入院中の重度訪問介護の利用について支援区分4及び5に適用拡大するための議論。

(4)通勤、勤務中等の利用
重度訪問介護の移動制限である「通年かつ長期にわたる外出」の削除、あるいは、通勤、勤務中、通学、修学中の利用を可能にしていくための議論。
以 上 

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく訪問系サービスの見直しの検討に関する要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
 企画課長    矢田貝 泰之 様
 障害福祉課長  津曲  共和 様

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく訪問系サービスの見直しの検討に関する要望書

 初秋の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 第112回社会保障審議会障害者部会(以下、「障害者部会」とする。)の資料1「団体ヒアリングにおける主な御意見等」からは、訪問系サービスの内容や対象者等の見直しを求める意見が団体から多数出されたことがわかります。ところが、第112回障害者部会資料2「障害者総合支援法等の見直しについて (論点等)」では、「I 地域における障害者支援について」、「II 障害児支援について」、「III 障害者の就労支援について」、「IV 精神障害者に対する支援について」、「V その他」が障害者総合支援法見直しの検討事項とされており、居住系サービスや就労支援系サービスが明示的に検討事項とされたのに対して、訪問系サービスは明示的に検討事項として取り上げられていないことがわかります。
 唯一、関連しそうな事項としては、「Ⅴ.その他」の部分の「その他、障害福祉サービス等のサービス内容や対象者等、高齢の障害者や意思疎通に関する支援の在り方など、既存の制度・運用面の見直しについてどう考えるか」があります。訪問系サービスは、障害者の地域生活の核心的な基盤となるものです。
 つきましては、「Vその他」の部分では必ず下記について訪問系サービスの見直しの検討をしてくださいますようお願い申し上げます。

(1)育児支援
居宅介護における育児支援の周知徹底を図るための議論。

(2)通院等介助の自宅発着要件
通院等介助の自宅発着要件の削除、あるいは、勤務先から通院先までの移動にも使えるようにするための議論。

(3)重度訪問介護の利用
行動障害10点の撤廃あるいは緩和、支援区分4以下への適用拡大のための議論。また、入院中の重度訪問介護の利用について支援区分4及び5に適用拡大するための議論。

(4)通勤、勤務中等の利用
重度訪問介護の移動制限である「通年かつ長期にわたる外出」の削除、あるいは、通勤、勤務中、通学、修学中の利用を可能にしていくための議論。
以 上 

【解説】精神保健福祉法改正と「にも包括」検討会報告書

1. はじめに
2021年3月18日、厚生労働省は、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会報告書――誰もが安心して自分らしく暮らすことができる地域共生社会の実現を目指して」を公表しました。この報告書には、同年2月15日に公表された「報告書(素案)」の段階には存在しなかった次の一文があります。

「なお、本報告書では精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築の推進に関する事項を取りまとめたが、これまで精神保健医療福祉領域で課題とされている、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「精神保健福祉法」とする。)に規定する入院に関わる制度のあり方、患者の意思決定支援や患者の意思に基づいた退院後支援のあり方等の事項については、別途、検討が行われるべきである。」(p.3)

この一文が入った経緯を含めて、この間の精神保健福祉法改正の動向について報告したいと思います。

2. 背景となる津久井やまゆり園事件の再発防止策
 2016年7月、津久井やまゆり園事件が発生しました。事件後は、容疑者(現在は死刑囚)の措置入院歴に注目が集まり、再発防止策を契機とする措置入院運用や退院後支援が盛り込まれた精神保健福祉法改正法案が第193回通常国会に上程されるに至りました。全国「精神病」者集団や日本弁護士連合会が中心となって反対運動を形成したことで、約36時間の審議を経て継続審議となり、その後は廃案となりました。
 第196回通常国会では、精神保健福祉法改正法案が内容を変えずに上程される見込みであることがわかり、連日にわたって与党を中心とした集中ロビー活動をおこないました。その結果、政府は精神保健福祉法改正法案の上程を断念しました。これによって精神保健福祉法改正法案は、内容を変えなければ再上程できない状態になりました。
 しかし、措置入院の運用と退院後支援の整備にかかわる政策は止まりませんでした。2018年3月27日、厚生労働省によって「措置入院の運用に関するガイドライン」と「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」が公表されました。両ガイドラインは、あくまで津久井やまゆり園事件の再発防止を契機としたものでした。これらは、法改正をせずとも、ガイドラインで推し進めることができたのです。なお、一時は、運動内でガイドラインを法改正の先取りと見る動きもありましたが、法改正を狙っている/いないなど関係なく政策自体は進められるわけであり、法改正と絡めるのは適切な情勢分析に支障をもたらす点で見立て違いと言わざるを得ません。

3. にも包括と退院後支援
 2019年4月より両ガイドラインの実施に係わる素材づくりや実施状況のモニタリングは、「地域精神保健医療福祉体制の機能強化を推進する政策研究」に検討の場が移されました。ここでは、主にグレーゾーンや措置入院の運用に関する協議のあり方が話し合われました。そのかんに診療報酬の改定で退院後支援の加算が新設され、2020年度からは精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築推進事業の補助金の対象になりました。退院後支援ガイドラインは、医療保護入院や任意入院を対象としているというのに、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築推進事業」(補助金事業)と診療報酬は措置入院者を対象としています。これは津久井やまゆり園事件の再発防止に影響を受けているからにほかなりません。
 また、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築支援事業」(委託事業)により作成された『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築のための手引き(2019 年度版)』には、退院後支援のモデル事例として鳥取県の取り組みが紹介されています。「鳥取県措置入院解除後の支援体制に係るマニュアル」は、廃案になった精神保健福祉法改正法案が審議入りする前の 2017年3月に公布されたものであり、「再発防止策」という点が活字で明文化されています。内容は、法案審査の内容を反映した「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」とも大きく異なり治安的な印象を否めません。現在、精神障害にも対応した地域包括ケアの下で運用されている退院後支援は、全体的に治安的な方向に進んでいる印象をぬぐいきれません。

4. 精神保健福祉法改正を見込んだ「にも包括」の検討
 そのようなか、2020年3月、第1回目の精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会が開催されました。精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(通称、にも包括)は、精神保健福祉法改正法案が廃案になり、運用状況を見ながら出し直しを目指すと当時の厚生労働大臣が答弁してからの約3年間経過するなかで、①第4次障害者基本計画の一部、②第6期障害福祉計画及び第1期障害児福祉計画に基づく国の指針の一部を検討するという位置付けを得て出発したものでした。
 2021年2月の第8回検討会では、「報告書素案」の検討がおこなわれました。報告書素案は、精神保健福祉法第47条第3項の見直しを示唆するものでした。ちょうど、廃案になった精神保健福祉法改正案も第47条の地方公共団体による相談条項を改正して措置入院者退院後支援計画が書き込まれたものでした。報告書は、にも包括検討会にからめた事実上の廃案になった精神保健福祉法改正案を提言するものになりはしないかと危惧しました。法改正のポイントとしては、①保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領の見直し、② 精神保健福祉センター運営要領改正の見直し、③それに伴う精神保健福祉法47条4項の見直し(市町村の役割を明確化すること)、④具体的な事項はガイドラインを作成することとなっていました。第9回検討会の会議が開催されました。この会議をもって、表向きは報告書が確定されました。
 全国「精神病」者集団は、合計3回にわたって要望書を出し、さらには3月9日に開催された立憲民主党つながる本部障がい・難病PT役員会における厚生労働省との意見交換にも出席して修正意見を出しました。

5.成果と課題
 結果として修正意見のいくつかは、反映されました。そのひとつが、にも包括検討会報告書をもって中心的アクターが精神保健福祉法改正に合意したとみなされない効果を持つ冒頭の一文です。その他、利用者本人の決定なしに個人情報が保健所等に流されないように歯止めをかける文言をいれました。まだまだ、いつどのようなかたちでこの問題が息を吹き返すかわかりません。政府は、国会上程前から検討を続けています。法改正のときに国会に結集するだけではなく、こうした地道な取り組みにも一緒に取り組んでいけると嬉しいです。

【解説】病棟転換居住系施設を完全阻止しました

趣旨
 わたしたちの運動の力によって病棟転換型居住系施設の新設は完全に阻止することができました。ところが、最近になって、この歴史的勝利の事実が思いのほか知られていないことがわかってきました。そこで、この機に病棟転換型居住系施設の新設完全阻止がどのようなかたちで実現に至ったのか制度の解説をしたいと思います。

①指針の成立
 2013年、精神保健福祉法が改正され、同法第41条には厚生労働大臣による「精神障害者の障害の特性その他の心身の状態に応じた良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」条項が新設されました。この規定に基づき実際に作成された「精神障害者の障害の特性その他の心身の状態に応じた良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」には、いわゆる病棟転換型居住系施設のことが書き込まれました。

「精神病床の機能分化は段階的に行い、精神医療に係る人材及び財源を効率的に配分するとともに、精神障害者の地域移行を更に進める。その結果として、精神病床は減少する。また、こうした方向性を更に進めるため、地域の受け皿づくりの在り方や病床を転換することの可否を含む具体的な方策の在り方について、精神障害者の意向を踏まえつつ、保健・医療・福祉に携わる様々な関係者で検討する。」

 病棟転換型居住系施設については、同指針の検討段階から批判する声がありましたが、朝日新聞をはじめとする賛意を述べる意見もありました。半ば押し通されるかたちで病棟転換型居住系施設を定めた指針が成立してしまいました。

②地域移行支援型ホームの阻止
 病棟転換型居住系施設を定めた同指針の影響をうけて障害者総合支援法に基づく共同生活援助の特例として地域移行支援型ホームが新設されました。地域移行支援型ホームは、共同生活援助を病院敷地内において病床を施設に転換して設置することを特例で認めたものです。朝日新聞をはじめとするいくつかのアクターは、病棟転換型居住系施設を地域移行に資するとして支持しました。
 しかし、これについては、数の上で病床数を減らして、実際は病院と同じような場所にとめおく方策であると考えられたことから障害当事者を中心に大規模な反対運動がおこりました。精神障害のある仲間からの提起もあって、2014年6月26日に日比谷公園において集会が開催されました。当日は、3000人を超える参加者を得て反対の声を世に伝えることができました。

③各自治体の動き
 病棟転換型居住系施設の設置には、指定をおこなう都道府県・政令市の条例において病院敷地内に指定できる旨の規定を設けるための改正が必要となりました。いくつかの自治体では、病院敷地内に指定できる旨の改正がおこなわれましたが、反対運動によって条例改正を阻止できた自治体もありました。
 また、病棟転換型居住系施設の指定には、障害福祉計画の変更をしてからでないと実施できないということがありました。また、計画変更にあたっては、当該自治体が合議体の意見を聞く必要もあります。各位の取り組みとしては、合議体のなかで計画変更を認めないとする動きもありました。

④病棟転換型居住系施設の完全阻止
 2014年6月26日の日比谷公園集会のあとは、「病棟転換型居住系施設を考える会」が定期的な集まりをもって大衆運動を牽引してきました。また、地域移行支援型ホームをめぐっては、厚生労働省の検討会でも議論になり、様々な団体が繰り返し厚生労働省との交渉をもちました。全国「精神病」者集団も交渉を続けてきました。そうした影響もあって地域移行支援型ホームは、新規指定が2015年4月1日から2019年3月31日までとされ、かつ、その間に指定を受けたホームは当該指定日から6年間のみ運営が可能という制限が設けられました。あわせて、2018年度に事業の実施状況を踏まえて制度の在り方を検討することともされました。
 この一文の影響は大きく、結果として2019年3月31日まで新規指定が0件であったことと、2018年度に予定されていた制度の在り方の検討もおこなわれなかったことから、今後の指定はおこなわれないこととなり、完全に阻止することができました。

参考:障発0220第7号・平成27年2月20日通知
https://jngmdp.net/wp-content/uploads/2021/06/s0220no7.pdf

⑤病院敷地内施設の歴史
 病床を施設に転換する構想はかねてよりありました。障害者自立支援法が施行されて数年後の話、地域移行型ホームと退院支援施設の中に敷地内施設の累計が設けられ、それが最初の病棟転換型居住型施設でした。こちらについても反対運動が巻き起こりましたが、完全阻止とまではなりませんでした。そういう意味でも、今回の病棟転換型居住系施設の阻止は、これまでにない勝利であったと思います。