630調査非開示問題の解決について(お礼)

関 係 各 位

 厳冬の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 2019年の630調査が個人識別情報等を理由に非開示にされた問題の際には、大変お世話になりました。おかげさまで630調査非開示問題は、国とNCNPのほうで開示しやすい仕組みが取り入れられ、無事に解決しました。
 非常に入り組んだ政策手段により解決しましたので、解決までの経過や政策手段の整理、残された課題をまとめた説明資料を作成しました。お礼を兼ねてご報告申し上げます。
 今後も、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
 敬 具 

【本文】説明資料

※630調査開示運動をめぐっては、全国「精神病」者集団からの再三の指摘を押し切って「個人識別情報に該当しない」「調査方法をもとに戻せ」などの誤った方針が採用されてきた経緯があります。全国「精神病」者集団は、NCNP、厚生労働省、国会議員との交渉の窓口となり、責任をもって開示の実現に寄与してきました。最近になって、いまだに開示の処分を出さない地方公共団体が存在することを理由に国会議員に要求しようとする動きが出てきました。しかし、地方公共団体のことは地方公共団体に要求すべきであり、国会議員に要求すべきことではありません(同一会派の地方議員の紹介ならまだしも)。これ以上、誤った方針で混乱を招くことは看過できないと考え、国レベルでは解決した問題であることを議員に知らせるべく説明資料を作成し配布しました。

【声明】第6期障害者政策委員会における病院優位と精神障害当事者の不在について

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2023年1月23日、第6期障害者政策委員会の構成員が公表されました。障害者基本計画(第5次)の策定に向けた障害者政策委員会意見には、「精神科病院において、誰もが安心して信頼できる入院医療が実現されるよう、今後、非自発的入院のあり方及び身体拘束などに関し、精神障害を有する当事者等の意見を聞 きながら、課題の整理を進め、必要な見直しについて検討を行う」が入りました。なお、この内容は、全国「精神病」者集団が要望してきた内容です。
 ところが、障害者基本計画及び障害者の権利に関する条約の監視を担う障害者政策委員会には、プロバイダーを代表する団体である日本精神科病院協会から推薦された構成員が入っている一方で、全国「精神病」者集団から推薦された構成員が入っておりません。そのため、障害者の権利に関する条約の監視という観点からは、障害当事者が参画できないかたちになっており、極めて遺憾に思っています。また、障害者の権利に関する条約の初回政府審査に係る総括所見には、精神障害者を代表する団体との緊密な協議の確保等を通じ、国内法制及び政策を本条約と調和させることを求める勧告が出されていますが、これも守られなかったことを遺憾に思っています。第7期障害者政策委員会において同様の事態が生じないよう強く改善を求めます。

【見解】当事者参画に関する立場

1 基本的な姿勢
 障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」とする。)第4条第3項では、締約国に対して条約の実施にかかわる政策の策定等に障害者を代表する団体を通じて障害者と緊密に協議するなど、障害者を積極的に関与させることを求めています。全国「精神病」者集団は、障害者権利条約を支持し、完全履行に向けて取り組む障害者団体として、日本政府に障害当事者参画を要求するとともに、全国「精神病」者集団も政策決定過程に積極的に参画していきます。

2 精神障害者の当事者参画が進まなかった理由
 日本では、精神障害者の領域における政策決定過程への当事者参画が進んでおらず、諸外国と比較しても遅れが著しいです。その理由は、①行政が家族会に対して当事者としての発言を期待していること、②障害者運動内部において当事者参画の機運が高まらなかったこと、③障害者団体の推薦を得た当事者の参画がなかったため、当事者参画のイメージが沸きにくくなっていることが挙げられます。
 ①は、おかしなことではありますが、長年にわたって行政から「当事者は家族会が入っているので追加で入れる必要はない」と言われ、当事者参画が阻まれてきました。最近は、家族会の人たちも、このような行政の態度に一緒に異議をとなえるようになりましたが、当事者参画が進まなかった大きな原因となっています。
 ②は、さまざまなエピソードがありますが、とりわけて大きかったのは自殺問題だと思います。1990年代に草分け的な存在として政策決定過程に参画した当事者は、不幸にも入水自殺してしまいました。この出来事は、私たち当事者にとって辛い経験となり、「こんなことになるくらいなら参画なんてしなくていいのではないか」という考え方を刻みつけることになりました。
 ③は、当事者参画が四半世紀以上にわたって障害者団体の推薦を得ていない個人の立場やピアサポーターの一本釣りが大部分を占めてきたことが背景にあります。個人の当事者は、組織のバックグラウンドがないため、長期的な展望に依拠した参画が困難であり、どうしても、ご意見番的な立場にとどまることが大半を占めました。その後、ピアサポーターが参画するようになっていきましたが、ピアサポート政策や地域移行以外の話題になると、どうしても展望自体を持っていないことが多く、その場その場で随時返答していくようなかたちになっていました。そのため、当事者がミッションを掲げて、長期的な展望の中で戦術的に取り組んでいくという本来の当事者参画のイメージをし難い状態が長く続きました。このような歴史にトラウマを抱えた人たちは、当事者参画に消極的な意見を述べるようになっていきました。

3 当事者参画を進める運動
 このことから日本における精神障害者の当事者参画は、政府や他団体からの外的要因よりも、当事者運動の機運といった内的要因によって進まなかったことがわかります。いつしか当事者参画は、戦術として積極的に迎え入れられることはほとんどなくなり、リスクばかりが指摘されるようになっていきました。それでも民主党政権のときには、関口明彦さんと山本眞理さんが参画して一定の成果を得ました。しかし、その後は、精神障害や知的障害の当事者参画が後退し、再び、当事者参画の氷河期に突入しました。
 次の転換点は、当事者参画を有効活用して精神保健福祉法改正案を廃案に追いやったときでした。その後、成年後見制度の見直しに向けた民法改正や医療保護入院の廃止などのミッションに従って行動を進めてきました。当事者参画のイメージは、少しずつ変化してきました。

4 障害者を代表する団体とは
 障害者権利条約には、障害者を代表する団体とあります。しかし、障害者権利条約では、障害者を代表する団体を定義しておりません。また、「障害者を代表する」とだけ聞くと、当事者団体の代表性の有無などが問題になるかのように思われますが、障害者の権利に関する委員会や国際障害同盟は、そのようなことを問題にしてはいません。
 日本の障害者運動において障害者団体とは、一般的に障害当事者が代表、事務局長であるなど実質的な運営が障害当事者によって担われていることや役員の過半数が障害当事者であること、成員の過半数以上が障害当事者であることなどの基準を満たすものであることなどの考え方が提案されてきました。ただ、連合会型の組織の場合、団体会員を障害当事者としてどのようにカウントしたらよいのか、国が障害者として認めていないカテゴリにいる人たちの位置付けをどうするのか、など、さまざまな議論が未解決のままになっています。そのため、各団体が独自に採用する基準に委ねる他ないというのが現状です。とはいえ、このような議論の蓄積に依拠しながら、個別の障害者団体が障害者団体と名乗って差し支えないかどうかは、おおむねの合意が得られているものと考えます。
 しかし、障害者の権利に関する委員会は、障害者を代表する団体それ自体の定義を見送り、かわりに障害者を代表する団体のミッションを明確化することで障害者団体の排他的役割を措定しています。このことから、障害者団体とは、どのような組織であるかよりも、何を主張する組織であるかが、適格性を判断する上で優位とみなされていることがわかります。一般的意見第7号では、障害者を代表する団体とは障害者権利条約を推進する義務を負うものとされています。また、障害者権利条約第33条第3項では、「市民社会は、監視の過程に十分に関与し、かつ、参加する」こととされており、このことからも障害者団体は、障害者権利条約を物差しにして運動しているのかどうかが問われることになります。障害者権利条約は、社会モデル/人権モデルに立脚しています。社会モデル/人権モデルは、障害者を包摂した社会を実現するための基礎をなす価値規範であり、障害者を代表する団体は、これに準拠した主張をしていかなければなりません。言いかえれば、障害者の権利に関する委員会や国際障害同盟の方針に関心を示さず、社会モデル/人権モデルに準拠しない主張をする団体は、障害者を代表する団体とはみなし難いと言わざるを得ません。
 この先、会員数や組織体制で代表性を担保する考え方は否定されていくことになります。いくら立派な組織でも、主張が医学モデルならば、それは当事者を代表したことにはなりません。また、既存のピラミッド型組織の構造に対抗する障害当事者文化を構想している団体の取り組みを評価する上でも弊害になります。そのため、あくまで主張の内容が社会モデル/人権モデルに準拠し、精神障害者的であるかどうかが重視される時代になっていくことになります。

5 これからの全国「精神病」者集団の取り組み
 全国「精神病」者集団は、結成当初から精神衛生法撤廃・保安処分反対・強制入院反対等を掲げてきました。これらの実現には、障害者権利条約が欠かせません。全国「精神病」者集団は、日本において唯一、統合と単独の両方のパラレルレポートを提出し、ジュネーブにも精神障害当事者の傍聴団を派遣しました。このような地道な取り組みがあって、精神保健福祉法の解体や非自発的入院の廃止、成年後見制度の廃止のの勧告を勝ち取りました。今後、これらの政策を国内で実現させていくべく、当事者参画を推進していきます。

2023年1月10日

今後の障害者施策に関する要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長 辺見聡 様

 寒冷の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。先日、障害者関連法案が国会において成立しました。今後の障害者施策が障害者権利条約の趣旨を鑑みたものになるように下記の通り要望します。

1.付帯決議の実施
 このたび成立した改正精神保健福祉法には、立法府から非常に多くの付帯決議がつけられました。付帯決議の実施に向けて真摯に取り組んでくださいますようお願いします。

2.社会保障審議会障害者部会への参画
 このたび成立した改正精神保健福祉法は、附則及び付帯決議において勧告を踏まえた見直しをおこなうことが確認されています。全国「精神病」者集団としては、精神保健福祉法附則第3条に基づく検討に参画し、勧告の実現を目指していきたいと考えております。なお、同条約の政府審査に際してパラレルレポートを提出し、ジュネーブの建設的対話に傍聴団を派遣した精神障害当事者団体は、全国「精神病」者集団しかありませんでした。その上でも、社会保障審議会障害者部会への全国「精神病」者集団の推薦を受けた精神障害当事者の参画は不可欠であると考えています。つきましては、社会保障審議会障害者部会の次期改選にあたっては、全国「精神病」者集団の推薦を受けた精神障害当事者を構成員として必ず入れてくださいますよう、お願いを申し上げます。
 以 上 

第37条第1項大臣基準(告示)改正に関する要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神・障害保健課長 林修一郎 様

 日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
第37条第1項大臣基準(告示)改正に関して要望をとりまとめました。
 障害者権利条約の趣旨を鑑みたものになるよう、下記の通り要望いたします。

1.告示全体の基本的な考え方
 告示全体の「基本的な考え方」については、次の文言を入れてください。
 初回政府審査にかかわる総括所見では、精神科病院における障害者の隔離、身体拘束、化学的拘束など、そのような行為を正当化する法律についての懸念が示され、不当な扱いを生み出しているすべての法的規定を廃止することが勧告された。障害者権利条約の実施について講ずるべき措置の検討結果が出されるまでの当面の間は、不適切な身体的拘束等の行動制限をゼロにするための取り組みを本告示の下で進めていくことが必要である。

2.書きぶり・表現ぶり
 本告示は、行動制限できる場合の条件を提示したものとなっています。しかし、医事法理上は、侵襲等が諸手続きによって免責されるものと考えられています。このことから、本告示は、「行動制限できる」場合の条件を提示したかたちではなく、諸条件を満たさなければ行動制限できないという書きぶり・表現ぶりへと改めてください。

現行告示・・・また、処遇に当たつて、患者の自由の制限が必要とされる場合においても、その旨を患者にできる限り説明して制限を行うよう努めるとともに、その制限は患者の症状に応じて最も制限の少ない方法により行われなければならないものとする。
当面の修正に係る提案例・・・また、処遇に当たつて、患者の自由の制限が必要と考えられる場合においても、その旨を患者に説明するとともに、その制限は本告示を遵守し最も制限の少ない方法によらなければ、おこなってはならないものである。

3.身体的拘束の対象となる患者に関する事項(多動不穏要件の削除)
 多動又は不穏が顕著な場合の要件(以下、「多動不穏要件」とする。)は、これまで単に多動又は不穏というだけで身体的拘束を開始してよいとの誤解を招いてきた側面があるため削除してください。
 著しく不適切な身体的拘束に係る事例の中には、多動又は不穏の症状を呈したというだけで――三要件を満たさないのにもかかわらず――身体的拘束の指示に至ったというものが散見されます。また、薬物療法の副作用の影響によるもので運動亢進症状によらない通常の錐体外路症状の運動過多を「多動」と位置付けて身体的拘束の対象とする事例なども散見されます。もっとも、錐体外路症状に伴った内的不穏があるとされれば、道理が立ち得るわけですが、そのこと自体、多動不穏要件が曖昧であると当事者団体が主張する理由となっています。
 加えて、多動不穏要件は、切迫性、非代替性、一時性の三要件と異なり、具体的な症状を示唆している点で異質なものとなっています。

4.身体的拘束の対象となる患者に関する事項(三要件の明確化)
 身体的拘束の対象となる患者に関する事項には、切迫性、非代替性、一時性の三要件を文章に溶け込ませるのではなく、要件であることがわかるように列挙的に明確化してください。

当面の修正に係る提案例
(一)身体的拘束の対象となる患者は、次の各号に掲げられた要件にすべて該当すると認められる患者である。なお、いずれかの要件を欠いた時点で速やかに身体的拘束を解除しなければならない。
ア 切迫性 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合及び精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがあること。
イ 非代替性 あらゆる策を講じても身体的拘束以外によい代替方法がなく、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われること。
ウ 一時性 早期に他の方法に切り替えること。

5.身体的拘束の基本的な考え方
 従来、身体的拘束に該当しない抑制・固定とされてきたものの中には、身体的拘束に位置付けられるべきものが含まれていることを確認できるようにください。また、身体的拘束に該当しない抑制・固定においても、患者の同意を得ない場合には、切迫性、非代替性、一時性の三要件が適用されるという考えを明文化してください。

6.身体的拘束を行う理由の告知
 身体的拘束をおこなう理由の告知は、「可能な限り」「努力」などの言葉を含めず、知らせることにしてください。

当面の修正に係る提案例
三 遵守事項
(一) 身体的拘束に当たつては、当該患者に対して身体的拘束を行う理由を知らせるとともに、身体的拘束を行つた旨及びその理由並びに身体的拘束を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。

7.通信及び面会について
 携帯電話及びスマートフォン等のタブレット端末による通信は、告示の対象であることがわかるようにしてください。また。基本的な考え方には、携帯電話・スマートフォンの一律的な持ち込み禁止は原則としてあってはならず、仮に院内一律持込禁止の措置を講じていたとしても通信制限の手続きの対象となることがわかるようにしてください。

日弁連「身体的拘束要件の見直しに対する意見書」への見解

 日本弁護士連合会(以下、「日弁連」とする。)は、2022年10月17日付で、厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」(以下、「検討会」という。)報告書の身体的拘束要件の見直しに対する意見書を公表した。
当会は、当該意見書を身体的拘束のゼロ化に向けた取り組みとして評価している。また、主張の趣旨については、基本的に同じ方向を共有しているものと考える。しかし、当該意見書は、論拠に重大な誤信を含んでおり、精神科病院側からの反論があったときには回答できなくなる程度の重大な脆弱性をはらんでいる。このような意見書が発信されたことは、運動を混乱せしめ、あまつさえ分断さえも持ち込みうる危険な行為である。全国「精神病」者集団としては注意と議論を喚起するべく、以下の通り見解を述べることにした。

1.日弁連意見書の誤信について
 日弁連意見書は、検討会が取りまとめた報告書において、精神科病院における身体的拘束につき、処遇基準告示の見直しの方向性に対して要件の厳格化につながらない重大な誤りを含んでいることから、実質的な要件の緩和であると位置づけて反対している。しかし、その論証過程には、幾度にもわたる論理の飛躍が認められ、法曹団体の意見書としての体裁をなしていない。
 まず、意見書は、対象を限定するのであれば、多動又は不穏が顕著な場合の厳格な解釈基準が示されなければならないとしている。しかし、第一に、ここで唐突にも解釈基準なるものが登場しているわけだが、これが何であるのかが不明と言わなければならない。第二に、このような実体不詳の架空の概念を前提に論旨が展開されること自体が論理としての実証性を損なわせていると言わざるを得ない。
 次に、多動又は不穏が顕著な場合の解釈基準なるものが示されず、「多動又は不穏が顕著」であることを前提として、「治療の困難性」という追加要件を付すことで、むしろ同要件の拡大解釈を許容するものになっているとしている。これに至っては、多動又は不穏が顕著な場合であり切迫性・一時性・非代替性の三要件を満たしたとしても、治療困難でない場合は身体的拘束ができないことになるわけだが、それを要件の拡大と言い切る論拠が示されていない。
 かろうじて論拠と読められなくはない部分としては、①医師の主観的な治療方針や、病院の人的・物的体制といった医療側の事情により、「治療が困難である」と安易に判断され、これまでよりも緩やかに、身体的拘束が行われる危険性があること、②「治療の困難性」という追加要件を付加することは、「多動又は不穏が顕著」の要件該当性を緩やかに許容する効果をもたらすおそれが極めて高いということの2点が挙げられている。
 しかし、①については、「実質的な要件の緩和」と書かれていることからも実際は法令釈義の問題ではなく、患者の治療困難要件が「現場においてどのように読まれて運用され得るのか」といった性格の問題である。それなのにもかかわらず、当該意見書では患者の治療困難要件が現場においてどのように読まれて運用されるのかという問題と法令釈義の問題とが混同したかたちで書かれてしまっている。また、単に現場における読まれ方の結果として身体的拘束増加の懸念があるというだけのことを、あたかも要件の緩和の結果として身体的拘束が増加するが如く論点をすり替えている点も看過しがたい。このことからも当該意見書の論証では、要件の緩和という法令釈義上の問題として主張する論拠にはならない。②については、患者の治療困難要件を加えることで、多動又は不穏が顕著である場合の対象者像が拡大するかの如く書かれているが、これも実質的な要件緩和という法令釈義上の問題を装いながら、実際には現場での読まれ方の問題に論旨をすり替えたものとなっている。
 この他、患者の治療困難要件は、患者の生命・身体の保護のための緊急やむを得ない場合に該当しないという主張と、強制治療を示唆するという主張が論拠として示されているが、論理的には、このような主張は成立しない。概念上は、患者の生命・身体の保護のための緊急やむを得ない場合で、かつ治療困難な症例は成立する。よって、患者の生命・身体の保護のための緊急やむを得ない場合であることと治療困難は論理的に矛盾しない。
 強制治療については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律にこそ具体的な規定がないものの、判例では通常の医事法理の枠組みで患者の生命・身体の保護のための緊急やむを得ない範囲であれば、要件を満たすことで侵襲行為の違法性が阻却されるものと判示されている。よって、患者の治療困難要件を加えることで、従来、認められてこなかった強制治療が容認されるなどということにはならない。また、仮に治療困難であるから身体的拘束を開始したとしても、その下で強制治療を施すことを当然とするかどうかは別の問題であり、法令釈義ではなく運用上の問題として考えられる必要がある。
 以上から、あくまで、多動又は不穏が顕著な場合であり切迫性・一時性・非代替性の三要件を満たしたとしても、治療困難でない場合は身体的拘束ができないわけであるから、その意味で要件自体は、厳格化されたものと認めるほかない。しかし、要件自体は厳格化であるとしても、それでもなお残される懸念として、医療現場において「多動又は不穏が顕著である場合」や「患者の治療困難」などの言葉がどのように読まれて運用され得るのかを問題にしていく必要がある。そのため、本来は、これらを通じて、多動又は不穏や治療の困難の削除を主張していくべきだと考える。

2.問題点①:交渉を困難せしめる危険性
 日弁連意見書は、論拠に乏しい。そのため、このような論点で実際の交渉に臨み、成果を出せない者が相次ぐことが懸念される。討論は、争点を明確化した上で議論を闘わせる必要がある。論理の破綻を含んだ噛み合わない主張では、国との交渉で国の有利を方向付けることになり、結果として国の思惑通りの施策を追随せざるを得ない状況をつくりだすことになる。

3.問題点②:患者の治療困難要件削除への消極的な論旨展開
 このような論旨の展開では、多動又は不穏が顕著である場合の要件に厳格な解釈基準なるものを加えさえすれば、患者の治療困難要件を認めるかの如く読めてしまう。極め付けに欠いた意見書であると言わざるを得ない。

4.問題点③:当事者無視の意見書
 論理の飛躍の指摘とは別に、我々、当事者の運動が主張してきた「身体的拘束の廃止までの間、喫緊の課題として告示にある多動又は不穏が顕著である場合の削除をすべき」という主張と意見書は相反するものとなっている。意見書では、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の下で身体的拘束の要件を厳格化する告示改正を主張しており、廃止の立場を共有していない。
 また、要件については、多動又は不穏が顕著である場合の要件の存在を解釈基準なるものとともに前提としながら、患者の治療困難要件の良し悪しを論じるかたちをとっている。あくまで、検討会でも多くの構成員から指摘があったのは多動又は不穏が顕著である場合の要件自体の削除である。当該意見書は、この問題を何一つ取り上げていないため、他団体との連帯を意識しない独善的な印象を持つ。他団体と連帯して取り組む姿勢を期待したい。

内閣府障害者政策委員会への精神障害当事者参画に関する要望書

内閣総理大臣 岸田文雄 様
内閣府政策統括官(政策調整担当)付参事官(障害者施策担当)殿

 寒冷の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 内閣府障害者政策委員会は、障害者権利条約の実施状況の監視をおこなう機関であり、今年夏に公開された第1回日本政府審査にかかわる総括所見(勧告)の対応においても重要な役割を果たすことになると考えております。その内閣府障害者政策委員会には、精神障害及び知的障害、障害女性の構成員がいないことが課題として指摘されております。
 このたび成立した改正精神保健福祉法では、附則及び付帯決議において勧告を踏まえた見直しをおこなうこととされています。全国「精神病」者集団としては、精神保健福祉法附則第3条に基づく検討に参画し、勧告の実現を目指して障害者団体としての社会的な責務を果たしていきたいと考えております。その上でも、内閣府障害者政策委員会への精神障害当事者の参画は不可欠であると考えています。また、同条約の政府審査に際してパラレルレポートを提出し、ジュネーブの建設的対話に傍聴団を派遣した精神障害当事者団体は、全国「精神病」者集団しかありませんでした。
 つきましては、内閣府障害者政策委員会の次期改選にあたっては、全国「精神病」者集団の推薦を受けた精神障害当事者を構成員として必ず入れてくださいますよう、お願いを申し上げます。
 以 上

【声明】精神保健福祉法改正案の成立に当たって

 2022年12月10日、国会において精神保健福祉法改正法案が成立しました。国会審議において精神保健福祉法改正案には多くの課題が指摘されました。多くの当事者は、法律自体の問題が大き過ぎるため、現行法と改正法案の内容を比較して出し直しを求めるべきかどうかという評価をするのが難しい状況にさらされていました。結果として、当初より時間が増えたとはいえ十分な審議時間が確保されることなく賛成多数により可決してしまったことは残念でした。一方で、指摘された課題は、附帯決議にまとめられ、政府として立法の意思を真摯に受け止めて取り組んでいくことが確認されました。
 附帯決議には、「国連障害者権利委員会の対日審査の総括所見における、精神保健福祉法及び心神喪失者等医療観察法の規定に基づく精神障害者への非自発的入院の廃止等の勧告を踏まえ、精神科医療と他科の医療との政策体系の関係性を整理し、精神医療に関する法制度の見直しについて、精神疾患の特性も踏まえながら、精神障害者等の意見を聴きつつ検討を行い、必要な措置を講ずること。」、「第八次医療計画の中間指標では、精神科病院の非自発的入院の縮減を把握する指標例とともに、精神病床の削減のための目標値の設定について検討すること。」が入りました。これらについては、附則第3条に基づき「政府は、精神保健福祉法の規定による本人の同意がない場合の入院の制度の在り方等に関し、精神疾患の特性及び精神障害者の実情等を勘案するとともに、障害者の権利に関する条約の実施について精神障害者等の意見を聴きつつ、必要な措置を講ずることについて検討するもの」とされています。これについては、非自発的入院の廃止に向けた議論の場を設けさせるところまでは辿り着いたわけであり、評価に値すると考えます。
 全国「精神病」者集団は、精神保健福祉法を撤廃するしかないと考えています。なぜなら、いくら精神保健福祉法の手続きを厳格化したところで、手続きさえ守っていれば何をしてもよいという悪しき手続的正義に収斂していくからです。適正手続きは、現場に変革をもたらしません。私たちは、精神医療を一般医療と分離する現行の枠組みの刷新を精神保健福祉法撤廃というかたちで実現し、あるべき医療を可能にする政策基盤を確立させていく必要があると考えます。
 今後の政策のスケジュールは、医療計画の中間見直しが2027年、第9次医療計画の開始が2030年、障害福祉計画は第7期が2024年、第8期が2027年、第9期が2030年、報酬のトリプル改定が2024年と2030年にあります。法律の見直しは、2027年ごろであり、障害者権利条約の第2回政府報告が2028年までとなっています。このことから報酬等の在り方を踏まえながら、2027年までをワンスパンとして精神保健福祉法の解体の足掛かりを作り、2030年には廃止を完遂させたいと思います。

【声明】37条1項大臣基準(告示)から「多動又は不穏が顕著」要件を削除するための議論をしてください

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
 2022年12月6日におこなわれた参議院厚生労働委員会の障害者関連法案に係る質疑では、身体的拘束について定めた37条1項大臣基準(告示)について数多くの質問が出されました。私たち当事者は、告示に記された要件のうち「多動又は不穏が顕著である」が全体のほとんどを占めていることから、拘束増加問題の諸悪の根源の一つとみて削除を求めてきました。しかし、厚生労働省は、多動不穏要件を残したまま、患者の治療困難という新要件を追加するというあるまじき内容で報告書をまとめました。
 さて、12月6日の質疑では、新要件に対して要件の拡大であるという点にこそフォーカスが当てられましたが、肝心の多動不穏要件が残されていることへの批判がほとんど出ませんでした。そのため、多動不穏要件の存置を前提にしながら患者の治療困難要件を入れることの良し悪しを論じている状態に陥っています。
 中には、多動不穏要件は削除されないだろうから告示の見直し自体をしなくてよいとする意見もありました。しかし、本来は、検討する構成員の見直しなどをしながら、そもそも論に立ち返って、多動不穏要件を削除するための議論こそはじめなければならないはずです。
 つきましては、多動不穏要件をそのままにして患者の治療困難の良し悪しのみを論じる議論ではなく、多動不穏要件の削除のための告示改正に立ち返って議論をしていただきますようお願い申し上げます。

【声明】愛知県警岡崎署留置場で勾留中の男性が死亡した件について

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2022年12月4日、愛知県警岡崎署の留置場で勾留中の男性が死亡しました。男性は、保護室にて戒具と呼ばれるベルト型の手錠を用いて100時間以上にわたり隔離・拘束されていました。男性には精神疾患があり、裸のままでの隔離・拘束が行われていたとのことです。施設内の監視カメラには、男性を複数の署員が足で蹴って動かすような様子が映っていたとされます。また、男性には糖尿病の持病がありましたが勾留中に薬が与えられることがありませんでした。死因となった腎不全は糖尿病により悪化する疾患です。「精神疾患に気を取られ糖尿病の処置を忘れていた」と対応した署員が話したとされています。
 事件を受けて、隔離・拘束した理由が適正だったか、100時間以上という隔離・拘束の時間が適正だったか、隔離・拘束中はエコノミークラス症候群等の死亡事例もあり健康上のリスクが高まるという予備知識を署員が共有していたか、そのリスクを想定した上での処遇であったのか、暴行は現場の警察官だけが責任を取るのが妥当なのか、被勾留者の持病への配慮をしなかった責任はどうなるのか、裸状態での放置という虐待にどのような責任を取るつもりなのか、など疑問を述べると枚挙にいとまがありません。
 本件にかかわった警察官及び警察署には、障害者を虐殺したことを糾弾するとともに、徹底した自己省察を望みます。被勾留者が不適切な処遇によって死亡する悲劇が繰り返されないことを望みます。

2022年12月6日