令和4年度推進事業「精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究」報告書に記載を求める事項

〇 今後の検討課題について
 障害者の権利に関する条約第14条第1項には、自由の剝奪が障害の存在によって正当化されないように措置を講じることを求める規定がある。この場合の障害の存在とは、国連障害者の権利に関する委員会が公表した第14条に関するガイドラインによると障害の存在に加えて追加の要件によるものを含むこととされている。例えば、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第 37 条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(昭和 63 年厚生省告示第 130 号)の定めのように、精神障害者で不穏及び多動が顕著であり、生命に切迫した危機があって、他に良い方法がない場合に一時的におこなわれる身体的拘束が該当し得る。
 また、障害者の権利に関する条約第15条第1項には、障害者が自由な同意なしに医学的な介入を受けないための措置を求める規定がある。障害者の権利に関する条約初回政府審査に係る総括所見のパラグラフ33には、精神科病院における障害者の隔離、身体的拘束、強制的な治療への懸念が示されており、パラグラフ34では、こうした医学的介入に対して全ての法規定の廃止について勧告が出されている。このことから、精神障害者であることを要件とする隔離・身体的拘束を定めた法令は廃止されなければならない。
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律附則第3条には、「政府は、精神保健福祉法の規定による本人の同意がない場合の入院の制度の在り方等に関し、精神疾患の特性及び精神障害者の実情等を勘案するとともに、障害者の権利に関する条約の実施について精神障害者等の意見を聴きつつ、必要な措置を講ずることについて検討する」とある。なお、この場合の障害者の権利に関する条約の実施には、初回政府審査に係る総括所見を含むものと加藤勝信厚生労働大臣が第210回臨時国会衆議院厚生労働委員会において答弁している。
 第210回臨時国会において成立した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議には、「国連障害者権利委員会の対日審査の総括所見における、精神保健福祉法及び心神喪失者等医療観察法の規定に基づく精神障害者への非自発的入院の廃止等の勧告を踏まえ、精神科医療と他科の医療との政策体系の関係性を整理し、精神医療に関する法制度の見直しについて、精神疾患の特性も踏まえながら、精神障害者等の意見を聴きつつ検討を行い、必要な措置を講ずること。」が入った。
 当面は、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書にまとめられたように告示第 130 号の見直しを進めていくことにはなるが、ゆくゆくは勧告に従って精神障害者であることを要件とした法令の廃止を検討していく必要がある。

〇 多動又は不穏が顕著である場合の削除について
 本検討委員会では、当事者の委員から告示第 130 号の身体的拘束に関する事項のイ多動又は不穏が顕著である場合の削除を求める意見が繰り返し出された。なお、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書では、多動又は不穏が顕著である場合は拡大解釈のおそれがあるため要件から削除すべきとの意見、身体拘束を原則廃止すべきとの意見、治療の必要性の要件については身体的拘束について新たな対象を生み出すおそれがあるのではないかとの意見があったことが記録されている。
 多動又は不穏が顕著な場合の要件(以下、「多動不穏要件」とする。)は、これまで単に多動又は不穏というだけで身体的拘束を開始してよいとの誤解を招いてきた側面がある。著しく不適切な身体的拘束に係る事例の中には、多動又は不穏の症状を呈したというだけで――三要件を満たさないのにもかかわらず――身体的拘束の指示に至ったというものが散見される。また、薬物療法の副作用の影響によるもので運動亢進症状によらない通常の錐体外路症状の運動過多を「多動」と位置付けて身体的拘束の対象とする事例なども散見される。もっとも、錐体外路症状に伴った内的不穏があるとされれば、道理が立ち得るわけですが、そのこと自体、多動不穏要件が曖昧であると当事者団体が主張する理由である。
 本来、要件とは、増えれば増えるほど、対象が狭くなるものである。しかし、要件を複数にすることで厳格化していく対策とは別に、現場においてどう読まれていくのかという問題がある。現場では、告示の文章に溶け込んだ医学用語には特にフォーカスが当てられるきらいがある。そのため、実際には多動又は不穏というだけで身体的拘束に至る例があり、増加の懸念が否めない。その意味では、多動不穏要件の削除が、国として身体的拘束を減らしていく方向性を示した象徴的な政策になると考える。

〇 研修資料について(スライド参照)
 2006年12月、国連総会において障害者の権利に関する条約が採択された。障害者の権利に関する条約は、障害者に対して新たな権利を付け足すことを目的としたものではなく、他の者が享受できていて障害者が享受できていない権利を平等な水準にまで押し戻すことを目的としたものである。障害者の権利に関する条約は、障害の社会モデル(人権モデル)を理念としている。社会モデルは、障害は個人ではなく社会にあるという考え方のことである。ここでいう社会の障害とは、個人ではなく社会に原因があるという考え方や個人ではなく社会に責任があるという考え方など複数の考え方が存在する。障害者の権利に関する条約は、包摂型社会(インクルーシブ社会)を目指したものである。包摂型社会(インクルーシブ社会)は、障害の社会モデルに基づくアプローチを徹底させた場合の完成形であり、地域に障害者が当たり前に生活できる社会をイメージしたものである。もともと障害者は、施設等に隔絶された空間に集められて処遇されてきた。このことによって他の者と障害者の接点は失われてゆき、社会の在り方も障害者がいないことを前提としたものになっていった。社会的障壁のある地域社会では、障害者が当たり前に生活するには困難が付きまとい、他の者と等しい扱いも受けられないことになる。しかも、その原因や責任を、障害者個人の機能障害に求めていく考え方も根強く残っている。ここから包摂を目指すためには、障害者と他の者の接点を増やしていくような統合のアプローチを続けていくほかない。
 障害者の権利に関する条約第14条第1項には、自由の剝奪が障害の存在によって正当化されないように措置を講じることを求める規定がある。この場合の障害の存在とは、国連障害者の権利に関する委員会が公表した第14条に関するガイドラインによると障害の存在に加えて追加の要件によるものを含むこととされている。例えば、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第 37 条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(昭和 63 年厚生省告示第 130 号)の定めのように、精神障害者で不穏及び多動が顕著であり、生命に切迫した危機があって、他に良い方法がない場合に一時的におこなわれる身体的拘束が該当し得る。
 また、障害者の権利に関する条約第15条第1項には、障害者が自由な同意なしに医学的な介入を受けないための措置を求める規定がある。障害者の権利に関する条約初回政府審査に係る総括所見のパラグラフ33には、精神科病院における障害者の隔離、身体的拘束、強制的な治療への懸念が示されており、パラグラフ34では、こうした医学的介入に対して全ての法規定の廃止について勧告が出されている。

R4障害者総合福祉推進事業「情報通信機器を用いた精神療法を安全・適切に実施するための指針の策定に関する検討」報告書に記載を求める事項

オンライン診療の報告書に記載する内容について

◆オンライン診療について

・障害者の権利に関する条約第25条は、締約国に対して障害者に他の者と同質の保健医療サービスを提供する立法上及び運用上の措置を講じるよう求めている。その意味でオンライン診療については、オンライン診療指針を基本としながら、他の者と同様に医療を受ける機会を提供する手段として捉え、整備される必要がある。

・患者の権利に関するリスボン宣言にある良質の医療を受ける権利や選択の自由の権利、自己決定の権利、情報に対する権利、守秘義務に対する権利等に則り、患者側の希望に鑑みてオンライン精神療法は実施される必要がある。

・オンライン診療は、対面診療との組み合わせによって効果を発揮するものである。しかし、このことは決して対面診療の補助手段としてオンライン診療があることを意味しているわけではないのではないか。あくまで、オンライン診療は対面診療と同等のひとつの診療方法として捉えられる必要があるのではないか。

・オンライン診療については、精神障害当事者会ポルケが実施した患者アンケート等によると、オンライン診察を利用したいというニーズが一定以上の割合あることが明らかになっている。通院に心身の負担がある患者にとっては、オンライン診療で治療環境が充実できることに期待の声がある。患者視点で見た場合のオンライン診療の有効性についても触れられるべきである。

・今後、オンライン精神療法を含む精神科領域でのオンライン診療についての学術研究や実践を促進する必要がある。

・オンライン診療をめぐっては、精神科医療従事者から不安の声が出ている。具体的には、「信頼関係の構築が困難ではないのか」、「プライバシーの問題はないのか」、「薬を転売すること目的で受診する者が増えまいか」、「商業主義的な診療が横行するのではないか」、といったことが挙げられる。しかし、これらの懸念はオンライン診療でなくとも生じるため、オンライン診療による懸念事項とは言い難い。また、対面と比べて取得できる情報が限られるとされているが、オンライン診療の強みや対面診療の弱みを総合的な観点で捉えていないのではないか。

・オンライン診療は、患者の生活環境が観察できる等のひとつの診療方法であり、対面診療の補助手段ではないのではないか。対面診療と比較して、オンライン診療のメリットやデメリットが評価されるのは不適当な側面もあるのではないか。

・オンライン診療は、通院にかかる負担の軽減につながることや居住地を選ばないこと、慣れた環境で受診することにより普段の状態や様子を把握できることなどの強みがある。また、「診察中に押さえつけられて非自発的入院にさせられる」といったリスクを感じている精神障害者にとっては、安心して受診できるという利点もある。

◆ガイドラインについて

・「初診精神療法をオンライン診療で実施することは行わないこと」とされたところであるが、一方で「上記課題の解消が進めば」ともされており、初診に関する「課題の解消」に当たっては、症例の蓄積が必要という議論があったものと理解している。
また、本検討会では、海外の症例やシステマティック・レビューについても紹介されているが、国内のオンライン診療の実績が少ないことから、エキスパートコンセンサスを中心に議論されていたため、将来的な初診からのオンライン診療の可能性を示唆しつつも、事実上、可能性がほとんど閉ざされているかのような印象を受けた。
初診におけるオンライン精神療法について、課題の解消に歯止めをかけるようなことが無いように、症例の蓄積は必ずしも初診だけではなく、再診の症例等も活用するなどのあり方が必要である。

・本指針には、「対面診療に心理的な負担を感じる」とある。この文言は、オンライン診療の場合なら診察室で無理矢理に押さえつけられて、そのまま非自発的入院となる心配がないという文脈で加えることが提案された経緯がある。非自発的入院の経験は、精神障害当事者にとって苦痛のために心的外傷になり得るものであり、結果として医療不信に陥ることもある。また、深刻な虐待が常態化している病院も存在すると報道で指摘されており、精神科医療全体への信用の問題も懸念している。

・そのような中で警戒心から初診を含めてもオンライン診療にしたいと望む声があるのは当然ではないか。今後は精神科の初診についても取り扱うオンライン指針の検討が必要ではないか。

・医療者と患者における信頼関係の構築についてはガイドラインの検討にあたって中心的な議論のひとつとなった。しかし、ここでいう信頼関係の構築とは並列的な関係ではないことを特筆するべきではないか。たとえば、病識は「単に病気であることの自覚を意味するものではなく、治療の必要性を理解して自ら治療を受けようとする状態」と○○においてされている。ここには、無条件で「患者は医療を受けるべき」という固定観念があり、治療を受けないのなら病識欠如というかたちで、医療者側の主張のみを軸とした判断がなされている。このような権力勾配における信頼関係というものは、専ら市民や患者が想定する信頼関係のそれとは構図が大きく異なる。

・患者が期待する本来的な信頼関係の構築とは、到達点ではなく、治療・援助する者と対象者との相互のコミュニケーションプロセスである。よって、オンライン精神療法を継続する中で信頼関係が形成、構築されることも大いにありうる。対面診療ありきからオンライン精神療法の妥当性を検討する方法は必ずしも適当とは言えないのではないか。

・オンライン診療に係る技術的発展は今後期待される。オンライン精神療法についてのあり方は技術的発展に応じて変更可能であると考えられることから、定期的な見直しをする必要がある。

・今後の見直しに当たっては、オンライン精神療法の国内の具体的な症例などをもとにした検討を行う必要がある。その際、オンライン精神療法についての実践者を中心に議論する必要がある。

・また、次回検討にあたっては、障害者団体が推薦する精神障害の当事者を複数名招聘すべきである。

意思決定支援に係る論点整理

成年後見制度現状調査 意思尊重WG 御中

1.意思決定支援に係るガイドライン
 〇意思決定支援に係るガイドラインには、次のようなものが含まれる。
  ・意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
  ・障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン
  ・身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン
  ・人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
  ・認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

2.意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
 〇意思尊重義務違反にならないために踏まえるべきプロセスが規定されたものである。
 〇意思尊重義務は、身上配慮や財産管理に係る法的な義務である。法的な賠償責任が発生する場合には、意思尊重義務に係る結果回避責任が争われる事例も存在する。

3.意思決定支援
 〇もともとは「支援された意思決定(supported decision making)」である。障害者権利条約の起草過程で「代理決定枠組み」の対抗概念として「支援された意思決定枠組み」が提起された。
 〇障害者にだけ特別に意思決定を求める手続きを用意することは障害者権利条約の趣旨にも反する。

4.意思決定の対象
 〇意思決定支援における「意思決定」には、法的な概念として次が含まれる。
  ・法律行為
  ・生命に影響を与える事実行為
  ・生命に影響を与えない事実行為
 〇生命に影響を与える事実行為については、生命の法益が優先されるべきである。なお、このような措置は、いわゆる最善の利益とは区別されるべきものである。
 〇意思決定支援の対象範囲の類型化・限定化
  ・法律行為(契約等)
 →もっぱら財産に係る決定である。決定の結果、不利益を被るとしても財産の損失だけであり生命にまでは及ばないため可逆的である。そのため、場合によっては、他人から見たら無益な散財でしかない行為でも、そのような行為をすること自体が愚行権として許容されるべきという考え方が成り立ち得る。意思決定支援は、財産保護と愚行権とバランスの上に成り立つことになる。
  ・医療同意(生命に影響を与える事実行為)
 →意思尊重の結果として発生した事故・損害が障害者の生存を否定する内容を含むものであれば斥けられるべきである。

5.生命に影響を与える事実行為における意思決定支援
 ①社会モデルに基づく医療の考え方
 障害を持った状態での生存・生活を可能とするための医療とは、次を含むものである。
  ・治らないものを無理に治そうとしないこと。
  ・患者が障害を持って生きる選択に消極的な発言をしていたとしても、言われるがまま治療中断しないこと。
  ・障害を理由に医療機関の受入を拒否されないこと。 ・障害者が産まれないようにする医療技術を用いないこと。

 ②医療の選択
  〇医療同意は侵襲の違法性阻却要件である。また、医療同意は、原則として患者本人がおこなうこととされている。
  〇医療の選択にあたっては、十分な情報をもとに決定することが求められる。そのため、成年後見人等が医療・介護状況の確認やモニタリングをせずに、医療機関との医療提供契約を代理権で締結した場合は、身上配慮義務に違反する恐れがある。

③非同意で医療を開始する手続き
  〇日本の医療同意は、一身専属性が強いものの、一身専属的権利とまではいえないと考えられている。そのため、家族による代諾でも違法性は阻却される。(東京地裁・平成元年 4 月 18 日)
→刑事: 代諾について、刑法上の議論では、本人に承諾能力がないときは配偶者、保護者の承諾を得て医学上一般に承認されている方法により医療行為がなされれば違法性は阻却されると論じられている。(◇福田平,1974,『注釈刑法(2)のⅠ』,有斐閣, 117.◇団藤重光,1971,『刑法綱要総論』,創文社,157.)
→民事:医療行為については、本人又はそれに代わるべき者の同意があれば違法性が阻 却されるものと論じられている。(◇加藤一郎,1973,『注釈民法(19)』,有斐閣,143. ◇加藤一郎,1971,『不法行為・法律学全集』有斐閣,139.)
  〇救急医療における意識不明の患者への応急処置は、緊急避難の法理(法益権衡・補充性)を適用することで侵襲による違法性を免責できることになっている。また、医療費の支払いについては、事務管理(民法697条)が適用されることになっている。
  〇精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の非自発的入院は、障害者権利条約の趣旨に反すると考えられており、医療における意思決定支援の枠組みから除外されるべきである。その他、感染症法上の措置などは、意思決定支援に馴染むのかどうかも含めて十分に検討をおこなうべきである。

6.提案
 障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見では、最善の利益を同条約の趣旨に反するため廃止を求める勧告が出されている。なお、意思決定支援ガイドラインには、どのように最善の利益を行使するかまでは書かれているが、どのような場合に最善の利益を行使し得るかについては書かれておらず、現場判断にゆだねられるかたちとなっている。そのため、意思決定支援は「意思決定と最善の利益の境界が判然としない」というかたちで誤解されており、萎縮効果が懸念される。
 とくに生命に影響を与える事実行為は、最善の利益に伴う課題として位置づけられるべきではないはずなのに、意思決定の文脈でとらえられたり、最善の利益の文脈でとらえられたりと、恣意的に運用されるきらいがある。問題を整理する上でも、生命に影響を与える事実行為は、別枠に位置付け直すところからはじめなければならない。
 また、共通研修資料の中身には、障害者権利条約及び初回政府審査に係る総括所見の内容(一般的意見1号)に言及する必要があると考えますので、1スライド追加をしてください。
2023年3月15日

滝山病院からの転院の受け入れ拒否について(打診)

滝山病院からの転院の受け入れ拒否について(打診)

冠 省
 このたび、報道によって滝山病院の問題が明らかになりました。貴病院は、滝山病院の劣悪な環境から貴病院への転院を希望する患者に対して、およそ理由にもなり得ないような理由で約一月にわたり事務を遅延させた挙句、転院の受け入れを事実上、拒否しました。
 滝山病院は、日常的に虐待がおこなわれてきたことが指摘されており、その事実を知りながら、患者を劣悪な環境にとどめる結果に帰結させたことについて、患者の生命及び身体を守る医師として自覚と猛省を促します。
 つきましては、経緯について対面による説明を求めるとともに、今後は患者会の要望に対して全面的に協力する姿勢へと改めるようお願い申し上げます。なお、対面の日程調整につきましては、改めてご連絡差し上げますので、ご回答のほどよろしくお願いします。
 以 上

※後日、当該病院の医師と協議をして患者会の要望に対して協力していきたいとの回答をいただきました。これをもって病院名の公開等は控えたいと思います。

障害福祉計画及び障害児福祉計画等の見直しに関する要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
 障害福祉課長  津曲 共和 様
 精神・障害保健課長  林 修一郎 様

余寒の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。障害福祉計画及び障害児福祉計画等の見直しが、障害者権利条約の趣旨を鑑みたものになるように下記の通り要望します。

⑴ 精神病床における早期退院率については、入院後三か月時点が68.9%、入院後六か月時点が84.5%、入院後一年時点が91.0%であり、第6期計画と比較して指標が下がっている。この指標は、入院者約10人中1人が新たな1年以上長期入院者となる計算であり不適切と考える。計画の上で長期入院を再生産し続けていることになるため、最低でも入院後一年時点の早期退院率を98%以上にする必要がある。

⑵ 一年以上長期入院数のうち約7割は、3年後も一年以上長期入院者数として残ることになる。これは、⑴を踏まえると死亡退院と相まって新たな長期入院を再生産しながら入院中心医療を継続するかたちになっているものと考える。一年以上長期入院者は、少なくとも3年間で約5割にまで減らす必要がある。
以 上

滝山病院事件に関する緊急声明

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2023年2月15日、東京都八王子市にある滝山病院において50代の看護師が入院患者の頭を殴ったとして暴行の疑いで警視庁に逮捕されたことが報道されました。
 滝山病院の理事長・朝倉医師は、2001年に発覚した朝倉病院事件の際の病院院長(当時)であり、同病院に入院していた40名以上の患者が不審な死を遂げた事で問題になりました。ほどなくして朝倉病院は廃院になりましたが、滝山病院においても朝倉病院の体制が、そのままに続いてきたことに憤りを禁じ得ません。
 今回の事件は、私たち精神障害者が、たまたま、行き着いた先の病院次第で、幽閉されたまま助けを求めることも叶わず、地域に移行することもないまま虐待を受け続けて生涯を終えるしかない存在であることを突きつけるものでした。滝山病院は、死亡退院が退院全体の約8割を占めており、ウェブ上の口コミからも様々な問題があったことが指摘されています。このことからも警視庁が捜査を決めた事件は、氷山の一角に過ぎず、長年にわたって延々と虐待がおこなわれてきたことが想像にかたくありません。今もなお、滝山病院には虐待を受けていた患者が入院しており、虐待にかかわったか、もしくは、虐待を見て見ぬふりをしてきた職員と同じ空間にいさせられています。
 滝山病院には、まだまだ、知られざる問題が山積しています。虐待を続けてきた滝山病院を糾弾するとともに、一刻も早く、問題の全体像を明らかにし、入院患者の救済に向けた取り組みを訴えます。

2023年2月15日
全国「精神病」者集団

630調査非開示問題の解決について(お礼)

関 係 各 位

 厳冬の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 2019年の630調査が個人識別情報等を理由に非開示にされた問題の際には、大変お世話になりました。おかげさまで630調査非開示問題は、国とNCNPのほうで開示しやすい仕組みが取り入れられ、無事に解決しました。
 非常に入り組んだ政策手段により解決しましたので、解決までの経過や政策手段の整理、残された課題をまとめた説明資料を作成しました。お礼を兼ねてご報告申し上げます。
 今後も、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
 敬 具 

【本文】説明資料

※630調査開示運動をめぐっては、全国「精神病」者集団からの再三の指摘を押し切って「個人識別情報に該当しない」「調査方法をもとに戻せ」などの誤った方針が採用されてきた経緯があります。全国「精神病」者集団は、NCNP、厚生労働省、国会議員との交渉の窓口となり、責任をもって開示の実現に寄与してきました。最近になって、いまだに開示の処分を出さない地方公共団体が存在することを理由に国会議員に要求しようとする動きが出てきました。しかし、地方公共団体のことは地方公共団体に要求すべきであり、国会議員に要求すべきことではありません(同一会派の地方議員の紹介ならまだしも)。これ以上、誤った方針で混乱を招くことは看過できないと考え、国レベルでは解決した問題であることを議員に知らせるべく説明資料を作成し配布しました。

【声明】第6期障害者政策委員会における病院優位と精神障害当事者の不在について

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2023年1月23日、第6期障害者政策委員会の構成員が公表されました。障害者基本計画(第5次)の策定に向けた障害者政策委員会意見には、「精神科病院において、誰もが安心して信頼できる入院医療が実現されるよう、今後、非自発的入院のあり方及び身体拘束などに関し、精神障害を有する当事者等の意見を聞 きながら、課題の整理を進め、必要な見直しについて検討を行う」が入りました。なお、この内容は、全国「精神病」者集団が要望してきた内容です。
 ところが、障害者基本計画及び障害者の権利に関する条約の監視を担う障害者政策委員会には、プロバイダーを代表する団体である日本精神科病院協会から推薦された構成員が入っている一方で、全国「精神病」者集団から推薦された構成員が入っておりません。そのため、障害者の権利に関する条約の監視という観点からは、障害当事者が参画できないかたちになっており、極めて遺憾に思っています。また、障害者の権利に関する条約の初回政府審査に係る総括所見には、精神障害者を代表する団体との緊密な協議の確保等を通じ、国内法制及び政策を本条約と調和させることを求める勧告が出されていますが、これも守られなかったことを遺憾に思っています。第7期障害者政策委員会において同様の事態が生じないよう強く改善を求めます。

【見解】当事者参画に関する立場

1 基本的な姿勢
 障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」とする。)第4条第3項では、締約国に対して条約の実施にかかわる政策の策定等に障害者を代表する団体を通じて障害者と緊密に協議するなど、障害者を積極的に関与させることを求めています。全国「精神病」者集団は、障害者権利条約を支持し、完全履行に向けて取り組む障害者団体として、日本政府に障害当事者参画を要求するとともに、全国「精神病」者集団も政策決定過程に積極的に参画していきます。

2 精神障害者の当事者参画が進まなかった理由
 日本では、精神障害者の領域における政策決定過程への当事者参画が進んでおらず、諸外国と比較しても遅れが著しいです。その理由は、①行政が家族会に対して当事者としての発言を期待していること、②障害者運動内部において当事者参画の機運が高まらなかったこと、③障害者団体の推薦を得た当事者の参画がなかったため、当事者参画のイメージが沸きにくくなっていることが挙げられます。
 ①は、おかしなことではありますが、長年にわたって行政から「当事者は家族会が入っているので追加で入れる必要はない」と言われ、当事者参画が阻まれてきました。最近は、家族会の人たちも、このような行政の態度に一緒に異議をとなえるようになりましたが、当事者参画が進まなかった大きな原因となっています。
 ②は、さまざまなエピソードがありますが、とりわけて大きかったのは自殺問題だと思います。1990年代に草分け的な存在として政策決定過程に参画した当事者は、不幸にも入水自殺してしまいました。この出来事は、私たち当事者にとって辛い経験となり、「こんなことになるくらいなら参画なんてしなくていいのではないか」という考え方を刻みつけることになりました。
 ③は、当事者参画が四半世紀以上にわたって障害者団体の推薦を得ていない個人の立場やピアサポーターの一本釣りが大部分を占めてきたことが背景にあります。個人の当事者は、組織のバックグラウンドがないため、長期的な展望に依拠した参画が困難であり、どうしても、ご意見番的な立場にとどまることが大半を占めました。その後、ピアサポーターが参画するようになっていきましたが、ピアサポート政策や地域移行以外の話題になると、どうしても展望自体を持っていないことが多く、その場その場で随時返答していくようなかたちになっていました。そのため、当事者がミッションを掲げて、長期的な展望の中で戦術的に取り組んでいくという本来の当事者参画のイメージをし難い状態が長く続きました。このような歴史にトラウマを抱えた人たちは、当事者参画に消極的な意見を述べるようになっていきました。

3 当事者参画を進める運動
 このことから日本における精神障害者の当事者参画は、政府や他団体からの外的要因よりも、当事者運動の機運といった内的要因によって進まなかったことがわかります。いつしか当事者参画は、戦術として積極的に迎え入れられることはほとんどなくなり、リスクばかりが指摘されるようになっていきました。それでも民主党政権のときには、関口明彦さんと山本眞理さんが参画して一定の成果を得ました。しかし、その後は、精神障害や知的障害の当事者参画が後退し、再び、当事者参画の氷河期に突入しました。
 次の転換点は、当事者参画を有効活用して精神保健福祉法改正案を廃案に追いやったときでした。その後、成年後見制度の見直しに向けた民法改正や医療保護入院の廃止などのミッションに従って行動を進めてきました。当事者参画のイメージは、少しずつ変化してきました。

4 障害者を代表する団体とは
 障害者権利条約には、障害者を代表する団体とあります。しかし、障害者権利条約では、障害者を代表する団体を定義しておりません。また、「障害者を代表する」とだけ聞くと、当事者団体の代表性の有無などが問題になるかのように思われますが、障害者の権利に関する委員会や国際障害同盟は、そのようなことを問題にしてはいません。
 日本の障害者運動において障害者団体とは、一般的に障害当事者が代表、事務局長であるなど実質的な運営が障害当事者によって担われていることや役員の過半数が障害当事者であること、成員の過半数以上が障害当事者であることなどの基準を満たすものであることなどの考え方が提案されてきました。ただ、連合会型の組織の場合、団体会員を障害当事者としてどのようにカウントしたらよいのか、国が障害者として認めていないカテゴリにいる人たちの位置付けをどうするのか、など、さまざまな議論が未解決のままになっています。そのため、各団体が独自に採用する基準に委ねる他ないというのが現状です。とはいえ、このような議論の蓄積に依拠しながら、個別の障害者団体が障害者団体と名乗って差し支えないかどうかは、おおむねの合意が得られているものと考えます。
 しかし、障害者の権利に関する委員会は、障害者を代表する団体それ自体の定義を見送り、かわりに障害者を代表する団体のミッションを明確化することで障害者団体の排他的役割を措定しています。このことから、障害者団体とは、どのような組織であるかよりも、何を主張する組織であるかが、適格性を判断する上で優位とみなされていることがわかります。一般的意見第7号では、障害者を代表する団体とは障害者権利条約を推進する義務を負うものとされています。また、障害者権利条約第33条第3項では、「市民社会は、監視の過程に十分に関与し、かつ、参加する」こととされており、このことからも障害者団体は、障害者権利条約を物差しにして運動しているのかどうかが問われることになります。障害者権利条約は、社会モデル/人権モデルに立脚しています。社会モデル/人権モデルは、障害者を包摂した社会を実現するための基礎をなす価値規範であり、障害者を代表する団体は、これに準拠した主張をしていかなければなりません。言いかえれば、障害者の権利に関する委員会や国際障害同盟の方針に関心を示さず、社会モデル/人権モデルに準拠しない主張をする団体は、障害者を代表する団体とはみなし難いと言わざるを得ません。
 この先、会員数や組織体制で代表性を担保する考え方は否定されていくことになります。いくら立派な組織でも、主張が医学モデルならば、それは当事者を代表したことにはなりません。また、既存のピラミッド型組織の構造に対抗する障害当事者文化を構想している団体の取り組みを評価する上でも弊害になります。そのため、あくまで主張の内容が社会モデル/人権モデルに準拠し、精神障害者的であるかどうかが重視される時代になっていくことになります。

5 これからの全国「精神病」者集団の取り組み
 全国「精神病」者集団は、結成当初から精神衛生法撤廃・保安処分反対・強制入院反対等を掲げてきました。これらの実現には、障害者権利条約が欠かせません。全国「精神病」者集団は、日本において唯一、統合と単独の両方のパラレルレポートを提出し、ジュネーブにも精神障害当事者の傍聴団を派遣しました。このような地道な取り組みがあって、精神保健福祉法の解体や非自発的入院の廃止、成年後見制度の廃止のの勧告を勝ち取りました。今後、これらの政策を国内で実現させていくべく、当事者参画を推進していきます。

2023年1月10日

今後の障害者施策に関する要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長 辺見聡 様

 寒冷の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。先日、障害者関連法案が国会において成立しました。今後の障害者施策が障害者権利条約の趣旨を鑑みたものになるように下記の通り要望します。

1.付帯決議の実施
 このたび成立した改正精神保健福祉法には、立法府から非常に多くの付帯決議がつけられました。付帯決議の実施に向けて真摯に取り組んでくださいますようお願いします。

2.社会保障審議会障害者部会への参画
 このたび成立した改正精神保健福祉法は、附則及び付帯決議において勧告を踏まえた見直しをおこなうことが確認されています。全国「精神病」者集団としては、精神保健福祉法附則第3条に基づく検討に参画し、勧告の実現を目指していきたいと考えております。なお、同条約の政府審査に際してパラレルレポートを提出し、ジュネーブの建設的対話に傍聴団を派遣した精神障害当事者団体は、全国「精神病」者集団しかありませんでした。その上でも、社会保障審議会障害者部会への全国「精神病」者集団の推薦を受けた精神障害当事者の参画は不可欠であると考えています。つきましては、社会保障審議会障害者部会の次期改選にあたっては、全国「精神病」者集団の推薦を受けた精神障害当事者を構成員として必ず入れてくださいますよう、お願いを申し上げます。
 以 上