令和4年度推進事業「精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究」報告書に記載を求める事項

〇 今後の検討課題について
 障害者の権利に関する条約第14条第1項には、自由の剝奪が障害の存在によって正当化されないように措置を講じることを求める規定がある。この場合の障害の存在とは、国連障害者の権利に関する委員会が公表した第14条に関するガイドラインによると障害の存在に加えて追加の要件によるものを含むこととされている。例えば、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第 37 条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(昭和 63 年厚生省告示第 130 号)の定めのように、精神障害者で不穏及び多動が顕著であり、生命に切迫した危機があって、他に良い方法がない場合に一時的におこなわれる身体的拘束が該当し得る。
 また、障害者の権利に関する条約第15条第1項には、障害者が自由な同意なしに医学的な介入を受けないための措置を求める規定がある。障害者の権利に関する条約初回政府審査に係る総括所見のパラグラフ33には、精神科病院における障害者の隔離、身体的拘束、強制的な治療への懸念が示されており、パラグラフ34では、こうした医学的介入に対して全ての法規定の廃止について勧告が出されている。このことから、精神障害者であることを要件とする隔離・身体的拘束を定めた法令は廃止されなければならない。
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律附則第3条には、「政府は、精神保健福祉法の規定による本人の同意がない場合の入院の制度の在り方等に関し、精神疾患の特性及び精神障害者の実情等を勘案するとともに、障害者の権利に関する条約の実施について精神障害者等の意見を聴きつつ、必要な措置を講ずることについて検討する」とある。なお、この場合の障害者の権利に関する条約の実施には、初回政府審査に係る総括所見を含むものと加藤勝信厚生労働大臣が第210回臨時国会衆議院厚生労働委員会において答弁している。
 第210回臨時国会において成立した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議には、「国連障害者権利委員会の対日審査の総括所見における、精神保健福祉法及び心神喪失者等医療観察法の規定に基づく精神障害者への非自発的入院の廃止等の勧告を踏まえ、精神科医療と他科の医療との政策体系の関係性を整理し、精神医療に関する法制度の見直しについて、精神疾患の特性も踏まえながら、精神障害者等の意見を聴きつつ検討を行い、必要な措置を講ずること。」が入った。
 当面は、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書にまとめられたように告示第 130 号の見直しを進めていくことにはなるが、ゆくゆくは勧告に従って精神障害者であることを要件とした法令の廃止を検討していく必要がある。

〇 多動又は不穏が顕著である場合の削除について
 本検討委員会では、当事者の委員から告示第 130 号の身体的拘束に関する事項のイ多動又は不穏が顕著である場合の削除を求める意見が繰り返し出された。なお、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書では、多動又は不穏が顕著である場合は拡大解釈のおそれがあるため要件から削除すべきとの意見、身体拘束を原則廃止すべきとの意見、治療の必要性の要件については身体的拘束について新たな対象を生み出すおそれがあるのではないかとの意見があったことが記録されている。
 多動又は不穏が顕著な場合の要件(以下、「多動不穏要件」とする。)は、これまで単に多動又は不穏というだけで身体的拘束を開始してよいとの誤解を招いてきた側面がある。著しく不適切な身体的拘束に係る事例の中には、多動又は不穏の症状を呈したというだけで――三要件を満たさないのにもかかわらず――身体的拘束の指示に至ったというものが散見される。また、薬物療法の副作用の影響によるもので運動亢進症状によらない通常の錐体外路症状の運動過多を「多動」と位置付けて身体的拘束の対象とする事例なども散見される。もっとも、錐体外路症状に伴った内的不穏があるとされれば、道理が立ち得るわけですが、そのこと自体、多動不穏要件が曖昧であると当事者団体が主張する理由である。
 本来、要件とは、増えれば増えるほど、対象が狭くなるものである。しかし、要件を複数にすることで厳格化していく対策とは別に、現場においてどう読まれていくのかという問題がある。現場では、告示の文章に溶け込んだ医学用語には特にフォーカスが当てられるきらいがある。そのため、実際には多動又は不穏というだけで身体的拘束に至る例があり、増加の懸念が否めない。その意味では、多動不穏要件の削除が、国として身体的拘束を減らしていく方向性を示した象徴的な政策になると考える。

〇 研修資料について(スライド参照)
 2006年12月、国連総会において障害者の権利に関する条約が採択された。障害者の権利に関する条約は、障害者に対して新たな権利を付け足すことを目的としたものではなく、他の者が享受できていて障害者が享受できていない権利を平等な水準にまで押し戻すことを目的としたものである。障害者の権利に関する条約は、障害の社会モデル(人権モデル)を理念としている。社会モデルは、障害は個人ではなく社会にあるという考え方のことである。ここでいう社会の障害とは、個人ではなく社会に原因があるという考え方や個人ではなく社会に責任があるという考え方など複数の考え方が存在する。障害者の権利に関する条約は、包摂型社会(インクルーシブ社会)を目指したものである。包摂型社会(インクルーシブ社会)は、障害の社会モデルに基づくアプローチを徹底させた場合の完成形であり、地域に障害者が当たり前に生活できる社会をイメージしたものである。もともと障害者は、施設等に隔絶された空間に集められて処遇されてきた。このことによって他の者と障害者の接点は失われてゆき、社会の在り方も障害者がいないことを前提としたものになっていった。社会的障壁のある地域社会では、障害者が当たり前に生活するには困難が付きまとい、他の者と等しい扱いも受けられないことになる。しかも、その原因や責任を、障害者個人の機能障害に求めていく考え方も根強く残っている。ここから包摂を目指すためには、障害者と他の者の接点を増やしていくような統合のアプローチを続けていくほかない。
 障害者の権利に関する条約第14条第1項には、自由の剝奪が障害の存在によって正当化されないように措置を講じることを求める規定がある。この場合の障害の存在とは、国連障害者の権利に関する委員会が公表した第14条に関するガイドラインによると障害の存在に加えて追加の要件によるものを含むこととされている。例えば、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第 37 条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(昭和 63 年厚生省告示第 130 号)の定めのように、精神障害者で不穏及び多動が顕著であり、生命に切迫した危機があって、他に良い方法がない場合に一時的におこなわれる身体的拘束が該当し得る。
 また、障害者の権利に関する条約第15条第1項には、障害者が自由な同意なしに医学的な介入を受けないための措置を求める規定がある。障害者の権利に関する条約初回政府審査に係る総括所見のパラグラフ33には、精神科病院における障害者の隔離、身体的拘束、強制的な治療への懸念が示されており、パラグラフ34では、こうした医学的介入に対して全ての法規定の廃止について勧告が出されている。