精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)に関する要望書

厚生労働省社会・援護局
 障害保健福祉部長 辺見聡 様
 障害保健福祉部精神・障害保健課長 林修一郎 様

 日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 先日、国連障害者の権利に関する委員会の第27回期において第1回日本政府審査がおこなわれました。国連ジュネーブ本部では、約100人の日本人が建設的対話の傍聴にきており、注目の高さがうかがえました。建設的対話では、委員から日本の精神科医療についての質問が相次ぎ、改めて国際社会からの関心の高さを確認することができました。
 さて、現在、2022年臨時国会に向けて精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)(以下、「同法案」とする。)の提出の準備が進められております。地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書には、「こうした事項について、障害者の権利に関する条約第36条及び第39条による障害者の権利に関する委員会からの提案及び一般的な性格を有する勧告が行わ れたときには、障害者を代表する団体の参画の下で、当該提案及び勧告に基づく現状の問題点の把握を行い、関連法制度の見直しを始めとする必要な措置につい て検討すべきである。」とあります。障害者の権利に関する条約第1回日本政府審査への関心が高まりを見せる今、同法案を通じて検討できるようにしていく必要があると考えます。
 つきましては、同法案の附則には、検討条項を設けるとともに、「障害者の権利に関する条約第三十六条及び第三十九条による障害者の権利に関する委員会からの提案及び一般的な性格を有する勧告に基づく現状の問題点の把握を行い、障害者を代表する団体の参画の下で、関連法制度の見直しを始めとする必要な措置について検討する」という一文を入れてくださいますようお願い申し上げます。なお、当会としては当該一文が入るか否かを法案の賛否にかかわる重要事項と考えておりますので、ご配慮のほど、よろしくお願い申し上げます。
 以 上

死刑執行に対する抗議声明

 わたしたち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2022年7月26日、加藤智大死刑囚(秋葉原通り魔事件)に対して死刑が執行されました。加藤死刑囚は、第2次再審請求中でした。死刑は、人の命を奪う刑罰であり、卑しくも国家による重大かつ深刻な人権侵害です。全国「精神病」者集団は、このたびの死刑執行に対して強く抗議します。

精神保健福祉法改正・障害者総合支援法改正の法案審査に係るヒアリングの要望

自由民主党政務調査会障害児者問題調査会
  会  長  田村憲久 様
  事務局長  山田賢司 様

 日頃より障害者施策の推進に尽力をくださり、心より敬意を表しております。
私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
さて、厚生労働省は、障害者総合支援法と精神保健福祉法、その他法律の見直しに向けた検討をおこなっております。とくに精神保健福祉法は、精神障害者に対する入退院手続き等を定めた法律であり、私たち精神障害者の生活に大きく関わる法律であることから強い感心をもってまいりました。
 つきましては、貴政党政務調査会における法案審査の手続きについて、下記のとおりのお願いを申し上げます。

1.地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会の構成員が所属する全て団体に対して必ずヒアリングを実施してください。
2.障害者総合支援法と精神保健福祉法は一括の法案審査ではなく、別々に法案審査をしてください。
敬 具 

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)に関する要望書

厚生労働省社会・援護局
 障害保健福祉部長 田原克哉 様
 障害保健福祉部精神・障害保健課長 林修一郎 様

日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
さて、2022年臨時国会に向けて精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)(以下、「同法案」とする。)の提出の準備が進められております。同法案が障害者権利条約の趣旨を鑑みたものとなるように下記の要望をします。

① 同法案の附則には、検討条項を設けるとともに、「障害者の権利に関する条約第三十六条及び第三十九条による障害者の権利に関する委員会からの提案及び一般的な性格を有する勧告に基づく現状の問題点の把握を行い、障害者を代表する団体の参画の下で、関連法制度の見直しを始めとする必要な措置について検討する」という一文を入れてください。
② 廃案になった平成二十九年度改正法案の第四十七条の二、第五十一条の十一の二の部分を同法案に含めないでください。
③ 同改正法案の第一条の目的条項には、「障害者基本法と相まって」という一文を加筆してください。
以 上 

障害者の法律の前の平等に向けた民法改正ビジョン

(1)理論の深化に向けた段階目標
短期目標:制限行為能力を前提としつつも同条約と整合した制度体系への転換。
中期目標:障害に関連するあらゆる制限行為能力の撤廃を前提とした制度体系の青写真の提示。
最終目標:12条1項に定める法律の前の平等の完全履行のために法的人間像に障害を包摂した法体系の青写真の提示。(ローマ法体制の解体)

(2)戦術
・同条約の政府審査を活用した実効性のある勧告の獲得。
・関連法制度の見直しの担保する付帯決議の獲得。
・勧告に基づく関連法制度の見直しの獲得。
・見直しにおける決定過程からの障害当事者参画の獲得。

(3)勧告に基づく民法改正の論点
①精神上の障害要件の撤廃
 同条約は、他の者との平等を基礎とした措置を講じるよう締約国に求めている。このことから、精神上の障害要件は、撤廃というかたちで改められなければならない。

②事理弁識能力要件から社会的障壁との相互作用要件への変更
 同条約は、医学モデルから社会モデルへの転換を趣旨としている。事理弁識能力要件は、障害者基本法に定める障害の定義と比較して個人にばかり原因を求めている。そのため、環境の変化により成年後見等が不要になった場合でも、認知症や知的障害があるというだけで実際には解除されないという問題がある。このことから、事理弁識能力要件は、社会的障壁の相互作用要件へと変更されなければならない。

③意思決定支援を受ける権利の明文化
 同条約第12条第3項は、法的能力の行使に当たって必要な支援を求めている。ここでいわれる支援とは、一般的意見第1号によると最善の利益に基づく介入ではなく、意思及び選好に基づく支援であるとされる。この趣旨を明確にした明文による規定を新設しなければならない。

④補充性要件導入
 制限行為能力が限定的に運用されるように最終選択肢であることを明記し、意思決定支援などの活用を推奨する補充性要件を導入しなければならない。

⑤障害者の法律の前の平等の明文化
 同条約は、障害者が法律の前で他の者と平等であることの承認を締約国に求めている。このことは、民法への明文化を通して担保されなければならない。

⑥制限行為能力の限定・明文化
 現行の成年後見制度は、成年後見、保佐、補助の類型ごとに制限できる法律行為の内容が異なる。現行の保佐と補助は、不動産売買など制限される法律行為の内容が限定的であるが、さらに制限できる法律行為を必要最低限まで限定していく必要がある。

⑦法的人間像に障害者を包摂するための民法の抜本的見直しに向けた検討の開始
 これら一連の見直しが障害者を包摂するための議論の足がかりとして捉えられるよう政府はさらなる検討を続けていく必要がある。

(4)その他の法律の見直し
①家事事件手続法の見直し
上記の変更に伴う必要な見直しが必要である。

②住民票と印鑑
平成12年2月23日自治振第16号 自治省行政局振興課長から各都道府県総務部長通知「印鑑の登録及び証明に関する事務に係る成年被後見人の取扱いについて」の廃止が必要である。

③欠格条項の見直し
欠格条項のモニタリングと見直しが必要である。

旧優生保護法裁判・大阪高裁判決の上告に抗議します

 2022年3月7日、国は旧優生保護法訴訟大阪高裁判決に対して最高裁に上告をしました。大阪高裁判決は、全国で争われている一連の優生裁判で初めて除斥期間を適用せずに、差別や偏見を助長した国の責任を明確にした画期的な判決でした。しかし、国は、判決を真摯に受け止めることなく、司法府による判断を確定させませんでした。
 このことについて、わたしたちは強く抗議します。

旧優生保護法裁判・大阪高裁判決に係る上告をしないことを求める声明

 2022年2月22日、旧優生保護法裁判・大阪高等裁判所・太田晃詳裁判長は、①優生保護法は明白な憲法違反である、②誤った法律をつくった当時の国会議員の過失は免れない、③優生保護法の問題については除斥期間の適用をすべきではない旨の判決を言い渡しました。そのうえで、三人の原告に対して計2,750万円の賠償金の支払いを命じました。私たちは、この画期的な判決を支持しています。つきましては、被告政府は、大阪高裁判決を確定させるべく、最高裁判所への上告をされないよう強く求めます。

日本弁護士連合会「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」に対する全国「精神病」者集団の見解

1.同決議の評価
 同決議については、次の点を評価する。
① 同決議の「精神障害のある人だけを対象とし、緊急法理を超えて、本人の意思に基づかない入院を許す精神保健福祉法による強制入院制度を廃止し」の部分については、精神保健福祉法に基づく非自発的入院制度の廃止を掲げたものであり評価する。
② 同決議の「精神保健福祉法による強制入院制度を廃止し、廃止に向けたロードマップ(基本計画)を作成し、実行する法制度を創設すること」の部分については、非自発的入院の段階的な廃止を掲げたことを評価する。
③ 同決議に付随する解説には、2035年までに強制入院制度の廃止を達成するという期限が設けられており、その点を評価する。
④ 同決議の「障害者権利条約の求める,人権の促進及び擁護のための国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)にのっとった国内人権機関の創設」の部分については、実施機関としてパリ原則に基づく国内監視機関を位置付けたことを評価する。
⑤ 同決議の「精神科医療においても等しく適用される,患者の権利を中心にした医療法を速やかに制定し,インフォームド・コンセント法理を始め一般医療と同等の質及び水準の医療を提供することを確認し,その運用,周知のために必要な法整備を行うこと」の部分については、精神科医療を一般医療へと編入させる枠組みとして提示されたことを評価する。

2.同決議の問題点
 同決議については、次の点で問題点を認める。
① 国及び地方公共団体の役割についての言及がなく、非自発的入院廃止の責務を担う実施主体が不明である。
② 同決議は、基本計画(ロードマップ)の策定を掲げているが、基本計画(ロードマップ)の根拠法令として精神保健福祉法が想定されている点で問題がある。しかし、精神保健福祉法第1条の目的条項の下で構造的な人権侵害を帰結しているわけであり、同決議が目指している「差別を解消しインクルーシブな社会を実現する」ことと同法は本日的に相容れないものと考えられるべきである。また、仮に同法を根拠とした場合、達成期限として設定された2035年の根拠が不明である。例えば、医療計画の場合、第9次医療計画の最終年は2036年と考えられるため、その他の行政計画との関係も相まって中途半端なスパンであるとの印象をぬぐえない。
③ 同決議は、強制入院の段階的な削減の結果として強制入院制度が廃止されるというストーリを前提としている。精神保健福祉法廃止と非自発的入院制度廃止が同一のものと見なされており、かつ精神保健福祉法廃止が最終目標とされているわけである。しかし、強制入院と強制入院制度を区別して考える必要があり(同決議も区別して考えていないわけではない)、精神保健福祉法に基づく強制入院制度(非自発的入院)を廃止してから、一般医療における強制入院(非同意入院)を削減していくといった順番によるべきである。

3.社会的な反応
 同決議に係る社会的反応は、当初予想していた以上に絶大であった。同決議に係る社会的反応の長所は、非自発的入院制度の廃止に向けた機運を圧倒的に高めたことが挙げられる。他方で同決議に係る社会的反応の短所は、政策として完成していないのにもかかわらず、一見すると具体的な政策のように見えてしまうことから、不用意に期待値を高めてしまっていることが挙げられる。非自発的入院制度の廃止に向けた機運を下げることなく、同決議の方向性を支持しながら適切な政策討論へと結びつけることで、政策としての完成度を補足していくことが急務である。

4.全国「精神病」者集団の対案
 ここでは、全国「精神病」者集団としての政策の対案を明らかにしたい。
① 第8次医療計画の活用
同決議は、「病床数削減」と「強制入院削減」の2つを掲げている。全国「精神病」者集団は、この2つの実行手段として、次に掲げる通り第8次医療計画の活用を提案する。
〇 基準病床算定式を用いた入院需要の縮小による病床数削減。
〇 指標例を用いた非自発的入院の段階的縮減。
 【期限】第8次医療計画は、2022年に検討がおこなわれ、2024年から開始される予定である。よって、「病床数削減」と「強制入院削減」のための政策は、達成目標を2024年までとするべきである。
② 医療保護入院の廃止
 同決議は、「強制入院制度廃止」を掲げている。全国「精神病」者集団は、実行手段として医療保護入院の廃止を提案する。2021年10月に厚生労働省が設置した「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」では、入院制度のあり方の検討が予定されている。医療保護入院廃止という検討結果で合意するためにも、大衆的合意形成の取り組みが必要である。
 【期限】2022年7月には、同検討会の報告書がまとめられる予定である。よって、「強制入院制度廃止」のための政策は、達成目標を2024年までとするべきである。
③ 障害者権利条約の政府審査
同決議の「強制入院制度廃止」について全国「精神病」者集団は、医療保護入院の廃止に加えて、障害者権利条約の政府審査を提案する。障害者の権利に関する委員会は、同条約第36条及び第39条に基づく勧告を出すことができる。勧告には、次に掲げる事項を入れる必要がある。
〇 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、特に第29条、第33条及び第37条に基づく非自発的入院制度を廃止すること。
〇 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律を廃止すること。
なお、政府は条約体の勧告を尊重しなければならないこととされている。ただ、これだけでは消極的な尊重にとどまる可能性が否めないため、法改正の際には、衆参両院で「障害者の権利に関する条約第三十六条及び第三十九条による障害者の権利に関する委員会からの提案及び一般的な性格を有する勧告に基づき、障害者を代表する団体の参画の下で、当該提案及び勧告に基づく現状の問題点の把握を行い、関連法制度の見直しを始めとする必要な措置を講ずること。」とする付帯決議を可決成立させる必要がある。
 【期限】2021年12月時点では、2022年夏に日本政府の初回審査が予定されていた。現在は、新型コロナウィルス感染拡大に伴い未定となっている。
④ 非理性を包摂した法体系のあり方に関する議論の開始
 従来の精神障害法は、理性がない状態の者を法律から除外して成立する仕組みに依拠しており、刑事責任無能力や制限行為能力のように個人の疾病に根拠をおく医学モデルに依拠したものであった。このように法律が前提とする人間像は、理性的な人間であり、精神障害者は排除されなければ成立しない仕組みとなっている。社会モデルの観点に立てば、精神障害者を治療して理性的にさせるのではなく、理性を前提とした法体系のあり様こそ問い直す必要がある。非自発的入院の廃止に向けては、非理性を包摂した法体系のあり方に関する議論を開始して、対案を明らかにする必要がある。
⑤ 医療基本法の制定
 同決議は、「精神保健福祉法の廃止」を掲げている。全国「精神病」者集団は、その実行手段として医療基本法の制定を提案する。医療基本法には、医療関連法規の見直しに関する規定を設ける必要がある。当該規定の下では、精神保健福祉法の廃止を含むかたちで精神科医療を一般医療に編入するための検討をおこなえるようにする。
 【期限】医療基本法の制定時期は未定である。しかし、第8次医療計画の検討が本格化する2022年中に制定されていなければ実効性の観点から疑問が生じる。

5.ポイント
 全国「精神病」者集団の見解のポイントは、非自発的入院廃止と緊急避難法理等による非同意入院の削減を別枠で考えた点にある。前者は、同条約の総括所見をベースにして比較的早い段階で実現させるべきと考える。後者は、医療計画に基づき都道府県を実施主体にして段階的におこなうべきと考える。また、非同意入院は、恣意的運用を防止するためにソフトロウを策定するなど、中身に踏み込んだ議論が必要となる。

◆参考資料:精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議(2021年10月15日)
https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2021/2021.html

精神科病院アドボケイト制度化に関する論点整理

Ⅰ 精神科病院アドボケイトによる権利擁護
(制度の効果)
効果は、次の3点とする。
①入院者によって表示された意思を擁護する立場の人をいれることで孤立を防ぐ。
②入院者が精神科病院の外部のアクターとつながるための契機となる。
 ③精神科病院に外部の目を入れることで風通しをよくし医療の適正化につなげる。

(名称)
〇 制度の名称は、次の点に留意して決められるべきである。
・意思決定支援は、「障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン」、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」など複数のガイドラインに定めがある。それぞれ同一の用語が別の趣旨で用いられており、混乱が見られる。そのため、意思決定支援とは別の名称を検討すべきである。
・権利擁護は、機能として明確に打ち出すべきではあるが、名称として用いると漠然としてしまう。また、法的救済や成年後見などの他の業務との区別が付きにくいため別の名前を検討すべきである。
・日本語では「精神科病院訪問」などのわかりやすい名称がよい。
〇 実働する人の名称は、「精神科病院アドボケイト(仮称)」とする。

(対象者)
〇 精神科病院入院者で、自発的入院・非自発的入院の別を問わない。
・カリフォルニア州の公的権利擁護及び権利保護法では、患者が非自発的入院をする場合に患者毎に一人以上の権利擁護官を設定しなければ非自発的入院させることはできないという仕組みを採用している。しかし、この制度は日本で実施すると米国と違って形骸化した運用になる可能性が高い。
・非自発的入院だけを対象とすることは問題がある。大前提として精神保健福祉法の非自発的入院は身体の自由を制限する権利侵害という側面がある。その権利侵害をやめるのではなく、権利侵害されている状況を前提としながら、一方で精神科病院アドボケイトが権利擁護するという図式はいびつに思えてならない。「権利擁護なんかしなくていいから、権利侵害をやめてくれ」ということになる。
・非自発的入院それ自体の問題と精神科病院アドボケイトの必要性の問題は切り分けて考えられるべきである。自発的入院であっても精神科病院アドボケイトを必要とする人がいる。

(精神科病院アドボケイトの業務)
〇 次の各号に掲げる精神科病院への訪問とする。
①精神科病院への定期的な巡回訪問。
②入院者の求めに応じた訪問。
(※①は精神科病院への予告なしとすることが望ましい。)
〇 精神科病院アドボケイトは、入院者の話しを聞く。
〇 精神科病院アドボケイトは、複数のアクターと協議する際に入院者によって表示された意思を擁護する立場でかかわる。
〇 精神科病院アドボケイトは、直接支援をしない。但し、入院者からの個別の要請・契約を妨げるものではない。
〇 直接支援とは、ケアマネジメント、訴訟代理、介護、看護などのことである。精神科病院という閉鎖的環境における精神科病院アドボケイトの役割は、外部との接点を作ることである。仮にアドボケイトが直接支援を抱え込むことになれば、入院者は外部との接点を持てなくなり兼ねない。

(訪問体制)
〇 2人1組を想定する。但し、1人での訪問を妨げない。

(精神科病院アドボケイトの担い手)
〇 精神科病院アドボケイトは、入院者に対して精神科病院の外部とのつながりを作ることが目的である。また、精神科病院の外部からの訪問により風通しをよくし、医療の適正化につなげることも目的である。よって、精神科病院アドボケイトの担い手は、精神科病院の外部と言えるかどうかが関心になる。
〇 精神科病院の外部と言えるかどうかは、精神科病院内部である入院先精神科病院管理者及び担当医師、その他の職員等から影響を受けるかどうかを判断基準とする。
・例えば、次に掲げる者は、精神科病院アドボケイトになることができないと考えられるべきである。
①当該医療保護入院者に同意を与えている家族。
②当該措置入院者の通報にかかわった家族。(※家族が110番通報したことで、かけつけた警察官が23条通報して措置入院になった場合など。)
③入院先の病院に紹介状を出した医師。
④入院先医療機関の職員。
⑤同一法人の別医療機関の職員。
⑥担当の相談支援専門員及び介護支援専門員。
⑦顧問など契約関係にある弁護士。
・加えて、医師、看護師、現に医療保護入院者に同意を与えている家族等は、精神科病院アドボケイトになったとしても適正な業務遂行が困難であると考えられる。
・入院者と利益相反関係にある人は、精神科病院アドボケイトの個別訪問をすることができない。

(何をしてはいけないのか)
〇 精神科病院アドボケイトは、意思決定支援をおこなわない。
・障害者総合支援法第42条及び第51条の22では、事業者等に意思決定支援の配慮義務がかされている。意思決定支援は、同ガイドラインにおいて最善の利益について判断することが想定されているため、本制度の趣旨と相入れない部分がある。

(精神科病院アドボケイトによる情報提供)
〇 精神科病院アドボケイトは、入院者への情報提供をおこなうことができる。
〇 入院者の求めに応じて情報提供することが前提である。
・CP換算値、630調査等による統計データ、職種と役割、精神医療審査会、指導監督制度、患者会の情報などの社会資源にかかわる情報は、入院者の求めによらなくとも紹介できるようにした方がよい。)
・逆に入院者に求められても情報提供が不可能なものとしては、公序良俗に反する情報、治療方針にかかわる情報(※医者の役割であるため。)、他の入院者の業務上知り得た秘密などが考えられる。
・脱走に係る情報や薬を呑んでいないことをバレずに済ます方法などについては、公序良俗に反する情報には該当しない。
〇 必要に応じて相談支援事業所、弁護士、他医療機関等の機関を情報提供する。
〇 精神科病院アドボケイトから入院者に情報提供することもあり得るが、どのような判断基準で情報を選んで提供するのかについて議論が必要である。

(実施主体)
〇 実施主体は、都道府県・政令市とする。
〇 事業は、委託を可とし委託を基本とする。

(財源)
〇 障害者総合支援法の都道府県地域生活支援事業の必須事業を財源とする。
〇 設置にあたっては、国による補助金があったほうがよい。

(センター(仮称)について)
〇 センター(仮称)を設置する。
・センター(仮称)は、原則として都道府県単位とし、必要に応じて複数設置を認める仕組みが望ましい。
〇 センター(仮称)は次の業務をおこなう。
 ・センター(仮称)は、精神科病院アドボケイトを派遣する。
・センター(仮称)の事務局は、相談を受け付ける機能をもつ。
・センター(仮称)の事務局は、病院からの連絡を受け付ける機能をもつ。
・センター(仮称)は、精神科病院に対する助言をおこなうことができる。その場合、指導監督制度、虐待防止法等の関連制度との役割のちがいを踏まえて当該所轄と連携していくことが望ましい。なお、深刻な虐待事件等については、地方精神保健福祉審議会を始動すべきである。
 ・センター(仮称)は、研修にかかわる事務をおこなう。
 ・センター(仮称)は、精神科病院アドボケイトの登録事務をおこなう。

(協議の場)
〇 都道府県・政令市に1件の協議の場を設置する。
〇 病院と精神科病院アドボケイトが協議して解決するチャンネルが必要である。

(精神科病院アドボケイトの登録)
〇 研修の受講のみとする。
〇 研修は一段階とし、簡易なものを想定する。但し、合理的な根拠があれば二段階を否定するものではない。

(ピアサポートの活用)
〇 事業所によるピアサポーター一本釣り雇用スタイルからの脱却を目指す。
・当事者団体に所属する当事者の参加を基本とする。
・当事者団体から地方精神保健福祉審議会の構成員を採用していく必要がある。

カリキュラム
科目名        時間数   内容   講義
1. アドボケイトの理念  1h  必要性、理論、基本的な考え方
2. 各地の活動の歴史   4h  精神医療人権センター、当事者団体、自立生活センター、弁護士会による当番弁護士、地域生活支援の取り組みなどの歴史
3. 演習1        2h
4. 職種の可動範囲    3h  弁護士、福祉職、医療職、家族会組織、当事者団体、行政、法務局
5. 制度         5h  憲法、障害者権利条約、医療制度、精神保健福祉法、障害者総合支援法、生活保護法、訴訟制度
6. 精神疾患と対話 2h  精神疾患の種類、治療の種類、コミュニケーション
7. 演習2       4h  事例を用いたグループワーク
8. 実習         4h

(制度化する意義)
 制度化には、メリットとデメリットがある。メリットは、全国的な展開が可能になることである。デメリットは、システム化されることでボランティアのような自由な取り組みが実践されにくいことである。当初は、もっとも先進的な取り組みと同水準でなければ制度化する意味がないのではないかという慎重論もあった。しかし、地域によっては、何の権利擁護の仕組みもないところもあるため、全国展開は必然であると考えられるようになっていった。よって、制度化するデメリットよりも制度化するメリットが上回る。

Ⅱ 精神科病院アドボケイトに外在的な権利擁護
1.基本的な考え方
 権利擁護は、精神科病院アドボケイトにとどまらず、もっと幅広くとらえられるべきものである。また、精神科病院アドボケイトは、入院者に対して精神科病院の外部との接点をつくっていくコンタクトパーソンになることが目的の一つである。外在的な権利擁護機能を理解する意義が大きい。

2.司法救済
〇 司法救済については、次の方策が考えられる。
・弁護士会による当番弁護士制度(弁護士会の予算が財源)。
・人身保護法の活用。
 ・訴訟。
〇 総合法律支援法を見直し、退院等の請求などへの助成の範囲を拡大する。

3.監視
〇 指導監督制度の活用。
〇 障害者虐待防止の見直しに向けた検討を再開し、精神科病院を含む医療機関等を通報義務のスキームの対象にすること。

4.処遇
〇 医療相談、医療事故調査制度。
〇 退院等の請求や処遇改善請求。

5.重度訪問介護をはじめとする障害福祉サービス等の活用
〇 24時間見守り・意思決定支援・コミュニケーション支援ができる重度訪問介護が入院中に利用できる。

6.地域移行
〇 相談支援専門員による地域相談。
〇 訪問系サービスなどの活用。
〇 所得保障。

日本精神科病院協会の声明に対する見解

関 係 各 位

 時下ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 日本精神科病院協会(以下、「日精協」とする。)が「令和3年(受)第526号上告受理申立て事件に対する最高裁第3小法廷の不受理決定について」と題する声明を出しました。当該声明は、精神科病院における身体拘束中の死亡事故について損害賠償を認めた名古屋高等裁判所金沢支部判決の上告を棄却する最高裁判所決定に対して向けられたものです。また、当該声明の主張は、主として① 判決は精神保健指定医の裁量に過度な制限をもたらすものである、②判決が想定する人員体制は非現実的である、③入院者を受け入れられなくなり患者が不利益をうける、というものになっています。
 この声明は、下記の点で問題があると考えますので、関係各位におかれましては理解を深めてくださいますと嬉しく思います。

1.精神保健指定医の裁量は一般医事法理の適用を免責させるようなものではない
 日精協の「判決は精神保健指定医の裁量に過度な制限をもたらすもの」という主張は、法律を間違って理解していることに基づいています。
 まず、判決文には、「精神保健指定医の(身体的拘束に関する)治療的判断が、その裁量を逸脱して違法である」とあり、精神保健指定医の裁量それ自体は認めた上で、被告病院が、その裁量を逸脱していたために責任が発生したという内容になっていることがわかると思います。よって精神保健指定医の裁量を制限した判決と読むべきではなく、もとより、精神保健指定医の裁量は医事法理の中で決められていたものであると読むのが適当です。
 また、精神保健指定医の裁量は、あくまで一般的な医事法理の下で認められているのであって、37条1項大臣基準の位置付けも医事法を念頭におきながら、さらに厳格な手続きとして定められたものとなっています。
 精神保健指定医は、医事法理の適用を受けないほどの裁量までは認められていません。そのため、判決が精神保健指定医の裁量を過度に制限したわけではありません。

2.常時8人の看護師がいないと違法になるなどとは判決文には書かれていない
 本判決をめぐっては、常時8人の看護師がいないと身体拘束が違法になるとする誤解が流布されているようですが完全に事実と異なります。判決文には、平成28年12月13日に看護師5人でおさえ付けて注射したところ顕著な不穏多動が見られたが、平成28年12月14日に医師と看護師8人で拘束開始の診察時をしたときにら顕著な不穏多動が見られなかったことから、注射や診察などの際に一時的に人員を割くことができるなら人員を割くことで拘束を回避するべきであるとは書かれています。
あくまで人員をさける余力があるなら拘束に先駆けて人員をさくことを検討するべきとしたものであり(現に12月14日の拘束時に8人確保してます)、余力がない中で看護師を8人揃えないと違法になるなどという内容の判決文ではありません。

3.過誤の有無についての論拠が未完成であること
 先述した通り、もとより精神保健指定医の裁量は、従来においても、そこまでの裁量は認められておらず、判決文の一部を抜き取って裁量への過度な制限であると主張するのは適当ではありません。
 本件に限っては、被告病院側が37条1項大臣基準に従って行動制限したといい得るだけの高い蓋然性のある証拠を示し得ておらず、一般的な医事法の考え方に基づき過誤を認める判決になったものと考えるべきでしょう。とりわけ、日精協は声明において「多動又は不穏が顕著な場合」の不穏の中身までは態度が明らかにされていますが、それが顕著であったかどうか、何をもって顕著と言いうるのかまでは、態度が明らかにされていません。
過誤の有無について裁判所とは別の見解を述べるのであれば、最低限、これら形式面をきちんと理論形成してから公表する必要があります。そのため、日精協の声明は、過誤の有無についての論拠が未完成のまま、見切り発車したかたちになっています。

4.精神科病院でしか通用しない常識があることを彷彿させる弁明
 山崎会長は、記者会見の場で「裁判官は精神科病院を見たことがない」旨を発言されたようですが、このように精神科病院でしか通らないルールがあるかのような言い方をしてしまうと、逆に精神科医は一般社会のルールを知らないのではないかと疑われることになるのではないかと思います。
 被告側病院は、行動制限を開始できる程度の病状であったと考えていたようです。しかし、裁判所は、行動制限を開始することに疑義を持つに値すると判断したため、被告病院側の主張は大部分が斥けられました。ここに精神科病院の内側と外側の認識の差異が如実にあらわれる結果になったのだと思います。
 むしろ、精神科病院こそ、一般医療に近づくために、従来の慣習を改めていく必要があるのではないかと思います。

5.精神障害者を受け入れるのは誰であるべきか
 日精協声明の最大の問題点は、社会が精神障害者を排除しており、精神障害者を受け入れるのは精神科病院であるというドグマに陥っているところにあります。本来、精神科病院関係者は、精神障害者に係る問題をなんでもかんでも精神科病院に押しつけないでほしいと主張すべきだし、医療外のことは病院ではなく社会が担うべきであると主張しなければならないはずです。しかし、日精協声明からは、精神科病院があらゆる問題を引き受けてきたことを誇りにさえ思っている節を禁じ得ません。
 もちろん、ある意味では、精神科病院が社会の闇を一身に背負ってきたともいえなくはないですが、本来は社会がもっと精神障害者とかかわりを持つべきです。精神科病院が世の中にとって便利に機能すればするほど、精神障害者と社会の接点は閉ざされていくことになります。当然ながら医療体制は患者の受入態勢のことであり、受入態勢が十分でない状態では患者の受け入れはできません。精神科病院が何もかもをできるわけではないという観点に立ち、判決を肯定的に受け止めることが必要であると考えます。
以 上