オンライン診療の報告書に記載する内容について
◆オンライン診療について
・障害者の権利に関する条約第25条は、締約国に対して障害者に他の者と同質の保健医療サービスを提供する立法上及び運用上の措置を講じるよう求めている。その意味でオンライン診療については、オンライン診療指針を基本としながら、他の者と同様に医療を受ける機会を提供する手段として捉え、整備される必要がある。
・患者の権利に関するリスボン宣言にある良質の医療を受ける権利や選択の自由の権利、自己決定の権利、情報に対する権利、守秘義務に対する権利等に則り、患者側の希望に鑑みてオンライン精神療法は実施される必要がある。
・オンライン診療は、対面診療との組み合わせによって効果を発揮するものである。しかし、このことは決して対面診療の補助手段としてオンライン診療があることを意味しているわけではないのではないか。あくまで、オンライン診療は対面診療と同等のひとつの診療方法として捉えられる必要があるのではないか。
・オンライン診療については、精神障害当事者会ポルケが実施した患者アンケート等によると、オンライン診察を利用したいというニーズが一定以上の割合あることが明らかになっている。通院に心身の負担がある患者にとっては、オンライン診療で治療環境が充実できることに期待の声がある。患者視点で見た場合のオンライン診療の有効性についても触れられるべきである。
・今後、オンライン精神療法を含む精神科領域でのオンライン診療についての学術研究や実践を促進する必要がある。
・オンライン診療をめぐっては、精神科医療従事者から不安の声が出ている。具体的には、「信頼関係の構築が困難ではないのか」、「プライバシーの問題はないのか」、「薬を転売すること目的で受診する者が増えまいか」、「商業主義的な診療が横行するのではないか」、といったことが挙げられる。しかし、これらの懸念はオンライン診療でなくとも生じるため、オンライン診療による懸念事項とは言い難い。また、対面と比べて取得できる情報が限られるとされているが、オンライン診療の強みや対面診療の弱みを総合的な観点で捉えていないのではないか。
・オンライン診療は、患者の生活環境が観察できる等のひとつの診療方法であり、対面診療の補助手段ではないのではないか。対面診療と比較して、オンライン診療のメリットやデメリットが評価されるのは不適当な側面もあるのではないか。
・オンライン診療は、通院にかかる負担の軽減につながることや居住地を選ばないこと、慣れた環境で受診することにより普段の状態や様子を把握できることなどの強みがある。また、「診察中に押さえつけられて非自発的入院にさせられる」といったリスクを感じている精神障害者にとっては、安心して受診できるという利点もある。
◆ガイドラインについて
・「初診精神療法をオンライン診療で実施することは行わないこと」とされたところであるが、一方で「上記課題の解消が進めば」ともされており、初診に関する「課題の解消」に当たっては、症例の蓄積が必要という議論があったものと理解している。
また、本検討会では、海外の症例やシステマティック・レビューについても紹介されているが、国内のオンライン診療の実績が少ないことから、エキスパートコンセンサスを中心に議論されていたため、将来的な初診からのオンライン診療の可能性を示唆しつつも、事実上、可能性がほとんど閉ざされているかのような印象を受けた。
初診におけるオンライン精神療法について、課題の解消に歯止めをかけるようなことが無いように、症例の蓄積は必ずしも初診だけではなく、再診の症例等も活用するなどのあり方が必要である。
・本指針には、「対面診療に心理的な負担を感じる」とある。この文言は、オンライン診療の場合なら診察室で無理矢理に押さえつけられて、そのまま非自発的入院となる心配がないという文脈で加えることが提案された経緯がある。非自発的入院の経験は、精神障害当事者にとって苦痛のために心的外傷になり得るものであり、結果として医療不信に陥ることもある。また、深刻な虐待が常態化している病院も存在すると報道で指摘されており、精神科医療全体への信用の問題も懸念している。
・そのような中で警戒心から初診を含めてもオンライン診療にしたいと望む声があるのは当然ではないか。今後は精神科の初診についても取り扱うオンライン指針の検討が必要ではないか。
・医療者と患者における信頼関係の構築についてはガイドラインの検討にあたって中心的な議論のひとつとなった。しかし、ここでいう信頼関係の構築とは並列的な関係ではないことを特筆するべきではないか。たとえば、病識は「単に病気であることの自覚を意味するものではなく、治療の必要性を理解して自ら治療を受けようとする状態」と○○においてされている。ここには、無条件で「患者は医療を受けるべき」という固定観念があり、治療を受けないのなら病識欠如というかたちで、医療者側の主張のみを軸とした判断がなされている。このような権力勾配における信頼関係というものは、専ら市民や患者が想定する信頼関係のそれとは構図が大きく異なる。
・患者が期待する本来的な信頼関係の構築とは、到達点ではなく、治療・援助する者と対象者との相互のコミュニケーションプロセスである。よって、オンライン精神療法を継続する中で信頼関係が形成、構築されることも大いにありうる。対面診療ありきからオンライン精神療法の妥当性を検討する方法は必ずしも適当とは言えないのではないか。
・オンライン診療に係る技術的発展は今後期待される。オンライン精神療法についてのあり方は技術的発展に応じて変更可能であると考えられることから、定期的な見直しをする必要がある。
・今後の見直しに当たっては、オンライン精神療法の国内の具体的な症例などをもとにした検討を行う必要がある。その際、オンライン精神療法についての実践者を中心に議論する必要がある。
・また、次回検討にあたっては、障害者団体が推薦する精神障害の当事者を複数名招聘すべきである。