身体拘束等の告示改正について(お願い)

公益社団法人日本精神保健福祉士協会
 会長 田村綾子 様
認定特定非営利活動法人DPI日本会議
 議長 平野みどり 様
認定特定非営利活動法人日本障害者協議会
 代表 藤井克徳 様
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会
 理事長 岡田久実子 様

 新緑の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、身体的拘束の縮減等に係る告示改正は、第210回臨時国会の附帯決議を踏まえて「患者の治療困難」という要件を使わずに一時性、切迫性、非代替性の要件を明確化することでコンセンサスが得られました。また、勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことも併せて確認されました。精神障害当事者の立場で意見を取りまとめてきた当会としましては、告示改正に反対する理由はないと考えます。しかし、一方では、障害者団体や関連団体の間で誤信に基づく錯綜が少なからず見受けられます。
 そこで交通整理のために論点をまとめましたので、貴会におかれましては、下記の論点について十分に検討を加えるとともに、精神障害当事者団体との協議を踏まえることなく告示改正に反対及び反対集会への名義後援をすることないように留意のほど、よろしくお願い申し上げます。


① 告示改正は、不十分ではあるが、現状を悪化させるものではないです。また、不十分な改正をよしとはしませんが、これ以上、入院者を現行告示下にとどめ置いたままにしてはいけません。そのため、告示改正反対ではなく、今後の課題を明らかにしていくような議論が不可欠です。
② 人身の自由にかかわる基準は、大臣告示ではなく法律に定めるべきだとの意見があります。しかし、私たち精神障害者は、法律に身体拘束を定め直せばよいなどとは全く考えません。
③ 告示改正の議論には、大畠判例(令和2年12月16日・名古屋高裁・令2(ネ)39号)が引き合いにだされます。しかし、大畠判例は、非代替性要件の欠如を理由に当時の身体拘束の違法性を認定したもので、告示改正の要件等とは直接的な関係はありません。
④ 一時性要件の「一時的に行なわれるものであり、必要な期間を越えて行なわれていないもの」の部分は、医師の裁量で恣意的に必要な期間を定められるようになるとの意見があります。しかし、告示の内容如何にかかわらず医師が決める仕組み自体から脱することができないため、告示とは無関係な議論に陥っています。そもそも、一時的であるべきと書かれており、それを越えておこなわれないとしていることとも論理的に矛盾します。このような不毛な議論には付き合うべきではありません。
⑤ 更に踏み込んだ改正をするには、政策エビデンスが不足しています。そのため、これ以上エキスパートコンセンサスを繰り返しても結果は大きく変わりません。障害を理由とした人身の自由はく奪は、障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見の趣旨に反しており、その観点からの調査が不可欠です。

身体的拘束告示改正の件について(お礼・ご報告)

 春暖の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。障害者権利条約対日審査に参画した唯一の当事者団体です。
 さて、全国「精神病」者集団は、精神科病院における身体的拘束の縮減に向けた当面の政策として、不穏多動を要件として拘束できるとする規定の削除及び切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化に係る告示改正を要求してまいりました。しかし、検討過程では、病院団体側から不穏多動要件の削除への強い抵抗があり、文言の整理という枠組みで「患者の治療困難」という新要件が提案されるなどの混乱が見られました。
 そのような中、第210回臨時国会で成立した障害者関連法案の附帯決議において、3要件を明確にするための告示改正と患者に対する治療が困難という文言によらない方策が盛り込まれたことを受けて、現在、告示改正の検討は「患者の治療困難」という要件を使わずに一時性、切迫性、非代替性の要件を明確化することでコンセンサスが得られました。
精神障害当事者の立場としては、①患者の治療困難を用いないこと、②一時性、切迫性、非代替性の要件を明確にすること、③勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことの3点の確約が取れましたので、告示改正に反対する理由はないと考えています。但し、告示改正は当面の方策に過ぎず、すでに障害を理由とした身体拘束の廃止を目指す段階に入っています。
 引き続き、障害を理由にした身体拘束の廃止に向けた取り組みを続けていく所存ですので、今後も、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
 敬 具 

【声明】身体的拘束告示改正について

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 精神科病院における身体的拘束は、2006年から2016年の10年間で2倍に増加し、その後も高止まりし続けていることから政策的な解決が必要であると考えて取り組んできました。「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」においては、当面の方策として第37条第1項大臣基準(告示)の「不穏及び多動が顕著な場合」という要件の削除を要求しましたが、病院団体からの強い反対があり、文言の整理にとどまることになりました。また、整理された文言の案文には、「検査処置」や「患者の治療困難」などの従来の要件にはなかったと考えられるものが挿入され、事実上の緩和になるのではないかといった反対意見も出てきました。やがて、病院団体は「患者の治療困難」を入れないなら告示改正自体を阻止すると言い出し、精神科医療の身体拘束を考える会は「患者の治療困難」を入れることにしかならないから告示改正は阻止するべきだと言い出しました。
 さらに精神科医療の身体拘束を考える会は「不穏多動要件の削除を主張しない」という方針を呼びかけ団体への相談もなく強行しました。結果として本来の目的であった「不穏多動を要件として拘束できるとする規定の削除」は、運動内でコンセンサスを得ることができず、あっけなく若干の修正を経て残されることになりました。障害当事者の意見を無視して、不穏多動要件の削除を主張せず、結果として不穏多動要件を告示に残した罪は重いと言わざるを得ません。
 やむを得ず、全国「精神病」者集団は、精神科病院における身体的拘束の縮減に向けた当面の政策として、「患者の治療困難」という文言を用いずに切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化に係る告示改正を要求することにしました。その一方で障害者権利条約の初回政府審査に係る総括所見において障害を理由とした身体拘束の廃止が勧告されたため、今後の検討事項に加えることを要求していきました。
 結果として、全国「精神病」者集団の意見が反映され、①患者の治療困難を用いないこと、②一時性、切迫性、非代替性の要件を明確にすること、③勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことの3点が実現する運びとなりました。今後は、勧告に従ったかたちで精神障害を理由とした身体拘束の廃止のための見直しを実現すべく、更なる取り組みを続けていきます。

【声明】堀合研二郎さんの大和市議会選挙当選について

 大和市会議員選挙において、堀合研二郎さんが初当選されました。当選を祝し、今後のご活躍を期待します。
 堀合さんは精神障害をもちながら、同じ精神障害者を支えていくためのピアサポート活動に長年取り組んできました。今回、そのような堀合さんが市政の場で活躍することは、これまでにない画期的なことです。
 議員活動については、ご自身の健康に留意しながら、ご活躍されることを期待します。

孝山会滝山病院事件における効果的な指導監督の検討に関する要望書

東京都福祉保健局精神保健医療課長 殿

全国「精神病」者集団  
共同代表 関口明彦・桐原尚之  

一般社団法人精神障害当事者会ポルケ  
代表理事 山田悠平  

 陽春の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 わたしたち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。今年に入って、孝山会滝山病院における深刻な不祥事が明らかになりました。「精神科病院に対する指導監督等の徹底について(平成一〇年三月三日 障第一一三号・健政発第二三二号・医薬発第一七六号・社援第四九一号)」には、地方精神保健福祉審議会は精神障害者の人権に配慮しつつその適正な医療及び保護を確保するため、定期的に開催するのみならず、精神病院の不祥事があった場合には、積極的にこれを審議することとし、審議内容については、可能な限り公開するようにすることされています。また、精神病院に対する効果的な指導監督等のあり方を検討するに当たっては、地方精神保健福祉審議会を積極的に活用することともされています。
 孝山会滝山病院事件は、入院患者を日常的に虐待していたことが指摘されている前代未聞の不祥事であり、積極的かつ定期的に東京都精神保健福祉審議会において審議する必要性があると考えます。つきましては、下記の要望をいたしますので、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

① 積極的かつ定期的に東京都精神保健福祉審議会を開催すること。
② 東京都精神保健福祉審議会においては、当事者団体及び法律家等で構成される第三者調査組織の設置及び調査の実施、再発防止に向けた効果的な指導監督のあり方、そして、入院患者の転院及び退院に向けた聞き取りの方策を審議事項にすること。
以 上 

【声明】第8次医療計画の成立について

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2023年3月31日、医政局通知「第8次医療計画について」が公表されました。全国「精神病」者集団は、従来の運動が病床削減を主張する一方で、都道府県が整備する病床数について定めた基準病床算定式に意見をしてこなかったことを批判的に総括し、克服するべく第8次医療計画に対して積極的に意見を出してきました。その結果、第8次医療計画の基準病床算定式は、第7次医療計画の基準病床算定式と異なり、重度かつ慢性や治療影響値といった政策効果に係る値が取り払われ、一般医療に近いシンプルなものになりました。
 一方で、病床数のダウサイジングは念頭におかれはしているものの、ドラスティックな病床削減を示唆するようなものにはなっておらず、指標例にも非自発的入院の縮減など全国「精神病」者集団が要求してきたものが先送りにされました。
 このような結果を招いた要因の一つとして認知症問題への取り組みが不十分だったことがあげられます。第7次医療計画と第8次医療計画は、ともに認知症をその他の精神疾患から切り分けることで成り立っており、最も大きな課題を残すかたちになりました。今日の精神科病院における諸問題は、認知症の問題という側面が強く、長期入院、病床数、身体拘束の増加、死亡退院などの問題に正面から向き合うのならば認知症の問題は避けて通れないはずです。それなのにもかかわらず、我々を含む多くの団体が認知症の仲間との連帯を十分におこなおうともせず、まるで統合失調症や双極性障害、依存症、摂食障害、発達障害といった精神疾患さえ助かればよいかの如く、ふるまってきたのではないかと思います。
 これ以上、認知症を除外して成り立つ基準病床算定式をこのままにしておくことはできません。認知症も精神及び行動の障害であり、本来は同じ仲間です。私たち全国「精神病」者集団は、第8次医療計画中間評価と第9次医療計画に向けて認知症の仲間と連帯し、診断名別の分断をよしとする医学モデル的な考え方と決別すべく、取り組んでいくことをここに決意します。

孝山会滝山病院事件に係る調査の申し入れ

公益社団法人 日本精神神経学会
理事長  久住一郎 様

 陽春の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 わたしたち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。今年に入って、孝山会滝山病院における深刻な不祥事が明らかになりました。孝山会滝山病院事件は、入院患者を日常的に虐待していたことが指摘されている前代未聞の不祥事であり、貴学会において調査をおこなうべき事案であると考えます。
 つきましては、下記の要望をいたしますので、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

① 学会として孝山会滝山病院の調査をおこなうこと。
② 調査チームには精神障害当事者を入れること。
以 上 

令和4年度障害者総合福祉推進事業「障害者ピアサポーター実態把握及び研修におけるツール作成のための調査研究」報告書に記載を求める事項

◯第210回臨時国会において成立した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議には、「多様なピアサポーターの活動の価値や専門性を分かりやすく伝える観点も踏まえつつ、障害者ピアサポート研修事業の研修カリキュラムの見直しを検討すること。」が入った。現行の障害者ピアサポーター養成研修は、障害福祉サービス事業所等に雇用され、障害の経験を活用しながら対人援助する者を対象としたカリキュラムになっている。しかし、実際に地方公共団体が実施する障害者ピアサポーター養成研修の多くは、受講対象者を障害福祉サービス事業所等に雇用される障害者に限らず幅広く募っている。その事実を踏まえて、今後はカリキュラムを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯ピアサポートは、経験を活用した対人援助であると説明されているが、経験の活用はピアサポーターの専門性を裏付けるだけの排他性、特殊性が認められず、説明としては不十分である。例えば、地域移行の意欲喚起のための病院訪問・面会活動は、入院経験のあるピアサポーターじゃなくても同じ障害者の立場というだけで効果を発揮できるものである。そのため、障害者という立場に依拠した活動と定義した方が幅広い活動を捉えられるようになる。カリキュラムを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯現在のカリキュラム及びテキストは、ピアサポーターと他職種が共通の目標に向かって連携することが踏まえられているが、ピアサポーターが他職種とは異なる立場で対立・連携をしていくことを踏まえた記述に厚みがない。また、アンガーマネジメントでは、ピアサポート活動に必要な「怒り」の要素もネガティブなものとしてしか捉えられていない。カリキュラムやテキストを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯障害者ピアサポーター養成研修のテキストでは、障害者によるピアサポート活動の歴史が紹介されているが、精神障害の部分だけ大部分を海外のピアサポート活動の歴史に依拠して紹介されている。しかし、海外の歴史に依拠しているのに地理的条件を踏まえた記述にはなっておらず、今後は国内のピアサポート活動の歴史に依拠した記述に改めていく必要がある。テキストは、多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点からカリキュラムとともに見直す必要がある。

◯2021年4月からピアサポートの専門性を報酬で評価する仕組みが導入された。なお、ピアサポートに係る加算の取得要件は、障害者ピアサポーター養成研修基礎編及び専門編の受講である。報酬が付与されたのは、言わずもがな利用者へのサービス提供において、ピアサポートによる追加の効果が供与されるからである。しかし、カリキュラムの一部には、ピアサポーターが継続して雇用することを趣旨とした科目など、サービス提供における利用者の利益とは異なる観点から設定されたものも散見される。今後、カリキュラムはピアサポーターの専門性を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯カリキュラムやテキストの見直しにあたっては、ピアサポーターからの支援を受けた利用者の経験について質的調査をおこない、平成27年度 障害者支援状況等調査研究事業「障害福祉サービス事業所等におけるピアサポート活動状況調査」及び平成31年度障害者総合福祉推進事業「障害福祉サービスの種別ごとのピアサポートを担う人材の活用のための調査研究」において十分に明らかにされていない論点を抽象し、多角的な視点から政策エビデンスに位置付けていく必要がある。

◯2021年度から2023年度までの地方公共団体の取り組みを丁寧に聞き取り、それを踏まえてカリキュラムの設計を見直す必要がある。

◯リカバリーについては、テキスト中に解説があるものの出典等について明記されていない。また、テキスト中のリカバリーの含意は、統一性がなく恣意的に使われているきらいが否めない。テキストは、障害者の権利に関する条約の理念や社会モデルに基づいて執筆される必要がある。リカバリーをめぐっては、同条約との関係で「すべての人の身体的精神的な到達しうる最高水準の健康の享受の権利に関する特別報告者」のレポート(A/HRC/35/21・2017年3月28日・国連人権理事会第35会期)に記載がある。なお、その内容によると、生物学的精神医学へのオルタナティブを伴うものとされている。このような観点からテキストをブラッシュアップしていく必要がある。

【出典】
すべての人の身体的精神的な到達しうる最高水準の健康の享受の権利に関する特別報告者報告(A/HRC/35/21・2017年3月28日・国連人権理事会第35会期)
28. 政策を形成し証拠を導入する研究領域に権力あるアクターが影響を与えている。精神保健と政策の分野の科学的研究は多様な資金の欠如に苦しみ続けており、神経生物的なモデルに焦点を当てたままでいる。とりわけ、アカデミックな精神医学は、精神保健政策とサービスのための資源分配とガイドラインの原則を情報提供することで多大な影響力を行使している。アカデミックな精神医学は、その研究課題を精神的健康の生物学的素因にほぼ限定している。こうした偏りはまた医学部の教育も支配しており、次世代の専門職に伝える知識を制限し、精神的健康に影響するまたリカバリーに貢献する様々な要素の広がりについての理解を奪っている。
29. 生物学的医学への偏りのために、新たに発見された証拠と、政策の発展と実践にそれをいかに情報提供していくかの間での案ずべき遅れが生じている。何十年もたった今経験的なまた科学的な研究による情報から根拠ある証拠が蓄積され、それらは心理社会的、リカバリー志向のサービス、そして支援と非強制的な、今あるサービスに代わるオルタナティブを支持してきている。こうしたサービスへのそしてその背後にいる利害関係者に対しての促進と投資なしでは、それらは周辺化されたままになりそしてそれらがもたらすと期待される変化を不可能にしてしまうだろう。

令和4年度推進事業「精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究」報告書に記載を求める事項

〇 今後の検討課題について
 障害者の権利に関する条約第14条第1項には、自由の剝奪が障害の存在によって正当化されないように措置を講じることを求める規定がある。この場合の障害の存在とは、国連障害者の権利に関する委員会が公表した第14条に関するガイドラインによると障害の存在に加えて追加の要件によるものを含むこととされている。例えば、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第 37 条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(昭和 63 年厚生省告示第 130 号)の定めのように、精神障害者で不穏及び多動が顕著であり、生命に切迫した危機があって、他に良い方法がない場合に一時的におこなわれる身体的拘束が該当し得る。
 また、障害者の権利に関する条約第15条第1項には、障害者が自由な同意なしに医学的な介入を受けないための措置を求める規定がある。障害者の権利に関する条約初回政府審査に係る総括所見のパラグラフ33には、精神科病院における障害者の隔離、身体的拘束、強制的な治療への懸念が示されており、パラグラフ34では、こうした医学的介入に対して全ての法規定の廃止について勧告が出されている。このことから、精神障害者であることを要件とする隔離・身体的拘束を定めた法令は廃止されなければならない。
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律附則第3条には、「政府は、精神保健福祉法の規定による本人の同意がない場合の入院の制度の在り方等に関し、精神疾患の特性及び精神障害者の実情等を勘案するとともに、障害者の権利に関する条約の実施について精神障害者等の意見を聴きつつ、必要な措置を講ずることについて検討する」とある。なお、この場合の障害者の権利に関する条約の実施には、初回政府審査に係る総括所見を含むものと加藤勝信厚生労働大臣が第210回臨時国会衆議院厚生労働委員会において答弁している。
 第210回臨時国会において成立した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議には、「国連障害者権利委員会の対日審査の総括所見における、精神保健福祉法及び心神喪失者等医療観察法の規定に基づく精神障害者への非自発的入院の廃止等の勧告を踏まえ、精神科医療と他科の医療との政策体系の関係性を整理し、精神医療に関する法制度の見直しについて、精神疾患の特性も踏まえながら、精神障害者等の意見を聴きつつ検討を行い、必要な措置を講ずること。」が入った。
 当面は、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書にまとめられたように告示第 130 号の見直しを進めていくことにはなるが、ゆくゆくは勧告に従って精神障害者であることを要件とした法令の廃止を検討していく必要がある。

〇 多動又は不穏が顕著である場合の削除について
 本検討委員会では、当事者の委員から告示第 130 号の身体的拘束に関する事項のイ多動又は不穏が顕著である場合の削除を求める意見が繰り返し出された。なお、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書では、多動又は不穏が顕著である場合は拡大解釈のおそれがあるため要件から削除すべきとの意見、身体拘束を原則廃止すべきとの意見、治療の必要性の要件については身体的拘束について新たな対象を生み出すおそれがあるのではないかとの意見があったことが記録されている。
 多動又は不穏が顕著な場合の要件(以下、「多動不穏要件」とする。)は、これまで単に多動又は不穏というだけで身体的拘束を開始してよいとの誤解を招いてきた側面がある。著しく不適切な身体的拘束に係る事例の中には、多動又は不穏の症状を呈したというだけで――三要件を満たさないのにもかかわらず――身体的拘束の指示に至ったというものが散見される。また、薬物療法の副作用の影響によるもので運動亢進症状によらない通常の錐体外路症状の運動過多を「多動」と位置付けて身体的拘束の対象とする事例なども散見される。もっとも、錐体外路症状に伴った内的不穏があるとされれば、道理が立ち得るわけですが、そのこと自体、多動不穏要件が曖昧であると当事者団体が主張する理由である。
 本来、要件とは、増えれば増えるほど、対象が狭くなるものである。しかし、要件を複数にすることで厳格化していく対策とは別に、現場においてどう読まれていくのかという問題がある。現場では、告示の文章に溶け込んだ医学用語には特にフォーカスが当てられるきらいがある。そのため、実際には多動又は不穏というだけで身体的拘束に至る例があり、増加の懸念が否めない。その意味では、多動不穏要件の削除が、国として身体的拘束を減らしていく方向性を示した象徴的な政策になると考える。

〇 研修資料について(スライド参照)
 2006年12月、国連総会において障害者の権利に関する条約が採択された。障害者の権利に関する条約は、障害者に対して新たな権利を付け足すことを目的としたものではなく、他の者が享受できていて障害者が享受できていない権利を平等な水準にまで押し戻すことを目的としたものである。障害者の権利に関する条約は、障害の社会モデル(人権モデル)を理念としている。社会モデルは、障害は個人ではなく社会にあるという考え方のことである。ここでいう社会の障害とは、個人ではなく社会に原因があるという考え方や個人ではなく社会に責任があるという考え方など複数の考え方が存在する。障害者の権利に関する条約は、包摂型社会(インクルーシブ社会)を目指したものである。包摂型社会(インクルーシブ社会)は、障害の社会モデルに基づくアプローチを徹底させた場合の完成形であり、地域に障害者が当たり前に生活できる社会をイメージしたものである。もともと障害者は、施設等に隔絶された空間に集められて処遇されてきた。このことによって他の者と障害者の接点は失われてゆき、社会の在り方も障害者がいないことを前提としたものになっていった。社会的障壁のある地域社会では、障害者が当たり前に生活するには困難が付きまとい、他の者と等しい扱いも受けられないことになる。しかも、その原因や責任を、障害者個人の機能障害に求めていく考え方も根強く残っている。ここから包摂を目指すためには、障害者と他の者の接点を増やしていくような統合のアプローチを続けていくほかない。
 障害者の権利に関する条約第14条第1項には、自由の剝奪が障害の存在によって正当化されないように措置を講じることを求める規定がある。この場合の障害の存在とは、国連障害者の権利に関する委員会が公表した第14条に関するガイドラインによると障害の存在に加えて追加の要件によるものを含むこととされている。例えば、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第 37 条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(昭和 63 年厚生省告示第 130 号)の定めのように、精神障害者で不穏及び多動が顕著であり、生命に切迫した危機があって、他に良い方法がない場合に一時的におこなわれる身体的拘束が該当し得る。
 また、障害者の権利に関する条約第15条第1項には、障害者が自由な同意なしに医学的な介入を受けないための措置を求める規定がある。障害者の権利に関する条約初回政府審査に係る総括所見のパラグラフ33には、精神科病院における障害者の隔離、身体的拘束、強制的な治療への懸念が示されており、パラグラフ34では、こうした医学的介入に対して全ての法規定の廃止について勧告が出されている。

R4障害者総合福祉推進事業「情報通信機器を用いた精神療法を安全・適切に実施するための指針の策定に関する検討」報告書に記載を求める事項

オンライン診療の報告書に記載する内容について

◆オンライン診療について

・障害者の権利に関する条約第25条は、締約国に対して障害者に他の者と同質の保健医療サービスを提供する立法上及び運用上の措置を講じるよう求めている。その意味でオンライン診療については、オンライン診療指針を基本としながら、他の者と同様に医療を受ける機会を提供する手段として捉え、整備される必要がある。

・患者の権利に関するリスボン宣言にある良質の医療を受ける権利や選択の自由の権利、自己決定の権利、情報に対する権利、守秘義務に対する権利等に則り、患者側の希望に鑑みてオンライン精神療法は実施される必要がある。

・オンライン診療は、対面診療との組み合わせによって効果を発揮するものである。しかし、このことは決して対面診療の補助手段としてオンライン診療があることを意味しているわけではないのではないか。あくまで、オンライン診療は対面診療と同等のひとつの診療方法として捉えられる必要があるのではないか。

・オンライン診療については、精神障害当事者会ポルケが実施した患者アンケート等によると、オンライン診察を利用したいというニーズが一定以上の割合あることが明らかになっている。通院に心身の負担がある患者にとっては、オンライン診療で治療環境が充実できることに期待の声がある。患者視点で見た場合のオンライン診療の有効性についても触れられるべきである。

・今後、オンライン精神療法を含む精神科領域でのオンライン診療についての学術研究や実践を促進する必要がある。

・オンライン診療をめぐっては、精神科医療従事者から不安の声が出ている。具体的には、「信頼関係の構築が困難ではないのか」、「プライバシーの問題はないのか」、「薬を転売すること目的で受診する者が増えまいか」、「商業主義的な診療が横行するのではないか」、といったことが挙げられる。しかし、これらの懸念はオンライン診療でなくとも生じるため、オンライン診療による懸念事項とは言い難い。また、対面と比べて取得できる情報が限られるとされているが、オンライン診療の強みや対面診療の弱みを総合的な観点で捉えていないのではないか。

・オンライン診療は、患者の生活環境が観察できる等のひとつの診療方法であり、対面診療の補助手段ではないのではないか。対面診療と比較して、オンライン診療のメリットやデメリットが評価されるのは不適当な側面もあるのではないか。

・オンライン診療は、通院にかかる負担の軽減につながることや居住地を選ばないこと、慣れた環境で受診することにより普段の状態や様子を把握できることなどの強みがある。また、「診察中に押さえつけられて非自発的入院にさせられる」といったリスクを感じている精神障害者にとっては、安心して受診できるという利点もある。

◆ガイドラインについて

・「初診精神療法をオンライン診療で実施することは行わないこと」とされたところであるが、一方で「上記課題の解消が進めば」ともされており、初診に関する「課題の解消」に当たっては、症例の蓄積が必要という議論があったものと理解している。
また、本検討会では、海外の症例やシステマティック・レビューについても紹介されているが、国内のオンライン診療の実績が少ないことから、エキスパートコンセンサスを中心に議論されていたため、将来的な初診からのオンライン診療の可能性を示唆しつつも、事実上、可能性がほとんど閉ざされているかのような印象を受けた。
初診におけるオンライン精神療法について、課題の解消に歯止めをかけるようなことが無いように、症例の蓄積は必ずしも初診だけではなく、再診の症例等も活用するなどのあり方が必要である。

・本指針には、「対面診療に心理的な負担を感じる」とある。この文言は、オンライン診療の場合なら診察室で無理矢理に押さえつけられて、そのまま非自発的入院となる心配がないという文脈で加えることが提案された経緯がある。非自発的入院の経験は、精神障害当事者にとって苦痛のために心的外傷になり得るものであり、結果として医療不信に陥ることもある。また、深刻な虐待が常態化している病院も存在すると報道で指摘されており、精神科医療全体への信用の問題も懸念している。

・そのような中で警戒心から初診を含めてもオンライン診療にしたいと望む声があるのは当然ではないか。今後は精神科の初診についても取り扱うオンライン指針の検討が必要ではないか。

・医療者と患者における信頼関係の構築についてはガイドラインの検討にあたって中心的な議論のひとつとなった。しかし、ここでいう信頼関係の構築とは並列的な関係ではないことを特筆するべきではないか。たとえば、病識は「単に病気であることの自覚を意味するものではなく、治療の必要性を理解して自ら治療を受けようとする状態」と○○においてされている。ここには、無条件で「患者は医療を受けるべき」という固定観念があり、治療を受けないのなら病識欠如というかたちで、医療者側の主張のみを軸とした判断がなされている。このような権力勾配における信頼関係というものは、専ら市民や患者が想定する信頼関係のそれとは構図が大きく異なる。

・患者が期待する本来的な信頼関係の構築とは、到達点ではなく、治療・援助する者と対象者との相互のコミュニケーションプロセスである。よって、オンライン精神療法を継続する中で信頼関係が形成、構築されることも大いにありうる。対面診療ありきからオンライン精神療法の妥当性を検討する方法は必ずしも適当とは言えないのではないか。

・オンライン診療に係る技術的発展は今後期待される。オンライン精神療法についてのあり方は技術的発展に応じて変更可能であると考えられることから、定期的な見直しをする必要がある。

・今後の見直しに当たっては、オンライン精神療法の国内の具体的な症例などをもとにした検討を行う必要がある。その際、オンライン精神療法についての実践者を中心に議論する必要がある。

・また、次回検討にあたっては、障害者団体が推薦する精神障害の当事者を複数名招聘すべきである。