身体拘束等の告示改正について(お願い)

公益社団法人日本精神保健福祉士協会
 会長 田村綾子 様
認定特定非営利活動法人DPI日本会議
 議長 平野みどり 様
認定特定非営利活動法人日本障害者協議会
 代表 藤井克徳 様
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会
 理事長 岡田久実子 様

 新緑の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、身体的拘束の縮減等に係る告示改正は、第210回臨時国会の附帯決議を踏まえて「患者の治療困難」という要件を使わずに一時性、切迫性、非代替性の要件を明確化することでコンセンサスが得られました。また、勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことも併せて確認されました。精神障害当事者の立場で意見を取りまとめてきた当会としましては、告示改正に反対する理由はないと考えます。しかし、一方では、障害者団体や関連団体の間で誤信に基づく錯綜が少なからず見受けられます。
 そこで交通整理のために論点をまとめましたので、貴会におかれましては、下記の論点について十分に検討を加えるとともに、精神障害当事者団体との協議を踏まえることなく告示改正に反対及び反対集会への名義後援をすることないように留意のほど、よろしくお願い申し上げます。


① 告示改正は、不十分ではあるが、現状を悪化させるものではないです。また、不十分な改正をよしとはしませんが、これ以上、入院者を現行告示下にとどめ置いたままにしてはいけません。そのため、告示改正反対ではなく、今後の課題を明らかにしていくような議論が不可欠です。
② 人身の自由にかかわる基準は、大臣告示ではなく法律に定めるべきだとの意見があります。しかし、私たち精神障害者は、法律に身体拘束を定め直せばよいなどとは全く考えません。
③ 告示改正の議論には、大畠判例(令和2年12月16日・名古屋高裁・令2(ネ)39号)が引き合いにだされます。しかし、大畠判例は、非代替性要件の欠如を理由に当時の身体拘束の違法性を認定したもので、告示改正の要件等とは直接的な関係はありません。
④ 一時性要件の「一時的に行なわれるものであり、必要な期間を越えて行なわれていないもの」の部分は、医師の裁量で恣意的に必要な期間を定められるようになるとの意見があります。しかし、告示の内容如何にかかわらず医師が決める仕組み自体から脱することができないため、告示とは無関係な議論に陥っています。そもそも、一時的であるべきと書かれており、それを越えておこなわれないとしていることとも論理的に矛盾します。このような不毛な議論には付き合うべきではありません。
⑤ 更に踏み込んだ改正をするには、政策エビデンスが不足しています。そのため、これ以上エキスパートコンセンサスを繰り返しても結果は大きく変わりません。障害を理由とした人身の自由はく奪は、障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見の趣旨に反しており、その観点からの調査が不可欠です。