被災医療機関と患者の実態把握に関する質問書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長田原克志様

 このたび、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課は、「地震により被災した精神疾患者の科医療機関へ受け入れついて」と称する事務連絡を公益社団法人日本精神科病院協会、独立行政法人国立病院機構、公益社団法人全国自治体病院協議会の三団体にだし、災害派遣精神医療チームによる被災した精神医療機関の患者の転院調整をしているため、転院先として入院患者の受け入れを促す文書を出しました。
 私たちは、東日本大震災において独自で実態把握に努めた結果、被災医療機関からの転院後の処遇に問題があるケース、医学的な理由ではなく被災を理由とした新規入院をするケース(住む場所や薬がないために入院するケース及び被災した家の家族に精神障害者がいると親戚の家に避難させてもらえないからという理由で入院するケースなど)を確認しました。また、被災が原因で入院した人が地域移行できないといった状態を多数確認しており、こうした事態はもっとも避けられなければならない事態であると考えております。
 現状の問題を確認していくうえでも実態の把握が不可欠と考えますので、次の実数、質問についてお答えください。
一、被災医療機関の名称と病床数
二、被災医療機関からの患者の受け入れ実数及び受け入れ先医療機関名
三、被災者の新規入院の実数
四、受入れ後の転帰などの実数把握をしていく予定はあるか
五、受入れ被災者地域移行は視野に入れているのか
六、被災者の受け入れにより定員を超過した精神科病院の入院者数の把握はするのか
2016年4月27日

震災対応に関する意見書

公益社団法人日本精神科病院協会 御中
独立行政法人国立病院機構 御中
公益社団法人全国自治体病院協議会 御中

 このたび、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課は、「地震により被災した精神疾患者の科医療機関へ受け入れついて」と称する事務連絡を公益社団法人日本精神科病院協会、独立行政法人国立病院機構、公益社団法人全国自治体病院協議会の三団体にだし、災害派遣精神医療チームによる被災した精神医療機関の患者の転院調整をしているため、転院先として入院患者の受け入れを促す文書を出しました。
 私達は、次の箇条書きを深刻に憂慮しているため、十分に考慮していただきたく意見を申し上げます。

一、社団法人日本精神神経学会は平成23年4月20日に「東日本大震災被災地における調査・研究に関する緊急声明文」を出しました。この声明文は他科の医師から「各都道府県から派遣されて支援に来た『こころのケア』チームと、各大学の精神科チームが別個に行動していて合同ミーティングの場を提供しても合意が得られず困惑している」、「功名心を抑えない非人道的な調査を行っている」、「精神科チームのメンバーが、『自分たちは自己完結型のチームだから、他のチームとは交流しない』と明言している」などの問題が提起され至ったものです。このたびの震災においても他科の医師団体と協調の上、前回のような被災者・患者の不利益になるような言動を慎まれることを申し上げます。

二、2011年3月15日、転院者の受け入れのため、定員を超えて患者を入院させることができるとする通達(厚生労働省保険局医療課長・老健局老人保健課長通知「平成23年東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震の被災に伴う保険診療関係等の取扱いについて」)が出されました。ところで治療の必要性のない精神障害者の長期入院(社会的入院)が問題とされて久しいですが、こうした問題の解決を一方でしていく必要があるにもかかわらず、被災医療機関から受入医療機関へと右から左に患者を転院させていることが疑
われます。よって、病床の計画的な削減を含む、長期入院問題の解消に向けた取り組みと表裏一体的に取り組まれることを意見申し上げます。

三、私達は、東日本大震災の際に精神科病院おいて被災医療機関からの転院後の処遇に問題があるケース、医学的な理由ではなく被災を理由とした新規入院をするケース(住む場所や薬がないために入院するケース及び被災した家の家族に精神障害者がいると親戚の家に避難させてもらえないからという理由で入院するケースなど)を確認しています。とりわけて被災が原因で入院した人が地域移行できないといった状態を多数確認しており、こうした事態はもっとも避けられなければならない事態であると考えます。

四、「厚生労働大臣の定める入院患者数基準及び医師等員並に入院基本料の算定方法について」(平成18年3月23日保医発第0323003号)では、被災者を受け入れた場合の定員超過厳格措置の適応除外規定があり、この機に報酬のために精神障害者が不要な入院を強いられるのではないかと懸念します。
 2016年4月27日

成年後見制度利用促進法案反対の報告

成年後見制度利用促進法案反対の報告

 今国会で上程される見込みの成年後見制度利用促進法案及び家事手続法改正(以下、成年後見制度利用促進法案)は、①後見人の医療同意が可能になる、②意思決定支援への配慮、③信書等の送付を後見人に直接できるようにする、などの改正が見込まれています。
 この法案の最大の問題点は、障害者権利条約違反などすでに問題が指摘されている成年後見制度をわざわざ促進しようとする点と、それから成年後見人等に対して医療同意の代諾をできるようにさせたことだと思います。
 成年後見制度とは、精神障害等の理由で判断能力がないと見なされた人の契約行為などを有効と見なさずに、成年後見人等の法定代理人が代わりに決定したものを有効と見なす制度です。この制度は、障害を理由に契約行為等を制限してはならないとする障害者権利条約第12条に違反するとの指摘があります。また、従来の成年後見制度においては、成年後見人の業務の範囲に医療同意は含まれていませんでしたが、この先、成年後見人等が医療同意を代諾できるようになれば、それは完全に強制医療ということになります。これまで精神保健福祉法は、強制入院を規定していましたが、強制医療(侵襲行為それ自体を同意なくする手続き)までは規定しているとは言えませんでした。たとえば、無理やり投薬させるとか、無理やり電気ショックをするという手続き自体を定めてはいなかったということです。しかし、成年後見人等が代諾した場合は、精神障害者本人が医療同意したことと同じ扱いになるわけですから、いかなる治療介入をも可能としていきます。もちろん、これまでも半ば強引に、強制医療というべき投薬治療や電気ショックが運用でされてきたわけですが、現在では、これに対して少なくとも裁判において不法行為を主張する余地があるわけです。例えば、ロボトミー裁判闘争は、その先駆的な闘争でした。しかし、成年後見制度利用促進法案は、法律によって精神障害者本人が同意したことと同じ扱いになるため、不法行為であるとして訴訟する余地がありません。否、そもそも成年被後見人は、裁判だって自由にできるわけではありませんし、なにかと法律によって行為を制限されてしまいます。
 さらに、怖れるべきは、成年後見人による医療提供拒否の代理決定による尊厳死を開く点に問題があると考えられます。従来の尊厳死は、尊厳のある死の自己決定(実際には本人の決定を根拠とした殺人です)なる優生思想に満ちた提案であったわけですが、今回の場合は、尊厳のある死の代理人による代行決定という、より危ない考え方であるといえます。どういうわけか、2016年2月25日、久方ぶりに「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」が開催されており、意思決定の話しも出されました。厚生労働省が示した「意思決定支援の概要」も医療同意に関するウェートが大部分を占めています。明らかに、意思決定支援をして本人の尊厳のある死を選択する意思を十分に確認した、よって成年後見人が尊厳死の代理意思決定をする、という図式で障害者抹殺が図られていく準備が着々と進んでいることを意味するのだと思います。
 3月31日、私たちは池原毅和(弁護士)、関口明彦(全国「精神病」者集団・元内閣府障害者政策委員)、岡部宏生(ALS当事者、NPO法人さくら会)、川口有美子(NPO法人さくら会)による合同記者会見を実施しました。このアクションでメディアが反対の世論を伝える方に動き出し、結果として、疑義が呈されている事実を知らせることができました。また、ALSのグループと共闘、連帯できたことは、私たちにとってもっとも大きな収穫でした。
 この法案は、4月8日に国会で可決、成立したため、今後も注意を要します。私たちは、たとえ国会で成年後見制度利用促進法案が可決しても、本体である成年後見制度の解体に向けて、あらゆる手段を尽くして闘わなければなりません。

合同記者会見のご案内

会見内容:成年後見制度の利用の促進に関する法律案の反対若しくは慎重審議について
時間:3月31日、14時00分から14時50分まで
場所:厚生労働記者クラブ(中央合同庁舎第9 F)
発言者;
池原毅和(弁護士・東京アドヴォカシー法律事務所長)
岡部宏生(NPO法人ALS/MND サポートセンターさくら会・ALSの当事者)※介助者2名のコミュニケーション支援による発話
川口有美子(NPO法人ALS/MND サポートセンターさくら会)
関口明彦(全国「精神病」者集団運営委員・元内閣府障害者政策委員)

プレスリリース
成年後見制度の利用の促進に関する法律案は、2016年3月31日か4月5日の参議院内閣委員会において審議される見込みであると聞いています。成年後見制度利用促進法案は、①障害者権利条約第12条に違反するとされている成年後見制度をせめて最小化するというわけでなく、むしろ利用を促進するという点で国際人権法の潮流に逆行するものであること、②法案成立後に医療同意など後見人の業務拡大を検討することとされており、延命治療を始めとする必要な治療を中断する代諾や認知症高齢者を精神科病院に入院させる代諾による新たな問題が懸念されること、などから慎重な審議が必要であるといわれています。
また、成年後見制度利用促進法案は、改正される法律の範囲も広く、従来の成年後見制度の手続きの改正にまで及ぶものとなっています。たとえば、成年被後見人宛の郵便物を成年後見人等が直接受け取れるとする改正は、本来、本人以外の者による信書の開封の是非といった刑法にまで及ぶものであり、法務委員会での検討を要するものと考えます。そのため、参考人もよばずに内閣委員会で数十分の質疑で可決されていいような法律ではありません。

成年後見制度利用促進法案に反対する合同記者会見の報告

3月31日の14時から厚生労働記者クラブにおいて成年後見制度利用促進法案の反対緊急合同会見が行われた。
出席者は、弁護士の池原毅和氏(東京アドヴォカシー法律事務所長)と全国「精神病」者集団運営委員である関口明彦氏(元内閣府障害者政策委員)、ALSの当事者である岡部宏生氏(さくら会)、さくら会の川口有美子氏である。会見には約8名の記者が集まった。
池原氏からは、成年後見制度自体に内在する問題を指摘したうえで、障害者権利条約など国際社会に照らせば、代理人による決定を推進する法案は時代に逆行している動きだと主張した。関口氏は、精神障害の当事者の立場から、強制入院の問題をあげ、意思決定という文脈では本人の意思にかかわらず代理人によって決定されてしまう点では変わりないと指摘した。さらに、最も成年後見制度の対象とされる精神障害者と知的障害者が障害者政策委員から除外された状態で進められている現状を強く批判した。ALSの当事者である岡部氏は、コミュニケーションが介助者を通してしかできない自身の状態をさらしながら、意思を読み取られない状況に置かれている当事者が多くいること、またそのことで意思が阻害されてしまっている状況を訴えた。そして代理人による決定でもなく、過去の自分の決定でもなく、現在の自分の意思を読み取ってほしいと述べ、当事者の自己決定を保障する制度の検討を求めた。さくら会の川口氏は、本人の意思が身近な家族によって疎外されてしまう現状を述べ、その要因の一つには重度訪問介護などの介護制度の地域格差があると指摘した。そしてまず検討されるべきことは、代理人による医療同意の検討ではなく、重度訪問介護などの介護制度の充実であると主張した。
記者には、弁護士と精神障害当事者とALSの当事者が、この法案のどのような点が問題として一致するのか、それぞれの立場から主張が展開されたことによって理解してもらえたと思う。会見が終わってからも、それぞれにたいして記者が熱心に取材していたことからも、手ごたえがあった。

これによって4月1日には『朝日新聞』が記事を出し、4月2日には『東京新聞』がかなり写真付きの大きな記事を出してくれました。また、5月ごろには『社会新報』が成年後見制度についてまとまった記事を作ってくれることを約束してくれました。これらの新聞に先駆けて『京都新聞』が11月に出した記事の効果は大きかったといえます。

成年後見制度利用促進法案をめぐる議会運営のあり方に抗議し、法務委員会その他での検討を求めます!

成年後見制度利用促進法案をめぐる議会運営のあり方に抗議し、法務委員会その他での検討を求めます!
 成年後見制度利用促進法案は、2016年3月31日の参議院内閣委員会において上程、審議される見込みであると聞いています。成年後見制度利用促進法案は、①障害者権利条約第12条に違反するとされている成年後見制度をせめて最小化するというわけでなく、むしろ利用を促進するという点で国際人権法の潮流に逆行するものであること、②法案成立後に医療同意など後見人の業務拡大を検討することとされており、延命治療を始めとする必要な治療を中断する代諾や認知症高齢者を精神科病院に入院させる代諾による新たな問題が懸念されること、などから慎重な審議が必要であるといわれています。
 にもかかわらず、この時期に早急に国会に上程され、短い質問時間で可決する議会運営をしているのは、政権与党による士業団体の利益となるような便宜を図ることで選挙の票にしようとする意図があると伝えられています。すなわち、サラ金による不当利得返還が士業団体にとっての稼ぎ口ではなくなるので、新たな稼ぎ口として成年後見制度が注目されているということです。これによって障害者は、食い物にされるばかりではなく、成年被後見人の意思を尊重しない成年後見人の決定に対してなんらかの救済機能に開かれていないにもかかわらず、やみくもに利用が促進され、自分の通帳を見ることができない、成年後見人ではない家族は成年後見人の許可がなければ成年被後見人の自宅の敷地内に入ることさえできないなどの実際に起きている被害を拡大していくことになります。
 また、成年後見制度利用促進法案は、改正される法律の範囲も広く、従来の成年後見制度(民法)の手続きの改正にまで及ぶものとなっています。たとえば、成年被後見人宛の郵便物を成年後見人等が直接受け取れるとする改正は、本来、本人以外の者による信書の開封の是非といった刑法にまで及ぶものであり、法務委員会での検討を要するものと考えます。そのため、参考人もよばずに内閣委員会で数十分の質疑で可決されていいような法律ではありません。
 私たちは、成年後見制度や成年後見制度利用促進法案への反対もさることながら、この議会運営のあり方に対して納得していません。まるで票になる士業団体、票にならない障害者、票になる人の利益になるから早々と可決させましょうと差別されているようです。少なくとも内閣委員会での早急な議論は一度中断して、法務委員会での検討、あるいは法務委員会、厚生労働委員会、内閣委員会の合同で参考人を呼んで審議することを求めます。

  2016年3月30日

医療同意への成年後見人等の業務拡大に反対する障害者団体共同声明の申し入れ

医療同意への成年後見人等の業務拡大に反対する障害者団体共同声明の申し入れ

 今国会で上程される見込みの成年後見制度利用促進法案では、①後見人の医療同意が可能になる、②意思決定支援への配慮、③信書等の送付を後見人に直接できるようにする、などの改正が見込まれています。
 この法案の最大の問題点は、成年後見制度それ自体が障害者権利条約に違反すること以外にも、成年後見人等に対して医療同意の代諾をできるようにさせたことだと思います。すなわち、成年後見人が医療同意を代諾した場合は、完全に強制医療ということになります。これまで精神保健福祉法は、強制入院を規定していましたが、強制医療(侵襲行為それ自体を同意なくする手続き)までは規定しているとはいえませんでした。(たとえば、無理やり投薬させるとか、無理やり電気ショックをするという手続き自体を定めてはいない。)しかし、成年後見人等が代諾した場合は、精神障害者本人が医療同意したことと同じ扱いになるわけですから、いかなる治療介入を可能としていきます。たとえば、成年後見人等の代諾による強制電気ショックなどが可能になります。もちろん、これまでも半ば強引に、強制医療というべき投薬治療や電気ショックが運用でされてきたわけですが、現在では、これに対して少なくとも裁判において不法行為を主張する余地があるわけです。しかし、成年後見制度利用促進法案は、法律によって精神障害者本人が同意したことと同じ扱いになるため、不法行為であるとして訴訟する余地がありません。いな、そもそも成年被後見人は、裁判だって自由にできるわけではありませんし、なにかと法律によって行為を制限されています。
 さらに、おそろしいことは、成年後見人による医療提供拒否の代理決定による尊厳死(?)を開く点に問題があると考えられます(法案が公開されていないので詳しくは分かりません)。従来の尊厳死は、尊厳のある死の自己決定(実際には本人の決定を根拠とした殺人です)なる優生思想に満ちた提案あったわけですが、今回の場合は、尊厳のある死の代理意思決定という、より危ない考え方であるといえます。どういうわけか、2016年2月25日、久方ぶりに「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」が開催されており、意思決定の話しも出されました。厚生労働省が示した「意思決定支援の概要」も医療同意のことが非常に大きなウェートを占めています。明らかに、意思決定支援をして本人の尊厳のある死を選択する意思を十分に確認した、よって成年後見人が尊厳死の代理意思決定をする、という図式で障害者抹殺が図られていく準備が着々と進んでいることを意味しています。
 2015年12月、成年後見制度関連で院内集会が開催されました。このとき参加された民主党の議員が法案の問題を認識した旨の発言をしました。しかし、民主党は、2015年7月の時点ですでに本法案に合意していることが後になってわかりました。
 そのため「民主党障がい者政策推進議員連盟」は、修正案提出を目指して、士業団体とのヒアリング実施を方針として1月中旬に確定し、2月上旬に衆議院法制局に対するヒアリングを実施しました。なお、士業団体ヒアリングが実施されたかどうかは、小宮山事務所から聞き出せていません。われわれは、士業団体だけではなく当事者団体にもヒアリングを実施せよとして1月の下旬に申し入れ書を提出しました。
 現在、多くの政党は選挙を前にして士業団体の提言を丁寧に聞き取っています。対して障害者団体の提言は、聞き取りスケジュールを用意していないとのことです。そのことは障害者団体としての十分な反対意見の形成ができていないことにつきると思います。さて、障害者団体としての大きな反対がなければ士業団体の提言が優勢のまま国会上程もあり得てしまいます。(すでに3月23日の内閣委員会で内閣委員長による趣旨説明が行なわれる見込みです。)そのため、障害者団体として反対しているという対外的なアピールをしていかなければなりません。そこで、私たちの方で文案の作成をしますので、議論をしながら4月末を目途に「(仮称)医療同意への成年後見人等の業務拡大に反対する障害者団体共同声明」を作成し、本格的な医療同意への後見業務拡大反対の意志をアピールしていきたいと思っています。是非とも、共同声明の発信者として私たちとともに名を連ねてくださいますよう、お願い申し上げます。

   2016年3月23日

障害者権利条約第1回日本政府報告(日本語仮訳)に対する意見

障害者権利条約第1回日本政府報告(日本語仮訳)に対する意見

1.行動制限
⑥御意見の該当箇所
パラグラフ105、障害者権利条約第14条

⑦御意見の内容
本パラグラフにおいては、精神保健福祉法第36条に規定された精神障害者に対する行動制限に関する報告がなされていない。

⑧御意見の理由
障害者権利条約第14条は人身の自由にかかわる規定であり、本パラグラフにおいて精神保健福祉法第36条の精神障害者に対する行動制限に関する報告をすべきである。

2.障害者虐待防止法の範囲
⑥御意見の該当箇所
パラグラフ110、障害者権利条約第16条

⑦御意見の内容
本パラグラフにおいては、障害者虐待防止法の適用範囲について報告がなされていない。

⑧御意見の理由
障害者権利条約第16条は虐待防止にかかわる規定であり、本パラグラフにおいて障害者虐待防止法の適用範囲に教育機関と精神科病院が含まれていないことを報告し、救済可能な範囲等を明示すべきである。

3.骨格提言の実施状況
⑥御意見の該当箇所
障害者自立支援法違憲訴訟の基本合意と骨格提言を出した、とする記述。

⑦御意見の内容
骨格提言をどのように反映し、どれくらい実施されたのかが書かれていないため、明示すべきである。

⑧御意見の理由
骨格提言は、障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の一環という政策上の位置づけであり、その反映は障害者権利条約の実施状況に係るものであり詳細の報告が求められるためである。

4.総論
この政府報告書は、制度の説明に終始しており、障害者権利条約の実施状況を報告する体をなしていないといわざるを得ない。そのため、部分修正を重ねたところで結局のところ国際社会からの非難を免れない内容となっている。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の改正における障害者の権利に関する条約との関係に関する質問書

厚生労働省 社会・援護局
障害保健福祉部精神障害保健課長 殿

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の改正における
障害者の権利に関する条約との関係に関する質問書

 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、精神保健福祉法)は、附則に基づき今年度改正されることとされています。
 精神保健福祉法の当事者は、精神障害者です。当事者とは特定の問題の効果の帰属主体のことであり、精神保健福祉法の手続きに基づき入院したり、退院したりする問題の当事者は、精神障害者をおいて他におりません。加えて、精神障害者としての主張をできる――精神障害者という集合アイデンティティを一人称として発言できる――のは、第一に精神障害者の団体であるはずです。貴省におかれましては、当事者である精神障害者の意見を聴く必要性を十分に認識していただきたく思っております。
 そこで、次の質問について回答をしていただきたくお願い申し上げます。

1 障害者権利条約を踏まえることについて(再)
2016年1月13日にご相談にうかがった際に、「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」において衆参両院附帯決議に基づき障害者権利条約を踏まえるべく障害者権利条約が精神衛生法規に対して一般的に要請している事項を列記的に示し確認することを検討していただけるとのことでしたが、それは課長に報告したのか、結果として列記的に示すことは決まったのかどうか、お答えください。

2 目的条項に障害者基本法を加えることについて
 2016年1月13日にご相談にうかがった際に、精神保健福祉法の第1条において、他の障害者施策と同様に障害者基本法の理念に基づくことを明文すべきという意見に対して、保健、医療、福祉など多岐にわたることを理由に難しいとの説明がございましたが、そもそも、障害者基本法は保健、医療、福祉を網羅しているため、目的条項と相矛盾しないと考えますが、その後、課内において目的条項の改正についてが、どのような運びとなったのかをお答えください。

3 なぜ、法施行後、新規医療保護入院数は約4万人減ったのか、お答えください。

4 新規医療保護入院数が減少したのに入院者数それ自体に大きな変化はないということは、医療保護入院ではなくなった精神障害者のその後の入院形態はどうなったのでしょうか。

5 前項は突然にして医療及び保護の必要性のある精神障害者が減ったということなのか、お答えください。

6 携帯電話の持ち込み一律禁止の精神科病院は、一律に行動制限しているということか。

7 家族以外の面会を一律禁止している精神科病院は、一律に行動制限をしているということか。

8 平成27年度障害者総合福祉推進事業「入院に係る精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するモデル事業」(沼津中央病院)においては、アドボケーターとしてのピアサポーターには入院中の精神障害者に対して制度などの情報を提供してはいけない、病院スタッフが共有可能な記録を付けなければならないという状況の下でモデル事業を実施したというのは事実であるか、また、それがピアサポートとして妥当とお考えであるかお答えください。

9 精神保健福祉法改正過程は、付帯決議に基づき障害者権利条約の理念を具現化する方向で講ずるのであれば、障害者権利条約前文(o)及び障害者権利条約第4条第3項に基づき精神障害者を代表する団体から推薦を受けた障害当事者が精神保健福祉法改正のための検討会・ワーキンググループに構成員として障害者が相当数入っていてしかるべきと考えるが、これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会の委員が2名という数についての認識と今後の障害当事者の参画の目標値についてお示しください。

10 全国大行動において十分に回答されなかった点についてお答えください。
① 以下は即座に行われるべきこと
● 病棟転換居住系施設の即座廃止 
● 非自発的入院・隔離・身体拘束の段階的削減、もしくは、病床の段階的削減のための行政計画(数値目標、見直し時期を含む)の導入
● 措置入院の要件である他害行為の基準から名誉毀損・侮辱を削除すること
● 携帯電話の精神病院病棟内での利用を原則認めること。
● 同様に精神保健福祉法第37条第1項の規定に基づき厚生大臣が定める処遇の基準
第2 通信・面会について2 信書に関する事項(1)患者の病状から判断して、家族等からの信書が患者の治療効果を妨げることが考えられる場合には、あらかじめ家族等と十分連絡を保って信書を差し控えさせ、あるいは主治医あてに発信させ患者の病状をみて当該主治医から患者に連絡させる等の方法に努めるものとする。
の即時廃止。
● 処遇に関する大臣基準から身体拘束の要件である「極度の不穏もしくは多動」を削除すること。
● 精神保健福祉法(審判の請求)第51条の11の2および(後見等を行う者の推薦
等)第51条の11の3の廃止
● 心神喪失抗弁を前提とした不定期拘禁や地域監視体制である医療観察法の即時廃止 とりわけ鑑定のための人身の自由剥奪の即座廃止
● 入院中の保険外の自己負担をともなくものの強制の廃止タオルやパジャマなどの押し付け 小遣い銭管理料など 月額数万円に及びところもある 必要なら介助が公費で負担されるよう制度化すること
② 障害者権利条約の履行に向け、障害を理由とした強制入院、同意のない医療、身体拘束や隔離の廃絶に向け複数の精神障害者団体の参画を得た検討の場を設けること
検討項目には以下を含めること
●オルタナティブ研究
例 ピアランクライシスセンター、パーソナルオンブート、ファミリーグループカンファレンス、インド プネの他アジアでの精神障害者自身よる地域支援活動などなど
●身体拘束について
トラウマインフォームドアプローチ デエスカレーションテクニック精神科救急マニュアルでも紹介されている 救急学会邦訳 及び救急学会のガイドライン参照などなど
●実態把握
@隔離身体拘束について(身体拘束の14%は任意入院である)
それぞれの期間分布 年齢 病名 病棟機能別分布 理由分布とのクロス
措置から医療保護に変わった例の実数
措置入院の期間分布及び医療保護入院変更後の期間分布
@OECDの求めている統計
精神医療の質に関して、国で収集されている指標はほとんどなく、日本は精神医療に関する OECD 医療の質指標で収集しているいずれの指標(入院患者の自殺、退院後の自殺、統合失調症又は双極性障害による再入院、統合失調症又は双極性障害を有する患者の超過死亡率)についても報告できていない。
@強制入院の個別事例の研究、なぜ強制が選択されたのか
都道府県別の措置入院のばらつきの要因分析など
@強制医療の実態把握 代理人家族等の同意によるものも含む
 これについては一切統計がない
●精神障害者団体市民団体によるによる権利擁護事業、とりわけ強制入院からの救援活動
2016年2月8日

原本確認調査に対する意見

高齢者・障害者等の意思決定支援の実現を目指す司法書士の会 御中
2015年12月15日

問1 上記のような原本確認調査は、障害者権利条約の趣旨に反するとお考えになられますか?反しないとお考えになられますか?

原本確認調査は、障害者権利条約第12条第3項の趣旨に違反すると考える。また、成年後見制度は、障害者権利条約第12条第1項及び同条第2項に違反する。
当会としては法的能力の範囲には行為能力が含まれると考えている。これは障害者権利委員会・国際障害同盟と同意見であり、法学上の通説である。そのため、成年後見制度は行為能力を制限する点で障害者権利条約第12条第2項に違反するものと考えている。(一部には代理決定パラダイムを誤って認識した上で障害を理由とした制限行為能力の存置を主張する立論も存在するようだが、学問は複数の立場があってよいというだけに過ぎず、少数派の学説を政策においてデフォルトと見なすべきでないのは当然である。)
その上で原本確認調査は、法律の上で行為能力を制限するものではないため12条2項の趣旨に違反しないが、法律上の権利の行使(例えば個人情報の保護に関する法律における個人情報の取得における本人の同意・個人情報のコントロール権)の機会にアクセスさせず妨げるものであるため、12条3項の趣旨に違反する。
原本確認調査は、被後見人等に個人情報の取得や使用に関してなんら同意を得ておらず、個人情報取得の同意を得るための努力を怠慢しようとするものに過ぎない。

問2 上記のような原本確認調査は、なんらかの法令・条例に反するとお考えになられますか。反しないとお考えになられますか?

 原本確認調査は、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)に反すると考える。
個人情報保護法では、個人情報取扱業者が個人情報の取得に際して当該個人情報の本人から同意を得る必要があるとされている。当該個人情報の本人である成年被後見人等から同意を得ないで個人情報を取得することは、たとえ財産保護が利益行為であることを口実にしようとも、法令に違反する事実に変わりはない。
また、個人情報保護法における本人の同意は、必ずしも法律行為であるとは考えないため、安易に成年後見人等による代理権によるべきではなく、成年被後見人等による同意を前提とすべきである。同意の取得が事実上困難と思われる場合であっても、個別具体的な判断能力に応じた同意の可能性を模索し、開くべきと考える。
個人情報保護法は、全ての国民を対象とする法規であるため成年後見制度の利用者を想定していないなどということにはなり得ない。また、すべての国民を対象とする法規において「精神上の障害」を理由に法律上の「本人の同意」を排斥し、個人情報のコントロール権を侵害するものであるから、障害者差別解消法に基づく「障害に基づく不当な差別的取扱い」に該当するものと考える。

問3 その他、原本確認調査について、ご自由にご意見をお述べください。

原本確認調査をめぐって司法書士の職業倫理と障害者権利条約の理解について違和感を禁じえなかったため、二点について意見を述べることとする。

①司法書士の職業倫理に対する問い
 司法書士法には、秘密保持義務の規定がある。当会は、原本確認調査が直ちに当該規定に違反するかどうかは関知しないが、少なくとも司法書士は職業倫理の観点からも慎重であるべきと考える。このたびの原本確認調査からは、職業倫理の観点から社会的信用を失墜させるほどの問題であると考えている。
確かに成年被後見人の財産を安全に管理することは不可欠である。が、それを理由に個人情報のコントロール権を侵害していいことにはならないだろう。原本確認調査は、被後見人等に個人情報の取得や使用に関してなんら同意を得ないだけではなく、個人情報取得の同意を得るための努力を怠慢したものである。真に成年被後見人等の財産を安全に管理したいと思うのならば、一人一人の成年被後見人等に対して個人情報取得の同意を得られるよう説明に出向くべきである。こうした手間を惜しみ安易に本人の同意をとらずして個人情報を取得しようとすることは、「司法書士は成年被後見人等なんかに時間をかけていられないのだ」と見下しきった無礼な態度のあらわれである。まるで司法書士の身の保身以外に関心がないと言わんばかりである。
一体全体、「安全に管理されるのが当然の前提である」ことが、なぜ原本確認調査を許容することになり、それが推定的承諾を見なし得るのか、全くもって理解できない。

②障害者権利条約の解釈をめぐる問題
 障害者権利条約の解釈は、原本確認調査に賛成する立場、反対する立場ともに誤っていると言わざるを得ない。
 障害者権利委員会が一般的意見で「これまで委員会が審査してきた締約国の報告の大半において、意思決定能力と法的能力の概念は同一視され、多くの場合、認知障害又は心理社会的障害により意思決定スキルが低下していると見なされた者は、結果的に、特定の決定を下す法的能力を排除されている」と述べているように、意思決定能力(Mental capacity)と法的能力(legal capacity)は別の概念である。ここでいう法的能力とは、「権利と義務を所有し(法的地位)、これらの権利と義務を行使する(法的主体性)能力」のことである。
 意思決定能力には個人差があり、個人差の原因は個人の状態のみに帰属できるものではなく、社会に原因帰属されるべき事柄を多分に含んでいる。
 そもそも代理決定には、委任、第三者のための契約などが含まれない点を留意されたい。これらは、むしろ法的能力行使に当たって必要な支援と理解されるべきである。代理決定パラダイムとは、意思決定能力(Mental capacity)が低下・発揮できない人に対して、その人の決定を代わりする人間とはだれが相応しいのかといった、代理決定者適格性の議論枠組みのことを指しているのである。これに対してguardianなどの適格性を有した代理決定者が代わりに決定するという枠組みではなく、応援されながら意思決定をしていくパラダイムへとシフトすべきだとするのが支援された意思決定のパラダイムである。この応援の形体は、きわめて多様であり、先に述べた委任なども当然含まれる。他方、これらの支援は、障害者の法的能力の行使を妨げるものであってはならない。とりわけ、ソーシャルワーカーによる不利益にならないための法律行為の誘導は、(a)決定できる法律行為の範囲を予め“合理的な範囲”などとして狭く限定すること、(b)ソーシャルワーカーがコーディネーターとしての代表権を有し適格性の枠組みをでないこと、から多くの場合は法的能力の行使を妨げる帰結となるだろう。このような観点に立つと法的能力を制限しない障害者総合支援法の意思決定支援制度であっても、法的能力の行使を事実上妨げることがあるのならば障害者権利条約12条3項に違反し得るのである。
 また、障害者権利委員会は、最終手段(last resort)であれ法的能力の制限を認めていない。障害者権利委員会の一般的意見では、「障害のある者としての地位や、(身体機能障害又は感覚機能障害を含む)機能障害の存在が、決して、第12条に規定されている法的能力や権利を否定する理由となってはならないことを再確認する」とされており、例外を認めていない。確かに自己決定には限界がある。しかし、自己決定に限界があることは、法的能力の制限を許容することを意味しない。自己決定の限界を代理決定で補完しようとすることと、法的能力の制限への抵抗として自己決定を対置させることは、ともに間違った考え方である。例えば、集合的選択を推定同意と見なす方途など代わりの方策はいくらでも考えられる。にもかかわらず、なんら替わりの方策を検討しないまま、自己決定に限界があることを理由に代理決定しか方策がないが如くの立論によるのは、無知を露呈しているわけであり恥ずべき行為である。国家試験に合格し司法書士を名乗って業務を行っているにも関わらず、こうした状況では本当に私たちの日常生活を支えられるのかについて不安を禁じえない。障害者団体の主張に耳を傾け、学習し研鑽されることをつよく望むため、法的能力と意思決定支援に係る全国「精神病」者集団との意見交換の機会を検討していただきたいと思う。