精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)について民進党厚生労働部門会議ヒアリング意見書

精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律の一部を改正する法律(案)について
民進党厚生労働部門会議ヒアリング意見書
2017年3月9日

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。精神保健福祉法は、精神障害者の強制的なものを含む入退院手続きを定めた法律であり、私たち精神障害者の生活に大きく関わるものとして強い感心をもってまいりました。精神障害者の中には、強制的に入院させられ数十年にわたって精神科病院に入院している仲間が全国各地にたくさんいます。法律は、人の人生に大きな被害をもたらすことがあります。そのため、私たちは結成当初から精神保健福祉法それ自体の廃止を求めて運動をしてきました。
 精神保健福祉法の入退院の当事者は、精神障害者です。当事者とは特定の問題の効果の帰属主体のことであり、精神保健福祉法の手続きに基づき入院したり、退院したりする当事者は精神障害者だけです。そのため、精神保健福祉法の改正にあたっては、精神障害当事者の声を聴き、尊重してほしいと思っています。

1. 法改正の趣旨に明示的に犯罪防止が採用されたこと
 この法案は、「精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律の一部を改正する法律案の概要」において相模原市の障害者支援施設の事件の再発防止が改正の趣旨であるとされ、明示的に犯罪防止が採用された点で従来の改正とは一線を画します。そのため、従前の改正と比べても十分な審議時間が必要と考えます。

2. 障害者権利条約及び付帯決議を踏襲できていない点
 2013年法改正に際しては、「精神障害のある人の保健・医療・福祉施策は、他の者との平等を基礎とする障害者の権利に関する条約の理念に基づき、これを具現化する方向で講ぜられること」とする附帯決議が可決されました。しかし、「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(以下、あり方検討会)では、障害者権利条約の趣旨や整合性を確認するための検討が一切されませんでした。障害者権利条約第14条は、障害を理由とした人身の自由の剥奪を禁止しており、精神障害者であることを要件とした非自発的入院制度は障害者権利条約に違反すると指摘されています。立法府を軽視し国際社会に逆行する法改正です。
 また、第1条の目的条項に「障害者基本法と相まって」とする一文がなく、ゆえに精神障害者の社会的障壁(障害者基本法2条2項)の除去について十分な理解が浸透していないように感じます。

3. 障害当事者の参画を推進すること
 障害者権利条約では、障害当事者の政策の決定過程からの参画を求めており、加盟国である日本は政府、立法府ともに障害当事者の参画が求められています。しかし、あり方検討会では、精神科医に対して精神障害当事者が2名と少なく、かつ精神障害当事者の声がほとんど反映されませんでした。せめて、立法府では、障害当事者の参考人を招致するなどして、障害当事者の参画を推進してほしいです。

4 措置入院者の退院後支援――相模原事件を口実とした地域における監視
 本改正では、相模原事件の再発防止策として措置入院者の「退院後支援」が規定されました。措置入院者に対して原則として入院中から警察関係者(主に代表者会議)を構成員とした精神障害者支援地域協議会の関与の下、退院後支援計画を作成し、精神科病院管理者が選任する退院後生活環境相談員の介入を受ける制度が新設されます。計画の期間中の措置入院者が転居した場合には、転居先の自治体が退院後支援計画を引き継ぐことになります。これでは、支援と名付けられているとはいえ、やろうとしていることが明らかに治安目的の監視です。
①立法事実の不存在――相模原事件の発生は精神障害者の問題ではない
 措置入院者の退院後支援の立法事実は、相模原事件の発生とされています。しかし、現時点で容疑者の行為と疾病の因果関係は裁判で明らかにされておらず、鑑定留置の結果では責任能力ありとされました。また、この事件は警察が初動で施設側に犯行手順が書かれた容疑者の手紙を見せなかったために施設側の警備意識が高められずに引き起こされた事件であり、それが容疑者に措置入院歴があったことが報道されたことで精神障害者の問題にすり替えられたものです。このように立法事実の存在しない立法を強行することは、法治国家原則に反します。よって措置入院者の退院後支援には反対の意思を示します。
 また、精神障害者の問題にすり替えられた原因は、措置入院という制度の構造に内在した問題に由来します。未来予測は科学を持ってしてもなお不可能な領域とされていますが、措置入院は精神保健指定医が「おそれ」を見立てられると仮定して成り立っています。それでも完全に他害等を防ぐことができないのですが、 他害等が起きたときには未来予測が可能であるという建前に立脚した責任が発生するため、なぜ防げなかったか、という論点が生起してきます。そして、治安的機能を引き入れる形で再発防止策が繰り返し行われていくことになります。この連鎖を断ち切るためにも、非自発的入院の抜本的な見直しが不可欠です。
②退院後支援計画の作成及び精神障害者支援地域協議会における本人参加の位置づけについて
 退院後支援計画は、「調整会議には可能な限り患者本人や家族の参加を促す」として本人が参加して作成することが望ましいとされながらも本人不在で作成できてしまう点で問題があると考えます。
③退院後支援計画の期間が不明であること
「計画の期間」については、国がガイドラインを作成して目安時間を示し、患者の状態に応じて延長等がおこなえるようにすることとされていますが、延長が長期間や無期限に行われることや、計画の更新が続くような事務が発生した場合には、 一度でも措置入院になると一生涯、警察を含んだ監視網から抜け出すことができない事態が生じうるのではないかと憂慮します。
④退院後支援計画が退院の障壁になり地域移行が進まなくなる可能性
 退院後支援計画の事務遅滞のために退院が不当に引き延ばされる可能性があります。退院後支援計画は原則入院中の策定であり、退院後の策定は例外的に認められているにとどまります。医療上の理由が消滅したのに退院できない者を作り出す可能性があり、そうした者を出さないための仕掛けが法律の中にないことは措置入院に限らず非常に問題であると考えます。
⑤退院後支援計画の位置づけの不明瞭さ
 退院後支援計画において提供が予定された個別のサービスは、当該精神障害者によって拒否された場合、サービスを強要することはできないこととされているが、その場合の退院後支援計画の存在意義がどのようなものであるかがわかりません。

4. 医療保護入院における市区町村長同意の復活
 本改正では、2013年改正時に廃止されたはずの市区町村長同意が再び規定されました。2013年改正は、障害者権利条約の国内法整備の一環という位置付けで保護者制度を含む医療保護入院等の見直しがおこなわれ、保護者の同意が家族等の同意に改められ市区町村同意は廃止されました。市区町村同意の廃止後は、医療保護入院の届け出件数が4万件減少したのですが、復活に伴い医療保護入院がさらに増加するのではないかと憂慮します。加えて、市区町村の所轄は、どのような方法を用いて「全員がその意思を表示することができない」「同意、不同意の意思表示を行わない場合」を確認し事務を進めるのかがわかりません。このままだと精神障害者を入院させようとする精神科病院管理者が「同意、不同意の意思表示を行わない」と判断した場合には、それを根拠に市区町村が自動的に同意事務をするような事態が生じうると思います。

5. 医療保護入院の見直しが保留されたこと
 2013年改正時に「保護者の同意」が「家族等の同意」に改められ、事実上、同意権者の範囲が拡大されました。それが国会の場で問題としてあがり、あり方検討会では、医療保護入院のことが引き続き検討されました。しかし、検討会報告書では、「措置入院、任意入院以外の入院制度として医療保護入院を維持することとした」とされ、またしても抜本的な見直しが先送りにされました。家族の同意についても十分な検討を経ずに時間切れとなり、再び残されました。引き続き医療保護入院における手続きや家族同意、処遇について検討することを附則に入れることを求めます。

6. 入院中心が改められていないこと
 2013年改正時の附帯決議では、非自発的入院の減少が志向されていたにもかかわらず、措置入院の強化や市区町村長同意の復活による同意権者の範囲拡大など、明らかに非自発的入院の減少を帰結しない法改正になっています。精神科病院では、年間約2万人以上の人が死亡退院しており、この10年間で入院人口が大きく変化していないということは、新たに入院して退院できなくなっている人があらわれ続けているからだと思います。
 また、国及び地方公共団体の義務に「精神障害者の人権を尊重するほか、精神障害者の退院による地域における生活への移行」が追加されましたが、あり方検討会の最終報告書には「重度かつ慢性」の基準化について書かれており、6、7割の重度かつ慢性者(治療抵抗性)は、退院させることができない存在と見立て、基準病床の算定、地域移行目標値の算定をすることとされました。しかし、「重度かつ慢性」の人こそ地域で生活できるように法整備をおこなうこと――例えば、重度訪問介護の支給対象者を拡充し、重度訪問介護従業者に対する面会制限等を禁止するなど――に向けて障害福祉サービスの利用についてさらなる検討を加える必要があります。

7. 精神保健指定医の適正化について
 精神保健指定医の診察は、逮捕監禁罪及び誘拐罪の違法性阻却要件であり、精神保健指定医以外が同様の行為をおこなうことは基本的に禁じられています。しかし、このたび不正な取得が発覚し指定を取り消された医師の非自発的入院の判断は、遡って違法であったことにはならず合法であったことにされています。これまでの精神保健指定医の判断と法的な点検が求められます。

民法(債権関連)の一部を改正する法律(案)における法務委員会質疑に関する陳情書

民法(債権関連)の一部を改正する法律(案)における法務委員会質疑に関する陳情書
2017年4月12日

 日頃より障害者施策の推進に尽力をくださり、心より敬意を表します。
私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
 さて、今国会には民法(債権関係)改正法案が上程されました。本法案には、意思無能力法理の明文化を含む精神上の障害等に関わる諸条文が新設されたため、精神障害者の団体として強い関心をもってきました。意思無能力法理は、障害者権利条約の趣旨への違反すが指摘されている成年後見制度の立法事実に相当し、この法理を明示的に採用することが、ひいては安易な成年後見制度の拡大に拍車をかけるのではないかと憂慮します。
立法府は、精神障害者に係る法改正があった場合には精神障害当事者の声を尊重してほしいと思っています。
 つきましては、障害者権利条約の趣旨と障害者の地域生活実現の観点から以下のとおりの趣旨で委員会での質問をしていただきたく、お願い申し上げます。

質問
○意思無能力法理の成文化が不可欠とされた立法事実をお答えください。
○「意思能力」と「事理及び弁識の能力」は、どのような違いがありますか。
○成年後見制度の立法事実において意思無能力法理はどのように関係していますか。
○障害者権利条約第12条第2項では、障害を理由とした法的能力の不平等の禁止が規定されており、同条約の趣旨に成年後見制度が違反するとの指摘があることをご存知ですか。
○国連障害者権利委員会による「一般的意見第1号」では、障害を理由とした行為能力の制限が同条約に違反するものとされていますが、そのことは認識していますか。
○障害者基本法における社会的障壁の「制度」に成年後見制度が含まれると考えられますか。
○本改正は、成年後見制度の兼ね合いがあるため、少なからず障害者に係る政策変更という側面がありますが、それにもかかわらず内閣府障害者政策委員会に諮らなかった理由をお答えください。
以 上 

障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン案へのパブリックコメント

障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン案へのパブリックコメント

1. 成年後見制度との共存
 意思決定支援は、障害者権利条約の国内履行の文脈において不可欠であり、その意味で障害者権利条約の趣旨を踏まえたものでなければならない。ガイドラインでは、成年後見制度の活用が示されているが、意思決定支援と成年後見制度との共存は、障害者権利委員会一般的意見第1号パラグラフ24において否定されている。よって意思決定支援のガイドラインからは、成年後見制度に関する一切の文言を削除するべきである。

2. 最善の利益に基づく介入
 意思決定支援は、障害者権利条約の国内履行の文脈において不可欠であり、その意味で障害者権利条約の趣旨を踏まえたものでなければならない。ガイドラインでは、最善の利益(best interest)に基づく介入――すなわち判断能力がないとされる人に対して第三者が「あなたにはこれが必要」と決めつけて行なう介入の仕方――を規定しているが、最善の利益に基づく介入は、障害者権利委員会一般的意見第1号パラグラフ18で否定されている。よって意思決定支援のガイドラインからは、最善の利益に関する一切の文言を削除するべきである。

3. 相談支援事業者による保護的な側面いついて
 ガイドラインでは、相談支援事業者が計画相談等において本人の意思及び選好を把握し、個別支援の場において本人意思の尊重を実現していく枠組みとなっている。この枠組みでは、相談支援事業者と本人の位置がその他の関係者と比べて接近し過ぎているため、相談支援事業者の発言力が大きくなりすぎる点に留意すべきである。そのため、相談支援事業者の調整を前提としたガイドラインの限界を明示的に示し、3年後に見直す旨の文言の追加をすべきである。

  2017年3月6日

成年後見制度利用促進基本計画の案に盛り込むべき事項に関するパブリックコメント

成年後見制度利用促進基本計画の案に盛り込むべき事項に関するパブリックコメント

成年後見制度利用促進基本計画の位置付け
1. 障害者権利条約との整合性
 2016年4月の参議院内閣委員会では、大臣は本法が障害者権利条約に抵触しないという立場を示したが、中間報告書には障害者権利条約との整合性に関する内容が示されていない。少なくとも、国連障害者権利委員会に提出した政府報告書では、成年後見制度への言及があり、それを踏まえるならば、障害者権利条約との整合性について言及があってしかるべきである。

国、地方公共団体、関係団体等の役割
2. 障害者団体からの意見聴取
 成年後見制度利用促進基本計画の実施にあたっては、障害者基本法の理念に基づき障害者団体からの意見聴取を行なうべきである。よって、関係団体の部分で障害者団体を明示し、かつ都道府県及び市町村への計画策定にあたっての責務の部分に障害者団体からの意見聴取を明示的に示すことが不可欠である。

成年被後見人等の医療、介護等に係る意思決定が困難な人への支援等の検討
3. 合法性の根拠が示されていない
中間報告では、成年後見人に医療同意を与えることの合法性に関わる議論の経過や根拠が示されておらず、成年被後見人等の医療・介護等に係る意思決定が困難な人への支援の在り方として想定される場面が羅列されているにとどまっている。こうした場面の羅列は、法改正という結論に向かって敷かれたレールの上に都合のよい情報を載せて、あたかも立法事実があるかのように装っているだけで、具体的な場面において発生するあらゆる問題を想定した議論とはとうてい言えないものである。

成年被後見人等の医療、介護等に係る意思決定が困難な人への支援等の検討
4. 安楽死・尊厳死問題
中間報告では、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」について言及されている。このことは、成年後見人による安楽死(または尊厳死)を帰結し得る可能性があり、もっとも慎重に審議されなければならない点である。わが国の立法府において尊厳死をめぐって長年交わされてきた議論の蓄積を踏まえるならば、早計に結論を出すべきではない重大な問題であると考える。なお、私たち障害者団体としては、「こんな障害をもった状態で生きていたくない」という考え方が優生思想に直結するものであり、あの去年の7月26日に起きた相模原障害者施設での事件で容疑者が発した動機と等しいものであると考える。

成年被後見人等の医療、介護等に係る意思決定が困難な人への支援等の検討
5. 市民後見人の活用との関係
 なんの専門性も有さない市民後見人に対して医療同意等の権限を与えることは、非常に危険であると考える。また、専門性を有さない以上は、専門家の決定に従うほかないわけで、そもそも医療同意に権限を拡大することの意義自体があまりないのではないかと考える。

日本弁護士連合会への意見書

日本弁護士連合会への意見書

 日頃より障害者施策の推進に尽力をくださり、心より敬意を表します。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
 精神保健福祉法は、精神障害者の強制を含む入退院手続きを定めた法律であり、私たち精神障害者の生活に大きく関わるものとして強い感心をもってまいりました。加えて、この度の改正は、相模原事件の再発防止策として提案されるものであり、趣旨に犯罪防止が明記された点などで従前の改正とは質の異なるものであると考えております。
 こうした医療及び保護を犯罪防止のためにしようとする法改正は、措置入院制度の構造に内在した問題が起因して生起させた議論であると考えます。これら非自発的入院制度は、障害者権利条約の観点から総点検されなければなりません。
 つきましては、声明の作成に際しては、措置入院制度自体に内在した問題と相模原事件再発防止策の関係、障害者権利条約の趣旨に言及したかたちで声明を作成してほしいと強く希望します。

1.犯罪防止のための法改正であることを医療及び保護のための法律の改正の趣旨に明示的に採用したことは問題である
 本改正では、措置入院制度が大幅に見直され、すべての措置入院者に退院後支援計画を策定し、計画の実施状況等を精神障害者地域支援協議会において把握することとされました。なお、精神障害者地域支援協議会の代表者会議は、警察関係者を構成員とし、措置入院者が退院後に転居した場合には、転居先の地方自治体が計画の実施状況の把握を引き継ぐこととされています。厚生労働省によると居住地のある地方自治体が措置入院者を把握することは、継続的な医療提供のためとされています。しかし、相模原事件の再発防止策として提言されたことを鑑みると、容疑者を入院させておけば、事件に至らなかった、あるいは、医療を提供すれば事件を起こさなかった、という論点を含意していることは明確であると考えます。

2.鑑定・判決を待たずして疾病と行為を結びつけて再発防止策を示したことは司法軽視である
 容疑者は、何らかの精神障害があったと目されていますが、疾病と行為の因果関係は不明であり、相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チームの最終報告書がとりまとめられた2016年12月8日の段階では、鑑定留置の結果さえ不明でした。しかし、本来なら事件の全容は、裁判によって明らかにされる者であり、こうした政策プロセスは、司法を軽視したものです。

3.こうした改正議論を生起させたのは、措置入院制度の構造に内在した問題に起因するものである
 措置入院制度に治安を担わせる再発防止策が論点として生起したのは、措置入院制度の構造に内在する問題に起因したものと考えます。措置入院は、「おそれ」という未来予測をもって入院させる制度であるが、未来予測は、科学を持ってしてもなお不可能な領域とされています。しかし、措置入院制度は、精神保健指定医が「おそれ」を見立てられると仮定して成り立っています。
 しかも、運用では法的予見可能性のような限定的なものと異なり、精神保健指定医に対して広く恣意的な判断が許容されています。このような広く恣意性を許容した制度の下においても完全に他害等を防ぐことはできません。ところが、起きたときには未来予測が可能であるという建前に立脚した責任が発生するため、なぜ防げなかったか、という論点が立てられてしまいます。とくに措置入院相当とされる人が犯罪事件をおかした場合には公的責任が問われうることになります(北陽病院事件等)。そして、再発防止策として措置入院の拘束力を引き上げる議論が生起し、医療の充実というかたちで治安的機能を引き入れた改正が繰り返し行われていくことになります。

 このような循環構造は、不可能な未来予測を可能であるかのように偽るところから始まった矛盾に起因するものです。そのため、措置入院が適切に医療のために機能していればよいという次元の問題ではなく、この構造が維持され続ける限り、これからも治安を内包していく制度であり続けることを意味します。なにか事件が起きるたびに精神医療の充実がとなえられ、精神医療が治安を抱きかかえていく構造、これ自体を批判し得なければ同じ問題が繰り返されていくことになります。なので、再発防止策が生起した原因の見立てには、措置入院制度の構造上の問題がそうさせている、ということについて言及してください。

4.非自発的入院制度は、障害者権利条約に基づき総点検されなければ同様の問題は繰り返されていくことになる
 障害者権利条約では、精神保健福祉法の非自発的入院が第12条、第14条、第15条、第17条、第19条、第25条など複数の条文にまたがって違反している可能性が指摘されています。とりわけて、障害を理由とした人身の自由の制約の禁止を規定した第14条は、精神障害者であることを理由とした非自発的入院制度を明確に否定していると考えてよいと思います。なので、日弁連「障害者権利条約の完全実施を求める宣言」に基づき非自発的入院制度を障害者権利条約に基づき総点検することについて言及してください。
   2017年3月6日

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正に関する法律(案)における厚生労働部門会議での精神障害当事者のヒアリングに関する陳情書

足立信也様 

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正に関する法律(案)における
厚生労働部門会議での精神障害当事者のヒアリングに関する陳情書

 日頃より障害者施策の推進に尽力をくださり、心より敬意を表します。
私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
精神保健福祉法は、精神障害者の強制を含む入退院手続きを定めた法律であり、私たち精神障害者の生活に大きく関わるものとして強い感心をもってまいりました。加えて、この度の改正は、相模原事件の再発防止策として提案されるものであり、趣旨に犯罪防止が明記された点などで従前の改正とは質の異なるものであると考えております。
この法案が可決、施行してしまえば、私たち精神障害者は、一度でも措置入院になると無期限に警察等によって監視されることになります。とても息苦しい生活になることを立法府の皆さまには、十分にご理解をいただきたいと思っております。
精神保健福祉法の措置入院の当事者は、精神障害者です。当事者とは特定の問題の効果の帰属主体のことであり、精神保健福祉法の手続きに基づき入院したり、退院したりする問題の当事者は、精神障害者をおいて他におりません。
 つきましては、厚生労働部門会議において精神障害当事者の団体からヒアリングを実施していただきたくお願い申し上げます。
敬 具 
2017年2月24日

議事録改竄問題について

議事録改竄問題について

 全国「精神病」者集団が推薦して検討会に出席した桐原参考人の議事録の修正が厚生労働省によって退けられた問題について本人の見解を交えて公表することとした。

 電話では何度か議事録の修正が反映されていな旨の連絡をした。厚生労働省は、修正は反映されていると答えた。具体的にどこが修正できていないと口頭で十分に伝えられなかったこともあり、しっかりと確認してもらえなかったのだろうと考えた。そこで、こちら側で具体的な個所を数点あげて再度、電話にて議事録の修正が反映されていない旨の連絡をした。厚生労働省は、議事録修正は反映されているとの立場を崩さず、かつ時期的に今から議事録を修正することはできない、という事務に関する追加の返答をした。結果、文脈的に伝わらないこともないかと思い、なくなく修正反映をこれ以上要求することは諦めた。
 そこに澤田さんの件があったため、再び、私のケースを問題化することを決意した。この問題は、単に議事録の修正が反映されていないという事務的な問題に収斂するものではなく、障害当事者の参画に当たっての配慮を欠いている点が問題ではないかと思われる。このように議事録修正が反映されないということは、まがって伝わるのではないかと不安になり精神障害者にとってはかなりの心理的な負担になる。また、検討が最終的には、このような技術的な面でどうにかされてしまうのではないかと考えると、検討それ自体を難しくさせる要因になり得るのではないかと懸念する。
 国家公務員の人らは、たかが議事録の修正と思われるのかもしれないが、障害当事者への配慮として私たちの感覚を受け入れて修正に応じられるようなものにしてほしいとせつに願う。

桐原による議事録修正 確定議事録(ウェブ上に掲載されたもの)
1 次に、教育・労働・安全衛生等の労働実態です。例えば職場の上司や同僚に相談することができたかなど、そうしたことを通じて技術の向上とか人材育成ができていたのかなど、そういった労働実態についての検証がされるべきではないかと思います。 2つ目は、教育・労働・安全衛生等の労働実態です。例えば職場の上司や同僚に相談することができたかなど、そうしたことを通じて技術の向上とか人材育成ができていたのかなど、そういった労働実態についての検証がされるべきではないかと思います。
2  そして次は、施設の提供するサービスの内容についての検証です。例えば意思の表出が困難な重度障害者が狙われたと聞いているのですけれども、こうした人たちの意思決定や意思疎通、コミュニケーションの支援というものがどれぐらいなされたかということに関心をもっています。  3点目は、施設の提供するサービスの内容についての検証です。例えば意思の表出が困難な重度障害者が狙われたと聞いているのですけれども、こうした人たちの意思決定や意思疎通、コミュニケーションの支援というものがどれぐらいなされたかということに関心を持っています。
3 続いて、2点目です。中間取りまとめで問題に思った点です。 続いて、2点目のほうですけれども、中間取りまとめで問題に思った点です。
4 ですが、明らかに犯行の方法などを事細かに書かれているわけなので、この神奈川県警の見立てというものが果たして本当に妥当だったのか、否、妥当ではなかったから施設側は対応できず、実際に事件が起きたわけですから、この点に関しては踏み込んだ評価が必要であろうと思います。そうでなければ現場の職員は、手紙を見せられずに情報共有がないまま防犯対策の責任だけを負わされることになります。施設側の努力だけに解決の糸口を求めていく方策は一カ所に負担が集中し過ぎて無理がでてきます。警察の判断の妥当性を検証して、情報共有のあり方に問題があるのならば反省的に継承し、どのような情報共有が妥当であるのか今後の方策につなげていくべきではないかと思います。 ですが、明らかに犯行の方法などを事細かに書かれているわけなので、この神奈川県警の見立てというものが果たして本当に妥当だったのか、否、妥当ではなかったから実際に事件が起きて、施設側は対応できなかったわけですから、この点に関しては踏み込んだ評価が必要であろうと思います。そうでなければ現場の職員は、手紙を見せられずに情報共有がないまま防犯対策の責任だけを負わされることになるので、施設側の努力だけに解決の糸口を求めていくと、そういう解決策の筋書きになってしまいます。警察官のそのときの手紙を見せないという判断が妥当であったかどうかということを検証しなければならないのではないかと思います。
5 3点目です。これは実際に再発防止策という形で期待を寄せられている継続支援チームと多機能垂直型統合診療所についての私たちが思っていることについてです。  3点目ですけれども、これは実際に再発防止策という形で期待を寄せられている継続支援チームと多機能垂直型統合診療所についての私たちが思っていることについてです。
6 まず、兵庫県で実際に実施されている継続支援チームについては、兵庫の精神障害者の団体と協力して独自に調査した結果、次の様な事実がわかってきました。精神科救急の輪番を組んでいてその日、当番だった病院が、あまり評判がよくない病院で、そこにたまたま救急で入院した。 まず、兵庫県で実際に実施されている継続支援チームについては、兵庫の精神障害者の団体と協力して独自に調査した結果、次のような事実がわかってきました。精神科救急の輪番を組んでいて、その日当番だった病院が、あまり評判がよくない病院で、そこにたまたま救急で入院した。
7 入院して、その後、継続支援の対象になって、通院自体をかなり厳密に管理されてしまって、逆にしんどいということで体調を崩した人がいるということと、それから、かなり他害防止のための監視という部分が強いので、そのあたりで監視されている気がするということで体調を崩して入院を繰り返したりとか、そういった人がいるので、実際の面でも慎重に考えられなければならないと思います。 入院して、その後、継続支援の対象になって、通院自体をかなり厳密に管理されてしまって、逆にしんどいということで体調を崩した人がいるということと、それから、かなり他害防止のための監視という部分が強いので、そのあたりで監視されているということで体調を崩して入院を繰り返したりとか、そういった人がいるので、実際の面でも慎重に考えられなければならないと思います。
8 4点目です。措置入院見直しについてとか、犯罪防止機能の強化といったことに対して一般論なのですけれども、措置入院解除の検証というものは非常に力点が置かれているのですが、再発防止策として措置入院解除後の過度に管理的な干渉がなされるのではないかと私たちは危惧しています。そういう意味では、こうしたやり方には反対しています。 4点目は、措置入院見直しについてとか、犯罪防止機能の強化といったことに対して一般論なのですけれども、措置入院解除の検証というものは非常に力点が置かれているのですが、再発防止策として措置入院解除後の過度に管理的な干渉がなされるのではないかと私たちは危惧しています。そういう意味では、こうしたやり方には反対しています。

 

厚生労働省交渉報告

厚生労働省交渉報告

2016年2月18日、10時30分から厚生労働省の前川企画法令係長と交渉しました。
関口明彦と桐原尚之、支援者1名で参加しました。

・検討会において障害者権利条約の要請を列記的に確認する作業をどこかに入れることについては、検討中とのことで具体的な方針は示されませんでした。
・障害者基本法を目的条項に入れさせる件に関しては、政府として理念条項を提案することが難しいとのことでした。
・医療保護入院届出件数の4万人減は、政策の影響であってニーズ変動とは考えていないとのことではあったが、その内訳についてはデータがないため詳細不明とのことでした。おそらくは、4万人の市町村同意が4万人程度ではないかと思われるが、市町村同意の件数がわからない、とのことで、そのため、今後は市町村から件数の照会を求めて、推計を出すなどしようと考えているとのことでした。
・行動制限については、実態を見ないで一律に制限することを想定していないとのことでした。たとえば、家族以外一律面会禁止としている場合は、病院のルールということではなく、精神保健福祉法上の行動制限に該当するため、診療録への記載義務も生じるとのことでした。病者集団側は、指導をしていくことになるが指導にあたって実情が浮かび上がってこないという課題があることと、繰り返し改善されない病院や都道府県がある事を指摘しました。厚生労働省は、指導を無視して現状が改善されないということはあってはならないことなので、より強い指導をしていくつもりだ、と回答しました。
・携帯電話の持ち込み禁止は、一律禁止ということを想定していないので、行動制限にあたるとのことでした。すなわち、カルテに制限の理由を記載する義務が生じるとのことでした。
・沼津中央病院のモデル事業については、委託したもので現在担当が産休中で確認できないためわからなかったのだが、このようなことがあるというように思っていないのだがどこからの情報か、と逆に質問がきたため、出典を明示し事実関係について具体的に伝えました。

前回の交渉で約束した障害者権利条約と精神保健福祉法に関する論点を提出しました。

障害者権利条約と精神保健法規の関係について(論点整理)
――医療保護入院を中心に――

○精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、精神保健福祉法)の医療保護入院は、精神障害者であることを要件として医療行為を受ける本人の同意に基づかない非自発的入院を規定しており、障害者権利条約第12条の趣旨に反する。

○医療保護入院は、精神障害者であることを要件として本人の同意に基づかない非自発的入院により、人身の自由を奪うため、障害者権利条約第14条の趣旨に反する。

○医療保護入院は、精神障害者であることを要件として本人の同意に基づかない医学的侵襲をするため、障害者権利条約第15条の趣旨に反する。

○医療保護入院は、精神障害者であることを要件として説明と同意に基づかない非自発的入院をするため、障害者権利条約第25条の趣旨に反する。

障害者差別解消法の立法府対応要領ヒアリングにおける意見

障害者差別解消法の立法府対応要領ヒアリングにおける意見

 本日は、立法府対応要領についてヒアリングを実施してくださりまして、心より敬意を表しております。一昔前よりは、障害当事者の参画が進んだといわれておりますが、精神障害者の団体がこうした場に参加する機会は依然として非常に少ないのが現実です。そのためか、立法府対応要領は、不当な差別的取扱いの例及び合理的配慮の例が精神障害者についてほとんど考慮されていない内容となっています。
精神障害者は別紙補足資料のとおり、医学的にも「易疲労感」などの症状が認められており、疲れやすさや身体の不調があらわれやすいなどの特性があるといわれています。そのため、私たちは長時間の会議の場合には定期的な休憩時間を入れること、休息可能なスペースを用意すること、休息それ自体を妨げないことなどを合理的配慮の例として要求してきました。
現在、国会議事堂の傍聴においては、国会職員の指示に従う旨の規則があり、この規則が守られない場合は退出させることができるとしています。2015年9月の参議院安全保障関連特別委員会は、国民的な関心が高く傍聴に行く人も非常に多かったため、傍聴席が足りなくなり、議員の配慮で全員が傍聴できるように傍聴希望者同士でローテーションを組む措置が取られることもあり、現実的な配慮はあります。しかし、時にして、精神障害者は、先の見えない、長時間に及ぶ定時まで待つことで発生する、障害ゆえに起きる体調不良の状態を解消するには、横になって休む必要があります。現状、精神障害者のための休養の場所を確保するためのスペースが担保されていません。
実際、先述の2015年の9月の折には、傍聴の待ち時間が定まらず、傍聴を希望する精神障害者は、結果として国会議事堂内のベンチで3時間近く待つことになりました。体調を崩し始めたため、当該ベンチで横になって休息していたところ、精神障害者で休息が必要なことを述べたにも関わらず、国会職員に起き上がるように指示され、それに従わない場合は、退出させるといわれました。結果として当該精神障害者は、体調を大幅に崩し、傍聴に専念することさえままならなくなりました。
 こうした横になることさえ咎める行為は、合理的配慮の欠如に該当すると考えられます。にもかかわらず、それが対応要領の中で示されないようであれば、再び同様の問題を引き起こし、ひいては、合理的配慮の欠如であるにもかかわらず退出を命じられる事態が生じかねません。これらは明記しなければ障害に基づく差別であることさえ認識されず正当化されていきます。
 そのため、私たちは精神障害者に対する合理的配慮の例として次の事項の追加・修正を要望します。

1.疲れやすい特性のある障害者が休息できる時間や場所を確保すること
2.休息している障害者に対して妨げる行為は合理的配慮の欠如に該当すること
3.服薬や糖質調整のための飲食を厳禁する行為は合理的配慮の欠如に該当すること
2016年2月5日
全国「精神病」者集団

成年後見制度の医療同意への業務拡大について慎重審議を求めます

成年後見制度の医療同意への業務拡大について慎重審議を求めます
現在、内閣府の成年後見制度利用促進会議・成年後見制度利用促進委員会では、成年後見人等による医療同意の業務拡大についての検討が進められています。現行法において成年後見人等の決定は、本人の決定と法的に同じ効力を有することになります。よって、成年後見人等の活動は、何か問題が起きた場合に本人からの訴えを退ける要素を多分にもっており、ブラックボックス化しやすいといった問題があります。成年後見人等による財産の使い込み事件が多発した背景には、こうした法律の構造に起因する部分が大きいです。この問題は、今以上に監視機能を追加したところで解消されるものではありません。医療は、患者の生命を左右するものであり、ときに取り返しのつかない状況を帰結します。そのため、成年後見制度の改正による医療同意の業務拡大には慎重を要するものと考えます。よって拙速な結論は避けられなければなりません。
2016年12月15日