日本弁護士連合会への意見書

日本弁護士連合会への意見書

 日頃より障害者施策の推進に尽力をくださり、心より敬意を表します。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
 精神保健福祉法は、精神障害者の強制を含む入退院手続きを定めた法律であり、私たち精神障害者の生活に大きく関わるものとして強い感心をもってまいりました。加えて、この度の改正は、相模原事件の再発防止策として提案されるものであり、趣旨に犯罪防止が明記された点などで従前の改正とは質の異なるものであると考えております。
 こうした医療及び保護を犯罪防止のためにしようとする法改正は、措置入院制度の構造に内在した問題が起因して生起させた議論であると考えます。これら非自発的入院制度は、障害者権利条約の観点から総点検されなければなりません。
 つきましては、声明の作成に際しては、措置入院制度自体に内在した問題と相模原事件再発防止策の関係、障害者権利条約の趣旨に言及したかたちで声明を作成してほしいと強く希望します。

1.犯罪防止のための法改正であることを医療及び保護のための法律の改正の趣旨に明示的に採用したことは問題である
 本改正では、措置入院制度が大幅に見直され、すべての措置入院者に退院後支援計画を策定し、計画の実施状況等を精神障害者地域支援協議会において把握することとされました。なお、精神障害者地域支援協議会の代表者会議は、警察関係者を構成員とし、措置入院者が退院後に転居した場合には、転居先の地方自治体が計画の実施状況の把握を引き継ぐこととされています。厚生労働省によると居住地のある地方自治体が措置入院者を把握することは、継続的な医療提供のためとされています。しかし、相模原事件の再発防止策として提言されたことを鑑みると、容疑者を入院させておけば、事件に至らなかった、あるいは、医療を提供すれば事件を起こさなかった、という論点を含意していることは明確であると考えます。

2.鑑定・判決を待たずして疾病と行為を結びつけて再発防止策を示したことは司法軽視である
 容疑者は、何らかの精神障害があったと目されていますが、疾病と行為の因果関係は不明であり、相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チームの最終報告書がとりまとめられた2016年12月8日の段階では、鑑定留置の結果さえ不明でした。しかし、本来なら事件の全容は、裁判によって明らかにされる者であり、こうした政策プロセスは、司法を軽視したものです。

3.こうした改正議論を生起させたのは、措置入院制度の構造に内在した問題に起因するものである
 措置入院制度に治安を担わせる再発防止策が論点として生起したのは、措置入院制度の構造に内在する問題に起因したものと考えます。措置入院は、「おそれ」という未来予測をもって入院させる制度であるが、未来予測は、科学を持ってしてもなお不可能な領域とされています。しかし、措置入院制度は、精神保健指定医が「おそれ」を見立てられると仮定して成り立っています。
 しかも、運用では法的予見可能性のような限定的なものと異なり、精神保健指定医に対して広く恣意的な判断が許容されています。このような広く恣意性を許容した制度の下においても完全に他害等を防ぐことはできません。ところが、起きたときには未来予測が可能であるという建前に立脚した責任が発生するため、なぜ防げなかったか、という論点が立てられてしまいます。とくに措置入院相当とされる人が犯罪事件をおかした場合には公的責任が問われうることになります(北陽病院事件等)。そして、再発防止策として措置入院の拘束力を引き上げる議論が生起し、医療の充実というかたちで治安的機能を引き入れた改正が繰り返し行われていくことになります。

 このような循環構造は、不可能な未来予測を可能であるかのように偽るところから始まった矛盾に起因するものです。そのため、措置入院が適切に医療のために機能していればよいという次元の問題ではなく、この構造が維持され続ける限り、これからも治安を内包していく制度であり続けることを意味します。なにか事件が起きるたびに精神医療の充実がとなえられ、精神医療が治安を抱きかかえていく構造、これ自体を批判し得なければ同じ問題が繰り返されていくことになります。なので、再発防止策が生起した原因の見立てには、措置入院制度の構造上の問題がそうさせている、ということについて言及してください。

4.非自発的入院制度は、障害者権利条約に基づき総点検されなければ同様の問題は繰り返されていくことになる
 障害者権利条約では、精神保健福祉法の非自発的入院が第12条、第14条、第15条、第17条、第19条、第25条など複数の条文にまたがって違反している可能性が指摘されています。とりわけて、障害を理由とした人身の自由の制約の禁止を規定した第14条は、精神障害者であることを理由とした非自発的入院制度を明確に否定していると考えてよいと思います。なので、日弁連「障害者権利条約の完全実施を求める宣言」に基づき非自発的入院制度を障害者権利条約に基づき総点検することについて言及してください。
   2017年3月6日

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正に関する法律(案)における厚生労働部門会議での精神障害当事者のヒアリングに関する陳情書

足立信也様 

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正に関する法律(案)における
厚生労働部門会議での精神障害当事者のヒアリングに関する陳情書

 日頃より障害者施策の推進に尽力をくださり、心より敬意を表します。
私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成される全国組織です。
精神保健福祉法は、精神障害者の強制を含む入退院手続きを定めた法律であり、私たち精神障害者の生活に大きく関わるものとして強い感心をもってまいりました。加えて、この度の改正は、相模原事件の再発防止策として提案されるものであり、趣旨に犯罪防止が明記された点などで従前の改正とは質の異なるものであると考えております。
この法案が可決、施行してしまえば、私たち精神障害者は、一度でも措置入院になると無期限に警察等によって監視されることになります。とても息苦しい生活になることを立法府の皆さまには、十分にご理解をいただきたいと思っております。
精神保健福祉法の措置入院の当事者は、精神障害者です。当事者とは特定の問題の効果の帰属主体のことであり、精神保健福祉法の手続きに基づき入院したり、退院したりする問題の当事者は、精神障害者をおいて他におりません。
 つきましては、厚生労働部門会議において精神障害当事者の団体からヒアリングを実施していただきたくお願い申し上げます。
敬 具 
2017年2月24日

議事録改竄問題について

議事録改竄問題について

 全国「精神病」者集団が推薦して検討会に出席した桐原参考人の議事録の修正が厚生労働省によって退けられた問題について本人の見解を交えて公表することとした。

 電話では何度か議事録の修正が反映されていな旨の連絡をした。厚生労働省は、修正は反映されていると答えた。具体的にどこが修正できていないと口頭で十分に伝えられなかったこともあり、しっかりと確認してもらえなかったのだろうと考えた。そこで、こちら側で具体的な個所を数点あげて再度、電話にて議事録の修正が反映されていない旨の連絡をした。厚生労働省は、議事録修正は反映されているとの立場を崩さず、かつ時期的に今から議事録を修正することはできない、という事務に関する追加の返答をした。結果、文脈的に伝わらないこともないかと思い、なくなく修正反映をこれ以上要求することは諦めた。
 そこに澤田さんの件があったため、再び、私のケースを問題化することを決意した。この問題は、単に議事録の修正が反映されていないという事務的な問題に収斂するものではなく、障害当事者の参画に当たっての配慮を欠いている点が問題ではないかと思われる。このように議事録修正が反映されないということは、まがって伝わるのではないかと不安になり精神障害者にとってはかなりの心理的な負担になる。また、検討が最終的には、このような技術的な面でどうにかされてしまうのではないかと考えると、検討それ自体を難しくさせる要因になり得るのではないかと懸念する。
 国家公務員の人らは、たかが議事録の修正と思われるのかもしれないが、障害当事者への配慮として私たちの感覚を受け入れて修正に応じられるようなものにしてほしいとせつに願う。

桐原による議事録修正 確定議事録(ウェブ上に掲載されたもの)
1 次に、教育・労働・安全衛生等の労働実態です。例えば職場の上司や同僚に相談することができたかなど、そうしたことを通じて技術の向上とか人材育成ができていたのかなど、そういった労働実態についての検証がされるべきではないかと思います。 2つ目は、教育・労働・安全衛生等の労働実態です。例えば職場の上司や同僚に相談することができたかなど、そうしたことを通じて技術の向上とか人材育成ができていたのかなど、そういった労働実態についての検証がされるべきではないかと思います。
2  そして次は、施設の提供するサービスの内容についての検証です。例えば意思の表出が困難な重度障害者が狙われたと聞いているのですけれども、こうした人たちの意思決定や意思疎通、コミュニケーションの支援というものがどれぐらいなされたかということに関心をもっています。  3点目は、施設の提供するサービスの内容についての検証です。例えば意思の表出が困難な重度障害者が狙われたと聞いているのですけれども、こうした人たちの意思決定や意思疎通、コミュニケーションの支援というものがどれぐらいなされたかということに関心を持っています。
3 続いて、2点目です。中間取りまとめで問題に思った点です。 続いて、2点目のほうですけれども、中間取りまとめで問題に思った点です。
4 ですが、明らかに犯行の方法などを事細かに書かれているわけなので、この神奈川県警の見立てというものが果たして本当に妥当だったのか、否、妥当ではなかったから施設側は対応できず、実際に事件が起きたわけですから、この点に関しては踏み込んだ評価が必要であろうと思います。そうでなければ現場の職員は、手紙を見せられずに情報共有がないまま防犯対策の責任だけを負わされることになります。施設側の努力だけに解決の糸口を求めていく方策は一カ所に負担が集中し過ぎて無理がでてきます。警察の判断の妥当性を検証して、情報共有のあり方に問題があるのならば反省的に継承し、どのような情報共有が妥当であるのか今後の方策につなげていくべきではないかと思います。 ですが、明らかに犯行の方法などを事細かに書かれているわけなので、この神奈川県警の見立てというものが果たして本当に妥当だったのか、否、妥当ではなかったから実際に事件が起きて、施設側は対応できなかったわけですから、この点に関しては踏み込んだ評価が必要であろうと思います。そうでなければ現場の職員は、手紙を見せられずに情報共有がないまま防犯対策の責任だけを負わされることになるので、施設側の努力だけに解決の糸口を求めていくと、そういう解決策の筋書きになってしまいます。警察官のそのときの手紙を見せないという判断が妥当であったかどうかということを検証しなければならないのではないかと思います。
5 3点目です。これは実際に再発防止策という形で期待を寄せられている継続支援チームと多機能垂直型統合診療所についての私たちが思っていることについてです。  3点目ですけれども、これは実際に再発防止策という形で期待を寄せられている継続支援チームと多機能垂直型統合診療所についての私たちが思っていることについてです。
6 まず、兵庫県で実際に実施されている継続支援チームについては、兵庫の精神障害者の団体と協力して独自に調査した結果、次の様な事実がわかってきました。精神科救急の輪番を組んでいてその日、当番だった病院が、あまり評判がよくない病院で、そこにたまたま救急で入院した。 まず、兵庫県で実際に実施されている継続支援チームについては、兵庫の精神障害者の団体と協力して独自に調査した結果、次のような事実がわかってきました。精神科救急の輪番を組んでいて、その日当番だった病院が、あまり評判がよくない病院で、そこにたまたま救急で入院した。
7 入院して、その後、継続支援の対象になって、通院自体をかなり厳密に管理されてしまって、逆にしんどいということで体調を崩した人がいるということと、それから、かなり他害防止のための監視という部分が強いので、そのあたりで監視されている気がするということで体調を崩して入院を繰り返したりとか、そういった人がいるので、実際の面でも慎重に考えられなければならないと思います。 入院して、その後、継続支援の対象になって、通院自体をかなり厳密に管理されてしまって、逆にしんどいということで体調を崩した人がいるということと、それから、かなり他害防止のための監視という部分が強いので、そのあたりで監視されているということで体調を崩して入院を繰り返したりとか、そういった人がいるので、実際の面でも慎重に考えられなければならないと思います。
8 4点目です。措置入院見直しについてとか、犯罪防止機能の強化といったことに対して一般論なのですけれども、措置入院解除の検証というものは非常に力点が置かれているのですが、再発防止策として措置入院解除後の過度に管理的な干渉がなされるのではないかと私たちは危惧しています。そういう意味では、こうしたやり方には反対しています。 4点目は、措置入院見直しについてとか、犯罪防止機能の強化といったことに対して一般論なのですけれども、措置入院解除の検証というものは非常に力点が置かれているのですが、再発防止策として措置入院解除後の過度に管理的な干渉がなされるのではないかと私たちは危惧しています。そういう意味では、こうしたやり方には反対しています。

 

厚生労働省交渉報告

厚生労働省交渉報告

2016年2月18日、10時30分から厚生労働省の前川企画法令係長と交渉しました。
関口明彦と桐原尚之、支援者1名で参加しました。

・検討会において障害者権利条約の要請を列記的に確認する作業をどこかに入れることについては、検討中とのことで具体的な方針は示されませんでした。
・障害者基本法を目的条項に入れさせる件に関しては、政府として理念条項を提案することが難しいとのことでした。
・医療保護入院届出件数の4万人減は、政策の影響であってニーズ変動とは考えていないとのことではあったが、その内訳についてはデータがないため詳細不明とのことでした。おそらくは、4万人の市町村同意が4万人程度ではないかと思われるが、市町村同意の件数がわからない、とのことで、そのため、今後は市町村から件数の照会を求めて、推計を出すなどしようと考えているとのことでした。
・行動制限については、実態を見ないで一律に制限することを想定していないとのことでした。たとえば、家族以外一律面会禁止としている場合は、病院のルールということではなく、精神保健福祉法上の行動制限に該当するため、診療録への記載義務も生じるとのことでした。病者集団側は、指導をしていくことになるが指導にあたって実情が浮かび上がってこないという課題があることと、繰り返し改善されない病院や都道府県がある事を指摘しました。厚生労働省は、指導を無視して現状が改善されないということはあってはならないことなので、より強い指導をしていくつもりだ、と回答しました。
・携帯電話の持ち込み禁止は、一律禁止ということを想定していないので、行動制限にあたるとのことでした。すなわち、カルテに制限の理由を記載する義務が生じるとのことでした。
・沼津中央病院のモデル事業については、委託したもので現在担当が産休中で確認できないためわからなかったのだが、このようなことがあるというように思っていないのだがどこからの情報か、と逆に質問がきたため、出典を明示し事実関係について具体的に伝えました。

前回の交渉で約束した障害者権利条約と精神保健福祉法に関する論点を提出しました。

障害者権利条約と精神保健法規の関係について(論点整理)
――医療保護入院を中心に――

○精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、精神保健福祉法)の医療保護入院は、精神障害者であることを要件として医療行為を受ける本人の同意に基づかない非自発的入院を規定しており、障害者権利条約第12条の趣旨に反する。

○医療保護入院は、精神障害者であることを要件として本人の同意に基づかない非自発的入院により、人身の自由を奪うため、障害者権利条約第14条の趣旨に反する。

○医療保護入院は、精神障害者であることを要件として本人の同意に基づかない医学的侵襲をするため、障害者権利条約第15条の趣旨に反する。

○医療保護入院は、精神障害者であることを要件として説明と同意に基づかない非自発的入院をするため、障害者権利条約第25条の趣旨に反する。

障害者差別解消法の立法府対応要領ヒアリングにおける意見

障害者差別解消法の立法府対応要領ヒアリングにおける意見

 本日は、立法府対応要領についてヒアリングを実施してくださりまして、心より敬意を表しております。一昔前よりは、障害当事者の参画が進んだといわれておりますが、精神障害者の団体がこうした場に参加する機会は依然として非常に少ないのが現実です。そのためか、立法府対応要領は、不当な差別的取扱いの例及び合理的配慮の例が精神障害者についてほとんど考慮されていない内容となっています。
精神障害者は別紙補足資料のとおり、医学的にも「易疲労感」などの症状が認められており、疲れやすさや身体の不調があらわれやすいなどの特性があるといわれています。そのため、私たちは長時間の会議の場合には定期的な休憩時間を入れること、休息可能なスペースを用意すること、休息それ自体を妨げないことなどを合理的配慮の例として要求してきました。
現在、国会議事堂の傍聴においては、国会職員の指示に従う旨の規則があり、この規則が守られない場合は退出させることができるとしています。2015年9月の参議院安全保障関連特別委員会は、国民的な関心が高く傍聴に行く人も非常に多かったため、傍聴席が足りなくなり、議員の配慮で全員が傍聴できるように傍聴希望者同士でローテーションを組む措置が取られることもあり、現実的な配慮はあります。しかし、時にして、精神障害者は、先の見えない、長時間に及ぶ定時まで待つことで発生する、障害ゆえに起きる体調不良の状態を解消するには、横になって休む必要があります。現状、精神障害者のための休養の場所を確保するためのスペースが担保されていません。
実際、先述の2015年の9月の折には、傍聴の待ち時間が定まらず、傍聴を希望する精神障害者は、結果として国会議事堂内のベンチで3時間近く待つことになりました。体調を崩し始めたため、当該ベンチで横になって休息していたところ、精神障害者で休息が必要なことを述べたにも関わらず、国会職員に起き上がるように指示され、それに従わない場合は、退出させるといわれました。結果として当該精神障害者は、体調を大幅に崩し、傍聴に専念することさえままならなくなりました。
 こうした横になることさえ咎める行為は、合理的配慮の欠如に該当すると考えられます。にもかかわらず、それが対応要領の中で示されないようであれば、再び同様の問題を引き起こし、ひいては、合理的配慮の欠如であるにもかかわらず退出を命じられる事態が生じかねません。これらは明記しなければ障害に基づく差別であることさえ認識されず正当化されていきます。
 そのため、私たちは精神障害者に対する合理的配慮の例として次の事項の追加・修正を要望します。

1.疲れやすい特性のある障害者が休息できる時間や場所を確保すること
2.休息している障害者に対して妨げる行為は合理的配慮の欠如に該当すること
3.服薬や糖質調整のための飲食を厳禁する行為は合理的配慮の欠如に該当すること
2016年2月5日
全国「精神病」者集団

成年後見制度の医療同意への業務拡大について慎重審議を求めます

成年後見制度の医療同意への業務拡大について慎重審議を求めます
現在、内閣府の成年後見制度利用促進会議・成年後見制度利用促進委員会では、成年後見人等による医療同意の業務拡大についての検討が進められています。現行法において成年後見人等の決定は、本人の決定と法的に同じ効力を有することになります。よって、成年後見人等の活動は、何か問題が起きた場合に本人からの訴えを退ける要素を多分にもっており、ブラックボックス化しやすいといった問題があります。成年後見人等による財産の使い込み事件が多発した背景には、こうした法律の構造に起因する部分が大きいです。この問題は、今以上に監視機能を追加したところで解消されるものではありません。医療は、患者の生命を左右するものであり、ときに取り返しのつかない状況を帰結します。そのため、成年後見制度の改正による医療同意の業務拡大には慎重を要するものと考えます。よって拙速な結論は避けられなければなりません。
2016年12月15日

【緊急声明】全国「精神病」者集団以外が主宰するメーリングリストでの言動について誠意と良識のある投稿を呼びかけます

緊急声明
全国「精神病」者集団以外が主宰するメーリングリストでの言動について誠意と良識のある投稿を呼びかけます

 障害者運動等の関係者が大勢登録されているメーリングリスト上において全国「精神病」者集団の会員が、全国「精神病」者集団内部で話し合われるべき問題を頻繁に投稿しては、混乱を招いている事実を確認しています。当該投稿は、明らかに公表することによる大衆の利益が認められず、逆に公共空間における自由な討議の妨げにさえなっているのではないかと懸念します。そのため、全国「精神病」者集団内部の問題は、先ずは全国「精神病」者集団内部で討議されることを呼びかけるとともに、全国「精神病」者集団以外の人が大勢登録しているメーリングリストにおいては、その空間の成員の自治を尊重し、議論の妨げにならないよう誠意と良識のある投稿を呼びかけます。
   2016年9月9日

成年後見制度利用促進勢力に対する阻止闘争の方針

 全国「精神病」者集団は、障害者権利条約第12条の観点から成年後見制度の廃止を求めており、2015年8月頃から成年後見制度利用促進法案にも本格的に反対活動をしてきました。その結果、法案自体は成立してしまいましたが、国会の委員会における審議と付帯決議を勝ちとりました。
成年後見制度利用促進法案は、施策の方向性のみが示されているだけで、具体的な施策は成年後見制度利用促進会議で検討することとされています。つまり、今後の成年後見制度の施策・運用のほとんどが、成年後見制度利用促進会議で決められることになります。
成年後見制度利用促進会議で検討する施策の方向性として、次があげられています。

① 保佐と補助の利用を促進するための方策の検討をし、必要な措置を講ずること。
② 成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行うこと。
③ 医療、介護等を受けるに当たり意思を決定することが困難な成年被後見人等の支援について、成年後見人等の事務の範囲を含め検討を加え、必要な措置を講ずること。
④ 成年被後見人等の死亡後の事務処理について成年後見人等の事務の範囲について検討を加え、必要な見直しを行うこと。
⑤ 任意後見制度が積極的に活用されるよう必要な制度の整備その他の必要な措置を講ずること。
⑥ 成年後見制度の周知、啓発のために措置を講ずること。
⑦ 相談や助言、市町村長による後見開始などの措置を講ずること。
⑧ 成年後見人等となる人材を確保するため、研修、報酬の確保など支援の充実を図るために必要な措置を講ずること。
⑨ 成年後見等実施機関の活動に対する支援のために必要な措置を講ずること。
⑩ 家庭裁判所、関係行政機関に必要な人的体制の整備その他の必要な措置を講ずること。
⑪ 成年後見制度の利用に関する指針の策定その他の必要な措置を講ずること。

このうち、②については、成年後見制度の廃止までの過程で欠格条項を含む個別の権利制限の規定を削除していく必要があると考えます。③の成年後見人の業務を医療同意にまで拡大する件は、英国の意思決定能力法でやられている延命中断のための同意の代諾など、優生思想による障害者抹殺を促進する可能性があり、極めて問題があります。このような憂慮すべき施策の阻止に向けた最初の舞台は、成年後見制度利用促進会議になります。当該会議の発足は法律で決められたものであり、これ自体を阻止することは難しいですが、この会議の中で具体的な施策を阻止していくことはできるのではないかと思います。また、こうした障害者の生活を左右するような施策を、当事者抜きに決めることは障害者権利条約の観点からも許されないことです。問題の解決には、障害者団体が政策決定への参画を要求していくことしかないのではないかと思います。
ただ、見立てとして全国「精神病」者集団は、成年後見制度利用促進会議に入れないのではないかと思われます。なので、今後は当事者団体を入れずにして決まった施策という位置付けで成年後見制度利用促進会議の決定事項を糾弾していくことになるでしょう。
2016年6月9日

意思無能力法理明文化反対の覚書(第一版)

意思無能力法理明文化反対の覚書(第一版)

 意思無能力法理明文化反対論者の一部には、意思を前提に構成される民法の在り様を批判せずに意思無能力法理だけを取り出して批判し、もって障害者権利条約第12条第2項の履行に不可欠とする立場も存在するようだが、全国「精神病」者集団は、こうした立場をとらない。第一に全国「精神病」者集団は、意思を前提に構成される民法それ自体が障害者権利条約第12条第1項に違反するという立場をとる。同条約第12条第2項は、障害を理由とした法的能力の不平等の禁止を求めているが、意思能力はすなわち法的能力であるといい難い部分がある。このことは、障害者権利委員会がMental capacityとlegal capacityを概念上区別していることからも自明である。だが、意思無能力は、障害者が他の者と平等に法的能力を行使するための前提条件に係る問題ではあり、法的能力行使の観点からも看過できない問題といえる。そのため、全国「精神病」者集団は、民法に意思無能力法理が採用された背景には民法が前提とする人間像に障害者が含みこまれていないために引き起こされる問題への帳尻合わせがあることを認め、このことを「障害者が全ての場所において法の前で人として認められる権利」の侵害であると捉えて批判したい。
 全国「精神病」者集団の主張は、民法から意思無能力法理だけを取り除けばいいとする考え方とは一線を画するものであり、こうした考え方に対しては、単に表示主義を帰結するものとして批判する立場をとる。また、法律上に意思無能力者という位置を設けることに反対とする立場も存在するが、意思を前提に構成される民法の前では、結局のところ表示主義か意思主義の二者択一を迫られることになり、意思主義の立場をとるならば仮に意思無能力者という名称を使わないとしても、別の名称によって契約の有効性を判断せざるを得なくなる。現行民法では意思以外で有効性を判断するとなると動機や表示行為以外にないため、詰まる所、なんど呼称を言い換えたところで現行民法のドグマに収斂していくことになるのである。その意味で、意思無能力者の存在を問題とする主張は表面的であり、意思無能力者あるいはそれに代わる同じものを生じさせるおおもとの民法のあり方にこそ批判を向けなければならないだろう。
   2016年5月10日

私たちは民法改正による意思無能力法理の明文化に反対します

私たちは民法改正による意思無能力法理の明文化に反対します

 私たち全国「精神病」者集団は1974年に結成した精神障害者の個人及び団体で構成する全国組織です。私たち精神障害者は、たびたび疾病などの機能障害を根拠として社会から判断能力がないと見なされ、自分で自分のことを決めることが許されず、他の権限を有する人(医師や家族、成年後見人等)による代理決定を強いられてきました。このことは、私たちにとって非常に屈辱的な経験であったため、国際レベルの運動を展開して改善を訴えました。その結果、障害者権利条約が国連において採択され、機能障害を理由として自分で自分のことを決める権利を侵害することが人権侵害であることが確認されました。
 さて、法務省は法制審議会民法(債権関連)部会において民法改正に向けた議論を始め、2015年2月10日には、「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が公表されました。当該要綱案には、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」として意思能力を明文化することが提言されています。明文化の根拠として「高齢化社会の進展に伴い、判断能力が減退した高齢者をめぐる財産取引上のトラブルが増加し成年後見制度等によって一定の対応を図ることができるが、判断能力の低下した高齢者のすべてにこれらの制度の利用を求めるのは非現実的である。そのため、判断能力が低下した高齢者をめぐる財産取引上のトラブルに対応するための規律として、意思能力に関する規律の重要性が高まっている。そこで、これを明文で規定するのが相当である」とされています(註1)。
成年後見制度の立法事実には意思無能力による法律行為の無効が取引社会の安全を脅かすことが第一義的にあげられています。それ以外の事理弁識能力のない人の財産保護といった立法趣旨は、本来なら民法の意思能力に帰属するものです。すると意思無能力を明文化することは、取引社会の安全という成年後見制度の立法事実を明示的に採用することを意味し、成年後見制度の利用拡大・促進へと政策を方向づけることになります。成年後見制度の利用促進は、国連障害者権利委員会(註2)や障害当事者団体(註3)を中心に障害者権利条約第12条の観点から問題であるとされており、また、第190会通常国会において審議された成年後見制度利用促進法案及び家事手続法改正案には、障害者団体や新聞各社から多数の反対意見が上がり、付帯決議の可決に至っています。意思無能力法理の明文化は、既に多くの問題を指摘されている成年後見制度に対して、なんら見直すことなく促進の方向づけを与えるものであり、納得できるものではありません。よって私たち全国「精神病」者集団は、「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」の意思無能力法理の明文化に全面的に反対するとともに当該箇所の削除を求めます。

註 1 法務省『法案要綱たたき台(7)』法制審部会資料73‐A、2014年1月14日
2 国連障害者権利委員会『一般的意見第1号』2014年3月31日-4月11日、para,11, 12, 13
3 2009年9月、日本障害フォーラムと日本政府の意見交換会

2016年5月10日