原本確認調査に対する意見

高齢者・障害者等の意思決定支援の実現を目指す司法書士の会 御中
2015年12月15日

問1 上記のような原本確認調査は、障害者権利条約の趣旨に反するとお考えになられますか?反しないとお考えになられますか?

原本確認調査は、障害者権利条約第12条第3項の趣旨に違反すると考える。また、成年後見制度は、障害者権利条約第12条第1項及び同条第2項に違反する。
当会としては法的能力の範囲には行為能力が含まれると考えている。これは障害者権利委員会・国際障害同盟と同意見であり、法学上の通説である。そのため、成年後見制度は行為能力を制限する点で障害者権利条約第12条第2項に違反するものと考えている。(一部には代理決定パラダイムを誤って認識した上で障害を理由とした制限行為能力の存置を主張する立論も存在するようだが、学問は複数の立場があってよいというだけに過ぎず、少数派の学説を政策においてデフォルトと見なすべきでないのは当然である。)
その上で原本確認調査は、法律の上で行為能力を制限するものではないため12条2項の趣旨に違反しないが、法律上の権利の行使(例えば個人情報の保護に関する法律における個人情報の取得における本人の同意・個人情報のコントロール権)の機会にアクセスさせず妨げるものであるため、12条3項の趣旨に違反する。
原本確認調査は、被後見人等に個人情報の取得や使用に関してなんら同意を得ておらず、個人情報取得の同意を得るための努力を怠慢しようとするものに過ぎない。

問2 上記のような原本確認調査は、なんらかの法令・条例に反するとお考えになられますか。反しないとお考えになられますか?

 原本確認調査は、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)に反すると考える。
個人情報保護法では、個人情報取扱業者が個人情報の取得に際して当該個人情報の本人から同意を得る必要があるとされている。当該個人情報の本人である成年被後見人等から同意を得ないで個人情報を取得することは、たとえ財産保護が利益行為であることを口実にしようとも、法令に違反する事実に変わりはない。
また、個人情報保護法における本人の同意は、必ずしも法律行為であるとは考えないため、安易に成年後見人等による代理権によるべきではなく、成年被後見人等による同意を前提とすべきである。同意の取得が事実上困難と思われる場合であっても、個別具体的な判断能力に応じた同意の可能性を模索し、開くべきと考える。
個人情報保護法は、全ての国民を対象とする法規であるため成年後見制度の利用者を想定していないなどということにはなり得ない。また、すべての国民を対象とする法規において「精神上の障害」を理由に法律上の「本人の同意」を排斥し、個人情報のコントロール権を侵害するものであるから、障害者差別解消法に基づく「障害に基づく不当な差別的取扱い」に該当するものと考える。

問3 その他、原本確認調査について、ご自由にご意見をお述べください。

原本確認調査をめぐって司法書士の職業倫理と障害者権利条約の理解について違和感を禁じえなかったため、二点について意見を述べることとする。

①司法書士の職業倫理に対する問い
 司法書士法には、秘密保持義務の規定がある。当会は、原本確認調査が直ちに当該規定に違反するかどうかは関知しないが、少なくとも司法書士は職業倫理の観点からも慎重であるべきと考える。このたびの原本確認調査からは、職業倫理の観点から社会的信用を失墜させるほどの問題であると考えている。
確かに成年被後見人の財産を安全に管理することは不可欠である。が、それを理由に個人情報のコントロール権を侵害していいことにはならないだろう。原本確認調査は、被後見人等に個人情報の取得や使用に関してなんら同意を得ないだけではなく、個人情報取得の同意を得るための努力を怠慢したものである。真に成年被後見人等の財産を安全に管理したいと思うのならば、一人一人の成年被後見人等に対して個人情報取得の同意を得られるよう説明に出向くべきである。こうした手間を惜しみ安易に本人の同意をとらずして個人情報を取得しようとすることは、「司法書士は成年被後見人等なんかに時間をかけていられないのだ」と見下しきった無礼な態度のあらわれである。まるで司法書士の身の保身以外に関心がないと言わんばかりである。
一体全体、「安全に管理されるのが当然の前提である」ことが、なぜ原本確認調査を許容することになり、それが推定的承諾を見なし得るのか、全くもって理解できない。

②障害者権利条約の解釈をめぐる問題
 障害者権利条約の解釈は、原本確認調査に賛成する立場、反対する立場ともに誤っていると言わざるを得ない。
 障害者権利委員会が一般的意見で「これまで委員会が審査してきた締約国の報告の大半において、意思決定能力と法的能力の概念は同一視され、多くの場合、認知障害又は心理社会的障害により意思決定スキルが低下していると見なされた者は、結果的に、特定の決定を下す法的能力を排除されている」と述べているように、意思決定能力(Mental capacity)と法的能力(legal capacity)は別の概念である。ここでいう法的能力とは、「権利と義務を所有し(法的地位)、これらの権利と義務を行使する(法的主体性)能力」のことである。
 意思決定能力には個人差があり、個人差の原因は個人の状態のみに帰属できるものではなく、社会に原因帰属されるべき事柄を多分に含んでいる。
 そもそも代理決定には、委任、第三者のための契約などが含まれない点を留意されたい。これらは、むしろ法的能力行使に当たって必要な支援と理解されるべきである。代理決定パラダイムとは、意思決定能力(Mental capacity)が低下・発揮できない人に対して、その人の決定を代わりする人間とはだれが相応しいのかといった、代理決定者適格性の議論枠組みのことを指しているのである。これに対してguardianなどの適格性を有した代理決定者が代わりに決定するという枠組みではなく、応援されながら意思決定をしていくパラダイムへとシフトすべきだとするのが支援された意思決定のパラダイムである。この応援の形体は、きわめて多様であり、先に述べた委任なども当然含まれる。他方、これらの支援は、障害者の法的能力の行使を妨げるものであってはならない。とりわけ、ソーシャルワーカーによる不利益にならないための法律行為の誘導は、(a)決定できる法律行為の範囲を予め“合理的な範囲”などとして狭く限定すること、(b)ソーシャルワーカーがコーディネーターとしての代表権を有し適格性の枠組みをでないこと、から多くの場合は法的能力の行使を妨げる帰結となるだろう。このような観点に立つと法的能力を制限しない障害者総合支援法の意思決定支援制度であっても、法的能力の行使を事実上妨げることがあるのならば障害者権利条約12条3項に違反し得るのである。
 また、障害者権利委員会は、最終手段(last resort)であれ法的能力の制限を認めていない。障害者権利委員会の一般的意見では、「障害のある者としての地位や、(身体機能障害又は感覚機能障害を含む)機能障害の存在が、決して、第12条に規定されている法的能力や権利を否定する理由となってはならないことを再確認する」とされており、例外を認めていない。確かに自己決定には限界がある。しかし、自己決定に限界があることは、法的能力の制限を許容することを意味しない。自己決定の限界を代理決定で補完しようとすることと、法的能力の制限への抵抗として自己決定を対置させることは、ともに間違った考え方である。例えば、集合的選択を推定同意と見なす方途など代わりの方策はいくらでも考えられる。にもかかわらず、なんら替わりの方策を検討しないまま、自己決定に限界があることを理由に代理決定しか方策がないが如くの立論によるのは、無知を露呈しているわけであり恥ずべき行為である。国家試験に合格し司法書士を名乗って業務を行っているにも関わらず、こうした状況では本当に私たちの日常生活を支えられるのかについて不安を禁じえない。障害者団体の主張に耳を傾け、学習し研鑽されることをつよく望むため、法的能力と意思決定支援に係る全国「精神病」者集団との意見交換の機会を検討していただきたいと思う。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の改正における障害者の権利に関する条約との関係に関する質問書

厚生労働省 社会・援護局
障害保健福祉部精神障害保健課長 殿

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の改正における
障害者の権利に関する条約との関係に関する質問書

 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、精神保健福祉法)は、附則に基づき今年度改正されることとされています。
 精神保健福祉法の当事者は、精神障害者です。当事者とは特定の問題の効果の帰属主体のことであり、精神保健福祉法の手続きに基づき入院したり、退院したりする問題の当事者は、精神障害者をおいて他におりません。加えて、精神障害者としての主張をできる――精神障害者という集合アイデンティティを一人称として発言できる――のは、第一に精神障害者の団体であるはずです。貴省におかれましては、当事者である精神障害者の意見を聴く必要性を十分に認識していただきたく思っております。
 2013年6月、衆参両議院厚生労働委員会において「精神障害のある人の保健・医療・福祉施策は、他の者との平等を基礎とする障害者の権利に関する条約の理念に基づき、これを具現化する方向で講ぜられること」を含む精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正に関する法律案に対する付帯決議が可決されました。
 当会としては、障害者権利条約の策定過程に関わった精神障害の当事者団体として、私たち障害者の主張の集大成である障害者権利条約を政策における一次的な規範として踏まえられることを望みます。また、日本は障害者権利条約の締約国であるため政府(厚生労働省を含む)としても障害者権利条約を遵守し、履行するという前提があると考えます。
 当会としては、厚生労働省が障害者権利条約をどのように理解しているのか、そして、精神保健福祉法を改正するにあたって障害者権利条約を踏まえたものにする意志はあるのか、といったことが大きな関心となっています。そこで、次の質問について回答をしていただきたくお願い申し上げます。

1 障害者権利条約を踏まえることについて
 設置が予定されている精神保健福祉法改正のための検討会・ワーキンググループでは、障害者権利条約を踏まえるべく障害者権利条約が各国の精神衛生法規に対して一般的に要請している事項を確認する予定はあるのでしょうか。厚生労働省としての認識をお示しください。

2 障害者権利条約第14条 身体の自由及び安全
医療保護入院と障害者権利条約第14条の関係、任意入院と障害者権利条約第14条の関係、措置入院と障害者権利条約第14条の関係について、それぞれどのように認識されているのかをお示しください。

3 障害者権利条約第12条 法の前の平等
障害者権利条約第12条と任意入院の関係、障害者権利条約第12条と医療保護入院の関係、障害者権利条約第12条と措置入院の関係について、それぞれどのように認識されているのかをお示しください。
また、付帯決議の意思決定の支援とは、障害者権利条約第12条第3項の法的能力の行使に当たって必要な支援であるべきと考えておりますが、どのように認識されているのかをお示しください。

4 障害当事者の政策参画
 精神保健福祉法改正過程は、付帯決議に基づき障害者権利条約の理念を具現化する方向で講ずるのであれば、障害者権利条約前文(o)及び障害者権利条約第4条第3項に基づき精神障害者を代表する団体から推薦を受けた障害当事者が精神保健福祉法改正のための検討会・ワーキンググループに構成員として複数名入っていてしかるべきと考えるが厚生労働省としては、どのように認識されているのかお示しください。

精神保健福祉法改正に対する緊急声明

精神保健福祉法改正に対する緊急声明

 2013年6月、精神保健福祉法は、保護者制度を含む医療保護入院等の見直しを含む「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(2010年6月29日閣議決定)を受けて、保護者制度の廃止に伴い医療保護入院も家族等の同意に変更する改正がなされました。このときの改正は、障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の一環として実施されたものの、障害者権利条約に係る議論は一切なされませんでした。
 この当時「家族等の同意」は、保護者の同意と比較しても広範囲(三親等以内)の人に同意権を付与することになるため批判の声が高まりました。そこで衆参両厚生労働委員会において法案の審議に質疑の時間が設けられ、付帯決議と施行3年後の見直しの規定が盛り込まれて可決へと至りました。このたびの改正は、ちょうど2013年改正の際にやり残された医療保護入院の見直しに取り組むことが求められている改正ということになります。
 2013年度の法改正では、「家族等の同意」によって、従来よりも広範囲の人に同意権を付与することが可能となり、従来なら医療保護入院の対象にならない人までもが医療保護入院の対象となりました。また、大臣指針では、いわゆる「病棟転換型居住系施設」の構想が盛り込まれ、精神科病院の体制・文化が地域移行の過程において維持・継続されることが懸念されました。そしてこの間、新規措置入院患者の急増、医療保護入院の増加、隔離・身体拘束の増加など、拘束性の強い処遇が増しており、およそ改善に向かっているとはいいがたい状況があります。
このように精神保健福祉法の改正は、「より現実的な方法で」「少しでもマシなものに」という動機と裏腹な帰結を招いています。さて、このたびの改正でも、これまで通りに精神保健福祉法の部分修正を重ねたところで、本当に35万人の入院患者の実情に変化を与えることができるのでしょうか。私たちは、精神障害者をとりまく多くの問題は、精神保健福祉法という法律の部分改正では到底解決に至らない、否、精神保健福祉法という法律こそ問題の根幹であると断じます。
 よって精神保健福祉法は、改正ではなく撤廃しかありえません。
2015年12月6日

長谷川智恵氏の発言への抗議文

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者個人・団体の全国組織です。精神科に通院・入院した経験のある人だけで構成し運営しています。
去る11月19日、『読売新聞』において茨城県教育委員の長谷川智恵子氏(71)が「妊娠初期に(障害の有無が)もっとわかるようにできないでしょうか。4か月以降になるとおろせないですから」などと発言したことが報道されました。
 長谷川氏の発言は、障害のある人の存在を誰かにとって負担であると位置づけ、障害のある人が生まれてこない方が良いとする差別的なものです。もし、親をはじめとする誰かに負担が集中しているという事実があるならば、社会が障害のある人をサポートすることで親が負担を負おうとしなくてもよい社会がつくれるはずです。
 しかし、長谷川氏の発言は、原因を社会に求めようとせず、個人に求めようとしています。障害のある個人が生きていることが負担の原因と見なしているのです。誰かに対して生まれてこない方が良いなどというべきではありません。なにより、具体的に誰かが生まれてこないための方策を口走るなどあってはならないことです。
 私たち精神障害者は、長谷川氏のような考え方により生存を否定されてきた立場です。その立場から長谷川氏の発言は、私たち自身に向けられたものと考え、強く抗議するとともに、長谷川氏のような考え方を断固として糾弾します。

成年後見制度利用促進法案に関するヒアリングの申し入れ

民主党障がい者政策推進議員連盟
原口一博 様

 新春の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 このたび与党がまとめている成年後見制度利用促進法案に対しては、士業団体を中心にさまざまな問題が指摘されており、貴政党におかれましても与党案に対して修正案を出す意向があるものとうかがっております。
 成年後見制度の当事者のひとつには、精神障害者がいます。貴政党におかれましては、障害者権利条約の趣旨を踏まえて、当事者である精神障害者の意見を聴いていただきたく思っております。
 つきましては、成年後見制度利用促進法案に関するヒアリング先の団体に全国「精神病」者集団も加えていただきますよう、お願い申し上げます。

2016年1月22日

精神保健福祉法改正に提言をする関係者に訴えます!部分改正を重ねていて本当に私たちの実情は変わるのでしょうか

精神保健福祉法改正に提言をする関係者に訴えます!
部分改正を重ねていて本当に私たちの実情は変わるのでしょうか

 2013年6月、精神保健福祉法は、保護者制度を含む医療保護入院等の見直しを含む「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(2010年6月29日閣議決定)を受けて、保護者制度の廃止に伴い医療保護入院も家族等の同意に変更する改正がなされました。このときの改正は、障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の一環として実施されたものの、障害者権利条約に係る議論は一切なされませんでした。
 この当時「家族等の同意」は、保護者の同意と比較しても広範囲(三親等以内)の人に同意権を付与することになるため批判の声が高まりました。そこで衆参両厚生労働委員会において法案の審議に質疑の時間が設けられ、付帯決議と施行3年後の見直しの規定が盛り込まれて可決へと至りました。このたびの改正は、ちょうど2013年改正の際にやり残された医療保護入院の見直しに取り組むことが求められている改正ということになります。
 2013年度の法改正では、「家族等の同意」によって、従来よりも広範囲の人に同意権を付与することが可能となり、従来なら医療保護入院の対象にならない人までもが医療保護入院の対象となりました。また、大臣指針では、いわゆる「病棟転換型居住系施設」の構想が盛り込まれ、精神科病院の体制・文化が地域移行の過程において維持・継続されることが懸念されました。そしてこの間、新規措置入院患者の急増、医療保護入院の増加、隔離・身体拘束の増加など、拘束性の強い処遇が増しており、およそ改善に向かっているとはいいがたい状況があります。
このように精神保健福祉法の改正は、「より現実的な方法で」「少しでもマシなものに」という動機と裏腹な帰結を招いています。
 さて、このたびの改正でも、これまで通りに精神保健福祉法の部分修正を重ねたところで、本当に35万人の入院患者の実情に変化を与えることができるのでしょうか。
 私たちは、精神医療の現場に横たわる多くの問題は、精神保健福祉法という法律の部分改正では到底解決に至らないと確信しています。もちろん、現状が大きく変化しない理由には、さまざまなアクターの利害関心の影響によるものや法構造が複雑すぎて改正自体が容易でないこともあるでしょう。しかし、精神保健福祉法という法律それ自体の問題の帰結として、こうした問題が引き起こされていることを見逃してはなりません。
法改正の時期に何かしらの提言をすることはときに必要かもしれません。しかし、法改正では改善に至らないのであれば、どうするべきであるのか、今一度、真剣に考え直すべきではないかと考えます。
 そして、精神保健福祉法の入退院手続の問題の当事者は、精神障害者をおいて他に存在しません。あくまで、この法律の対象者として入院するのは精神障害者なのです。その精神障害者というアイデンティティで集まった団体として精神障害者の団体が存在します。私たちは、精神障害者の団体の意見を聴かずして専門職団体が自分たちの経験則や対話可能な精神障害者の語りだけで提言を続けることは危険であると断じます。
 私たちのことを私たち抜きにして決めないでください。
2015年11月2日

【声明】成年後見制度利用促進法案に反対する声明

 2015年7月、与党は「成年後見制度利用促進法案」をまとめた。早めれば8月に国会に上程される見込みです。
 このたびの「成年後見制度利用促進法案」では、①利用者を増やす基本計画の策定を国や自治体に義務付ける、②後見人による財産の不正流用を防ぐための監督強化、③被後見人の権利制限の見直し(主に欠格条項の見直し)、④手術や延命治療などの医療を受ける際の同意権及び現在含まれない後見人の事務範囲の拡大・見直し、⑤後見人が利用者宛ての郵便物を自らのもとに送り、必要な書類を閲覧できるようにする、などが盛り込まれました。
 しかし、当該法案は、成年後見制度の対象のひとつとされている精神障害者に対して一切ヒアリング等を実施せずに上程されようとしているものです。また、当該法案自体が、以下の重要な問題を含んでいるため、当会としては強く反対します。

1.成年後見制度自体の問題
 2014年に日本でも批准された障害者権利条約第12条では、法の前の平等(1項)、法的能力の平等(2項)が規定されました。一般的に法的能力の範囲には、行為能力が含まれるものと考えられています。そのため、被後見人の行為能力を制限する成年後見制度のような現行の制度は、障害者権利条約に違反すると指摘する声が強くなってきました。
 また、全国「精神病」者集団は、成年後見制度を障害者権利条約の策定の段階から障害を理由とした他の者との不平等の問題と位置付けており、国連の水準を見習い廃止するべきであると考えています。仮に廃止が難しいとしても成年後見、保佐の類型が残るようなことはあってはならないし、補助の適用も最終手段であることについて挙証を求めるなど厳格な運用が必要と考えます。

2.医療同意について
 成年後見制度利用促進法案では、医療同意の拡大を示しています。医療同意は、民法上の医療提供契約の締結と異なり、患者が侵襲行為に対して同意を取り付けるという医療行為の正当化要件にかかわる重要な手続きです。法律行為である医療提供契約と同様の手続において成年後見制度の対象にしてはいけません。こうした範囲拡大は、障害者の生命にかかわる諸判断を代理人に代行させるものであり、障害者の生命を危機に追いやる極めて問題のある政策といえます。被後見人等であっても医療同意に関してはあくまで本人がすること、仮に医療同意が取れないとした場合は緊急避難三要件の適用を見てもっとも医道に適った選択をすることが求められていると考えます。

3.代理決定枠組みから支援された意思決定枠組みへの転換
 今必要なことは、成年後見制度のような行為能力の制限を伴う制度を廃止し、その先で本当に必要な支援を確保していくことです。
以上のことから私たちは、成年後見制度利用促進法案に反対します。
   2015年8月15日

生活保護における住宅扶助及び冬季加算の切り下げの動きに抗議します

 2015年度予算において4月より、生活保護の住宅扶助及び冬季加算の切り下げがなされようとしています。
 住宅扶助については現在住んでいる賃貸住宅の更新期間が来ると扶助が切り下げられ、転居を強いられるおそれがあるとのことです。とりわけ精神障害者にとっては転居強制により、障害の重度化あるいは病状の悪化が想像されます。もちろん他障害や高齢者にとっても同様です。
 重大な人権侵害です。
 長期間の入院から退院のためのアパート探しも困難を極める恐れがあります。
 退院促進がますます困難になりかねません。国の失政により生み出された長期入院患者さんたちの人生被害をこれ以上放置することは許されません。
 障害者・病弱者そして高齢者にとって冬期加算は今ですら不十分であり、さらに切り下げられれば死者すら出しかねません。
 2015年度予算による生活保護受給者への住宅扶助および冬季加算の切り下げがなされないよう、強く要請します。
   2015年1月25日

障害者虐待防止法改正意見書

厚生労働省大臣 塩崎 恭久様
2015年1月8日

日頃の障害者の人権擁護へのご努力に敬意を表します。
さて「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下障害者虐待防止法とする)はその附則において以下定めています。

(検討)
第二条
政府は、学校、保育所等、医療機関、官公署等における障害者に対する虐待の防止等の体制の在り方並びに障害者の安全の確認又は安全の確保を実効的に行うための方策、障害者を訪問して相談等を行う体制の充実強化その他の障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援、養護者に対する支援等のための制度について、この法律の施行後三年を目途として、児童虐待、高齢者虐待、配偶者からの暴力等の防止等に関する法制度全般の見直しの状況を踏まえ、この法律の施行状況等を勘案して検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

現在障害者虐待防止法の通報義務の対象に学校・病院は含まれておりません。しかし病院とりわけ精神病院における虐待事例はほぼ毎年のように報道され、しかもそれは氷山の一角と推測されます(添付資料の表参照)。学校においてもつい最近も添付資料のような事例が報道されています。
したがって私どもはまず病院と学校を通報義務の対象とすること、そして収容施設居住施設、精神病院に関しては外部からの独立した監視機関を設置することを求めます。

すでに昨年今年と国連人権条約の 2 つの条約体は以下勧告しています。

2013 年 5 月 拷問等禁止条約委員会勧告 精神保健ケア
(h) 独立した監視機関がすべての精神医療施設に対して
定期的訪問を行うことを確保すること

2014 年 7 月 人権委員会 日本政府への勧告
(c) 精神科の施設に対して、虐待を有効に調査し罰し、被害者またはその家族に
賠償を提供することを目的として、有効で独立した監視と報告体制を確保すること

要望事項
1 障害者虐待防止法の改正を2015年に行うこと
2 改正にあたっては学校と病院を通報義務の対象とすること
3 居住系施設および精神病院については外部からの独立した監視機関を創設す
ること

精神障害者をインクルージョンする地域社会変革へのアジア横断同盟(TCI-ASIA)

報道発表
障害者権利条約は、障害者のインクルージョンと完全で効果的な参加の規定を定めている。しかし、アジアの精神障害者、精神医療ユーザーサバイバーは差別と排外の人生を続けている。高所得の国々そして英連邦の国々、例えば韓国、中国、日本、インドそしてかつて植民地であった他の一連の国には、強制医療を行う何十という刑務所並みの精神科施設を伴った精神保健法制がある。そうした国々では精神障害者は犯罪化されている。一方でアジアの多くの国々で精神障害者のための地域での支援体制が欠乏しているという実態がある。施設における広範な人権侵害の世界的な体験があるにもかかわらずそれを否定して、こうした国々の中には精神保健法を起草したり採用したりする予定の国もいくつかある。アジア地域は、地理的にも、文化的にもそして言語においても多様であり、さらに複雑な社会体制の違いを伴った多様性もある。地域社会開発に各地の精神保健プログラムを統合することで、精神障害者のインクルージョン戦略を立てるときには、この多様なダイナミズムを考慮にいれなければならない。

2つの会議(2013年プネそして2014年バンコク)をへて、“精神障害者をインクルージョンする地域変革へのアジア横断同盟(TCI-Asia)” が結成された。TCI-Asiaは、アジア地域において精神障害者の完全なインクルージョンを確保するために取り組む、障害者団体、精神障害者、精神医療ユーザー・サバイバー個人の連盟である。私たちは障害種別を超えた運動、そしてこの地域のそして世界的な主要な支援者たちと協同して、アジアにおいて国内そして地域的な政策に影響をあたえるために取り組んでいく。

インクルージョンに向けた地域変革会議-Ⅰはプネで開かれ、この地域の6カ国から参加者を得たが、我々のインクルージョンへの主張のアジアにおける枠組みを作る必要性が焦点化した。私たちはアジアにおける障害者権利条約の実現に向けて、障害種別を超えた運動と建設的な連携し、また多様な地域のそして国際的な取り組み、例えば国連のメカニズム、WHO、そしてその他様々な支援機構の政策枠組みといったところと継続的な対話を積み重ねていくインクルーシブな戦略が必要である。もう一つのプネの会議の焦点は、障害者権利条約の精神の実現という意味で、条約19条(自立生活と地域社会へのインクルージョン)の強調であった。とりわけアジア地域においては、社会的文化的な構造が未だ強く活用できる。またアジア地域では社会的関係すべてが契約に基づくというわけではなくて、近隣社会地域社会という概念が存在する。この会議では、アジア地域におけるインクルージョンに向けた地域社会に根ざした取り組みの研修のための訪問や体験共有(当事者の権利主張によるものとソーシャルワーカーによるもの両方)から多く学ぶことができた。

地域社会の変革会議Ⅱ はこうした学習をさらに深め、障害者(精神障害者)のインクルージョンの過程における基準という側面、社会的側面そして他の様々な側面について、バンコクで4日間集中的に取り組んだ。精神保健法体制がある国々(韓国、日本、中国、インド)とない国々(ネパール、フィリピン、スリランカ、バングラディシュ、インドネシア、タイ)の間のインクルージョンの多様な側面の紛れようもない違いというのが明らかになった。この会議ではアジア地域における条約19条の履行と開発過程におけるインクルージョンの重要性が再確認された。

現状におけるTCI-Asiaの優先事項は以下である。
◾戦略、意見表明を通し、精神科施設が存在する国々では脱施設化の推進を主張する。
◾オルタナティブを強調しつつ、精神保健的問題を抱えている人精神障害者への地域社会に根ざしたプログラムの開発に向け国の政策に影響を与える。
◾国内そして地域レベルで、様々なレベルで障害の権利主張をインクルージョンすることを確保するために、障害種別を超えた運動や人権運動と緊密に連携して取り組む。
◾アジアにおける私たちの任務と実践をとおして、各国政府が地域社会開発の活気に満ちた取り組みを通じ条約19条の履行を確保するよう働きかけ促進する。
◾地域における有効な権利主張活動のためによりよい組織化をする。

2014年12月27日

原文はこちらです。
Announcing the TransAsian Alliance on Transforming Communities for Inclusion of Persons with Psychosocial Disabilities