附則第3条の検討に係る研究班への要望書①

 本調査は、附則第3条及び立法の意思である附帯決議に対応していくにあたって必要となる政策エビデンスを調査によって明らかにすることを目的に含んだものである。よって、附帯決議の内容を大きく逸脱することがないように注意して研究を遂行していく必要がある。

 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会(以下、「検討会」とする。)では、国際比較や他科と手続きを区別する合理性の有無などが今後の検討の論点としてコンセンサスを得ている。検討会においてコンセンサスが得られた事項については、研究を遂行する上で計画段階から踏まえられる必要がある。また、検討会においてコンセンサスが得られた事項については、研究班の関係者に周知を徹底させて欲しい。

 本調査は、基本的に精神保健福祉法に基づく措置入院及び医療保護入院(応急入院と任意入院を含む)、医療観察法に基づく鑑定入院及び入院処遇といったすべての非自発的入院を対象とすべきである。少なくとも、附帯決議には精神保健福祉法に加えて医療観察法が明示されており、射程に含まないわけにはいかないと考える。

 附帯決議の「精神疾患の特性を踏まえる」の部分については、読み方に注意が必要である。附帯決議には、障害者権利条約の初回政府審査に係る総括所見を踏まえた法制度の見直しについて言及がある。ここの言及は、法案審査においても特に重要な意味を有しており、厚生労働大臣の答弁とも相まって最も留意すべきものである。同総括所見の基本的な考え方は、機能障害を理由に他の者と区別する制度、慣行を禁止する措置を締約国に求めるというものである。よって、この場合の「精神疾患の特性を踏まえる」とは、精神障害という機能障害を取り上げて他の者と区別する観点から精神疾患に特化した議論を示唆するものとは読んではならず、精神障害者の置かれた社会の状況や社会的偏見の傾向など社会的障壁にフォーカスを当てていく社会モデルの視角を踏まえたものと読む必要がある。

⑴ 実態調査班――当事者調査
 当事者調査の目的と方法、使途については、確認が必要である。当事者調査は、非自発的入院に係る当事者が体験した事実と、それへの評価に係る主観の双方に接近しながら課題を抽出することを目的としている。調査方法は、聴き取りによる質的調査である。聴き取り対象者は、非自発的入院をめぐって人生になんらかの影響を受けたと考えている当事者団体に所属する精神障害者である。聴き取り対象者には、医療保護入院をした経験に加えて、その経験への評価を言語化する必要があり、そうなると専ら自らの経験を相対化し、言語化する取り組みをしている者が適格性を有する。なにより、当事者活動を媒介にしたインタビューイとインタビュアーの関係だからこそ、安心した環境下で率直な経験談を集めることが可能となり、調査の目的に適うものとなる。抽出された課題は、量的調査の参考として活用することになる。但し、量による一般化を経ずとも政策の課題であることは留意されたい。
 調査及び分析の視角は、障害者権利条約の基本的な考え方として知られる障害の社会モデルである。社会モデルの理論は、障害学の蓄積に依拠する。聴き取りは、対象者数を増やすなど事実としての客観性を高めつつも、社会モデルの視角を用いた障害当事者同士の対話構築によっておこなう。
 障害当事者同士の対話構築は、障害者権利条約に基づく障害当事者参画と決して無関係ではない。国連障害者の権利に関する委員会は、一般的意見第7号パラグラフ11において、障害者を代表する団体をについて障害者権利条約を推進する責務を負う市民社会であると定義している。こうした立場に拘束された障害当事者がかかわって対話を構築していくことは、インタビューイが経験した事実とそれに対する評価の語りを、障害者権利条約や社会モデルの観点から構築することを促し、ひいては附帯決議が示唆するような政策と規範的に整合したものにしていくことが可能となる。
 分析は、言説分析を中心とし、社会モデルの視角によっておこなうこととする。なお、対象のサンプリングは、おこなわない。事実に対する解釈とその正当性にこそ重きを置く必要があると考えるからである。

⑵ 実態調査‐家族調査
・当事者調査と同様に、調査及び分析の視角は、障害者権利条約の基本的な考え方として知られる障害の社会モデルに依拠して、調査の目的に照らして行われるのが望ましい。
・家族の立場から当事者についての考えを巡らせたものと家族自身についての考えをわけた形でのヒアリング調査が行われるのが望ましい。

⑶ 国際比較調査班
・現在、IDAや障害者権利委員会では、障害者権利条約を実効性のある政策に体系立てるための検討が課題となっている。障害者権利条約は、世界的にも蓄積の薄い領域である。それゆえに日本政府が世界に先駆けて率先して取り組むことの意義は極めて大きい。言い換えれば、G7等の欧米諸国が政策として実施できていないからといって、それを口実に日本政府が政策を実施しないようなことはあってはならない。
・国際比較する目的は、研究全体の位置付けも含めて明らかにされる必要がある。櫛原班の社会学的な考察は、西洋中心で議論を進めてきた精神保健福祉体制がシステムとして完結し硬直したことを明らかにしていくことになると思うが、こことの関連性にも重きを置いて欲しい。
・コスタリカは、障害者権利条約に基づく改革という位置付けで評価されているが、精神医学者の団体や司法関係者の団体からは、必ずしも評価されていない。本来、ここでは評価の基準となる規範をそれぞれに明らかにしてから論議する必要があり、なにを持って精神医療が進んでいないと位置付けるのか、その根拠はなにかを明らかにせずして、評価が先行してしまうようなことはあってはならない。

⑷ 法学的検討調査
・加藤勝正厚生労働大臣は、第210回臨時国会において、法附則第3条の「障害者権利条約の実施」には初回政府審査に係る総括所見に規定された非自発的入院廃止の勧告に基づく法制度の見直しの検討が含まれるものと答弁している。よって、障害者権利条約の実施とは、批准時の条約解釈に限った狭いものではないことを確認する必要がある。
・本調査の射程としては、直接的に取り扱うかどうかはさておき、外形的には措置入院や医療観察法も含めたものでなければ国会等での批判は免れないと考える。
・これまで精神保健福祉法がどのような改正を繰り返してきて、何が獲得できて何が獲得できなかったのかを政治過程や政策過程の観点から分析した方がよいと考える。

⑸ 社会学的検討
・西洋中心で議論を進めてきた精神保健福祉体制がシステムとして完結し硬直したことを明らかにしていくことが必要である。その際には、①裁判でどのようにして原告の請求が棄却されているのかを司法の限界という観点から明らかにすること、②一般医療において精神障害者が代諾する臨床場面の観察を通じて精神科の非自発的入院と比較し、他科と区別する合理性の有無を明らかにすることが必要である。また、当事者調査等の動向に留意をして、精神保健指定医の権限集中による制度疲弊を明らかにできるような検討が必要となる。

東京新聞宛 抗議文

東京新聞 御中

冠 省
 2023年7月2日付の「秘密裏に進む、精神科病院の「身体拘束」要件見直し…厚労省や業界団体の胸三寸で決めてよいのか」という記事を読みました。当会の者が御社記者からの取材に応じ、要件見直しに係る告示改正が、第3回検討会において当事者団体の要望によって実現した政策であることを伝えたのにもかかわらず、記事中には、そのことが一切書かれていません。そのため、日本精神科病院協会の意向を汲んで厚生労働省が突如として告示改正に踏み切ったという出典・根拠不明の陰謀論を彷彿させる内容になっています。しかし、次に掲げる理由から、当該文章は明白に事実に反する内容であると断じます。
また、身体的拘束をする側である精神科病院側の意向であるという見方をすることで、結果として告示改正が医師の裁量拡大につながるのではないかという不安を扇動し、情勢認識に悪影響を及ぼすことになるまいかと憂慮しております。
今後は、適切かつ根拠的な記事を発信することを強くお願い申し上げます。

⑴ 要件見直しは日精協ではなく当事者の提案である
 身体的拘束の要件見直しは、第3回検討会において全国「精神病」者集団がヒアリング意見書で提言して取り上げられるようになったものです。決して日本精神科病院協会の意向を忖度して厚生労働省が進めた政策ではありません。
 当初、行動制限最小化のための具体的な方策は、行動制限最小化委員会の活用と現場で活用可能な研修コンテンツの普及しか考えられていませんでした。これでは、身体的拘束の縮減(将来的なゼロ化)に資さないと考えたため、長谷川利夫さんとも相談して「不穏又は多動要件の削除に係る要件の見直し」を提案しました。
 この提案が反映されたことで、はじめて、行動制限最小化の具体的方策として要件の見直しに係る告示改正が入ったわけであり、はじめから告示改正の議論としてはじまったわけではありません。

⑵ むしろ日精協は告示改正に難色を示していた
 全国「精神病」者集団がヒアリング意見書を提出した当初、日精協は告示改正に難色を示していました。
 正確な経緯としては、まず、全国「精神病」者集団からの要件見直しの提案に対して日精協が難色を示しました。また、日精協は「多動又は不穏が顕著」という文言を残すべきと猛抵抗してきました。このとき厚生労働省からは、間をとって「多動又は不穏が顕著」の文言を残しつつ、多動又は不穏というだけで身体的拘束されている現状を変えるために、切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化を中心に要件を見直す提案がなされたことで一旦の合意に至りました。しかし、日精協は、要件の中に「検査処置がおこなえない場合」や「患者の治療が困難な場合」を入れる提案をおこない、これらが反映されなければ告示改正に反対すると主張しました。
このことからも日精協の意向を汲んだ厚生労働省の政策という陰謀論は、明らかに事実に反しています。

⑶ このままだと日精協の思うつぼである
 私たちは、告示改正に難色を示す日精協に対して、交渉の末に条件付きで告示改正の合意をさせるに至りました。また、条件のひとつであった検査及び処置要件を削除し、患者の治療困難要件に変更させ、さらに野村総研報告書では、患者の治療困難要件さえも削除させることができました。
折衝の末、ここまで勝ち取れたわけですから、本来は成果であると認識されなければいけません。しかし、それにもかかわらず、闘って積み上げてきたものを陰謀論や勘違いで自ら手放そうとさえする風説が出回っていることは極めて問題だと思います。
さらには、告示改正の賛否を軸として当事者同士の分断を扇動するような効果までもたらしており、与えられる混乱は著しいです。事実に反した不正確な情報の発信は感心しません。これこそ、日精協を含む体制側の思うつぼです。適切かつ根拠的な記事を発信することを強く求めます。
以 上 

毎日新聞 須藤孝記者宛 抗議文

毎日新聞記者 須藤孝 様

 御社が刊行する毎日新聞ウェブ・2023年7月10日・「患者の自由を奪う『身体拘束』なぜ続くのか(記者:須藤孝)」という記事において、明らかに事実に反する不正確な記述があり驚きを禁じ得ません。記事中には、「業界に忖度した裁判対策の色合いが濃いと思います(中略)日本精神科病院協会は翌11月に判決について到底容認できるものではないとする声明を発表し、翌22年から厚労省は大臣告示の変更に向けた動きを始めます」という箇所がありました。
さて、当該箇所は、日本精神科病院協会の意向を汲んで厚生労働省が突如として告示改正に踏み切ったという出典・根拠不明の陰謀論に依拠しています。しかし、次に掲げる理由から、当該文章は明白に事実に反する内容であると断じます。
 また、身体的拘束をする側である精神科病院側の意向であるという見方をすることで、結果として告示改正が医師の裁量拡大につながるのではないかという不安を扇動し、情勢認識に悪影響を及ぼすことになるまいかと憂慮しております。
 今後は、適切かつ根拠的な記事を発信することを強くお願い申し上げます。

⑴ 要件見直しは日精協ではなく当事者の提案である
 身体的拘束の要件見直しは、第3回検討会において全国「精神病」者集団がヒアリング意見書で提言して取り上げられるようになったものです。決して日本精神科病院協会の意向を忖度して厚生労働省が進めた政策ではありません。
 当初、行動制限最小化のための具体的な方策は、行動制限最小化委員会の活用と現場で活用可能な研修コンテンツの普及しか考えられていませんでした。これでは、身体的拘束の縮減(将来的なゼロ化)に資さないと考えたため、長谷川利夫さんとも相談して「不穏又は多動要件の削除に係る要件の見直し」を提案しました。
 この提案が反映されたことで、はじめて、行動制限最小化の具体的方策として要件の見直しに係る告示改正が入ったわけであり、はじめから告示改正の議論としてはじまったわけではありません。

⑵ むしろ日精協は告示改正に難色を示していた
 全国「精神病」者集団がヒアリング意見書を提出した当初、日精協は告示改正に難色を示していました。
 正確な経緯としては、まず、全国「精神病」者集団からの要件見直しの提案に対して日精協が難色を示しました。また、日精協は「多動又は不穏が顕著」という文言を残すべきと猛抵抗してきました。このとき厚生労働省からは、間をとって「多動又は不穏が顕著」の文言を残しつつ、多動又は不穏というだけで身体的拘束されている現状を変えるために、切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化を中心に要件を見直す提案がなされたことで一旦の合意に至りました。しかし、日精協は、要件の中に「検査処置がおこなえない場合」や「患者の治療が困難な場合」を入れる提案をおこない、これらが反映されなければ告示改正に反対すると主張しました。
このことからも日精協の意向を汲んだ厚生労働省の政策という陰謀論は、明らかに事実に反しています。

⑶ このままだと日精協の思うつぼである
 私たちは、告示改正に難色を示す日精協に対して、交渉の末に条件付きで告示改正の合意をさせるに至りました。また、条件のひとつであった検査及び処置要件を削除し、患者の治療困難要件に変更させ、さらに野村総研報告書では、患者の治療困難要件さえも削除させることができました。
折衝の末、ここまで勝ち取れたわけですから、本来は成果であると認識されなければいけません。しかし、それにもかかわらず、闘って積み上げてきたものを陰謀論や勘違いで自ら手放そうとさえする風説が出回っていることは極めて問題だと思います。
さらには、告示改正の賛否を軸として当事者同士の分断を扇動するような効果までもたらしており、与えられる混乱は著しいです。事実に反した不正確な情報の発信は感心しません。これこそ、日精協を含む体制側の思うつぼです。適切かつ根拠的な記事を発信することを強く求めます。
以 上 

毎日新聞 政治プレミア担当者・須藤孝記者宛 抗議文

毎日新聞 政治プレミア担当者 殿
記者 須藤孝 様

 御社が刊行する政治プレミア・2023年6月25日・「人を縛り付ける『身体拘束』決めるのは誰か 闇に失われる民主主義(記者:須藤孝)」という記事において、明らかに事実に反する不正確な記述があり驚きを禁じ得ません。
さて、当該箇所は、日本精神科病院協会の意向を汲んで厚生労働省が突如として告示改正に踏み切ったという出典・根拠不明の陰謀論に依拠しています。しかし、次に掲げる理由から、当該文章は明白に事実に反する内容であると断じます。
 また、身体的拘束をする側である精神科病院側の意向であるという見方をすることで、結果として告示改正が医師の裁量拡大につながるのではないかという不安を扇動し、情勢認識に悪影響を及ぼすことになるまいかと憂慮しております。
 今後は、適切かつ根拠的な記事を発信することを強くお願い申し上げます。

⑴ 要件見直しは日精協ではなく当事者の提案である
 身体的拘束の要件見直しは、第3回検討会において全国「精神病」者集団がヒアリング意見書で提言して取り上げられるようになったものです。決して日本精神科病院協会の意向を忖度して厚生労働省が進めた政策ではありません。
 当初、行動制限最小化のための具体的な方策は、行動制限最小化委員会の活用と現場で活用可能な研修コンテンツの普及しか考えられていませんでした。これでは、身体的拘束の縮減(将来的なゼロ化)に資さないと考えたため、長谷川利夫さんとも相談して「不穏又は多動要件の削除に係る要件の見直し」を提案しました。
 この提案が反映されたことで、はじめて、行動制限最小化の具体的方策として要件の見直しに係る告示改正が入ったわけであり、はじめから告示改正の議論としてはじまったわけではありません。

⑵ むしろ日精協は告示改正に難色を示していた
 全国「精神病」者集団がヒアリング意見書を提出した当初、日精協は告示改正に難色を示していました。
 正確な経緯としては、まず、全国「精神病」者集団からの要件見直しの提案に対して日精協が難色を示しました。また、日精協は「多動又は不穏が顕著」という文言を残すべきと猛抵抗してきました。このとき厚生労働省からは、間をとって「多動又は不穏が顕著」の文言を残しつつ、多動又は不穏というだけで身体的拘束されている現状を変えるために、切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化を中心に要件を見直す提案がなされたことで一旦の合意に至りました。しかし、日精協は、要件の中に「検査処置がおこなえない場合」や「患者の治療が困難な場合」を入れる提案をおこない、これらが反映されなければ告示改正に反対すると主張しました。
このことからも日精協の意向を汲んだ厚生労働省の政策という陰謀論は、明らかに事実に反しています。

⑶ このままだと日精協の思うつぼである
 私たちは、告示改正に難色を示す日精協に対して、交渉の末に条件付きで告示改正の合意をさせるに至りました。また、条件のひとつであった検査及び処置要件を削除し、患者の治療困難要件に変更させ、さらに野村総研報告書では、患者の治療困難要件さえも削除させることができました。
折衝の末、ここまで勝ち取れたわけですから、本来は成果であると認識されなければいけません。しかし、それにもかかわらず、闘って積み上げてきたものを陰謀論や勘違いで自ら手放そうとさえする風説が出回っていることは極めて問題だと思います。
さらには、告示改正の賛否を軸として当事者同士の分断を扇動するような効果までもたらしており、与えられる混乱は著しいです。事実に反した不正確な情報の発信は感心しません。これこそ、日精協を含む体制側の思うつぼです。適切かつ根拠的な記事を発信することを強く求めます。
以 上 

岩波書店 雑誌『世界』編集担当者宛 抗議文

岩波書店 雑誌『世界』編集担当者 殿

御社が出版する雑誌『世界』2023年5月号を読みました。「身体拘束からみる失われる民主主義」という記事の220ページ上段13行目から221ページ上段15行目にかけては、事実に反する不正確な記述があり驚きを禁じ得ません。
さて、当該箇所は、日本精神科病院協会の意向を汲んで厚生労働省が突如として告示改正に踏み切ったという出典・根拠不明の陰謀論に依拠しています。しかし、次に掲げる理由から、当該文章は明白に事実に反する内容であると断じます。
 また、身体的拘束をする側である精神科病院側の意向であるという見方をすることで、結果として告示改正が医師の裁量拡大につながるのではないかという不安を扇動し、情勢認識に悪影響を及ぼすことになるまいかと憂慮しております。
 今後は、適切かつ根拠的な記事を発信することを強くお願い申し上げます。

⑴ 要件見直しは日精協ではなく当事者の提案である
 身体的拘束の要件見直しは、第3回検討会において全国「精神病」者集団がヒアリング意見書で提言して取り上げられるようになったものです。決して日本精神科病院協会の意向を忖度して厚生労働省が進めた政策ではありません。
 当初、行動制限最小化のための具体的な方策は、行動制限最小化委員会の活用と現場で活用可能な研修コンテンツの普及しか考えられていませんでした。これでは、身体的拘束の縮減(将来的なゼロ化)に資さないと考えたため、長谷川利夫さんとも相談して「不穏又は多動要件の削除に係る要件の見直し」を提案しました。
 この提案が反映されたことで、はじめて、行動制限最小化の具体的方策として要件の見直しに係る告示改正が入ったわけであり、はじめから告示改正の議論としてはじまったわけではありません。

⑵ むしろ日精協は告示改正に難色を示していた
 全国「精神病」者集団がヒアリング意見書を提出した当初、日精協は告示改正に難色を示していました。
 正確な経緯としては、まず、全国「精神病」者集団からの要件見直しの提案に対して日精協が難色を示しました。また、日精協は「多動又は不穏が顕著」という文言を残すべきと猛抵抗してきました。このとき厚生労働省からは、間をとって「多動又は不穏が顕著」の文言を残しつつ、多動又は不穏というだけで身体的拘束されている現状を変えるために、切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化を中心に要件を見直す提案がなされたことで一旦の合意に至りました。しかし、日精協は、要件の中に「検査処置がおこなえない場合」や「患者の治療が困難な場合」を入れる提案をおこない、これらが反映されなければ告示改正に反対すると主張しました。
このことからも日精協の意向を汲んだ厚生労働省の政策という陰謀論は、明らかに事実に反しています。

⑶ このままだと日精協の思うつぼである
 私たちは、告示改正に難色を示す日精協に対して、交渉の末に条件付きで告示改正の合意をさせるに至りました。また、条件のひとつであった検査及び処置要件を削除し、患者の治療困難要件に変更させ、さらに野村総研報告書では、患者の治療困難要件さえも削除させることができました。
折衝の末、ここまで勝ち取れたわけですから、本来は成果であると認識されなければいけません。しかし、それにもかかわらず、闘って積み上げてきたものを陰謀論や勘違いで自ら手放そうとさえする風説が出回っていることは極めて問題だと思います。
さらには、告示改正の賛否を軸として当事者同士の分断を扇動するような効果までもたらしており、与えられる混乱は著しいです。事実に反した不正確な情報の発信は感心しません。これこそ、日精協を含む体制側の思うつぼです。適切かつ根拠的な記事を発信することを強く求めます。
以 上 

処遇基準告示改正に係る全国「精神病」者集団の見解

 処遇基準告示の改正について様々な見解が錯綜しています。中には、理由と言えるような理由を示すことなく処遇基準告示改正阻止を掲げるものまで出てきており、混乱が著しく看過できない事態であると考えます。そこで、処遇基準告示改正阻止を掲げる立場の人が理由として挙げている、①一時性要件の必要な期間は医師が判断するため無限大に拡大し得る、②人身の自由に係るものであり告示ではなく法律によるべき、のそれぞれに対して全国「精神病」者集団としての見解を述べたいと思います。

1 これ以上、仲間に対して現行告示下の入院を強いてはならない
 現行告示にも、切迫性・非代替性・一時性の3要件が文章に溶け込んだかたちで存在します。しかし、文章にすると現場の医師が読解できないため、実際には「多動及び不穏が顕著」という理由だけで身体的拘束が開始されてしまう例が散見されます。そのため、3要件はあくまで箇条書き化して、それぞれ別々に診療録に理由を記載する必要があります。
 全国「精神病」者集団としては、これ以上「不穏及び多動が顕著な場合」を十分条件であるかのように誤解して漫然と拘束する事例が散見される現行告示下に入院者をとどめ置くべきではないと考えます。今回の告示改正も十分なものとは言いませんが、完璧を目指し過ぎて貴重な機会を失い、結果として数年先まで仲間に現行告示下の入院を強いるような事態だけは避けなければならないと考えます。よって、この度の告示改正自体は、進められるべきものと考えます。

2 一時性は医師が判断するため無限大に拡大するという指摘に対して
 野村総研が委託を受けておこなった調査報告書では、「身体的拘束は一時的におこなわれるものであり、必要な期間を越えておこなわれていないものである」が一時性要件のイメージ案として示されています。このうち、「必要な期間を越えておこなわれていない」を切り取り、必要な期間は医師が判断するものであるため、医師が判断したら無限大に必要な期間が拡大されるのではないか、という指摘が出されています。
 しかし、この指摘が告示の問題ではなく、医師が判断する枠組みである限り付きまとう問題です。むしろ、医師が判断する仕組みだからこそ、告示等に基準を設けて恣意的な運用に歯止めをかける必要があると考えられてきたわけです。
 また、前段には「必要な期間」が「一時的」と書かれているので、代替手段が見つかるまでの一時的な期間であることが自明です。仮に医師が恣意的に一時性要件を解釈して身体的拘束を開始したとしても、改正告示によって正当化されることはありません。その場合、診療録を事後的に検証し、司法救済などを検討することもできます。
 よって、この一時性は医師が判断ため無限大に拡大するという指摘は、全く理由にさえなっていません。

3 告示ではなく法律によるべきという主張に対して
 告示改正に反対する理由として、人身の自由に係るものであり告示ではなく法律によるべきというものがあります。これについては、「告示改正がよいのか」という問いではなく、「告示に定めるのが良いのか」という問いへと巧妙にすり替えられており、告示改正の良し悪しとは別のレベルの議論になっています。そのため、議論にさえならないと考えます。
 そのことはそのこととして、「告示ではなく、法律に定めろ」という主張は、一見するとよい方針のように感じますが、実は、きわめて重大な問題がいくつもあります。
 まず、大前提として身体的拘束は、それ自体をゼロ化すべきです。身体的拘束を告示から法律に位置付け直せばよいなどというものではありません。法律か、告示か、などという定める法令の種類を論じるなどナンセンスです。
次に、成文法に身体的拘束を定め合法化するということは、個別の事例から司法が判断できたであろう可能性を成文法に引き付けられることで著しく狭める結果をもたらします。これまで医事法理は、医療過誤のように司法判断に依拠して進められてきました。ここにきて、司法の可能性を摘むのはナンセンスです。
 最後に「告示ではなく、法律に定めろ」の方針は、もっとも重要である障害者権利条約の初回政府審査に係る総括所見(勧告)に基づく見直しの契機を失わせるものであり、政策としては完全に失敗していることが指摘できます。今から精神障害者の身体的拘束を法律に定める議論をはじめるとしたら、2027年ごろに予定されている次期法改正のタイミングしかありません。全国「精神病」者集団は、次期改正までに非自発的入院廃止の合意を目指して取り組んでいます。非自発的入院廃止の綱引きをしている一方で、身体的拘束を法律に位置付け直すための議論を喚起するようなことは、障害者権利条約の趣旨にも反しておりナンセンスとしか言いようがありません。「告示ではなく、法律に定めろ」という主張は、勧告実現に著しく逆行したものであり、障害者権利条約の履行を推進する障害者団体の立場としては、絶対に認めるわけにはいきません。
 以上から、「告示ではなく、法律に定めろ」は、もっともらしく聞こえるようで、実際は思い付きの域をでないものです。

4 改正の賛否について
 以上の理由から告示改正反対の主張には、現時点では理由がありませんので、間違っても先述の主張には賛意を示さないように注意を喚起します。
 一般的に法令改正への賛否は、今より良くなるのか、悪くなるのかを軸に判断するものと考えられています。そのため、例えば「もっと良くすることができたのではないか」という判断軸は、本来的なら賛否の議論には馴染みません。「もっと良くすることができたのではないか」については、今より良くするための改正を進めつつ、別枠で今後の課題として位置づけられるのが一般的です。ただ、あえて反対の立場を駆け引き的に用いて、より短い期間で課題を解決するという手法もあります。
 しかし、今回の告示改正は、全国実態調査において拘束増の原因の特定に至らなかったこともあって、エキスパートコンセンサスを政策エビデンスにして進めるほかありません。現在では、エビデンスとして国連からの勧告がありますが、それは次の見直しの検討の際の政策エビデンスであって今回の政策エビデンスではないです。すると、反対の立場を使って駆け引きをしたところで、病院団体の合意形成の段階ではじかれるので――これは国会をフィールドにしたとしても全く同じことです――大きな変革は期待できません。
 よって、結論から言うと告示改正に対しては、もっともオーソドックスに、今より良くなるのか、悪くなるのかを軸にして賛否を判断するべきです。

処遇基準告示の改正に関する要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神・障害保健課長 林修一郎 様

 新緑の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。また、障害者権利条約の国内実施に向けて、障害者権利条約対日審査に参画をした唯一の精神障害者の当事者団体です。
 さて、全国「精神病」者集団は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第37条第1項に基づく大臣基準(告示)改正について下記の通り要望します。
 つきましては、同条約に基づく障害者を代表する団体の意見として尊重し、十分な検討をいただけますようお願い申し上げます。

① これ以上「不穏及び多動が顕著な場合」を十分条件であるかのように誤って拘束する事例が散見される現行告示下に入院者をとどめ置くべきではありません。処遇基準告示の改正を進めてください。
② 処遇基準告示改正は、人身の自由にかかわるものです。様々な団体や識者から丁寧に意見を聞きながら透明性のあるかたちで進めるとともに、立法の意思である附帯決議に基づく対応を速やかにおこなってください。
③ 告示改正後の診療録への記載方法は三要件ごとの記載を基本としてください。また、報酬による評価(減算を含む)をおこなってください。告示改正後は、すみやかに初回政府審査に係る総括所見に基づいた見直しの検討に着手してください。

身体拘束等の告示改正について(お願い)

公益社団法人日本精神保健福祉士協会
 会長 田村綾子 様
認定特定非営利活動法人DPI日本会議
 議長 平野みどり 様
認定特定非営利活動法人日本障害者協議会
 代表 藤井克徳 様
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会
 理事長 岡田久実子 様

 新緑の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、身体的拘束の縮減等に係る告示改正は、第210回臨時国会の附帯決議を踏まえて「患者の治療困難」という要件を使わずに一時性、切迫性、非代替性の要件を明確化することでコンセンサスが得られました。また、勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことも併せて確認されました。精神障害当事者の立場で意見を取りまとめてきた当会としましては、告示改正に反対する理由はないと考えます。しかし、一方では、障害者団体や関連団体の間で誤信に基づく錯綜が少なからず見受けられます。
 そこで交通整理のために論点をまとめましたので、貴会におかれましては、下記の論点について十分に検討を加えるとともに、精神障害当事者団体との協議を踏まえることなく告示改正に反対及び反対集会への名義後援をすることないように留意のほど、よろしくお願い申し上げます。


① 告示改正は、不十分ではあるが、現状を悪化させるものではないです。また、不十分な改正をよしとはしませんが、これ以上、入院者を現行告示下にとどめ置いたままにしてはいけません。そのため、告示改正反対ではなく、今後の課題を明らかにしていくような議論が不可欠です。
② 人身の自由にかかわる基準は、大臣告示ではなく法律に定めるべきだとの意見があります。しかし、私たち精神障害者は、法律に身体拘束を定め直せばよいなどとは全く考えません。
③ 告示改正の議論には、大畠判例(令和2年12月16日・名古屋高裁・令2(ネ)39号)が引き合いにだされます。しかし、大畠判例は、非代替性要件の欠如を理由に当時の身体拘束の違法性を認定したもので、告示改正の要件等とは直接的な関係はありません。
④ 一時性要件の「一時的に行なわれるものであり、必要な期間を越えて行なわれていないもの」の部分は、医師の裁量で恣意的に必要な期間を定められるようになるとの意見があります。しかし、告示の内容如何にかかわらず医師が決める仕組み自体から脱することができないため、告示とは無関係な議論に陥っています。そもそも、一時的であるべきと書かれており、それを越えておこなわれないとしていることとも論理的に矛盾します。このような不毛な議論には付き合うべきではありません。
⑤ 更に踏み込んだ改正をするには、政策エビデンスが不足しています。そのため、これ以上エキスパートコンセンサスを繰り返しても結果は大きく変わりません。障害を理由とした人身の自由はく奪は、障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見の趣旨に反しており、その観点からの調査が不可欠です。

身体的拘束告示改正の件について(お礼・ご報告)

 春暖の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。障害者権利条約対日審査に参画した唯一の当事者団体です。
 さて、全国「精神病」者集団は、精神科病院における身体的拘束の縮減に向けた当面の政策として、不穏多動を要件として拘束できるとする規定の削除及び切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化に係る告示改正を要求してまいりました。しかし、検討過程では、病院団体側から不穏多動要件の削除への強い抵抗があり、文言の整理という枠組みで「患者の治療困難」という新要件が提案されるなどの混乱が見られました。
 そのような中、第210回臨時国会で成立した障害者関連法案の附帯決議において、3要件を明確にするための告示改正と患者に対する治療が困難という文言によらない方策が盛り込まれたことを受けて、現在、告示改正の検討は「患者の治療困難」という要件を使わずに一時性、切迫性、非代替性の要件を明確化することでコンセンサスが得られました。
精神障害当事者の立場としては、①患者の治療困難を用いないこと、②一時性、切迫性、非代替性の要件を明確にすること、③勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことの3点の確約が取れましたので、告示改正に反対する理由はないと考えています。但し、告示改正は当面の方策に過ぎず、すでに障害を理由とした身体拘束の廃止を目指す段階に入っています。
 引き続き、障害を理由にした身体拘束の廃止に向けた取り組みを続けていく所存ですので、今後も、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
 敬 具 

【声明】身体的拘束告示改正について

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 精神科病院における身体的拘束は、2006年から2016年の10年間で2倍に増加し、その後も高止まりし続けていることから政策的な解決が必要であると考えて取り組んできました。「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」においては、当面の方策として第37条第1項大臣基準(告示)の「不穏及び多動が顕著な場合」という要件の削除を要求しましたが、病院団体からの強い反対があり、文言の整理にとどまることになりました。また、整理された文言の案文には、「検査処置」や「患者の治療困難」などの従来の要件にはなかったと考えられるものが挿入され、事実上の緩和になるのではないかといった反対意見も出てきました。やがて、病院団体は「患者の治療困難」を入れないなら告示改正自体を阻止すると言い出し、精神科医療の身体拘束を考える会は「患者の治療困難」を入れることにしかならないから告示改正は阻止するべきだと言い出しました。
 さらに精神科医療の身体拘束を考える会は「不穏多動要件の削除を主張しない」という方針を呼びかけ団体への相談もなく強行しました。結果として本来の目的であった「不穏多動を要件として拘束できるとする規定の削除」は、運動内でコンセンサスを得ることができず、あっけなく若干の修正を経て残されることになりました。障害当事者の意見を無視して、不穏多動要件の削除を主張せず、結果として不穏多動要件を告示に残した罪は重いと言わざるを得ません。
 やむを得ず、全国「精神病」者集団は、精神科病院における身体的拘束の縮減に向けた当面の政策として、「患者の治療困難」という文言を用いずに切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化に係る告示改正を要求することにしました。その一方で障害者権利条約の初回政府審査に係る総括所見において障害を理由とした身体拘束の廃止が勧告されたため、今後の検討事項に加えることを要求していきました。
 結果として、全国「精神病」者集団の意見が反映され、①患者の治療困難を用いないこと、②一時性、切迫性、非代替性の要件を明確にすること、③勧告に従って精神障害を理由とした身体拘束を廃止するための検討を今後おこなうことの3点が実現する運びとなりました。今後は、勧告に従ったかたちで精神障害を理由とした身体拘束の廃止のための見直しを実現すべく、更なる取り組みを続けていきます。