性犯罪の見直しに関する意見書

法務省大臣官房司法法制部司法法制課長 丸山嘉代 様
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長 赤澤公省 様

 余寒の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
さて、2017年に成立した刑法改正の積み残し課題として法附則第9条に基づき性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための刑事法に関する施策の在り方について検討が行なわれています。とくに、強制性交等罪の要件である「暴行・脅迫」の見直し、同意のない性交を処罰する不同意性交罪の創設、性行同意年齢の引き上げなどに関心が向けられています。
 しかし、強制性行等罪及び強制わいせつ罪は、被疑者が心神喪失等で不起訴や無罪になった場合には未遂も含めて医療観察法の対象となり得える刑罰累計です。医療観察法は、表向きは医療提供と社会復帰のための制度とされているため、冤罪であっても関係なく処遇決定を下し得ることになります。刑罰が可能な範囲と医療観察法対象者の範囲は、独立変数と従属変数の関係にあります。刑罰の対象範囲が広がれば、自ずと医療観察法対象者の範囲も広がるため、私たち精神障害者の生活に直接かかわってくることになります。そのため、刑法改正の検討過程では、精神障害者の声を聞いた上で国民的議論をしていく必要があると考えます。
 下記のとおり、意見をまとめましたので、よろしくお願い申し上げます。

(1)構成要件の見直しと法定刑
 暴行・脅迫要件の見直し及び抗拒不能要件の見直しについては条件付きで反対します。日本の刑法における強制性行等罪及び準強制性行等罪の法定刑は諸外国と比較しても極めて重い罰が規定されています。その狙いは、極端に悪質な行為を取り上げて重罰を科すことで、一般的な自由意志の法益保護を達成することにあると考えています。いいかえれば、法定刑を軽くしてより多くの性犯罪を処罰する以上に効果的な法益保護機能なのだと思います。
 諸外国において暴行・脅迫要件のない強姦罪は存在しますが、その場合の法定刑は平均して4年以下の懲役です。法定刑の引き下げもなく、暴行・脅迫要件のみを撤廃させるでは重罰化でしかありません。諸外国並みに法定刑を引き下げるのであれば、暴行・脅迫要件と抗拒不能要件の撤廃に反対しませんが、法定刑の引き下げもなく、同要件のみを撤廃させるようなものであれば反対せざるを得ません。

(2)性行同意年齢
 性行同意年齢の引き上げについて検討されています。日本の性行同意年齢は、諸外国と比較して、やや低めに設定されているとの指摘があります。しかし、性行同意年齢を14歳以上に設定している全ての国が性行同意年齢以下の児童に対する性行為を直ちに刑法の強制性行等罪にしているわけではありません。日本の現行法で14歳以上の児童に対する性行為は、児童福祉法や淫行条例のなかに処罰規定があり、程度の差があれども法益自体は保護されています。他方で法律に基づく未成年者の定義は18歳に引き下げられ、18歳以上で選挙権が付与されるようになった中で性行同意年齢は引き上げるでは、一貫性を欠いています。
 全体を通じて性行同意年齢の引き上げにかかわる立法事実は不明と言わざるを得ません。立法事実が曖昧な提言によって医療観察法対象者の範囲拡大を帰結させることは看過できません。よって性行同意年齢の引き上げには反対します。

(3)不同意性行
 不同意性行罪は、検討に値しません。まず、この場合の同意の意味するところが明らかではないため恣意的に運用される可能性が否めません。とくに精神障害者は、同意と能力をめぐるさまざまな場面を経験しており、表示行為としての同意があれば良いという安直な考えを支持するわけにはいきません。同意の有無の証明方法にも課題があります。
 そもそも、性行の同意は形式的であるべきではなく、社会通念上の常識に従い、相手への思いやりをもって接すれば、刑罰の対象にしなければならないほどの事態は生じ得ません。形式面の同意に還元することが性暴力の防止につながると考えません。

(4)重罰化
 諸外国と同様程度に法定刑の引き下げが議論されるべきところ、暴行・脅迫要件撤廃及び抗拒不能要件撤廃、性行同意年齢の引き下げばかりが議論されるのは、単なる厳罰化であると言わざるを得ません。ここ数年、報道がワイドショーでの視聴率の取るために、あからさまに恐怖を煽ったり、犯人の残虐性を強調したり、被害者の悲しみや怒りを情緒的に伝えるなどして、事実解明重視型の報道を怠った結果、実際のデータとはかけ離れた感覚での社会不安が高まる体感治安やモラルパニックとよばれる問題が起こってきました。
 被害者の気持ちに寄り添うことは必要ですが、重罰化が問題解決の糸口であるかのような印象をもたせていく被害者感情論を利用した重罰化の風潮は支持できません。
以 上 

障害者差別解消法改正法案に関する要望書

自由民主党政務調査会
障害児者問題調査会長 衛藤晟一 様

 余寒の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、今国会に提出予定である障害に基づく差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律案について障害者の権利に関する条約の趣旨を鑑みたものとなるように下記の通り、要望を申し上げます。

一、障害者差別解消法改正法案に賛成します。

二、障害者差別解消法には、いくつかの重大な課題が残されています。今回の見直しでは、先送りにせざるを得なかった内容であっても、継続的な検討をおこなえるように質問時間については十分な時間を確保してください。

三、障害者の権利に関する条約第三十九条による障害者の権利に関する委員会からの提案及び一般的な性格 を有する勧告が行われたときには、障害者を代表する団体の参画の下で、当該提案及び勧告に基づく現状 の問題点の把握を行い、法律の見直しを始めとする必要な措置を講じるように政府に求めてください。
以 上 

「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令案」に対する意見

内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室

1.趣旨(意見内容)
まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態におけるまん延防止のために必要な措置として、措置を講じない者の入場の禁止を規定する措置が規定されている。これについては、以下の通り修正が必要である。

「まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態におけるまん延防止のために必要な措置として、従業員に対する検査受診の勧奨、入場者の整理等、発熱等の症状を呈している者の入場の禁止、手指の消毒設備の設置、施設の消毒等、入場者に対する マスクの着用等の感染の防止に関する措置の周知、当該措置を講じない者の入場の原則としての禁止を規定する。」

2.理由
 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第7条に基づく合理的配慮の意思の表明があった場合などに限り、マスク未着用であることや体温が平均より高温であるというだけで直ちに入場を禁止しなければならないかのような誤解が生じないような書きぶりに改める必要がある。具体的には、「原則としての」を加えることで例外があることを明確化することである。
 なお、原則に対する例外としては、次のような具体例が考えられる。
①顔面の皮膚の接触過敏に係る障害や口まわりを布で覆われることに伴う恐怖症、不安障害などへの配慮として条件付きでマスクの着用をしない状態での入場を認める場合。
②体温の平熱が37度を超える者に対して、発熱であると誤解して入場禁止することがないように条件付きで入場を認める場合。
 但し、これらはあくまで例であって、特定の症状に対して画一的な方策を講じるものと捉えるべきではない。合理的配慮は、個別の意思の表明ごとに方策を検討すべきものである点を踏まえて、法令に基づく場合に限って例外を認める点を強調していただきたい。
以上

◆新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律の 施行に伴う関係政令の整備に関する政令案」について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060210204&Mode=0

新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案に関する要望書

立憲民主党政務調査会長 泉ケンタ 様

 日ごろより病者・障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 さて、2021年1月22日、新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案が閣議決定されました。同法案は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部改正と感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部改正を一括したものです。新型インフルエンザ等対策特別措置法改正では、営業時間短縮や施設の使用制限の命令に応じない場合の処罰規定が盛り込まれており、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部改正では、新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否する場合の処罰規定が設けられています。
 しかし、本来なら現行の感染症法第19条は、「患者の同意」を限定的に抑制するパターナリズムに基づく手続きを定めた規定であり、従わなければ処罰するというかたちで同意自体に保護法益を認めようとするものではありません。かつ、このような処罰規定は、感染しているというだけで罰則を伴う入院勧告・措置の対象になるため、それを忌避するために検査を受けないという行動を誘発する可能性まであり逆効果です。そしてなによりも感染症であることを理由とした刑罰を容認することは、患者の差別、偏見を助長するものであり、きわめて問題があります。このままの内容ならば同法案には反対せざるを得ません。
 つきましては、下記の通り要望を申し上げます。

入院措置に応じない場合又は入院先から逃げた場合に罰則を科すること及び感染症の患者等が積極的疫学調査に係る質問に対して正当な理由がなく答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又は正当な理由がなく調査を拒み、妨げ若しくは忌避した場合に罰則を科することについては、過料を含む処罰規定を削除する法案修正をしてください。また、営業時間短縮や施設の使用制限の命令に応じない場合の処罰規定についても削除する法案修正をしてください。
以 上 

「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」報告書に関する第一次要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長 赤澤 公省  様
〃     精神・障害保健課長 佐々木孝治 様
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会
座長 神庭 重信 様

 日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 さて、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」(以下、「検討会」とする。)は、残すところ3回となり、同検討会報告書(以下、「報告書」とする。)の取りまとめの時期に差し掛かってきました。報告書は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の見直しの提言が予定されているものと理解しています。
 つきましては、精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約の趣旨を鑑みたものとなるように、下記のとおり要望を申し上げます。

(1)社会モデル
 障害者基本計画には、社会モデルを基本とする旨が明記されています。報告書においても、「社会モデルを基本とする」という立場を明記するとともに、全体を通じて社会モデルの観点からまとめてください。

(2)当事者参画
 第6回検討会において「精神障害者や家族などの当事者の参画が必要である」旨の意見が複数の構成員から出されました。そのため、報告書においては、精神障害者や家族など当事者参画を明記してください。
 精神障害者の当事者参画については、障害者団体の参画という表記で明記してください。また、障害者団体とピアサポーター(ピアサポート研修を受けて障害福祉サービス事業所等に雇われた精神障害のあるスタッフのこと)は、まとめて「当事者」と表記するのではなく、それぞれの役割の違いに注意しながら「障害者団体」と「ピアサポーター」の両方を明文表記にしてください。

(3)障害者の権利に関する条約の履行
 締約国は、国連障害者の権利に関する委員会が出した一般的意見やガイドラインを尊重することとされています。報告書には、検討プロセスにおいて国連障害者の権利に関する委員会第14条ガイドラインを尊重したことがわかるように参考までにパラグラフ7を引用・要約して明文にしてください。また、国連障害者の権利に関する委員会が出した初回の日本政府報告に関する質問事項パラグラフ13を引用してください。
 その上で報告書には、必ず同条約第36条第1項及び第39条に基づく提案及び一般的な性格を有する勧告が出された場合には、その内容に従って関連法制度の見直しを検討し、法改正を含む必要な措置を講じることについて明文化してください。

(4)ピアサポートの活用
 ピアサポートの活用については、障害福祉サービス事業所の安価な労働力に陥らせないためにも独立性を担保する必要があります。また、他職種との立場の違いを生かしたかたちで障害福祉サービス事業等における業務への携わり方を模索するためのビジョンを示す必要があります。その具体的な方法としては、役割の明確化、研修の確立、報酬の付与、ピアサポーターの組織化、障害者団体との連帯、団体としてのピアサポートなどです。報告書には、研修のブラッシュアップや見直しについて明記してください。

(5)人材育成
 ピアサポート研修については、ピアサポートの価値と当事者活動の歴史の科目をカリキュラムの中心に据えてください。
 人材育成のための研修コンテンツ等の作成プロセスについて、精神障害領域に関しては、主だった障害当事者団体の参画が得られているとは言い難い状況にあります。とくに今後は、障害当事者団体とどのようにパートナーシップを組むのかなどをプログラムにしていく必要があります。人材育成については、ピアサポートに限らず障害当事者団体の参画が不可欠です。そのため、保健所設置自治体及び市町村、専門職に限らず障害者団体とのパートナーシップを組むための人材育成を入れ込んでください。

(6)退院後支援
 「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」の報告書を契機として「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」の報告書に退院後支援が書き込まれました。第193回通常国会に提出された精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を見直しする法律(案)に明文化されたものの廃案となり、「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」の運用状況を見て法案の出し直しをすることとされました。
 退院後支援は、事件の再発防止を契機として成立した経緯があり、精神障害者と犯罪と結びつける偏見が助長され、医療現場が治安的に歪められてしまわないかと憂慮します。これは、193回国会で法案概要資料の趣旨部分が削除されるなど問題になり、現在のような法改正の大幅な遅延を帰結しています。参議院先議の法案が継続審議から廃案になるのは憲政史上初のことであり、その後の法改正の遅延も前代未聞の出来事です。このことは、重く受け止めなければならないはずです。
 退院後支援ガイドラインは、医療保護入院や任意入院を対象としています。しかし、補助金事業と診療報酬は措置入院者の退院後支援だけを対象としています。また、『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築のための手引き(2019 年度版)』には、退院後支援のモデル事例として鳥取県の取り組みが紹介されています。「鳥取県措置入院解除後の支援体制に係るマニュアル」は、廃案になった精神保健福祉法改正法案が審議入りする前の 2017年3月に公布されたものです。内容は、法案審査の内容を反映した「退院後支援ガイドライン」とも大きく異なります。現在、運用されている退院後支援は、全体的に治安的な方向に進んでいる印象を強く持ちます。報告書においては、
①退院後支援は相模原事件の再発防止策を契機としたものである旨を明文化することで、本制度の課題の所在を明確にしてください。
②精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の見直し、保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領の見直し、精神保健福祉センター運営要領の見直しの文脈で退院後支援を書き込まないでください。

(7)保健所及び市町村、精神保健福祉センター
「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」の報告書が想定する措置入院後のフォローアップ(退院後支援)は、結果としての犯罪防止を想定しており、支援と称した監視を彷彿させるような内容でした。第6回にも包括検討会資料「これまでの議論の整理」では、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築の主体が市町村であることを基本とし、保健所や精神保健福祉センターが専門的な立場から市町村を重層的に支援する体制が必要であるとされます。
 保健所には、所長が必要と認めた場合に同意なしに訪問できる「危機介入的訪問」があり、犯罪防止や監視のための運用に歯止めをかける規定がなく、同規定に基づいて「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」の報告書の想定する退院後支援が実施されまいかと深刻に憂慮します。また、市町村は重層的支援と称して保健所による犯罪防止や監視のための運用への入り口のように機能しまいかと深刻に憂慮します。
 にも包括は、市町村と医療機関、保健所の連携をデフォルトにしています。たしかに、個別事案によっては、連携が必要なケースがあることは認めます。しかし、デフォルトで連携体制をシステム化することには異議があります。医療機関と保健所には、非自発的入院や危機介入的訪問といった強制力があるからです。
 また、個々の支援課題(住まい、就労、障害福祉サービス)は、解決すべきであることを認めますが、その方策として医療機関や保健所との連携体制をシステム化することには異議があります。非自発的入院や危機介入的訪問といった強制力がある医療機関や保健所が住まい、就労、福祉サービスにわたって全てに入ってくるということは、日常生活に望まない医療や保健が入ってきてしまうことを意味するからです。こうした地域包括ケアシステムが構築されることは、多くの精神障害者が恐怖に感じ、医療不信につながり得る点で深刻な問題があると言わざるを得ません。医療や保健の役割は、もっと限定的でよいはずと考えます。
①保健所設置自治体を中心とした連携体制ではなく市町村を主体とし障害者総合支援法を基本としてください。
②協議の場の活用を限定的なものに位置付けるとともに自立支援協議会の活用を基本としてください。
③市町村が医療機関や保健所の強制力行使のための入り口のように機能することがないように歯止めをかけてください。
④医療機関や保健所の連携は、必要な場合に限り連携することができるといったかたちで限定的なものにしてください。また、医療機関や保健所との連携体制を前提としたシステムの構築はしないでください。
⑤保健所による未治療者・治療中断者の専門的相談については、退院後支援ガイドラインに準じて本人からの同意なしに支援計画を立てるようなことを絶対にしないでください。

(8)地域移行と病床削減
 現行の算定式では、1年以上在院者を長期入院と定義してきます。しかし、実際に入院させられる私たち精神障害者にとっては、2ヶ月であっても非常に長期間であると感じています。
 また、障害福祉計画の国の指針には早期退院率1年以内92%が書き込まれています。これでは、新規入院者の約15人に1人が新たに1年以上長期入院になっていくことを意味します。長期入院は、原則としては不要なはずです。そのため、新たな長期入院者が作り出されないような計画にする必要があります。
 報告書には、上述の課題を示唆しつつ基準病床算定式の見直しが必要である旨を書き込んでください。
以 上

新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案に関する要望書

冨岡 勉 様
今井雅人 様

 日ごろより病者・障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 さて、2021年1月22日、新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案が閣議決定されました。同法案は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部改正と感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部改正を一括したものです。新型インフルエンザ等対策特別措置法改正では、営業時間短縮や施設の使用制限の命令に応じない場合の処罰規定が盛り込まれており、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部改正では、新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否する場合の処罰規定が設けられています。
 しかし、本来なら現行の感染症法第19条は、「患者の同意」を限定的に抑制するパターナリズムに基づく手続きを定めた規定であり、従わなければ処罰するというかたちで同意自体に保護法益を認めようとするものではありません。かつ、このような処罰規定は、感染しているというだけで罰則を伴う入院勧告・措置の対象になるため、それを忌避するために検査を受けないという行動を誘発する可能性まであり逆効果です。そしてなによりも感染症であることを理由とした刑罰を容認することは、患者の差別、偏見を助長するものであり、きわめて問題があります。このままの内容ならば同法案には反対せざるを得ません。
 つきましては、下記の通り要望を申し上げます。

入院措置に応じない場合又は入院先から逃げた場合に罰則を科すること及び感染症の患者等が積極的疫学調査に係る質問に対して正当な理由がなく答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又は正当な理由がなく調査を拒み、妨げ若しくは忌避した場合に罰則を科することについては、処罰規定を削除する法案修正をしてください。また、営業時間短縮や施設の使用制限の命令に応じない場合の処罰規定についても削除する法案修正をしてください。
以 上 

指導監督制度の見直しに関する意見書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神障害保健課長 佐々木 孝治 様

 日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 さて、神出病院事件を契機として指導監督制度の見直しの準備が進められています。指導監督制度の見直しが精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約の趣旨を鑑みたものとなるように、下記のとおり意見を申し上げます。

1.基本的な考え方
 精神科病院においては、残念ながら不祥事の発生を完全に止められないと見るべきです。精神科病院の自浄作用に期待するだけでは虐待が見逃されるし、診療録に書かれていることが真実であるとも限りません。仕組みだけ改善に改善を重ねたとしても限界があると言わざるを得ません。
 地方精神保健福祉審議会の開催については、どの程度の不祥事で開催・検討されるべきかが必ずしも明らかではないため、結果として長期間にわたり休止状態に陥っている地方公共団体も少なくありません。
 少なくとも、政府の態度としては、これら不祥事が氷山の一角であることを疑うべきであるし、その前提に立つことを明文で示す必要があると考えます。

2.神出病院事件の教訓化
 医療法人財団兵庫錦秀会神出病院の凄まじい虐待事件は、兵庫県による指導監督の中では事態の把握にまでは至りませんでした。なお、本事件は同病院職員の内部告発や院外の団体の運動によって明らかになったわけではなく、警察による別件の取り調べ中に偶然発覚したものであり、自浄作用の限界を如実にあらわしたものです。その意味では、現行の指導監督制度下で同様のケースを把握することができないことが明らかにされたことになります。

3.名古屋高等裁判所金沢支部による判例の教訓化
 神奈川県の見解によると2017年に医療法人正史会大和病院で身体拘束中に死亡したケリー・サベジさんのケースでは、精神保健福祉法上の問題が認められませんでした。また、石川県の大畠一也さんのケースでは、名古屋高等裁判所金沢支部が社会福祉法人金沢市民生協会ときわ病院の過失を認める判決を出しましたが、それ以前におこなわれていた同様の運用について指導監督制度上では問題が確認されませんでした。
 指導監督制度では、もっぱら精神保健指定医の判断であることの確認にとどまり、補充性要件や実体要件の確認がおこなわれていません。とくに第37条第1項大臣基準は、明文で補充性要件を定めているにもかかわらず、精神保健指定医の判断があったというだけで実体要件の指導監督をしておらず、瑕疵が明確になりました。

4.医療保護入院定期報告に対する指導監督
 医療法人社団総合会武蔵野中央病院は、医療保護入院者に対して1987年以前の同意入院手続きのまま、医療保護入院の定期報告を数十年にわたってしていない入院者が複数いたと言われています。こうした精神科病院は、都道府県等による指導監督を潜り抜けて定期報告をしてこなかったことになるわけであり、指導監督制度の実効性欠如を如実にあらわしたものです。
※ 医療法人社団総合会武蔵野中央病院であるかどうかの根拠はオフレコの情報提供。

5.虚偽申告に対する指導監督
 京都府立洛南病院では、看護師が「大声を出され、殴られそうになった」と虚偽報告をしたために、看護師による一連の行為が虐待とみなされず、病室の鍵を外からかける閉鎖処遇にされる事件が発生しました。この事件によって、行動制限の根拠がそもそも虚偽を含む可能性が示唆されたことになり、少なくとも、虚偽申告に基づくか否かを判断するための基準が必要とされたことがわかります。

上告しないことを求める要望書

社会福祉法人金沢市民生協会ときわ病院長 殿

 貴病院におかれましては、日頃より精神科分野における地域医療にご尽力くださり、心より御礼申し上げます。
 去る12月17日、名古屋高等裁判所金沢支部は、入院していた大畠一也さん(当時40歳・男性)が、体をベッドに拘束されたあと、エコノミークラス症候群を発症して死亡したことをめぐる裁判で行動制限における補充性要件を認め、行動制限を回避するための方策を尽くしたとまでは言えないとして貴病院の過失を認める判決を下しました。
 本判決の意義は、従来の判決のように精神保健指定医が判断したという形式要件にとどまらず、精神保健指定医の判断の中身に関する実体要件にまで目が向けられたことにあります。
 行動制限は、侵襲性が高く厳格な要件のもとで行われてきたものです。しかし、精神科医療分野においては、近年まで毎年身体拘束が増加傾向にあったことをはじめ、未解決の問題が山積している印象を否めません。司法が補充性要件を認めたということは、次いで医療現場が行動制限を回避するための手段にかかわる議論を加速していき、ひいては患者全体の利益に資することになるのだと考えます。
 貴病院に限らず、日本の精神医療全体の底上げのために、行動制限を捉え返す議論をはじめる重要な契機として、この判決を前向きに捉えていただけることを願ってやみません。
 私たち全国「精神病」者集団は、精神障害の当事者で構成される全国組織として、名古屋高等裁判金沢支部の判決を支持し、貴病院には上告されないことを強く望みます。

声明 京都府立洛南病院看護師による入院患者に対する暴力事件について

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
2020年12月17日、京都府立洛南病院は看護師が精神疾患のある入院患者に対して暴力を行っていたと発表しました。
 12月10日午後3時半ごろ、男性看護師は患者のナースコールで病室を訪れ、大声で名前を呼ばれた際、ベッドに座った患者の足を3回けったほか、襟首をつかんで前後に3~4回揺さぶり、ベッドに上半身を倒して20秒ほど押さえつけました。患者の右鎖骨付近に3センチの擦り傷があり、この際の暴力が原因の可能性があるといいます。
 主治医は看護師が「大声を出され、殴られそうになった」と報告したため、患者は同日午後3時50分ごろから翌11日午後4時25分ごろまで、病室の鍵を外からかけられて閉鎖処遇にしました。11日午後、別の看護師がこの処遇の経緯を記した記録を見た際、病室に設置されたカメラの記録映像に男性看護師が殴られそうになる様子は確認されず、報告が虚偽と判明し、同処遇は解除されました。
 これまで行動制限の必要性については、患者が暴れることや患者による医療従事者に対する院内での暴力回避を含む医療安全が根拠として主張されてきました。しかし、その院内暴力の中に医療従事者の虚偽の報告に基づくものが含まれているのだとしたら、全体として真偽のほどが疑われることになります。少なくとも、暴れることや院内暴力の事実は、虚偽申告も含まれるため、真実か虚偽かを見分けるためには個別ケースごとに判断せざるを得なくなり、その意味で、これまで通りに一般化して主張することはできなくなったのだと思います。
 これまで、医療従事者は、患者による院内暴力にさらされているかのような言説を扇動してきました。しかし、本当にそのような事実はあるのでしょうか。今回の事件では、医療従事者の言説の信憑性に疑問が生じました。私たちは、従来のような患者による院内暴力という論点を拒絶し、患者に責任を帰属させながら行動制限を正当化するあらゆる言説に対抗していきます。

2020年12月18日