指導監督制度の見直しに関する意見書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神障害保健課長 佐々木 孝治 様

 日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 さて、神出病院事件を契機として指導監督制度の見直しの準備が進められています。指導監督制度の見直しが精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約の趣旨を鑑みたものとなるように、下記のとおり意見を申し上げます。

1.基本的な考え方
 精神科病院においては、残念ながら不祥事の発生を完全に止められないと見るべきです。精神科病院の自浄作用に期待するだけでは虐待が見逃されるし、診療録に書かれていることが真実であるとも限りません。仕組みだけ改善に改善を重ねたとしても限界があると言わざるを得ません。
 地方精神保健福祉審議会の開催については、どの程度の不祥事で開催・検討されるべきかが必ずしも明らかではないため、結果として長期間にわたり休止状態に陥っている地方公共団体も少なくありません。
 少なくとも、政府の態度としては、これら不祥事が氷山の一角であることを疑うべきであるし、その前提に立つことを明文で示す必要があると考えます。

2.神出病院事件の教訓化
 医療法人財団兵庫錦秀会神出病院の凄まじい虐待事件は、兵庫県による指導監督の中では事態の把握にまでは至りませんでした。なお、本事件は同病院職員の内部告発や院外の団体の運動によって明らかになったわけではなく、警察による別件の取り調べ中に偶然発覚したものであり、自浄作用の限界を如実にあらわしたものです。その意味では、現行の指導監督制度下で同様のケースを把握することができないことが明らかにされたことになります。

3.名古屋高等裁判所金沢支部による判例の教訓化
 神奈川県の見解によると2017年に医療法人正史会大和病院で身体拘束中に死亡したケリー・サベジさんのケースでは、精神保健福祉法上の問題が認められませんでした。また、石川県の大畠一也さんのケースでは、名古屋高等裁判所金沢支部が社会福祉法人金沢市民生協会ときわ病院の過失を認める判決を出しましたが、それ以前におこなわれていた同様の運用について指導監督制度上では問題が確認されませんでした。
 指導監督制度では、もっぱら精神保健指定医の判断であることの確認にとどまり、補充性要件や実体要件の確認がおこなわれていません。とくに第37条第1項大臣基準は、明文で補充性要件を定めているにもかかわらず、精神保健指定医の判断があったというだけで実体要件の指導監督をしておらず、瑕疵が明確になりました。

4.医療保護入院定期報告に対する指導監督
 医療法人社団総合会武蔵野中央病院は、医療保護入院者に対して1987年以前の同意入院手続きのまま、医療保護入院の定期報告を数十年にわたってしていない入院者が複数いたと言われています。こうした精神科病院は、都道府県等による指導監督を潜り抜けて定期報告をしてこなかったことになるわけであり、指導監督制度の実効性欠如を如実にあらわしたものです。
※ 医療法人社団総合会武蔵野中央病院であるかどうかの根拠はオフレコの情報提供。

5.虚偽申告に対する指導監督
 京都府立洛南病院では、看護師が「大声を出され、殴られそうになった」と虚偽報告をしたために、看護師による一連の行為が虐待とみなされず、病室の鍵を外からかける閉鎖処遇にされる事件が発生しました。この事件によって、行動制限の根拠がそもそも虚偽を含む可能性が示唆されたことになり、少なくとも、虚偽申告に基づくか否かを判断するための基準が必要とされたことがわかります。