基準病床算定式に係わる指標例に関する第一次意見書

持続可能で良質かつ適切な精神医療とモニタリング体制の確保に関する研究
研究代表者 竹島正さま

 日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 さて、現在、基準病床算定式の見直しに向けた研究が進められています。今年度は指標例について検討がおこなわれることになっています。
 つきましては、下記の通り基準病床算定式に係わる指標例について意見を申し上げます。

1.方向性の明示
 精神障害者の地域生活に係わる政策は、障害者基本計画において障害者の権利に関する条約との関係を中心に据えた基本的な方向性が示された上で、医療提供体制の整備に係わる医療計画と地域生活の基盤整備等に係わる障害福祉計画を連動させながら進めていくような構造になっている。そのため、指標例は医療計画に基づくものではあるが、精神医療という観点だけにとどまるべきではなく、国際人権法や障害者福祉など多角的に捉えた精神障害者の地域生活に係わるアウトカム指標を設定することが求められる。参考になるのは、障害者の権利に関する条約第14条及び第15条、そして第25条である。
 指標例には、地方公共団体が医療計画を作成する上での考え方や理念にかかわる“方向性”が明示されるべきである。具体的には、「障害者の権利に関する条約の趣旨を踏まえた運用をすべきであること。」と「社会モデルの観点から障害を捉えること。」の2点である。指標例への記載方法については、医療計画の前文に“方向性”を位置づけてプロセス指標において障害者の権利に関する条約の趣旨という観点からの検討をおこなったか否かを評価するという方法と、アウトカム指標の中に長期目標として示すことの2通りが考えられる。全国「精神病」者集団としては、前者を強く求めたいところである。

2.指標に入れるべきではない事項
(1)退院後支援
 指標例には、退院後支援を入れるべきではないと考える。理由は、退院後支援が相模原市における障害者施設での連絡殺傷事件の再発防止策を契機として「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン(平成30年3月27日・障発0327第16号)」が策定された経緯があり、精神障害と犯罪を結び付けるような差別や偏見を助長する恐れがあるためである。また、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」報告書(以下、「にも包括検討会報告書」とする。)において退院後支援は、今後の検討事項と位置付けられている。にも包括検討会報告書において態度が先送りにされたことからも、指標例に入れることは馴染まないと考える。
(2)重度かつ慢性
 指標例には、重度かつ慢性を入れるべきではないと考える。重度かつ慢性を指標にすることは、長期入院の原因を機能障害に帰責する考え方を前提にすることになり、治療して症状が安定した上でさらに地域の資源がなければ退院できないという認識の下で政策設計されることを帰結する。精神保健医療福祉の改革ビジョンの考え方とも異なるものであり、施策の連続性の観点から問題がある。
 地域生活の基盤整備を進める政策が存在する一方で、重度かつ慢性を入院需要と位置付けて病床整備する政策が並行しておこなわれるということは、それぞれの施策における地域生活観にぶれが生じていることを意味している。基本的には、たとえ精神疾患が重度かつ慢性であったとしても地域生活は支援があれば可能であるという考え方に立脚すべきである。
 加えて、同様の意味をもつ別の用語を用いても、機能障害に帰責していく考え方については指標例に入れるべきではない。
(3)治療高度化(修正型電気痙攣療法及び治療抵抗性抗精神病薬の普及)
 指標例には、治療高度化影響値に係わる修正型電気痙攣療法及び治療抵抗性抗精神病薬の普及を入れるべきではないと考える。精神疾患の治療は個別性が高く、特定の治療法を国として普及していくに適うだけの蓋然性は示し得ない。修正型電気痙攣療法及び治療抵抗性抗精神病薬は、侵襲性が高く不安の声も多いことから政策による普及には馴染まない。
(4)非自発的入院や危機介入的訪問
 指標例には、非自発的入院や危機介入的訪問といった強制的な手段を良いことのように評価する尺度を入れるべきではないと考える。強制的な手段は、現場における判断の結果という側面もあるだろうが、やはり政策という観点からは強制的な手段を使わない方法こそ目指されるべきである。
措置入院については、「措置入院の運用に関するガイドライン(障発0327第15号・平成30年3月27日)」に基づく運用の実施状況などの関心が高まっているが、これについても相模原市における障害者施設での連絡殺傷事件の再発防止策を契機として策定された経緯があり、精神障害と犯罪を結び付けるような差別や偏見を助長する恐れがあるため指標に入れるべきではない。

3.指標例に入れるべき事項
(1)行動制限のゼロ化
 指標例には、身体拘束をはじめとする行動制限のゼロ化に係わるものを入れるべきと考える。アウトカム指標は630調査における行動制限の件数、アウトプット指標は協力する病院の数と割合、ストラクチャー指標は行動制限最小化に係わる都道府県の推進体制の有無とされるべきである。
(2)ピアサポート及び当事者参画
 指標例には、ピアサポート及び当事者参画に係わるものを入れるべきと考える。指標は、次のようなかたちで設定されるべきである。
 ストラクチャー指標には、都道府県医療計画及び都道府県障害福祉計画の策定過程における当事者団体に所属する者及び当事者団体の活動に準じた活動をおこなう個人の参画の有無、行動制限最小化に係わる政策の推進体制への当事者団体に所属する者及び当事者団体の活動に準じた活動をおこなう個人の参画の有無が必要である。参画する構成員は、原則として当事者団体に所属する者とし、適当な者が選定できないなど例外的な場合に限り当事者団体の活動に準じた活動をおこなう個人の参画を認めるべきである。当事者団体に所属する者の参画を原則とすべき理由は、障害者の権利に関する条約第4条第3条の趣旨を鑑みたことと、団体こそ精神障害者のアイデンティティを代表する立場が期待されるためである。
 にも包括検討会報告書の体制については、ストラクチャー指標として、にも包括の協議の場におけるピアサポーターとその他の当事者それぞれの参画の有無が必要であり、プロセス指標にはピアサポーター研修の実施の有無と受講対象者層の広がりを入れてもよいと考える。
 にも包括検討会報告書を踏襲するとしたら、ピアサポーターとその他の当事者がそれぞれ参加したことがわかるように、それぞれの定義を明確化する必要性が生じる。ピアサポーターは、多様なピアサポート活動があるという前提を踏まえつつも、国の定義に従い「事業所等に雇用された精神障害者」とするほかないだろう。定義分けについては、地方公共団体の事務負担を考慮して、委員の肩書きが団体名であるか、事業所名であるかで選別することとし、団体名は当事者、事業所名はピアサポーター、市民委員などの公募枠による当事者の参加は原則として当事者参加にカウントしない(但し、地方公共団体によって当事者団体の活動に準じた活動をおこなう個人と判断された者に限っては当事者としてカウントすることができる。)といったかたちで整理にすることが考えられる。ピアサポート研修は、身体障害者や難病者など精神医療の範囲を超えた受講者が想定されるため医療計画の指標に位置づけることは馴染まないようにも思われるが、受講者層を評価する仕組みに位置付けられれば、まったく棄却しなくてもよいのではないかと思われる。具体的には、事業所に雇われる精神障害者、地域移行、当事者グループなど、にも包括検討会報告書に明文化されたアクターを列挙し、選択する方式が考えられる。
(3)入院医療
 指標例には、長期入院について評価するため、1年以上、半年以上、3か月以上の在院について入れるべきと考える。その他、1年以上入院者の内訳として2年以上、5年以上、10年以上、20年以上、50年以上をアウトプット指標に入れるべきと考える。
(4)通院医療
 指標例には、訪問診療や往診の実績について入れるべきと考える。
(5)医療観察法等
 医療観察法入院医療機関における在院期間は、長期化している問題を鑑みてアウトプット指標において実態把握できる仕組みがあった方がよい。