「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」に関する意見

(1)改正の趣旨の加筆及び今後の検討の在り方について
この度の民法(成年後見等関係)等の改正に向けた検討は、「民法(成年後見等関係)等の改正に関する 中間試案の補足説明による解説では不十分であり、成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律附帯決議には、「障害者の権利に関する条約第三十九条による障害者の権利に関する委員会からの提案及び一般的な性格を有する勧告が行われたときには、障害者を代表する団体の参画の下で、当該提案及び勧告に基づく現状の問題点の把握を行い、関連法制度の見直しを始めとする必要な措置を講ずること。」とあり、第1回政府報告に関する障害者権利委員会の総括所見では、「一般的意見第1号(2014年)法律の前にひとしく認められることを想起しつつ、(略)意思決定を代行する制度を廃止する観点から、全ての差別的な法規定及び政策を廃止し、全ての障害者が、法律の前にひとしく認められる権利を保障するために民法を改正すること。」との勧告がなされている。言わずもがな附帯決議には政治拘束力があり、その政治拘束力に裏付けられたかたちで国連からの勧告に基づく民法改正の検討がなされるべきところである。この点を踏まえて改正の趣旨や検討の枠組みを加筆、再考するべきである。

(2)成年後見制度の最小化に向けた枠組みの不在
 本来なら成年後見制度によらないかたちで支援すべき事案にまでも成年後見開始の審判に至った事例が非常に多く散見される。第1回政府報告に関する障害者権利委員会の総括所見は、補充性要件に基づく最終選択肢(last resort)さえをも認めない立場であるが、この度の「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」には後見開始の審判を減らす観点が目的的にも仕組み的にも欠如していると言わざるを得ない。
以上から、本来なら成年後見制度によらないかたちで支援すべき事案の相当数が成年後見開始の審判に至っている現状を鑑みて、成年後見開始の審判によらないかたちで適切な支援が受けられるよう、何らかの仕組みの検討を論点として加えるべきである。

(3)各論
 各論については、結論が出ていないものも含まれるため、引き続き動向を見ながら意見書をまとめていきたいと考える。
以 上 

障害年金申請の不支給判定が2023年度から2024年度にかけて2倍に増えた問題に関する緊急声明

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2025年4月28日、共同通信社は、障害年金申請の不支給判定が2023年度から2024年度にかけて2倍以上に急増し、約3万人にまで達したことを報じました。この事実は、共同通信社が入手した日本年金機構の内部資料によって発覚したものであり、首都圏の判定医140人それぞれについて傾向と対策のような文書を内部で作成していたことがわかりました。文書の中には「こちら(職員側)であらかじめ(判定を)決めておく」とも書かれており、同機構が判定医を誘導するように示唆したことがわかります。このことから、同機構は判定医によって障害年金判定の有無に差が生じている事実を認識していたということになります。そして、本来もらえるべき人がもらえていないという問題が生じていることになります。全国「精神病」者集団としても同様の相談を複数件受けて確認しています。これでは、適切に審査できていないことを疑わざるを得ません。
 そもそも、障害年金制度は半世紀にわたって大きな見直しが行われておらず、障害者差別解消法が成立した後の今日から見れば、時代錯誤であると言わざるを得ません。認定基準は、医学モデルに依拠しつつも抽象度が高く、職員側の都合が通りやすい状況を作っています。以上から、障害当事者団体の決定過程からの参加をしつつ、法改正を含めた必要な措置を講じるよう強く求めていきます。

神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(三笠書房)出版に対する緊急抗議声明

 2025年4月24日、三笠書房より神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』が出版されました。本書には、精神障害者に対する差別を彷彿させる表現が含まれており、全国「精神病」者集団としては、表現の自由を範囲を超えたもので看過できないと考えています。
 本書は、「精神疾患者」を「困った人」と呼称し、健常者が精神疾患者の尻拭いをして辟易している趣旨の表現が用いられています。本書は、一貫して「困った人」の行為を「疾病」や「機能障害」と関連付けており、かつ、それらの原因を疾病や障害をもった個人にのみ帰属させています。「困った人」の行為は、疾病や機能障害と関連づけている点で単なる個性とは一線を画すものであり、それゆえに疾病や障害に基づく差別にあたると考えます。このような特性を持つ人々を一方的に「困った人」と表現することは、障害者への差別や偏見を助長していくおそれがあります。日本では、障害者差別解消法が施行され、すでに事業者にも障害者への合理的配慮の提供が求められているわけですが、本書の表現は法の趣旨や社会的包摂の理念に反したものとなっています。そして、なによりも精神障害者ひとりひとりを深く傷つける表現です。

 著者の神田裕子氏は、障害者差別解消法において合理的配慮が求められている事実等にも疎く、いわばゴシップの作家なのだと思います。本書がゴシップな読物として出版される分には、読み手もそのように受容していくだろうし、それでよいと思います。しかし、神田氏は「スーパーカウンセラー」や「カサンドラ症候群専門」を自称しており、本書はあたかも専門家によって執筆された書籍であることを装っています。
 カウンセラーは、国家資格である公認心理師の「独占業務」とはされておらず、資格がなくても誰でも名乗ることができます。しかし、このことは、一般的に知られていないため、社会通念上、スーパーカウンセラーと冠した書籍が出版されると、読者に「内容に専門性があり信頼できる」と優良誤認的な理解をさせてしまうおそれがあります。
 さらに「カサンドラ症候群専門」の自称は、輪をかけて問題であると考えます。カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群の伴侶を持った配偶者が精神的、身体的に体調を崩すとする仮説のことです。しかし、カサンドラ症候群は、医学的に認められた概念ではなく、現在のICD(国際疾病分類)やDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)等ではまったく認められていません。このような医学的に認められていない概念を用いて、さも、専門家のように装って出版することも極めて問題であると考えます。
 本書による精神障害者差別が優良誤認的な装いによって拡大していくことを深刻に憂慮します。そして、その被害者は、わたちたち精神障害者なのです。出版社・編集者は、校閲の段階で最大限に注意し、改められるべき表現については著者に修正を求めるべきであったと考えます。以上から、神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(三笠書房)を差別図書と位置付け抗議します。

知的障害者等による臓器提供の取扱いの見直しに係る要望書(要望)

厚生労働省健康・生活衛生局難病対策課
移植医療対策推進室長 島田志帆 様

 厳寒の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 このたび厚生労働省は、「「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)」(平成9年10月8日付け健医発第1329号厚生省保健医療局長通知別紙)の「知的障害者等の臓器提供に関する有効な意思表示が困難となる障害を有する者であることが判明した場合においては、当面、当該者からの臓器摘出は見合わせること」とする規定を削除し、脳死状態の知的障害者等が家族や親しい友人、ケアにあたっている専門家などが本人の意思を推定した上で提供できるように見直すなどの方針をまとめました。
 この方針は、「知的障害等を理由に臓器提供の意思が尊重されないのは差別的ではないか」という形式面にとらわれた指摘をもとにして進められてきたものですが、本来、知的障害者等に対する必要な支援策を講じないまま、臓器提供という生命及び身体にかかわる重大な決断を本人や家族・支援者等に手放しで委ねることは、たいへん危険なことであると考えます。
 つきましては、障害者の権利に関する条約の趣旨を鑑みて下記について要望します。

一 「知的障害者等の臓器提供に関する有効な意思表示が困難となる障害を有する者であることが判明した場合においては、当面、当該者からの臓器摘出は見合わせる」旨の現行規を存置し、削除しないよう求める。

二 「知的障害等を理由に臓器提供の意思が尊重されないのは差別的ではないか」との指摘は、障害者権利条約第5条第4項に基づく「障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置」が差別に当たらないという規定が踏まえられていない。そのため、同条約に規定された差別と解するべきではない旨の確認を求める。

三 知的障害者等の臓器提供に関する有効な意思表示が困難となる障害を有する者の支援のあり方については、障害者権利条約第12条第3項に基づく法的能力の行使に当たって必要な支援の体制が構築された後に検討されるべきである。支援体制がないのなら改正を見送るべきであり、支援の構築と引き換えに改正を先取りしてよいなどとは考えない。これらについて確認を求める。
 以 上

障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画の運用に係る要望書(要望)

障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部長 石破茂 様

厳寒の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
2024年7月3日、最高裁判所判決は旧優生保護法の被害について、国に損害賠償の支払いを命じる画期的な判決を言いわたしました。2024年7月には、内閣府に障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部が設置され、同年12月に障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画が策定されました。
つきまして同行動計画の実施にあたっては、下記に留意しつつ運用してくださいますようお願い申し上げます。

一 障害者の権利に関する委員会一般的意見第7号パラグラフ11には、障害者を代表する団体は障害者の権利に関する条約の実施に協力する義務があるとされる。パラレルレポートを提出し、資料建設的対話の傍聴に出席した精神障害者の団体は、全国「精神病」者集団である。しかし、これまで全国「精神病」者集団には、ヒアリングがおこなわれてきていない。今後は、精神障害者にかかわる論点を抽出するにあたって各省庁横断して必ず全国「精神病」者集団に対するヒアリングをおこなうべきである。

二 旧優生保護法の全面解決に向けては、旧優生保護法によって人々に植え付けられた差別意識の影響による諸問題の解決(母体保護法下における同様の被害や障害者が生きることに否定的な価値を付与した上での医療中断、精神科病院への非自発的入院制度の成立過程の問題など)が必要であることを確認するべきである。
以 上 

北岡賢剛氏及び社会福祉法人グローの性加害事件にかかわる緊急声明

 2024年10月24日、東京地裁は、社会福祉法人グロー前理事長の北岡賢剛氏による性加害への賠償を被害女性2名が求めていた訴訟において、北岡氏による性加害の事実を認め、北岡氏に220万円、社会福祉法人グローに440万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
 全国「精神病」者集団としては、活動のなかで社会福祉法人グローや社会福祉法人愛成会、アメニティフォーラム、安倍総理と障害者の集いなどとのかかわりがなかったため、特段の声明を出すなどしてきませんでした。しかし、このたび全国「精神病」者集団の会員に対してアメニティフォーラムへの登壇依頼がきたため、本事件への見解を示さずに当日を迎えるべきではないとの考えから、経過を詳細に把握し見解を出すことにしました。
 北岡氏による加害行為は、使用者の立場を悪用して何年にもわたって被害者らに執拗に迫り、アルコール等で意識を混濁させた上で性暴力に及ぶものでした。複数の被害者に対して常習的に性加害がおこなわれてきたということは、被害者が救済を求めることさえままならず、多くの人が見て見ぬふりをしてきたからだろうと思います。被害者に身になれば、このような人物が障害者団体などによって持ち上げられ続けたこと自体、被害を助長させ救済を困難せしめるものであったに違いありません。全国「精神病」者集団は、北岡氏の性暴力行為を糾弾するとともに、アメニティフォーラムの登壇にあたっては、被害の拡大の片棒をかつぐようなことにならないように細心の注意を払って取り組んでいきたいと思います。

障害年金制度改革への障害当事者参画に係る行動を呼びかける緊急声明

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
来年(2015年)には、約40年ぶりの障害年金制度の大規模な見直しが予定されています。JDFは、障害者権利条約初回政府審査においてパラレルレポートを提出し、「相当な生活水準が可能な水準まで引き上げること及び認定基準をゆるやかにすること、並びに無年金障害者への救済策を講じること」を日本政府に勧告するよう求めました。これを踏まえた総括所見では、市民の平均所得に比べて、障害年金が著しく低額であることを懸念しており(パラ59)、障害者団体と協議の上で障害年金の額に関する規定を見直すことが勧告(パラ60)されました。
全国「精神病」者集団は、厚生労働省年金局に対して当該勧告に従って障害当事者団体の意見を聞くための機会(ヒアリング等)を設けるよう要望しました。しかし、年金局からは、「社会保険の仕組みについて議論している段階であり、障害当事者へのヒアリングを行なう予定はない」とする回答が返ってきました。年金法改正法案の国会提出は、2025年1月の通常国会で予定されています。このままでは、勧告を軽視した法改正になり兼ねません。障害者団体が連帯して勧告に基づき、①障害当事者団体の意見を聞く場を設けること、②支給水準及び認定基準、無年金問題についての検討の場を設けることを求める大きな運動を作っていく必要があります。
皆様に置かれましては、当該勧告が骨抜きにされないためにも、通常国会の開催に先駆けて障害年金制度改革について障害当事者参画を求める要望書を提出するなどして問題の大衆化に取り組んでください。

精神科病院におけるモバイル型通信機器の持ち込み禁止問題について

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神・障害保健課長 小林 秀幸 様

 貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 これまで厚生労働省は、スマートフォン等のモバイル通信機器の持ち込み及び使用を禁止する場合、精神保健指定医の診察が必要であると回答してきました。しかし、従前よりお伝えしてきた通り、スマートフォン等のモバイル通信機器の持ち込み及び使用を精神保健指定医の診察による通信面会制限の手続きを経ずして一律的に禁止している精神科病院が未だに散見されます。全国「精神病」者集団は、数年前から厚生労働省に情報をよせて対応を求めており、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会においても団体推薦の構成員から意見を述べるなどしてきました。しかし、指導監督制度を通しても一向に改善の気配はなく、個別病院における制限状況の実態把握を求める声まで出始めているとききます。
 つきましては、今一度、真剣に対策を検討くださいますよう、重ねてお願い申し上げます。
 以 上 

旧優生保護法被害者等の補償に向けた立法の提言

優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟
会  長  尾辻秀久 様
事務局長  福島瑞穂 様

 時下ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 さて、2024年7月3日、最高裁判所大法廷は優生保護法国家賠償請求訴訟に関して、同法を違憲としたうえで、従来の判例を変更し、除斥期間を適用せずに国に賠償を命ずる判決を下しました(令和6年7月3日・大法廷判決 令和5(受)第1323号、令和5(オ)第1341号、令和4(受)第1411号、令和4(受)第1050号、令和5(受)第1319号)。旧優生保護法被害者等に対して裁判を通さずとも速やかに補償を受けられるよう立法措置が求められています。
 つきまして、全国「精神病」者集団は、補償立法について下記の通り提言します。立法にあたって反映してくださいますようお願い申し上げます。

⑴被害
【要望】
●被害は、第一義的には、障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなし差別してきたことであることを確認されたい。
【解説】
◯旧優生保護法の被害は、極めて重大な人権侵害であったため、さまざまな角度から措定することが可能である。そのため、逆に論点が散漫になり、問題の本質が絞り込めないような状況に陥りやすい。優生保護法第1条には、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」とある。なによりも本質的問題は、障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなす差別に基づき侵襲が行われたことである。
◯結婚する機会や子を持つ機会を奪われたという論点には、慎重でなければならない。この社会には、子を持つことや結婚することを当たり前とする同調圧力があり、結婚できないことや子を持てないことをネガティブに捉える考え方とも根本ではつながっている。旧優生保護法の問題は、最高裁判所判決においても障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなす差別に基づき侵襲が行われたことを違法としている。結婚する機会や子を持つ機会を奪われた被害については、不良な子孫やその出生防止を理由とした侵襲の結果として生じた二次的な被害と位置付けるべきである。

⑵申請主義の撤廃
【要望】
●補償は、地方公共団体の職権で申請によらずとも給付できるようにされたい。また、補償法の周知については、条文による規定を設けられたい。
【解説】
◯被害者の中には、被害を受けた事実を知らない者が相当数いると考えられる。国は、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される(昭和28年6月12日・厚生省発第150号・厚生事務次官通知)とする通知を出しており、被害の事実に気づかないまま過ごしてきた人がいる。それらの者に申請主義を強いるのは酷と考えられなければならない。
◯ 被害者の中には、被害を受けた事実を理解できていない者が相当数いると考えられる。支援がなければ何をされたのか理解することが困難な機能障害を持つ者については、被害の事実を理解できていない可能性がある。それらの者に申請主義を強いるのは酷と考えられなければならない。
◯上記については家族についても同じである。
◯ 一時金支給法の検討においては、一部の被害者の「隠したい」という気持ちに寄り添う意見が出されたことで、アウティングにならないようにするという名目で申請主義に拘泥してゆくこととなった。しかし、被害者が被害を隠すのは、被害を受けたことを知られると差別されるからであり、差別が悪い以上、隠して被害を受けないようにするのではなく、差別自体をなくしていくための取り組みこそしなければならないはずである。差別をなくすためには、当事者が声をあげる必要があり、私たち当事者は声をあげられない当事者たちに先立って声をあげるべく名前や顔を出して運動をしているのである。原告も徐々に実名公表に踏み切る者が増えてゆき、これこそが当事者主権の運動のかたちである。そういう意味でアウティングへの配慮という論点は、当事者の立場から生起し得ないものである。
◯周知については、申請主義下の周知と職権給付下では意味合いが異なる。行政の中に資料等がある場合には、地方公共団体の職権による救済が可能であるが、こうした資料が残っていない被害者については、自ら名乗り出てもらう他ない。そういう意味では、周知を徹底していく必要がある。

⑶補償の範囲
【要望】
●旧優生保護法が存在した期間に旧優生保護法第3条及び第4条、第12条の手術を受けた者、旧優生保護法が存在した期間に放射線照射など旧優生保護法に基づかない手術を受けた者、母体保護法下において同様の被害を受けた者を補償の対象にされたい。
●家族を補償の対象とし、補償をうける家族の範囲は、①不良な子孫の出生に係る血縁と見做されることによる権利の侵害、②子を持つ権利の侵害、の2類型とし、①については親・兄弟姉妹・祖父母、②については配偶者(事実婚を含む)までとされたい。

【解説】
◯人工妊娠中絶手術は、補償の対象にすべきである。不良な子孫やその出生を齎す存在と位置付けた上での手術である以上、そこに優生手術と人工不妊中絶手術との間に差を設けてはならない。同一の枠組みによって補償されるべきである。
◯手術に同意したとされる者は、補償の対象に加えるべきである。そもそも、旧優生保護法問題において同意の有無は、問題にしてはならない。障害者を不良な子孫やその出生を齎す存在とみなした上で、優生手術又は人工妊娠中絶手術を働きかけて同意を求めてきた以上、そのこと自体が補償に値する人権侵害とみなされるべきである。
また、国は「真にやむを得ない限度において、身体の拘束、麻酔薬施用、又は欺罔等の手段を用いることも許される(昭和28年6月12日・厚生省発第150号・厚生事務次官通知)」と通知し、およそ同意とは言い難いものについても同意による手術だとしてきた。このことから同意の有無は、補償の有無を左右するほどの理由にはなり得ない。
◯優生保護法第1条に規定された不良な子孫の出生防止と母性の生命健康保護は、それぞれ別の目的として設定されているように見えつつも、実際には同じ法律の同じ手続きによるため、相まった運用が含まれ得ることになる。すなわち、実際は不良な子孫の出生防止と母性の生命健康保護は、境界が曖昧にされながら優生手術等がおこなわれてきたものと考えられるべきである。
◯家族については、旧優生保護法が不良な子孫やその出生を齎す存在とみなしてきたことを鑑みて、そのような遺伝の関係性を含む、あらゆる差別を受けてきたことへの補償とされるべきである。言い換えれば、子供を持てなくされたことを理由とした補償には慎重である。

⑷認定方法
【要望】
●認定方法については、一時金支給法の認定方法を基本として漏れがないようにされたい。
【解説】
〇被害者は、時の経過と共に証拠が散逸するなど証明が困難な状況にある者が少なくない。そのため、認定方法は証言に整合性があることなどとし、補償を受けられない人が出てこないようにすることこそ重きを置く必要がある。

⑸検証・再発防止
【要望】
●再発防止のための検証であることを法律の中に位置付けられたい。また、国及び地方公共団体の責務としておこなわれることを担保されるよう明文化されたい。
【解説】
◯旧優生保護法の影響で人々に植え付けられた差別意識は、今も厳然と残されており、同様の被害が続いている。例えば、母体保護法下においても強制的な不妊手術がおこなわれているし、親族等から障害を理由として中絶を強要されることがある。これらは、国が旧優生保護法によって人々に植え付けられた差別意識を解消してこなかった不作為によるところが大きく、それによって現在も旧優生保護法下の優生手術等と同様の被害がもたらされており、早急な解決が求められる。

⑹検証・再発防止の体制
【要望】
●検証の実施機関については、閣僚を成員とした委員会を設置し、内閣府が合議体の意見を聞きながら作成する検証・再発防止計画(仮称)に基づいて各省庁の実施機関が対応できるようにされたい。
●計画策定後は、子ども・家庭庁に移管して、検証に係る調査と再発防止を所轄し、各地方公共団体に協力を求められる体制を講じられたい。
【解説】
◯閣僚会議については、少なくとも、内閣総理大臣、内閣官房長官、厚生労働大臣、子ども家庭庁長官、財務大臣、外務大臣、文部科学大臣、警察庁長官は、責任を認めて参加すべきである。
◯京都新聞・森記者が滋賀県を相手取っておこなった処分取消し訴訟では、地方公共団体に保管する旧優生保護法の実態にかかわる情報について住民に公表できる範囲が明らかにされた。遺伝情報などについては、住民への公表ができない情報とされたが旧優生保護法の実態を知る上で極めて重要な情報である。声を上げた原告がいる一方、声をあげられていない約25000人の身に起きた問題を明らかにする上でも、地方公共団体が実態解明に向けて動けるように国が法律で規定を設ける必要がある。
 以 上 

山本眞理さんへの追悼

 全国「精神病」者集団で長らく活動を共にしてきた2024年7月3日に長らくの癌との闘病生活の末、逝去をされました。享年71歳でした。ここに謹んで哀悼の意をささげます。
 山本眞理さんは、国内外の反差別運動を牽引し、その活躍は障害者運動のみならず、人権をめぐる運動全般に及びました。物おじしない活動スタイルから、当事者運動はもとより、さまざまな社会運動に関わる人々からも高く評価を受けてきました。
 全国「精神病」者集団は、50年前の1974年の結成以来訴えてきたことは、私たち精神障害者は、人として当然持ちあわす諸権利を奪われ、市民社会から切捨てられ、たえず、管理の対象者としてのみ扱われ、共生の場からはずされてきたという事実です。
 今から10年前、日本は国連障害者権利条約の署名を行いました。この条約の策定のプロセスに関わった障害当事者のひとりである山本眞理さんは、条約の国内実施にむけた取り組みに大いに期待を寄せていらっしゃいました。条約のスローガンである「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」は主体性の獲得とともに、反差別に向けた社会そのものの変革としての大きな意味を説いてくれました。
 残された私たちは、山本眞理さんや山本眞理さんが慕っていた諸先輩方が訴えてきた「精神病」者の生命の尊守、「精神病」者の権利主張、「精神病」者総体の利益追求を体現していかなくてはなりません。今までの奮闘に心より感謝し、故人のご冥福をお祈りします。