精神医療審査会マニュアルへの意見書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神・障害保健課長 小林 秀幸 様

 日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 現在、精神医療審査会マニュアルの見直しが進められております。これらが障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」とする。)の趣旨を鑑みたものとなるように、下記のとおり意見を申し上げます。

(1)精神医療審査会制度の限界と今後
 このたびの精神医療審査会運営マニュアルでは、予備委員の増員により精神医療審査会の開催頻度を増やすこと、書類審査だけではなく実地審査を基本とすることで本人の状態をみて判断できるようにすること、医療委員以外の委員を増員することなど、一定の改善が見込まれてはいるものの、大きな変化は期待できないと考えます。
その理由は、精神医療審査会が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、「精神保健福祉法」とする。)の中に位置付けられており、同法の目的である医療及び保護、社会復帰の観点から退院等の請求及び処遇改善請求、定期報告を審査することになるからです。同法の目的自体が医学モデル的であり、その意味では顕著な人権侵害を除いて医学的に入院が不要なことが明らかなケースにしか認容の余地がありません。精神医療審査会制度の守備範囲を明確にすることを通じて、過度な期待をもたらすことがないように配慮する必要があります。
 また、根拠法である精神保健福祉法は、将来的に廃止し、障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見の勧告に基づき、一般医療の枠組みにおいて精神医療審査会にかわる監視のしくみを構築してください。

総括所見の抜粋
32. 主観的又は客観的な障害に基づく非合意の精神科治療を認める全ての法 規定を廃止し、障害者が強制的な治療を強いられず、他の者との平等を 基礎とした同一の範囲、質及び水準の保健を利用する機会を有することを確保する監視の仕組みを設置すること。
34. 障害者団体と協力の上、精神医学環境における障害者へのあらゆる形態の強制治療又は虐待の防止及び報告のための、効果的な独立した監視の仕組みを設置すること。

(2)精神医療審査会の運営について
 合議体は、3人で開催できるようにするなど体制をコンパクトにして速度重視にすべきではないかと思います。人数を増やしても質が向上することにはならないのではないかと考えます。

(3)研修
 研修の実施を要求します。障害者権利条約や社会モデルのことを入れる必要があります。

(4)当事者委員について
 当事者の役割は、あくまで退院等の請求や処遇改善請求を出す入院者の主張の擁護でなければならないと考えます。しかし、精神医療審査会は、形式的には医療内容や顕著な手続き違反の審査ではあるものの、結果として入院者の請求内容の審査とも表裏一体になっているため、入院者の主張に対して、入院相当であるとか、退院相当であるとか、当事者が第三者的な立場で審査をすることになります。このようなかかわりは、当事者性になじまないのではないかと考えます。その一方で社会モデルの観点から意見を述べるなどの当事者のかかわりが馴染む場面もあり、今後の議論が必要です。
いずれにしても、あるべき監視機能については、精神医療審査会の評価を含め現行の仕組みを前提にすることなく、自由な発想で、当事者を交えて議論をする必要があります。
 以 上