【見解】当事者参画に関する立場

1 基本的な姿勢
 障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」とする。)第4条第3項では、締約国に対して条約の実施にかかわる政策の策定等に障害者を代表する団体を通じて障害者と緊密に協議するなど、障害者を積極的に関与させることを求めています。全国「精神病」者集団は、障害者権利条約を支持し、完全履行に向けて取り組む障害者団体として、日本政府に障害当事者参画を要求するとともに、全国「精神病」者集団も政策決定過程に積極的に参画していきます。

2 精神障害者の当事者参画が進まなかった理由
 日本では、精神障害者の領域における政策決定過程への当事者参画が進んでおらず、諸外国と比較しても遅れが著しいです。その理由は、①行政が家族会に対して当事者としての発言を期待していること、②障害者運動内部において当事者参画の機運が高まらなかったこと、③障害者団体の推薦を得た当事者の参画がなかったため、当事者参画のイメージが沸きにくくなっていることが挙げられます。
 ①は、おかしなことではありますが、長年にわたって行政から「当事者は家族会が入っているので追加で入れる必要はない」と言われ、当事者参画が阻まれてきました。最近は、家族会の人たちも、このような行政の態度に一緒に異議をとなえるようになりましたが、当事者参画が進まなかった大きな原因となっています。
 ②は、さまざまなエピソードがありますが、とりわけて大きかったのは自殺問題だと思います。1990年代に草分け的な存在として政策決定過程に参画した当事者は、不幸にも入水自殺してしまいました。この出来事は、私たち当事者にとって辛い経験となり、「こんなことになるくらいなら参画なんてしなくていいのではないか」という考え方を刻みつけることになりました。
 ③は、当事者参画が四半世紀以上にわたって障害者団体の推薦を得ていない個人の立場やピアサポーターの一本釣りが大部分を占めてきたことが背景にあります。個人の当事者は、組織のバックグラウンドがないため、長期的な展望に依拠した参画が困難であり、どうしても、ご意見番的な立場にとどまることが大半を占めました。その後、ピアサポーターが参画するようになっていきましたが、ピアサポート政策や地域移行以外の話題になると、どうしても展望自体を持っていないことが多く、その場その場で随時返答していくようなかたちになっていました。そのため、当事者がミッションを掲げて、長期的な展望の中で戦術的に取り組んでいくという本来の当事者参画のイメージをし難い状態が長く続きました。このような歴史にトラウマを抱えた人たちは、当事者参画に消極的な意見を述べるようになっていきました。

3 当事者参画を進める運動
 このことから日本における精神障害者の当事者参画は、政府や他団体からの外的要因よりも、当事者運動の機運といった内的要因によって進まなかったことがわかります。いつしか当事者参画は、戦術として積極的に迎え入れられることはほとんどなくなり、リスクばかりが指摘されるようになっていきました。それでも民主党政権のときには、関口明彦さんと山本眞理さんが参画して一定の成果を得ました。しかし、その後は、精神障害や知的障害の当事者参画が後退し、再び、当事者参画の氷河期に突入しました。
 次の転換点は、当事者参画を有効活用して精神保健福祉法改正案を廃案に追いやったときでした。その後、成年後見制度の見直しに向けた民法改正や医療保護入院の廃止などのミッションに従って行動を進めてきました。当事者参画のイメージは、少しずつ変化してきました。

4 障害者を代表する団体とは
 障害者権利条約には、障害者を代表する団体とあります。しかし、障害者権利条約では、障害者を代表する団体を定義しておりません。また、「障害者を代表する」とだけ聞くと、当事者団体の代表性の有無などが問題になるかのように思われますが、障害者の権利に関する委員会や国際障害同盟は、そのようなことを問題にしてはいません。
 日本の障害者運動において障害者団体とは、一般的に障害当事者が代表、事務局長であるなど実質的な運営が障害当事者によって担われていることや役員の過半数が障害当事者であること、成員の過半数以上が障害当事者であることなどの基準を満たすものであることなどの考え方が提案されてきました。ただ、連合会型の組織の場合、団体会員を障害当事者としてどのようにカウントしたらよいのか、国が障害者として認めていないカテゴリにいる人たちの位置付けをどうするのか、など、さまざまな議論が未解決のままになっています。そのため、各団体が独自に採用する基準に委ねる他ないというのが現状です。とはいえ、このような議論の蓄積に依拠しながら、個別の障害者団体が障害者団体と名乗って差し支えないかどうかは、おおむねの合意が得られているものと考えます。
 しかし、障害者の権利に関する委員会は、障害者を代表する団体それ自体の定義を見送り、かわりに障害者を代表する団体のミッションを明確化することで障害者団体の排他的役割を措定しています。このことから、障害者団体とは、どのような組織であるかよりも、何を主張する組織であるかが、適格性を判断する上で優位とみなされていることがわかります。一般的意見第7号では、障害者を代表する団体とは障害者権利条約を推進する義務を負うものとされています。また、障害者権利条約第33条第3項では、「市民社会は、監視の過程に十分に関与し、かつ、参加する」こととされており、このことからも障害者団体は、障害者権利条約を物差しにして運動しているのかどうかが問われることになります。障害者権利条約は、社会モデル/人権モデルに立脚しています。社会モデル/人権モデルは、障害者を包摂した社会を実現するための基礎をなす価値規範であり、障害者を代表する団体は、これに準拠した主張をしていかなければなりません。言いかえれば、障害者の権利に関する委員会や国際障害同盟の方針に関心を示さず、社会モデル/人権モデルに準拠しない主張をする団体は、障害者を代表する団体とはみなし難いと言わざるを得ません。
 この先、会員数や組織体制で代表性を担保する考え方は否定されていくことになります。いくら立派な組織でも、主張が医学モデルならば、それは当事者を代表したことにはなりません。また、既存のピラミッド型組織の構造に対抗する障害当事者文化を構想している団体の取り組みを評価する上でも弊害になります。そのため、あくまで主張の内容が社会モデル/人権モデルに準拠し、精神障害者的であるかどうかが重視される時代になっていくことになります。

5 これからの全国「精神病」者集団の取り組み
 全国「精神病」者集団は、結成当初から精神衛生法撤廃・保安処分反対・強制入院反対等を掲げてきました。これらの実現には、障害者権利条約が欠かせません。全国「精神病」者集団は、日本において唯一、統合と単独の両方のパラレルレポートを提出し、ジュネーブにも精神障害当事者の傍聴団を派遣しました。このような地道な取り組みがあって、精神保健福祉法の解体や非自発的入院の廃止、成年後見制度の廃止のの勧告を勝ち取りました。今後、これらの政策を国内で実現させていくべく、当事者参画を推進していきます。

2023年1月10日