趣旨
わたしたちの運動の力によって病棟転換型居住系施設の新設は完全に阻止することができました。ところが、最近になって、この歴史的勝利の事実が思いのほか知られていないことがわかってきました。そこで、この機に病棟転換型居住系施設の新設完全阻止がどのようなかたちで実現に至ったのか制度の解説をしたいと思います。
①指針の成立
2013年、精神保健福祉法が改正され、同法第41条には厚生労働大臣による「精神障害者の障害の特性その他の心身の状態に応じた良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」条項が新設されました。この規定に基づき実際に作成された「精神障害者の障害の特性その他の心身の状態に応じた良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」には、いわゆる病棟転換型居住系施設のことが書き込まれました。
「精神病床の機能分化は段階的に行い、精神医療に係る人材及び財源を効率的に配分するとともに、精神障害者の地域移行を更に進める。その結果として、精神病床は減少する。また、こうした方向性を更に進めるため、地域の受け皿づくりの在り方や病床を転換することの可否を含む具体的な方策の在り方について、精神障害者の意向を踏まえつつ、保健・医療・福祉に携わる様々な関係者で検討する。」
病棟転換型居住系施設については、同指針の検討段階から批判する声がありましたが、朝日新聞をはじめとする賛意を述べる意見もありました。半ば押し通されるかたちで病棟転換型居住系施設を定めた指針が成立してしまいました。
②地域移行支援型ホームの阻止
病棟転換型居住系施設を定めた同指針の影響をうけて障害者総合支援法に基づく共同生活援助の特例として地域移行支援型ホームが新設されました。地域移行支援型ホームは、共同生活援助を病院敷地内において病床を施設に転換して設置することを特例で認めたものです。朝日新聞をはじめとするいくつかのアクターは、病棟転換型居住系施設を地域移行に資するとして支持しました。
しかし、これについては、数の上で病床数を減らして、実際は病院と同じような場所にとめおく方策であると考えられたことから障害当事者を中心に大規模な反対運動がおこりました。精神障害のある仲間からの提起もあって、2014年6月26日に日比谷公園において集会が開催されました。当日は、3000人を超える参加者を得て反対の声を世に伝えることができました。
③各自治体の動き
病棟転換型居住系施設の設置には、指定をおこなう都道府県・政令市の条例において病院敷地内に指定できる旨の規定を設けるための改正が必要となりました。いくつかの自治体では、病院敷地内に指定できる旨の改正がおこなわれましたが、反対運動によって条例改正を阻止できた自治体もありました。
また、病棟転換型居住系施設の指定には、障害福祉計画の変更をしてからでないと実施できないということがありました。また、計画変更にあたっては、当該自治体が合議体の意見を聞く必要もあります。各位の取り組みとしては、合議体のなかで計画変更を認めないとする動きもありました。
④病棟転換型居住系施設の完全阻止
2014年6月26日の日比谷公園集会のあとは、「病棟転換型居住系施設を考える会」が定期的な集まりをもって大衆運動を牽引してきました。また、地域移行支援型ホームをめぐっては、厚生労働省の検討会でも議論になり、様々な団体が繰り返し厚生労働省との交渉をもちました。全国「精神病」者集団も交渉を続けてきました。そうした影響もあって地域移行支援型ホームは、新規指定が2015年4月1日から2019年3月31日までとされ、かつ、その間に指定を受けたホームは当該指定日から6年間のみ運営が可能という制限が設けられました。あわせて、2018年度に事業の実施状況を踏まえて制度の在り方を検討することともされました。
この一文の影響は大きく、結果として2019年3月31日まで新規指定が0件であったことと、2018年度に予定されていた制度の在り方の検討もおこなわれなかったことから、今後の指定はおこなわれないこととなり、完全に阻止することができました。
参考:障発0220第7号・平成27年2月20日通知
https://jngmdp.net/wp-content/uploads/2021/06/s0220no7.pdf
⑤病院敷地内施設の歴史
病床を施設に転換する構想はかねてよりありました。障害者自立支援法が施行されて数年後の話、地域移行型ホームと退院支援施設の中に敷地内施設の累計が設けられ、それが最初の病棟転換型居住型施設でした。こちらについても反対運動が巻き起こりましたが、完全阻止とまではなりませんでした。そういう意味でも、今回の病棟転換型居住系施設の阻止は、これまでにない勝利であったと思います。