2020年度要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神障害保健課長 佐々木 孝治 様

日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
これら精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)の趣旨を鑑みたものとなるように、次のとおりご要望を申し上げます。

1.精神障害の当事者参画の推進に向けた要望

(1)審議会、合議体、検討会、厚生労働科学研究班など、当事者団体の推薦を得た代表者の参画を推進してください。また、当事者団体(病棟患者自治会や地域患者会をシェアしている全国組織)とピアサポート職能団体の全国組織とでは役割が違います。それぞれの団体の推薦を得た精神障害当事者の参画を推進するようにお願いします。

(2)精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会
去る3月18日、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築の推進に関して課題となっている事項について、各種施策への反映を念頭において議論する「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」が開催されました。
しかし、構成員の中には、いわゆる地域患者会、病院患者自治会、自立生活センタースタッフなど幅広い層をシェアしている精神障害者全国組織の代表者等が入っておらず、当事者参画として不十分な印象を否めません。
つきましては、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」の運用におかれては、全国「精神病」者集団にヒアリングをするなどして私たちの声をしっかりと拾い上げてくださいますよう、お願い申し上げます。

(3)精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築支援事業のピアサポート研修は、事業所に雇われる当事者という狭義のピアサポーターを想定しています。今後は、本来の当事者活動を意味するピアサポーターにまで、想定するピアサポーター像を拡大してください。

2.実態把握

(1)630調査
旧調査では不明とされてきた精神医療審査会や訪問看護の実態が630調査のなかで明らかにされるようになり、2019年度より地方公共団体において630調査個票が開示されるようになったことを感謝申し上げます。お陰様で、630調査個票の開示を通じた各地の取り組みが広がってきています。
つきましては、今年度も引き続き精神医療審査会や訪問看護の調査と地方公共団体における個票開示がおこなわれますよう、お願い申し上げます。

(2)身体拘束の全国大規模調査の研究班
 昨年度の身体拘束の全国大規模調査の研究班には、全国「精神病」者集団の推薦を得た精神障害当事者を協力研究者に入れてくださり、ありがとうございました。今年度も引き続き身体拘束の大規模調査の研究班には、全国「精神病」者集団の推薦を得た精神障害当事者を協力研究者に入れてくださいますようお願いします。

(3)意思決定及び意思表明支援の研究班
 昨年度の意思決定及び意思表明支援の研究班には、全国「精神病」者集団の推薦を得た精神障害当事者を協力研究者に入れてくださり、ありがとうございました。今年度も引き続き意思決定及び意思表明支援の研究班には、全国「精神病」者集団の推薦を得た精神障害当事者を協力研究者に入れてくださいますようお願いします。

(4)措置入院の運用の研究班
 昨年度の措置入院の運用の研究班には、全国「精神病」者集団の推薦を得た精神障害当事者をオブザーバーに入れてくださり、ありがとうございました。今年度の措置入院の運用の研究班には、全国「精神病」者集団の推薦を得た精神障害当事者を協力研究者に入れてくださいますようお願いします。

3.退院後支援ガイドライン及び運用ガイドラインに関する意見

(1)相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム最終報告書
運用ガイドライン及び退院後支援ガイドラインの内容は、相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム最終報告書に示された措置入院者の退院後フォローと大部分がオーバーラップしています。このことは、事件の再発防止を契機として運用ガイドライン及び退院後支援ガイドラインが定められたことを意味し、運用ガイドライン及び退院後支援ガイドラインの効果として犯罪防止が期待されているのではないかと深刻に憂慮します。相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム最終報告書の内容を事実上、撤回できるようにしてください。

(2)退院後支援ガイドライン
退院後支援ガイドラインには、援助関係者として警察が入ることが想定されています。しかし、治安当局である警察は、退院後支援の趣旨である継続的な治療と目的を共有できておらず、相模原事件の再発防止と相まって精神障害者の犯罪を防止する狙いがあるのではないかと深刻に憂慮しています。
退院後支援の趣旨は、退院後の継続的な医療提供とされています。継続的な医療提供には、患者の自発性が必要です。その意味で精神保健福祉法は任意入院を基本としています。非自発的入院下で同意を得て退院後支援の計画を立てるという流れは、任意入院を基本としてきたこれまでの流れとの整理が十分に付いていません。退院後支援においても従来の通り、任意入院が基本であることを確認しなければなりません。
退院後支援ガイドラインをめぐっては、見直しを含めて再検討をしてください。

4.精神保健福祉法改正法案に係る要望

(1)附則に障害者権利条約第36条第4項、同条第5項、第39条に基づく障害者権利委員会の勧告に基づく見直しを検討するための場を設置する条文を設けてください。また、当該検討の場には、障害者団体の推薦を受けた精神障害当事者が相当数を占めるように配慮してください。

(2)措置入院者退院後支援計画及び精神障害者支援地域協議会の新設規定は法案から削除してください。

(3)施行後3年を目途に医療保護入院の在り方、非自発的入院・隔離・身体拘束に置ける弁護士の選任とその処遇および関与の在り方について見直しに向けて検討するとの一文を設けてください。

(4)目的条項に障害者基本法の理念に基づく法律であるとする一文を追加してください。