「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」に関する意見書

意思決定支援ワーキンググループ 御中
 厚生労働省社会・援護局地域福祉課 殿
 最高裁判所事務総局家庭局第二課長 殿
 日本弁護士連合会長 殿
 日本司法書士会連合会長 殿
 成年後見センター・リーガルサポート理事長 殿
 日本社会福祉士会長 殿

 日ごろより、ご尽力くださり心より敬意を表しております。
 さて、わが国の成年後見制度は、精神上の障害により事理を弁識する能力になんらかの問題がある者に対して行為能力を制限するための審判を規定したものです。民法明文上にも「精神上の障害」とあるように成年被後見人等の大部分が精神障害者ということになります。そのため、成年後見制度は、精神障害者の生活にかかわる制度です。
 これら精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)の趣旨を鑑みたものとなるように、次のとおり意見を申し上げます。

1 障害者の権利に関する条約に基づく検討
 「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」においては、障害者の権利に関する条約の解釈をめぐる諸問題について国連障害者の権利に関する委員会の解釈を明記し、位置付けていく必要がある。
 日本政府は、同条約第12条第2項の法的能力を民法においては権利能力のことであり行為能力は含まないものと解釈している。また、同条約第12条第3項の「法的能力の行使」とは行為能力のことであり、成年後見制度が法的能力の行使に当たって必要な支援の一環であると解釈している。
 その一方で国連障害者の権利に関する委員会の解釈は、一般的意見第1号パラグラフ12で、法的能力は法的地位に関する能力と行使に関する能力の両方が含まれるものとされており、日本の民法でいうところの権利能力と行為能力の双方が含まれるものとされている。障害者の権利に関する委員会の解釈に従うと日本の成年後見制度は、精神上の障害と事理弁識能力を欠く常況を要件に行為能力を制限するため同条約の趣旨に違反することになる。「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の中では、政府解釈だけではなく、国連の解釈も示し両論併記とするべきである。

2 「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の位置づけ
 「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」においては、国際的な連帯の下にある障害者運動と国連障害者の権利に関する委員会の解釈に従ったかたちで構築される必要がある。
 条約法に関するウィーン条約によると政府には誠実な解釈が求められており(第31条第1項)、交渉過程や一般的意見を参考にしながら解釈される必要がある。しかし、意思決定支援ワーキンググループは、交渉過程や一般的意見を参考にしているのかが必ずしも明らかではない。「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の作成にあたっては、交渉過程や一般的意見を参考にしながら組み立てられるべきである。

3 最善の利益の否定を明記すること
 一般的意見第1号パラグラフ21では、意思及び選好の尊重に基づく支援が必要であり、最善の利益に基づく判断は否定されなければならないものとされている。最善の利益を否定し、意思及び選好の尊重に基づく支援を明記しるべきである。

4 作成過程からの当事者参画
 「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の作成にあたっては、障害者権利条約の趣旨を踏まえて精神障害の当事者団体である全国「精神病」者集団からの参画を調整し、早急にヒアリングを実施するべきである。

5 共同意思決定の限界を明記すること
 意思決定支援において注目されているのは共同意思決定である。共同意思決定は、本人と周囲の支援者が共同で決定することで、決定に伴う負担を本人だけではなく周囲に分散していく方法である。この方法は、決定に限ってしか効果を発揮できず、決定によって生じた法律上の効力からの負担の分散までは捉えきれていない。本人や支援者が共同で決定したことに伴う法律上の効力を引き受けるのは本人だけである。支援者は、決める過程にかかわっておきながら法律上の効力には拘束されない。そのため本人と支援者は、非対称な関係に置かれることになる。長所だけではなく、短所や限界も明文で言及されるべきである。