東京新聞 御中
冠 省
2023年7月2日付の「秘密裏に進む、精神科病院の「身体拘束」要件見直し…厚労省や業界団体の胸三寸で決めてよいのか」という記事を読みました。当会の者が御社記者からの取材に応じ、要件見直しに係る告示改正が、第3回検討会において当事者団体の要望によって実現した政策であることを伝えたのにもかかわらず、記事中には、そのことが一切書かれていません。そのため、日本精神科病院協会の意向を汲んで厚生労働省が突如として告示改正に踏み切ったという出典・根拠不明の陰謀論を彷彿させる内容になっています。しかし、次に掲げる理由から、当該文章は明白に事実に反する内容であると断じます。
また、身体的拘束をする側である精神科病院側の意向であるという見方をすることで、結果として告示改正が医師の裁量拡大につながるのではないかという不安を扇動し、情勢認識に悪影響を及ぼすことになるまいかと憂慮しております。
今後は、適切かつ根拠的な記事を発信することを強くお願い申し上げます。
⑴ 要件見直しは日精協ではなく当事者の提案である
身体的拘束の要件見直しは、第3回検討会において全国「精神病」者集団がヒアリング意見書で提言して取り上げられるようになったものです。決して日本精神科病院協会の意向を忖度して厚生労働省が進めた政策ではありません。
当初、行動制限最小化のための具体的な方策は、行動制限最小化委員会の活用と現場で活用可能な研修コンテンツの普及しか考えられていませんでした。これでは、身体的拘束の縮減(将来的なゼロ化)に資さないと考えたため、長谷川利夫さんとも相談して「不穏又は多動要件の削除に係る要件の見直し」を提案しました。
この提案が反映されたことで、はじめて、行動制限最小化の具体的方策として要件の見直しに係る告示改正が入ったわけであり、はじめから告示改正の議論としてはじまったわけではありません。
⑵ むしろ日精協は告示改正に難色を示していた
全国「精神病」者集団がヒアリング意見書を提出した当初、日精協は告示改正に難色を示していました。
正確な経緯としては、まず、全国「精神病」者集団からの要件見直しの提案に対して日精協が難色を示しました。また、日精協は「多動又は不穏が顕著」という文言を残すべきと猛抵抗してきました。このとき厚生労働省からは、間をとって「多動又は不穏が顕著」の文言を残しつつ、多動又は不穏というだけで身体的拘束されている現状を変えるために、切迫性・非代替性・一時性の3要件の明確化を中心に要件を見直す提案がなされたことで一旦の合意に至りました。しかし、日精協は、要件の中に「検査処置がおこなえない場合」や「患者の治療が困難な場合」を入れる提案をおこない、これらが反映されなければ告示改正に反対すると主張しました。
このことからも日精協の意向を汲んだ厚生労働省の政策という陰謀論は、明らかに事実に反しています。
⑶ このままだと日精協の思うつぼである
私たちは、告示改正に難色を示す日精協に対して、交渉の末に条件付きで告示改正の合意をさせるに至りました。また、条件のひとつであった検査及び処置要件を削除し、患者の治療困難要件に変更させ、さらに野村総研報告書では、患者の治療困難要件さえも削除させることができました。
折衝の末、ここまで勝ち取れたわけですから、本来は成果であると認識されなければいけません。しかし、それにもかかわらず、闘って積み上げてきたものを陰謀論や勘違いで自ら手放そうとさえする風説が出回っていることは極めて問題だと思います。
さらには、告示改正の賛否を軸として当事者同士の分断を扇動するような効果までもたらしており、与えられる混乱は著しいです。事実に反した不正確な情報の発信は感心しません。これこそ、日精協を含む体制側の思うつぼです。適切かつ根拠的な記事を発信することを強く求めます。
以 上