令和4年度障害者総合福祉推進事業「障害者ピアサポーター実態把握及び研修におけるツール作成のための調査研究」報告書に記載を求める事項

◯第210回臨時国会において成立した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議には、「多様なピアサポーターの活動の価値や専門性を分かりやすく伝える観点も踏まえつつ、障害者ピアサポート研修事業の研修カリキュラムの見直しを検討すること。」が入った。現行の障害者ピアサポーター養成研修は、障害福祉サービス事業所等に雇用され、障害の経験を活用しながら対人援助する者を対象としたカリキュラムになっている。しかし、実際に地方公共団体が実施する障害者ピアサポーター養成研修の多くは、受講対象者を障害福祉サービス事業所等に雇用される障害者に限らず幅広く募っている。その事実を踏まえて、今後はカリキュラムを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯ピアサポートは、経験を活用した対人援助であると説明されているが、経験の活用はピアサポーターの専門性を裏付けるだけの排他性、特殊性が認められず、説明としては不十分である。例えば、地域移行の意欲喚起のための病院訪問・面会活動は、入院経験のあるピアサポーターじゃなくても同じ障害者の立場というだけで効果を発揮できるものである。そのため、障害者という立場に依拠した活動と定義した方が幅広い活動を捉えられるようになる。カリキュラムを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯現在のカリキュラム及びテキストは、ピアサポーターと他職種が共通の目標に向かって連携することが踏まえられているが、ピアサポーターが他職種とは異なる立場で対立・連携をしていくことを踏まえた記述に厚みがない。また、アンガーマネジメントでは、ピアサポート活動に必要な「怒り」の要素もネガティブなものとしてしか捉えられていない。カリキュラムやテキストを多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯障害者ピアサポーター養成研修のテキストでは、障害者によるピアサポート活動の歴史が紹介されているが、精神障害の部分だけ大部分を海外のピアサポート活動の歴史に依拠して紹介されている。しかし、海外の歴史に依拠しているのに地理的条件を踏まえた記述にはなっておらず、今後は国内のピアサポート活動の歴史に依拠した記述に改めていく必要がある。テキストは、多様なピアサポーターの活動の価値を分かりやすく伝える観点からカリキュラムとともに見直す必要がある。

◯2021年4月からピアサポートの専門性を報酬で評価する仕組みが導入された。なお、ピアサポートに係る加算の取得要件は、障害者ピアサポーター養成研修基礎編及び専門編の受講である。報酬が付与されたのは、言わずもがな利用者へのサービス提供において、ピアサポートによる追加の効果が供与されるからである。しかし、カリキュラムの一部には、ピアサポーターが継続して雇用することを趣旨とした科目など、サービス提供における利用者の利益とは異なる観点から設定されたものも散見される。今後、カリキュラムはピアサポーターの専門性を分かりやすく伝える観点から見直す必要がある。

◯カリキュラムやテキストの見直しにあたっては、ピアサポーターからの支援を受けた利用者の経験について質的調査をおこない、平成27年度 障害者支援状況等調査研究事業「障害福祉サービス事業所等におけるピアサポート活動状況調査」及び平成31年度障害者総合福祉推進事業「障害福祉サービスの種別ごとのピアサポートを担う人材の活用のための調査研究」において十分に明らかにされていない論点を抽象し、多角的な視点から政策エビデンスに位置付けていく必要がある。

◯2021年度から2023年度までの地方公共団体の取り組みを丁寧に聞き取り、それを踏まえてカリキュラムの設計を見直す必要がある。

◯リカバリーについては、テキスト中に解説があるものの出典等について明記されていない。また、テキスト中のリカバリーの含意は、統一性がなく恣意的に使われているきらいが否めない。テキストは、障害者の権利に関する条約の理念や社会モデルに基づいて執筆される必要がある。リカバリーをめぐっては、同条約との関係で「すべての人の身体的精神的な到達しうる最高水準の健康の享受の権利に関する特別報告者」のレポート(A/HRC/35/21・2017年3月28日・国連人権理事会第35会期)に記載がある。なお、その内容によると、生物学的精神医学へのオルタナティブを伴うものとされている。このような観点からテキストをブラッシュアップしていく必要がある。

【出典】
すべての人の身体的精神的な到達しうる最高水準の健康の享受の権利に関する特別報告者報告(A/HRC/35/21・2017年3月28日・国連人権理事会第35会期)
28. 政策を形成し証拠を導入する研究領域に権力あるアクターが影響を与えている。精神保健と政策の分野の科学的研究は多様な資金の欠如に苦しみ続けており、神経生物的なモデルに焦点を当てたままでいる。とりわけ、アカデミックな精神医学は、精神保健政策とサービスのための資源分配とガイドラインの原則を情報提供することで多大な影響力を行使している。アカデミックな精神医学は、その研究課題を精神的健康の生物学的素因にほぼ限定している。こうした偏りはまた医学部の教育も支配しており、次世代の専門職に伝える知識を制限し、精神的健康に影響するまたリカバリーに貢献する様々な要素の広がりについての理解を奪っている。
29. 生物学的医学への偏りのために、新たに発見された証拠と、政策の発展と実践にそれをいかに情報提供していくかの間での案ずべき遅れが生じている。何十年もたった今経験的なまた科学的な研究による情報から根拠ある証拠が蓄積され、それらは心理社会的、リカバリー志向のサービス、そして支援と非強制的な、今あるサービスに代わるオルタナティブを支持してきている。こうしたサービスへのそしてその背後にいる利害関係者に対しての促進と投資なしでは、それらは周辺化されたままになりそしてそれらがもたらすと期待される変化を不可能にしてしまうだろう。