障害者の法律の前の平等に向けた民法改正ビジョン

(1)理論の深化に向けた段階目標
短期目標:制限行為能力を前提としつつも同条約と整合した制度体系への転換。
中期目標:障害に関連するあらゆる制限行為能力の撤廃を前提とした制度体系の青写真の提示。
最終目標:12条1項に定める法律の前の平等の完全履行のために法的人間像に障害を包摂した法体系の青写真の提示。(ローマ法体制の解体)

(2)戦術
・同条約の政府審査を活用した実効性のある勧告の獲得。
・関連法制度の見直しの担保する付帯決議の獲得。
・勧告に基づく関連法制度の見直しの獲得。
・見直しにおける決定過程からの障害当事者参画の獲得。

(3)勧告に基づく民法改正の論点
①精神上の障害要件の撤廃
 同条約は、他の者との平等を基礎とした措置を講じるよう締約国に求めている。このことから、精神上の障害要件は、撤廃というかたちで改められなければならない。

②事理弁識能力要件から社会的障壁との相互作用要件への変更
 同条約は、医学モデルから社会モデルへの転換を趣旨としている。事理弁識能力要件は、障害者基本法に定める障害の定義と比較して個人にばかり原因を求めている。そのため、環境の変化により成年後見等が不要になった場合でも、認知症や知的障害があるというだけで実際には解除されないという問題がある。このことから、事理弁識能力要件は、社会的障壁の相互作用要件へと変更されなければならない。

③意思決定支援を受ける権利の明文化
 同条約第12条第3項は、法的能力の行使に当たって必要な支援を求めている。ここでいわれる支援とは、一般的意見第1号によると最善の利益に基づく介入ではなく、意思及び選好に基づく支援であるとされる。この趣旨を明確にした明文による規定を新設しなければならない。

④補充性要件導入
 制限行為能力が限定的に運用されるように最終選択肢であることを明記し、意思決定支援などの活用を推奨する補充性要件を導入しなければならない。

⑤障害者の法律の前の平等の明文化
 同条約は、障害者が法律の前で他の者と平等であることの承認を締約国に求めている。このことは、民法への明文化を通して担保されなければならない。

⑥制限行為能力の限定・明文化
 現行の成年後見制度は、成年後見、保佐、補助の類型ごとに制限できる法律行為の内容が異なる。現行の保佐と補助は、不動産売買など制限される法律行為の内容が限定的であるが、さらに制限できる法律行為を必要最低限まで限定していく必要がある。

⑦法的人間像に障害者を包摂するための民法の抜本的見直しに向けた検討の開始
 これら一連の見直しが障害者を包摂するための議論の足がかりとして捉えられるよう政府はさらなる検討を続けていく必要がある。

(4)その他の法律の見直し
①家事事件手続法の見直し
上記の変更に伴う必要な見直しが必要である。

②住民票と印鑑
平成12年2月23日自治振第16号 自治省行政局振興課長から各都道府県総務部長通知「印鑑の登録及び証明に関する事務に係る成年被後見人の取扱いについて」の廃止が必要である。

③欠格条項の見直し
欠格条項のモニタリングと見直しが必要である。