「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(仮題)の基本的な考え方について」に関するパブリックコメント

意思決定支援ワーキング・グループ御中

 日ごろより、ご尽力くださり心より敬意を表しております。
 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 さて、わが国の成年後見制度は、精神上の障害により事理を弁識する能力になんらかの問題がある者に対して行為能力を制限するための審判を規定したものです。民法明文上にも「精神上の障害」とあるように成年被後見人等の大部分が精神障害者ということになります。そのため、成年後見制度は、精神障害者の生活にかかわる制度です。
 これら精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)の趣旨を鑑みたものとなるように、次のとおりパブリックコメントを提出します。

1 障害者の権利に関する条約に基づく検討
「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」においては、障害者の権利に関する条約の解釈をめぐる諸問題について国連障害者の権利に関する委員会の解釈を明記し、位置付けていく必要がある。
日本政府は、同条約第12条第2項の法的能力を民法においては権利能力のことであり行為能力は含まないものと解釈している。また、同条約第12条第3項の「法的能力の行使」とは行為能力のことであり、成年後見制度が法的能力の行使に当たって必要な支援の一環であると解釈している。
その一方で国連障害者の権利に関する委員会の解釈は、一般的意見第1号パラグラフ12で、法的能力は法的地位に関する能力と行使に関する能力の両方が含まれるものとされており、日本の民法でいうところの権利能力と行為能力の双方が含まれるものとされている。障害者の権利に関する委員会の解釈に従うと日本の成年後見制度は、精神上の障害と事理弁識能力を欠く常況を要件に行為能力を制限するため同条約の趣旨に違反することになる。「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の中では、政府解釈だけではなく、国連の解釈も示し両論併記とするべきである。

2 「後見人等による意思決定支援の在り方に関すガイドラン」の位置づけ
「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」においては、国際的な連帯の下にある障害者運動と国連障害者の権利に関する委員会の解釈に従ったかたちで構築される必要がある。
条約法に関するウィーン条約によると政府には誠実な解釈が求められており(第31条第1項)、交渉過程や一般的意見を参考にしながら解釈される必要がある。しかし、意思決定支援ワーキンググループは、交渉過程や一般的意見を参考にしているのかが必ずしも明らかではない。「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の作成にあたっては、交渉過程や一般的意見を参考にしながら組み立てられたのかどうかを明らかにすべきである。

3 最善の利益の否定を明記すること
一般的意見第1号パラグラフ21では、意思及び選好の尊重に基づく支援が必要であり、最善の利益に基づく判断は否定されなければならないものとされている。最善の利益を否定し、意思及び選好の尊重に基づく支援へと改めるべきである。

4 当事者の意見が反映されなかったこと
このたびの「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(仮題)の基本的な考え方について」には、ヒアリングに対して真摯に実行しようとする意思が見られません。少なくとも、障害者の権利に関する条約第三十九条による障害者の権利に関する委員会からの提案及び一般的な性格を有する勧告が行われたときには、障害者を代表する団体の参画の下で、当該提案及び勧告に基づく現状の問題点の把握を行い、必要な措置を講ずることなどを明記しなければならない。また、本パブリックコメントについても、よせられた意見を公開するべきである。

以上

◆意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(仮題)の基本的な考え方について
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2020/R020529kihontekinakangaekata.pdf