2019年12月15日
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神障害保健課長 佐々木 孝治 様
日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
さて、厚生労働省では、措置入院の運用についての検討がおこなわれています。
これら精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)の趣旨を鑑みたものとなるように、下記のとおり要望を申し上げます。
記
1.医療と司法の連携について
措置入院をめぐって医療と司法が連携しなければならないことはありません。
例えば、措置入院が不要な人に対して警察が措置入院にさせようと精神保健指定医に介入する問題については、警察庁から各都道府県警察・警察署宛に精神保健指定医の判断を尊重し、異を唱えなることのないように通知を出せば解決できます。よって医療と司法の連携によって解決すべき事案ではありません。
また、措置入院の診察にあたって精神保健指定医に短時間で判断が求められるなか、警察からの情報提供がないといった課題については、2016年に板橋警察署からの情報提供に事実と異なる内容が書かれていたため、事実と異なる背景事情に基づき措置入院の判断がなされたという問題が起きており、よいことばかりではないことがわかります。これは、措置入院の制度自体に無理があるからにほかなりません。本来は、措置入院の制度自体の破綻を認めた上で、真に必要とされる医療制度へと抜本的に改めるべきなのです。よって医療と司法の連携によって解決すべき事案ではありません。
2.援助関係者としての警察参加について
事例集の28番事例には問題があります。この事例は、地域で生活する精神障害者が警察官くらいしか身寄りがなく、事例中に保健所機能のことが書かれていないため、結局警察官を援助関係者にするしかないような内容になっています。このように援助関係者として警察官を入れることに合意を誘導していくような協議のあり方には問題があります。警察官とどのような関係であろうとも、警察の本務を拡大して適用するような論調には賛成できませんし、わたしたち精神障害者にとっては、警察が地域生活に入ってくることに大きな不安を感じています。当該事例については、各地方公共団体に設置された協議の場において実際に使われないように工夫と配慮をお願いします。
3.協議の場の成員の個人情報について
協議の場には、障害者団体からの参加が想定されており、精神障害者が構成員として入ることが考えられます。他方で協議の場には、警察の参加も想定されています。協議の場では、個人情報を扱わないことになりましたが、協議の場を通じて警察が得た構成員の個人情報の取り扱いについては、とくにルールが定められていませんでした。すなわち、協議の場の構成員の名前と精神障害がある事実にかかわる記録が警察組織内でどのように保存、処理されるのかがわからないのです。私たちは、職務質問により精神障害の事実が明らかにされた者が運転免許の臨時適性検査の対象とされ免許停止とされた事案の相談をうけています。警察内における情報の使われ方には、強い警戒心があります。協議の場には、警察内に病歴・入院歴の記録が残らないような仕組みが必要であり、その仕組みによって担保されないのならば協議の場への警察参加はするべきではありません。
4.公判について
来年、津久井やまゆり園事件の公判がはじまります。公判前からすでに、被告人に対して措置入院を解除したことの影響、地方公共団体による情報共有がなかったために被告人に対する支援が途切れたことの影響、大麻の使用について医療機関が警察に情報提供しなかったことの影響に関心が向けられています。これらの論点は、津久井やまゆり園事件の再発防止を措置入院に結びつけるためだけのものであり、ヘイトクライムという本質から目を背けさせている点で問題があります。また、これらの論点は、医療等の支援があれば事件の発生を防ぎ得るという根拠不在の誤った前提に立ったものであり、かつ、支援に警察を入れて監視を強めようとするものにほかなりません。
このような論点が迫り出してきたことは、精神保健福祉法改正法案と無関係とは思えません。第196回通常国会において精神保健福祉法改正法案の再提出が見送られ、当時の厚生労働大臣によってガイドラインの運用状況をみて出し直されることが宣言されました。2018年度は研修実施などの準備期間に当てられ、2019年度はいくつかの自治体で運用が開始されました。そして、2020年度には、ガイドラインの実施状況のモニタリングが予定されています。ちょうど、モニタリングの時期と公判判決が出される時期が同時期であり、その後に精神保健福祉法改正法案が出し直されることになると思われます。津久井やまゆり園事件の判決が精神保健福祉法改正法案の中身に影響しまいかと深刻に憂慮しています。津久井やまゆり園事件の判決と精神保健福祉法改正法案を結び付けることはあってはなりません。
以 上