第5回医療基本法制定議連の報告

 第5回医療基本法制定議連では、精神医療のことが話題になりました。精神医療業界から議連に要請が入り、尾辻秀久議連会長の意向で精神医療をきちんと検討するために会議がもたれました。患者側からは、桐原運営委員(全国「精神病」者集団)、医師側からは渡辺憲医師(鳥取県医師会会長)がヒアリングに出席しました。なお、渡辺氏は日本精神科病院協会鳥取支部長を務めている人です。
 桐原運営委員からは、精神科医療の実情を説明し、精神科医療を特別な枠組みに押し込めず、一般医療と同じ枠組みにする制度改革(精神保健福祉法撤廃など)、医療一般に対する一般的な原則として非同意医療の適正化、最小化原則を設けることなどを求めました。
 渡辺氏は、個人の意見と断った上で精神科医療を適切に取り組んでいるという立場から、精神科医療の状況を説明し、最後に「精神科医療から医療基本法に期待するもの」として5項目を挙げました。その中に医療基本法が「精神保健福祉法と整合するものであること」という要望がありました。
 福島みずほ議員からは、医療基本法にどこまで書き込めるかは微妙なところだが、意見や実情を踏まえたかたちで進めるように検討しなければならないという意見が出されました。
 尾辻秀久議連会長からは、桐原さんの報告でベッド数が多いという話があったが、これにつき厚労省はどういう認識から、理由をどのように考えているか、という質問がありました。
 厚生労働省精神・障害保健課は、精神科病床の定義が異なっているところがあり(アメリカでは長期入院の方は、精神科とは別の施設を利用している)単純比較はできないがOECD比較で,確かに多く、それには、患者側、病院側、地域・家族の問題、行政のかかわり等、さまざまな要因が複合していると答弁しました。
 尾辻会長は、精神医療と介護の組み合わせという話も出ている中、定義が違うというだけでは実態も分からず、実態把握の調査をしてもらう必要があると返しました。
 富岡議員からは次の意見がありました。医療基本法は提供側から見た法律で患者の視点から見た権利・擁護が欠けている、この議連でも理解されているように思います。メンタルヘルス議連を行うと、精神科の問題について意見が噴出します。精神科ドクターが権利(正確には「権限」)を過大に行使しており、薬づけの問題、ベッドの多さも指摘されています。精神科の領域にフォーカスをあてて何回か議論し、ここから見えてくる患者の権利にスポットを当てられないでしょうか。そうすることによって,基本法の姿の一部が見えてくるのではないかと思います。
 川田議員からは、富岡先生と同じ意見で、精神科には閉鎖性、拘束など精神科にまつわる問題があると思っていて、そこから一般医療の問題が見えてくるものもあるとの意見が示されました。
 石崎議員からは、桐原さんの意見で「一般医療へ編入」があるが、日医や厚労省は,どう考えるかと質問がありました。
 日医の平川常務理事は、精神科医療は、以前は家の中でみていて、これまでは長期入院、今、大きく社会で見ていく方向に切り替わっているところだと思うが、以前よりは、平均在院日数も減ってきているし、医療と社会の間に介在する、介護・福祉という話があったが、今は医療が負担を負いすぎているのはそうだと思う、との回答がありました。
 厚労省医政局総務課長は、個別の疾病の専門性に応じた施策が必要と考え、部署が分かれているわけだが、縦割りになっていることで、問題が起こらないようにしていきたいと答弁がありました。
 羽生田事務局長より桐原運営委員に意見を求められ、桐原運営委員は、現行法制度と適合する医療基本法では無く、もう少し現行法を患者の権利の観点から見直すものであって欲しいと回答がありました。
 日本医療社会事業協会の漆畑常務理事からは、精神科だけの問題では無く、あらゆる医療分野の問題と共通していることと意見がありました。H-PACの前田弁護士は、一般役で長期処方の問題、長期間にわたる身体拘束の問題がある、社会防衛の観点が強すぎ、人として正しい扱いかを考えなければならないと意見がありました。
 鈴木利廣弁護士からは、障害者基本法など障害者と患者がオーバーラッピングしているところがあるが、同意の能力があるかどうかで区別するのではなく、意思決定支援をどうするかという基本法の視点が必要であり、精神科医療を考えることは一般医療を確立することにつながるという観点で行ってもらいたいとコメントがありました。
 羽生田事務局長からは、精神科医療を特化して医療基本法に入れることは無理があるが、どう生かしていくか考えて行かなければならないとの見解が述べられました。
 尾辻会長からは、医療を提供する側の法律はいろいろできているが、患者の権利という観点が十分でないため、両者にまたがる基本法でなければいけないと考えているという見解が示された。また、精神科医療をつめた方が良い、という意見が出ていたので、議論の仕方を工夫していきたいとの見解もあわせて示された。
 羽生田事務局長から次回役員会で骨子案をまとめて提示したいとのことでした。
 総じて精神医療に根深い問題があることまでは確認された。しかし、精神保健福祉法の見直しを含む医療基本法というかたちにもっていくのは、非常に厳しい状態になったため、ここ数週間のうちに、なんらかの行動が不可欠になる。