成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案の審査に関する質問状

立憲民主党政務調査会長 逢坂 誠二 様
   同  内閣部会長 相原久美子 様

成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案の審査に関する質問状

日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 さて、2018年3月13日、成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案が閣議決定・法案上程されました。本法案は、主として成年被後見人等を対象とした欠格条項の削除などを規定しております。
 この法案の構造は、一見すると欠格条項の削除を定めており障害者施策の前進のように思われますが、その実は成年後見制度利用促進法に基づく政策全体の中に位置づくものであり、政策全体の方向性への評価とは切っても切り離せないものとなっております。すなわち、本法案の審査は、欠格条項の見直しが進んだという表面上の成果のみで評価してはならず、障害者権利条約をはじめとする国際的動向を鑑みた評価や成年後見制度利用促進法に基づく政策の進捗状況の中間評価などが求められる点で通常の単独法案の審査とは一線を画するものになります。
 成年後見制度の対象者は、精神上の障害により事理弁識能力を欠く常態にある者とされており、大部分が精神保健福祉法上の精神障害者に該当します。成年後見制度は、私たち精神障害者の実生活にかかわる、いくつかの深刻で看過できない問題を孕んでいます。それにもかかわらず、私たち抜きに政策が進められ、障害者権利条約について書かれた附帯決議に基づく検討がほとんどされていないといった重大な問題が認められます。
そのため、全国「精神病」者集団としては、本法案に対して反対の立場から次の通り質問します。

1 成年後見制度利用促進法は、第190回通常国会の審議で障害者権利条約第12条(法の前の平等)に係る政府解釈と国連障害者権利委員会の解釈とが大きく異なることが浮き彫りになりました。日本政府は、成年後見制度を廃止せずして批准し得たことから条約違反ではないとしました。それに対して衆参両院の内閣委員は国連障害者権利委員会の文書(一般的意見第1号など)や他国の審査状況などを根拠に障害者権利条約第三十七条に基づく政府報告書の審査(以下、「政府審査」とする。)において条約違反の勧告を受ける可能性があると指摘しました。
 このことを踏まえて参議院内閣委員会の法案審査では、委員から「勧告をうけたとしても見直しをおこなわないのか」旨の質問がだされ、それに対して加藤勝信大臣(当時)は、「必要があれば見直しをおこなう」旨の答弁をしました。また、これら一連の法案審査を通じて障害者権利条約の観点からの問題点が明らかになり、附帯決議には「障害者の権利に関する条約第十二条の趣旨に鑑み、成年被後見人等の自己決定権が最大限尊重されるよう現状の問題点の把握に努め、それに基づき、必要な社会環境の整備等について検討を行うこと」が盛り込まれ、加藤大臣(当時)からも「その趣旨を十分尊重してまいりたい」との発言がありました。
 しかし、成年後見制度利用促進基本計画には、付帯決議を含む障害者権利条約について、①今後の検討に当たって立ち返るべき理念として示された自己決定権の尊重の註釈部分と、②保佐・補助の活用を含め、早期の段階から、本人に身近な地域において成年後見制度の利用の相談ができるよう、市町村においては、特に各地域の相談機能の整備に優先して取り組むよう努めるべきとされた部分の二カ所にしか言及されず、肝心であるはずの平成32(2020)年に予定されている政府審査及び勧告に基づく検討のことが一切触れられていません。このことは、附帯決議の「現状の問題点の把握」のなかに国連障害者権利委員会の動きをはじめとする「国際的動向」が含まれていないこと、そして「必要な社会環境の整備等」のなかに政府審査及び勧告に基づく検討が含まれていないことからも附帯決議の趣旨を尊重した検討がおこなわれたとは言えないです。
御党は、こうした成年後見制度利用促進法の運用が付帯決議に示された障害者権利条約第十二条の趣旨を鑑みたものになり得ていると考えるのか、見解を明らかにしてください。

2 第190回通常国会における成年後見制度利用促進法の審議では、内閣委員から当事者からのヒアリングをする必要性がある旨の意見が出され、加藤大臣(当時)も「しっかりと対応していきたい」と答弁しました。
 しかし、実際にヒアリングの対象として選ばれた障害者関連団体は、日本障害者協議会と全国精神保健福祉会連合会の二団体にとどまり、被後見人の立場を代弁する上では不十分極まりないと考えます。全国「精神病」者集団は、利用促進会議及び同委員会の構成員としての参画とヒアリングを申し入れたところ、いずれも内閣府によって受け入れられませんでした。このことで利用促進会議及び同委員会の構成員及び参考人には、精神障害を代表する団体が入りませんでした。日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構は、病棟患者自治会や地域患者会などの当事者組織を会員としてシェアできておらず、法人の目的を「各種専門職と協働して精神的困難な当事者を支援できる精神障がい者ピアサポート専門員を育成する事を目的としています」としており、組織の形式としてはピアサポーターの職能団体・育成団体であって精神障害を代表する団体ではありません。
 障害者権利条約の趣旨である当事者参画が実現されないまま成年後見制度利用促進基本計画が策定され法案が上程された点で附帯決議の趣旨を尊重した検討がおこなわれたとは言えません。
御党は、こうした成年後見制度利用促進法の運用が障害者権利条約の趣旨に基づくものであり、かつ付帯決議に示されたものになり得ていると考えるのか、見解を明らかにしてください。

3 御党は、第196回通常国会において政府から参議院先議の希望がでていた本法案を、私たち当事者の声をきいて慎重審議を求め、衆議院先議にしました。当事者の声を聞いて慎重な態度をとった御党は、引き続き慎重な姿勢を貫くのか、見解を明らかにしてください。