私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
2018年3月、厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(改訂版)を公表しました。改訂版では、改訂前のリビングウィル(事前同意)の考え方と少し異なる「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の考え方が採用されました。アドバンス・ケア・プランニングとは、家族や友人、医療関係者らと繰り返し話し合い、その都度、文章にしておくことが望ましいとするものであり、病気の進行や本人の心身の状態の変化などにともなって、その意思が変化していく可能性を考慮したものであるとされています。
また、2018年9月に自民党は、終末期医療のあり方を規定した新法作成の検討に入りました。アドバンス・ケア・プランニングの考え方に基づき継続的に本人の意思を確認するなど手続きに力点を置く方向で検討が進められており、来年の国会への法案提出が目指されています。
さて、一見すると人の意志の変化に重きをおくように見えるアドバンス・ケア・プランニングだが、実はリビングウィル同様の決定的な問題を抱えています。
第一に、ここで言われる生き死にの決定とは、人が生き死にを等価にみて決定を下しているわけではなく、障害や重い病のある生と死の二択のうち、障害や重い病のある生を否定しようとするものになっていることです。健常の生は無条件に肯定され、障害や重い病のある生だけが死ぬかどうかを突きつけられています。このような障害を持って生きていても仕方がないという考え方は、相模原市で起きた障害者施設での連続殺傷事件の犯人と同じであり、優生思想に連なる重大な問題であると考えます。
第二に、生き死にをプロセスとして捉えるというタテマエが虚構であるということです。命がなくなった後には決定などできません。死は終わりを意味し、プロセスになどなり得ません。
第三に、現実の問題として尊厳のない生を強いられている人がいるとしても、尊厳のある死で解決したことにするのではなく、尊厳のある生を社会、経済、政治、文化等が、しっかりと保障することで解決するべきだということです。もともとは、すべての人が尊厳を持って生きられる社会であればよいわけであり、社会の側に解決を求める障害の社会モデルの考え方をしっかりと取り入れるべきです。
以上の理由からアドバンス・ケア・プランニングは、従来のリビングウィルによる安楽死・尊厳死と根本的な違いはなく、障害者差別的であることから、終末期医療のあり方を規定した新法に取り入れるべき考え方ではないことを強く主張します。また、私たちは、安楽死・尊厳死に対して反対します。
2018年11月28日