成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案の審査にあたっての要望

趣旨
〇本法案の審査は、欠格条項の見直しが進んだという表面上の成果のみで評価してはならず、障害者権利条約等の国際的動向や成年後見制度利用促進法に基づく政策の進捗状況などの中間評価が求められる点で通常の単独法案の審査とは一線を画するものである。
〇今回の法案審査を逃すと、当面は成年後見制度関連の立法府における法案審査が予定されていないため、この機に必要な意見を出さなければ重大な課題が先送りにされてしまうおそれがあり極めて緊急性が高い。

獲得目標
①障害者権利委員会の総括所見を反映するための検討
成年後見制度利用促進基本計画には、2020年に出される予定である障害者権利委員会の総括所見を受けての見直しが規定されなかった。「障害者権利委員会の総括所見を受けての見直し」の明文規定を本則及び附則の法案修正によって獲得したい。
②当事者参画による検討
成年後見制度利用促進基本計画の策定過程には、障害者を代表する団体からの推薦を得た精神障害当事者、知的障害当事者、認知症高齢者の参画がなかった。障害者を代表する団体からの推薦を得た精神障害当事者、知的障害当事者の参画を附帯決議で獲得したい。
③医療同意に係る業務拡大を慎重に検討すること
2018年度から厚生労働省に所轄が移動し、医療同意について検討される予定であるが、医療の同意はときに生命の有無を帰結する重大な問題を孕むため、慎重に検討することを附帯決議で獲得したい。
④運用上の課題の改善
成年後見制度利用促進基本計画の策定過程において十分に確認されなかった運用上の課題について十分な質問時間を確保し、適切な運用に向けた見直しを答弁及び附帯決議で獲得したい。

運用上の課題
論点1: 被後見人及び家族が預金通帳を見せてもらえない
被後見人本人の預金通帳は後見人が管理し、その残高や原本は、多くの場合、本人と介護家族は見ることができない。そのため、将来設計も立てられず、また、横領されているのではという不安の中で過ごしている人がたくさんいる。預金通帳は、被後見人本人と介護家族まで見られるようにした方がよいと考える。

論点2:後見人等の報酬額を教えてもらえない
報酬額は、後見人等が報酬付与の申立をおこない、家庭裁判所が決定する。家庭裁判所は、申立人にしか決定通知を出さないため、後見人等が報酬額を教えないかぎり、被後見人等や介護家族は知るすべがない。被後見人等にとっては、仮に自分の通帳を見られたとしても、何に使われているのかまではわからないような状態になっている。

論点3:後見人等は候補者が選ばれるとは限らない
 申立人の被後見人本人等が希望した候補者が実際に後見人に選任されるわけではない。そのため、ある日、突然にして希望しない後見人があらわれて困る場合がある。

論点4:後見人等は簡単には解任できない
被後見人等は、後見人を簡単に解任させることができない。後見人に問題があった場合解任請求はできるが、それが認められることはめったにない。(1)
通常は、原則被後見人等及び後見人等が死亡するまで継続する。例えば、訪問介護の場合は、利用者の意思を尊重しないなどの理由で十分に別の介護員を派遣する理由になり得る。しかし、後見制度は横領・虐待事実の立証などがなければ解任はできない。(2)また、目的を果たしたら終わりというものではない。(3)

論点5:審判は裁判官及び書記官の立ち会いがない
 後見人を選任するのが家裁である以上、後見人と本人・家族との初回の面接や、預金通帳等の引渡しは、責任を持って家裁の裁判官及び書記官が立ち会うべきである。家裁は、本人を見てもいないのに流れ作業的に決定を出している状況であるため、実態に則さない不適切な決定につながっている。

論点6:後見人に持ち家を売られた上、施設に無理やり入れられた
 後見人は、被後見人が拒否していても施設に入所させてしまうことができるし、現に行われている。その際に被後見人名義の不動産(持ち家)を売却してしまう後見人が散見される。被後見人の本人にとっては、帰れる場所を失い施設に入れられたかたちになってしまう。また、同居家族がいても引越しを要求して被後見人名義の不動産(持ち家)を売却してしまう後見人も稀にいる。

1 朝日新聞2016年1月25日朝刊:元弁護士による横領事件において、親族から解任請求が2回出されていたが、認められず数千万円が横領された。
2 本人に面会に来ない、本人意思を尊重しないといった理由で解任された審判例は見当たらない。(小西洋 元東京家裁判事 実践成年後見№51 2014.7)
3 最高裁判所パンフレット平成30年3月「成年後見制度―利用をお考えのあなたへ――」14頁。

統計データの課題
上記課題の実態把握及び成年後見制度利用促進基本計画の作成にあたっては、本来、次の統計資料が必要であった。
■―1 後見人候補者の選任数と選任率(類型別)
■―2 親族の有無(親族申立は約65%だがそれ以外の者はすべて親族がいないのか)
■―3 解任、辞任の実態(属性・職種別件数)
■―4 取消権行使と代理権行使の実態(後見人等の報告書参照)(類型別)
■―5 受任件数(属性・職種別最大件数及び中央値、平均値) ※専門職は1人で40~50件も受任している場合がある。
■―6 月額報酬額(付加報酬を含む)(属性・職種別件数)
■―7 横領額の実態(属性・職種別件数)横領額の総額ではなく個別の額
■―8 居住用不動産の処分(売却)の実態(後見人等の報告書参照)(属性・職種別件数)
■―9 本人や家族に対する預金通帳の原本開示の有無、後見人報酬の開示の有無    
■―10 後見人の属性・職種と後見監督人等との関係