優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟
会 長 尾辻秀久 様
事務局長 福島瑞穂 様
時下ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
さて、2024年7月3日、最高裁判所大法廷は優生保護法国家賠償請求訴訟に関して、同法を違憲としたうえで、従来の判例を変更し、除斥期間を適用せずに国に賠償を命ずる判決を下しました(令和6年7月3日・大法廷判決 令和5(受)第1323号、令和5(オ)第1341号、令和4(受)第1411号、令和4(受)第1050号、令和5(受)第1319号)。旧優生保護法被害者等に対して裁判を通さずとも速やかに補償を受けられるよう立法措置が求められています。
つきまして、全国「精神病」者集団は、補償立法について下記の通り提言します。立法にあたって反映してくださいますようお願い申し上げます。
記
⑴被害
【要望】
●被害は、第一義的には、障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなし差別してきたことであることを確認されたい。
【解説】
◯旧優生保護法の被害は、極めて重大な人権侵害であったため、さまざまな角度から措定することが可能である。そのため、逆に論点が散漫になり、問題の本質が絞り込めないような状況に陥りやすい。優生保護法第1条には、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」とある。なによりも本質的問題は、障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなす差別に基づき侵襲が行われたことである。
◯結婚する機会や子を持つ機会を奪われたという論点には、慎重でなければならない。この社会には、子を持つことや結婚することを当たり前とする同調圧力があり、結婚できないことや子を持てないことをネガティブに捉える考え方とも根本ではつながっている。旧優生保護法の問題は、最高裁判所判決においても障害者を指して不良な子孫やその出生を齎す存在とみなす差別に基づき侵襲が行われたことを違法としている。結婚する機会や子を持つ機会を奪われた被害については、不良な子孫やその出生防止を理由とした侵襲の結果として生じた二次的な被害と位置付けるべきである。
⑵申請主義の撤廃
【要望】
●補償は、地方公共団体の職権で申請によらずとも給付できるようにされたい。また、補償法の周知については、条文による規定を設けられたい。
【解説】
◯被害者の中には、被害を受けた事実を知らない者が相当数いると考えられる。国は、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される(昭和28年6月12日・厚生省発第150号・厚生事務次官通知)とする通知を出しており、被害の事実に気づかないまま過ごしてきた人がいる。それらの者に申請主義を強いるのは酷と考えられなければならない。
◯ 被害者の中には、被害を受けた事実を理解できていない者が相当数いると考えられる。支援がなければ何をされたのか理解することが困難な機能障害を持つ者については、被害の事実を理解できていない可能性がある。それらの者に申請主義を強いるのは酷と考えられなければならない。
◯上記については家族についても同じである。
◯ 一時金支給法の検討においては、一部の被害者の「隠したい」という気持ちに寄り添う意見が出されたことで、アウティングにならないようにするという名目で申請主義に拘泥してゆくこととなった。しかし、被害者が被害を隠すのは、被害を受けたことを知られると差別されるからであり、差別が悪い以上、隠して被害を受けないようにするのではなく、差別自体をなくしていくための取り組みこそしなければならないはずである。差別をなくすためには、当事者が声をあげる必要があり、私たち当事者は声をあげられない当事者たちに先立って声をあげるべく名前や顔を出して運動をしているのである。原告も徐々に実名公表に踏み切る者が増えてゆき、これこそが当事者主権の運動のかたちである。そういう意味でアウティングへの配慮という論点は、当事者の立場から生起し得ないものである。
◯周知については、申請主義下の周知と職権給付下では意味合いが異なる。行政の中に資料等がある場合には、地方公共団体の職権による救済が可能であるが、こうした資料が残っていない被害者については、自ら名乗り出てもらう他ない。そういう意味では、周知を徹底していく必要がある。
⑶補償の範囲
【要望】
●旧優生保護法が存在した期間に旧優生保護法第3条及び第4条、第12条の手術を受けた者、旧優生保護法が存在した期間に放射線照射など旧優生保護法に基づかない手術を受けた者、母体保護法下において同様の被害を受けた者を補償の対象にされたい。
●家族を補償の対象とし、補償をうける家族の範囲は、①不良な子孫の出生に係る血縁と見做されることによる権利の侵害、②子を持つ権利の侵害、の2類型とし、①については親・兄弟姉妹・祖父母、②については配偶者(事実婚を含む)までとされたい。
【解説】
◯人工妊娠中絶手術は、補償の対象にすべきである。不良な子孫やその出生を齎す存在と位置付けた上での手術である以上、そこに優生手術と人工不妊中絶手術との間に差を設けてはならない。同一の枠組みによって補償されるべきである。
◯手術に同意したとされる者は、補償の対象に加えるべきである。そもそも、旧優生保護法問題において同意の有無は、問題にしてはならない。障害者を不良な子孫やその出生を齎す存在とみなした上で、優生手術又は人工妊娠中絶手術を働きかけて同意を求めてきた以上、そのこと自体が補償に値する人権侵害とみなされるべきである。
また、国は「真にやむを得ない限度において、身体の拘束、麻酔薬施用、又は欺罔等の手段を用いることも許される(昭和28年6月12日・厚生省発第150号・厚生事務次官通知)」と通知し、およそ同意とは言い難いものについても同意による手術だとしてきた。このことから同意の有無は、補償の有無を左右するほどの理由にはなり得ない。
◯優生保護法第1条に規定された不良な子孫の出生防止と母性の生命健康保護は、それぞれ別の目的として設定されているように見えつつも、実際には同じ法律の同じ手続きによるため、相まった運用が含まれ得ることになる。すなわち、実際は不良な子孫の出生防止と母性の生命健康保護は、境界が曖昧にされながら優生手術等がおこなわれてきたものと考えられるべきである。
◯家族については、旧優生保護法が不良な子孫やその出生を齎す存在とみなしてきたことを鑑みて、そのような遺伝の関係性を含む、あらゆる差別を受けてきたことへの補償とされるべきである。言い換えれば、子供を持てなくされたことを理由とした補償には慎重である。
⑷認定方法
【要望】
●認定方法については、一時金支給法の認定方法を基本として漏れがないようにされたい。
【解説】
〇被害者は、時の経過と共に証拠が散逸するなど証明が困難な状況にある者が少なくない。そのため、認定方法は証言に整合性があることなどとし、補償を受けられない人が出てこないようにすることこそ重きを置く必要がある。
⑸検証・再発防止
【要望】
●再発防止のための検証であることを法律の中に位置付けられたい。また、国及び地方公共団体の責務としておこなわれることを担保されるよう明文化されたい。
【解説】
◯旧優生保護法の影響で人々に植え付けられた差別意識は、今も厳然と残されており、同様の被害が続いている。例えば、母体保護法下においても強制的な不妊手術がおこなわれているし、親族等から障害を理由として中絶を強要されることがある。これらは、国が旧優生保護法によって人々に植え付けられた差別意識を解消してこなかった不作為によるところが大きく、それによって現在も旧優生保護法下の優生手術等と同様の被害がもたらされており、早急な解決が求められる。
⑹検証・再発防止の体制
【要望】
●検証の実施機関については、閣僚を成員とした委員会を設置し、内閣府が合議体の意見を聞きながら作成する検証・再発防止計画(仮称)に基づいて各省庁の実施機関が対応できるようにされたい。
●計画策定後は、子ども・家庭庁に移管して、検証に係る調査と再発防止を所轄し、各地方公共団体に協力を求められる体制を講じられたい。
【解説】
◯閣僚会議については、少なくとも、内閣総理大臣、内閣官房長官、厚生労働大臣、子ども家庭庁長官、財務大臣、外務大臣、文部科学大臣、警察庁長官は、責任を認めて参加すべきである。
◯京都新聞・森記者が滋賀県を相手取っておこなった処分取消し訴訟では、地方公共団体に保管する旧優生保護法の実態にかかわる情報について住民に公表できる範囲が明らかにされた。遺伝情報などについては、住民への公表ができない情報とされたが旧優生保護法の実態を知る上で極めて重要な情報である。声を上げた原告がいる一方、声をあげられていない約25000人の身に起きた問題を明らかにする上でも、地方公共団体が実態解明に向けて動けるように国が法律で規定を設ける必要がある。
以 上