成年後見制度現状調査 意思尊重WG 御中
1.意思決定支援に係るガイドライン
〇意思決定支援に係るガイドラインには、次のようなものが含まれる。
・意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
・障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン
・身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン
・人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
・認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
2.意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
〇意思尊重義務違反にならないために踏まえるべきプロセスが規定されたものである。
〇意思尊重義務は、身上配慮や財産管理に係る法的な義務である。法的な賠償責任が発生する場合には、意思尊重義務に係る結果回避責任が争われる事例も存在する。
3.意思決定支援
〇もともとは「支援された意思決定(supported decision making)」である。障害者権利条約の起草過程で「代理決定枠組み」の対抗概念として「支援された意思決定枠組み」が提起された。
〇障害者にだけ特別に意思決定を求める手続きを用意することは障害者権利条約の趣旨にも反する。
4.意思決定の対象
〇意思決定支援における「意思決定」には、法的な概念として次が含まれる。
・法律行為
・生命に影響を与える事実行為
・生命に影響を与えない事実行為
〇生命に影響を与える事実行為については、生命の法益が優先されるべきである。なお、このような措置は、いわゆる最善の利益とは区別されるべきものである。
〇意思決定支援の対象範囲の類型化・限定化
・法律行為(契約等)
→もっぱら財産に係る決定である。決定の結果、不利益を被るとしても財産の損失だけであり生命にまでは及ばないため可逆的である。そのため、場合によっては、他人から見たら無益な散財でしかない行為でも、そのような行為をすること自体が愚行権として許容されるべきという考え方が成り立ち得る。意思決定支援は、財産保護と愚行権とバランスの上に成り立つことになる。
・医療同意(生命に影響を与える事実行為)
→意思尊重の結果として発生した事故・損害が障害者の生存を否定する内容を含むものであれば斥けられるべきである。
5.生命に影響を与える事実行為における意思決定支援
①社会モデルに基づく医療の考え方
障害を持った状態での生存・生活を可能とするための医療とは、次を含むものである。
・治らないものを無理に治そうとしないこと。
・患者が障害を持って生きる選択に消極的な発言をしていたとしても、言われるがまま治療中断しないこと。
・障害を理由に医療機関の受入を拒否されないこと。 ・障害者が産まれないようにする医療技術を用いないこと。
②医療の選択
〇医療同意は侵襲の違法性阻却要件である。また、医療同意は、原則として患者本人がおこなうこととされている。
〇医療の選択にあたっては、十分な情報をもとに決定することが求められる。そのため、成年後見人等が医療・介護状況の確認やモニタリングをせずに、医療機関との医療提供契約を代理権で締結した場合は、身上配慮義務に違反する恐れがある。
③非同意で医療を開始する手続き
〇日本の医療同意は、一身専属性が強いものの、一身専属的権利とまではいえないと考えられている。そのため、家族による代諾でも違法性は阻却される。(東京地裁・平成元年 4 月 18 日)
→刑事: 代諾について、刑法上の議論では、本人に承諾能力がないときは配偶者、保護者の承諾を得て医学上一般に承認されている方法により医療行為がなされれば違法性は阻却されると論じられている。(◇福田平,1974,『注釈刑法(2)のⅠ』,有斐閣, 117.◇団藤重光,1971,『刑法綱要総論』,創文社,157.)
→民事:医療行為については、本人又はそれに代わるべき者の同意があれば違法性が阻 却されるものと論じられている。(◇加藤一郎,1973,『注釈民法(19)』,有斐閣,143. ◇加藤一郎,1971,『不法行為・法律学全集』有斐閣,139.)
〇救急医療における意識不明の患者への応急処置は、緊急避難の法理(法益権衡・補充性)を適用することで侵襲による違法性を免責できることになっている。また、医療費の支払いについては、事務管理(民法697条)が適用されることになっている。
〇精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の非自発的入院は、障害者権利条約の趣旨に反すると考えられており、医療における意思決定支援の枠組みから除外されるべきである。その他、感染症法上の措置などは、意思決定支援に馴染むのかどうかも含めて十分に検討をおこなうべきである。
6.提案
障害者権利条約初回政府審査に係る総括所見では、最善の利益を同条約の趣旨に反するため廃止を求める勧告が出されている。なお、意思決定支援ガイドラインには、どのように最善の利益を行使するかまでは書かれているが、どのような場合に最善の利益を行使し得るかについては書かれておらず、現場判断にゆだねられるかたちとなっている。そのため、意思決定支援は「意思決定と最善の利益の境界が判然としない」というかたちで誤解されており、萎縮効果が懸念される。
とくに生命に影響を与える事実行為は、最善の利益に伴う課題として位置づけられるべきではないはずなのに、意思決定の文脈でとらえられたり、最善の利益の文脈でとらえられたりと、恣意的に運用されるきらいがある。問題を整理する上でも、生命に影響を与える事実行為は、別枠に位置付け直すところからはじめなければならない。
また、共通研修資料の中身には、障害者権利条約及び初回政府審査に係る総括所見の内容(一般的意見1号)に言及する必要があると考えますので、1スライド追加をしてください。
2023年3月15日