声明 精神保健指定医の不正取得の問題に係る最高裁判所判決について

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2016年に発覚した聖マリアンヌ医科大学における精神保健指定医の不正取得の問題以降、多くの精神保健指定医が同様の不正行為をしていたことが明らかになりました。精神保健指定医を不正取得していた医師らは、資格取り消しの処分を受けました。しかし、一部の医師は、資格取り消しを不当だとして東京地方裁判所判決に提訴しました。一審では、原告の請求が認められました。東京高等裁判所でおこなわれた二審では、「自ら担当として診断または治療に十分な関わりを持った症例でないことが明らかであるにもかかわらず、あえて本件ケースレポートを作成し、提出したことを要するものであるというべきである」として、悪質や故意をもって、提出した場合に取り消すことができる旨の解釈が示され、一審の決定が妥当であるとされました。
 しかし、両判決は、同種の高裁の裁判例と相反しており、処分対象者を悪質性や故意に限定することによって不正に資格を取得した精神保健指定医に対して処分をしなくてよいというお墨付きを与えることに他なりません。精神保健指定医の判断は、仮にも私たち精神障害者に対してなされる非自発的入院や行動制限の違法性を免責する効力を持ちます。精神保健指定医は、資格取得の要件のひとつに研修の受講があります。精神保健指定医の法的な性格上、研修受講はもっとも重く捉えられなければならないものです。このたびの判決のように一般的な瑕疵があったとしても故意性や悪質性がない限り精神保健指定医の資格を取り消す処分を認めないということになれば、非自発的入院や行動制限といった精神障害者の人身の自由の制約を軽んじられることにつながらないかと深刻に憂慮します。また、不正であるかどうか線引きを故意性などの主観に求めていくとしたら、行政がいかにして主観の挙証を事務手続きにおいて講ずればよいのかがわからず、結果としてあらゆる不正が見逃されていくことにしかならないと思われます。
 このような判決は、厳格さを欠いており不当な判決としか言いようがありません。
   2020年11月16日