厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
精神障害保健課長 佐々木 孝治 様
日ごろより精神障害者の地域生活、施策にご尽力くださり心より敬意を表しております。
さて、第193回通常国会で審議入りした精神保健福祉法改正法案には、措置入院の運用や退院後支援をめぐって当事者不在の政策決定過程など多くの問題が指摘されました。そして、全国「精神病」者集団が中心となって反対の意見が相次ぎ、ついに廃案になりました。廃案の後、国会審議を踏まえつつ「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チームの報告書」の再発防止策の提言に基づいて「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」が作成されました。
ところが、全国「精神病」者集団との事前の意見交換がないまま、2020年度から「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築推進事業」の補助金メニューに新たに退院後支援が入りました。退院後支援については、以前として問題が残されています。
退院後支援については、「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」に基づいて運用されることになるのだと思います。このたび、相模原市の障害者施設殺傷事件の再発防止を契機として成立した退院後支援は、補助金の対象になりました。このことで精神医療と犯罪防止が結びつけられ偏見が助長されるのではないかと深刻に憂慮します。
また、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築支援事業『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築のための手引き(2019 年度版)』には、退院後支援のモデル事例として鳥取県の取り組みが紹介されています。「鳥取県措置入院解除後の支援体制に係るマニュアル」は、精神保健福祉法改正法案が審議入りする前の 2017年3月に公布されたものです。当該マニュアルは、法案審議の過程で受けた指摘を反映した「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」と異なり、「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チームの報告書」に示された当初の措置入院者退院後支援を想定したものとなっています。事例としては、不適切です。このような不適切な事例を用いた委託事業の報告書を踏まえて補助金事業が各地で運用されていくことは極めて問題であると言わざるを得ません。
そして、2020年3月に設置された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」の構成員には、全国「精神病」者集団のような地域患者会、病棟患者自治会、自立生活センタースタッフなど幅広い層をシェアしている精神障害者全国組織の代表者が入っておらず、当事者参画が不十分と言わざるを得ません。これでは、法改正のときの反省が生かされているとは言えません。
これら一連の流れを踏まえ、2021年度からは「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築推進事業」の補助金対象から退院後支援を削除してくださいますようお願い申し上げます。