私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
6月2日に放映されたNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」は、多系統萎縮症の日本人女性が「重度障害者になるくらいなら死んだ方がマシ」という考え方に基づいてスイスに渡航し医師による自殺ほう助で死んでいくドキュメンタリー番組でした。番組中では、安楽死が肯定的に表現され、死に様までもが克明に放送されたことは私たち障害者にとってたいへん衝撃的でした。
さて、この「重度障害者になるくらいなら死んだ方がマシ」という考え方は、相模原市における障害者施設で発生した連続殺傷事件の被告の優生思想につらなるものであり、平然と公共放送で流されている状況は看過できないです。相模原事件の被告につらなる「重度障害者になるくらいなら死んだ方がマシ」という考え方は、つまるところ障害者の生を否定するものであり、私たち全障害者に向けられた殺意そのものです。決して肯定的に捉えることはできません。こうした意見は、障害者を中心にSNS上でも散見されます。しかし、こうした障害者側の意見に対して、ご遺族が「そっとしておいてほしい」と言っていると漏れ聞いています。
「死んだ人のことをあれこれ言うな」「私たちもつらい」「そっとしておいてほしい」というご家族の訴えは、一見するともっともらしくきこえます。しかし、今回に限っては、その訴えは的を射ていないと言わざるを得ません。本当に、そっとしておいてほしいのであれば、誰にも知られずに、ひそかに息を引き取ることもできたはずです。また、純粋に自らが尊厳のある死だけを望んでいるのであれば、わざわざ書籍を出したり、テレビに出演したりする必要など全くないはずです。
彼女がそうしなかったのは、ただひっそりと死にたかったわけではなく、自分の死に方を社会的に認めさせる主張をするためにテレビに出演し、書籍を出したからにほかなりません。一連のテレビ出演には、自らが死ぬことを通して自己の主張を正当化するねらいがあるのです。
ひとたび社会的な発信をしてしまったら、当然ながら様々な賛否両論にさらされます。テレビに出演したり、書籍を出したりした以上は、そっとしておいてはもらえません。ましてや「重度障害者になるくらいなら死んだ方がマシ」という考え方は、相模原事件の被告の優生思想につらなるものであり、全障害者に向けられたものである以上、障害者が黙っていられるはずがありません。ご遺族の「そっとしておいてほしい」との発言は、全障害者に向けられた殺意に対して沈黙させようとするものであり、遺族感情をたてにとった言論封殺です。私たち障害者に沈黙を強いることは、結果として相模原事件の被告につらなる思想に異議を唱えさせず、従わせていくだけのプロセスになっていくでしょう。
NHKは、一見すると個人の選好の問題のようにみえる安楽死を公共放送に流すことによって優生思想・特定の人々に向けられる殺意の増長(ヘイトクライム)を促しました。このことについて障害者団体として遺憾の意を表明します。
2019年6月23日