私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
2018年12月11日、九都県市首脳会議(座長:清水勇人さいたま市長、上田清司埼玉県知事、森田健作千葉県知事、小池百合子東京都知事、黒岩祐治神奈川県知事、林文子横浜市長、福田紀彦川崎市長、熊谷俊人千葉市長、加山俊夫相模原市長)から「措置入院者等の退院後支援に係る法改正について」という意見書が出されました。同意見書は、退院後支援の必要性の判断が自治体に委ねられていることを根拠に、精神障害者が転居した場合に転居先自治体で支援が受けられない可能性があるなどとして法改正の必要性をうったえるものです。
しかし、同意見書は憶測のみを根拠としており、どの自治体からどの自治体に転居した場合に何のサービスが受けられないのかといった事実に関する検討がまったくなされていません。厚生労働省は、「運用状況をみて改正法案を再提出する」としていますが、通常は厚生労働省のいう通りで現実に起きている問題を解決するために立法事実に即したかたちで法改正がおこなわれるべきです。また、通常なら転居前の自治体で受けていた支援が転居後にも受けられるように保健所設置自治体間で調整するため、意見書で想定されているような問題は現実には相当に起こりにくいはずです。
そして何よりも、同意見書は当事者不在であることが問題だと思います。同意見書は、支援を受けることだけが良いことであるかのように想定されています。しかし、精神障害者は多様であり、支援を受けたくない者、実際に支援を受けない方がよい者もいます。同意見書は、このことがまったく想定されていません。よく支援を受けたくない場合には、簡単に同意をしなければ支援は開始されないと言われますが、私たちは日頃より、拒否できないような圧力を受けていることや、実際に応報まがいな嫌がらせを受けた経験などがあり、往々にして言い出せないことがあります。そのため、転居するだけで支援されなくて済むのならば、転居もひとつの選択肢として残してほしいところです。しかも、退院後支援ガイドラインは、津久井やまゆり園事件の再発防止を契機としてできたものであり、事件と支援が結び付けられながら運用されていく不安をぬぐいきれません。このような精神障害当事者の声を聞かずにして法改正を求める意見が出されたことは由々しきことであると考えます。
同意見書は、要するに自治体のマンパワー確保のための予算の裏付けとなる法改正を欲しているだけに過ぎず、当事者の意見を聞かず、自治体長の都合だけで出された文書です。障害者の権利に関する条約では、締約国は障害者団体の政策決定過程からの参画を保障し、あらゆる制度・政策について障害者団体からの監視を受けることとされています。このことを軽視したがため、精神保健福祉法改正法案は国会審議中に問題が指摘され廃案になりました。全国「精神病」者集団は、この事実を重く受け止めることをうったえるとともに、当事者の意見を聴きながら丁寧に進められるべきであることを強く主張します。
2019年1月3日
◆九都県市首脳会議: 措置入院者等の退院後支援に係る法改正について
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/12/10/02_01.html