検証委員会報告書に関する緊急声明

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成された精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
2018年10月22日、国の行政機関における障害者雇用に係る事案に関する検証委員会報告書(以下、「検証委員会報告書」とする。)が公表されました。
これによって障害者雇用の法定雇用率の対象外の人の中には、精神保健福祉手帳を有しない精神障害者が数多く含まれていたことが明らかになりました。
 このたびの障害者雇用水増し問題をうけて政府は、法定雇用率の達成に向けて障害者採用の調整を開始しました。しかし、職員の定員の決まっている中央省庁においては、定員を増員するか退職させて母数を減らすかしなければ法定雇用率を達成させることが不可能です。現時点では定員を増員する話しがありません。そのため、このたびの法定雇用率の達成に向けた障害者採用とは、法定雇用率対象外でありながら法定雇用率対象者としてカウントされていた約3400人を含む職員を退職させた上で、新たに法定雇用率対象となる約3400人の障害者を雇い直すものということになります。
退職させられる当人たちの中には、手帳を保有していない精神障害者が含まれています。このことは精神障害者の団体として絶対に許容することができません。しかも、当人たちには、これまで法定雇用率対象の障害者としてカウントされていた事実を知らせることなく、よくわからないまま退職させられることになります。おそらく、有期雇用者が大部分を占めると思われるため、理由も告げられずに契約更新されずに失職することになるのでしょう。なお、政府によると当人たちに法定雇用率対象の障害者としてカウントされていた事実を伝えない理由は、本人の負担軽減のためとされています。しかし、こうした考え方こそ障害者を隠すべきものとみなす差別が認められ違和感を禁じ得ません。法定雇用率対象の障害者としてカウントされていた被用者には、きちんとその事実を伝えるとともに謝罪すべきと考えます。当人たちは、隠し事されているのではないか、退職させられるのではないかと思い不気味に感じて仕事が手につかなくなるだろうし、こうした対処の仕方は労使間の信頼関係を壊しかねない危うさをもっていると思います。
また、私たちは、政府に対して法定雇用率対象外の人を法定雇用率対象の障害者として計上した理由や経緯、背景を明らかにすることはもとより、これまで障害者雇用水増しが明るみにならなかった理由も検証すべきと主張してきました。当然ながら歴代担当者は、水増しの事実を知っていたはずです。それが問題にされることなく数十年にわたり隠ぺいされてきた理由はなんであるのかについての検証が再発防止にあたっては絶対に不可欠です。しかし、検証委員会報告書では、国の行政機関における障害者雇用の実態に対する関心の低さ、制度改正等を踏まえた障害者の範囲や確認方法等についての対応の不手際、対象障害者の計上方法についての正しい理解の欠如、対象障害者の杜撰な計上、障害者雇用促進法の理念に対する意識の低さなどの論点が挙げられてはいるものの、一人の職員が告発してあかるみにでるようなことでさえ、数十年にわたって全員が口を紡ぎあかるみにならなかったことについての検証はされていません。
また、こうした隠ぺいの理由の検証には、障害当事者の中心的な参画が不可欠であり、法曹関係者のみで検証委員会を組織し、検証するやり方は障害者権利条約の観点からも望ましくはないはずです。その意味で今回の検証委員会報告書は、当事者不在と言わざるを得ません。

 2018年10月22日