成年後見制度に関する意見及び要望書

2018年6月18日

厚生労働省社会・援護局地域福祉部
成年後見制度利用促進室長 須田俊孝 様
内閣府成年被後見人等権利制限見直し担当室長 須田俊孝 様
法務省民事局長 小野瀬厚 様
最高裁判所事務総局家庭局長 村田斉志 様

意見及び要望書

 平素より、精神障害者の地域生活の政策・立法にご尽力いただき誠にありがとうございます。私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)の趣旨を鑑みたものとなるように、次のとおり意見およびご要望を申し上げます。

1.精神障害の当事者参画の推進に向けた要望
成年後見制度利用促進基本計画の策定過程には、障害者を代表する団体からの推薦を得た精神障害当事者、知的障害当事者、認知症高齢者の参画がありませんでした。審議会、合議体、検討会、厚生労働科学研究班など、当事者団体の推薦を得た代表者の参画を推進してください。また、当事者団体(病棟患者自治会や地域患者会をシェアしている全国組織)とピアサポート職能団体の全国組織とでは役割が違います。それぞれの団体の推薦を得た精神障害当事者の参画を推進するようにお願いします。

2.成年後見制度の運用の課題について
成年後見制度利用促進基本計画の策定過程において十分に確認されなかった運用上の課題について、なんらかのかたちで検討を重ね適切な運用に向けた見直しをご要望申し上げます。

(1)被後見人及び家族が預金通帳を見せてもらえない
被後見人本人の預金通帳は後見人が管理し、その残高や原本は、多くの場合、本人と介護家族は見ることができない。そのため、将来設計も立てられず、また、横領されているのではという不安の中で過ごしている人がたくさんいる。預金通帳は、被後見人本人と介護家族まで見られるようにした方がよいと考える。

(2)後見人等の報酬額を教えてもらえない
報酬額は、後見人等が報酬付与の申立をおこない、家庭裁判所が決定する。家庭裁判所は、申立人にしか決定通知を出さないため、後見人等が報酬額を教えないかぎり、被後見人等や介護家族は知るすべがない。被後見人等にとっては、仮に自分の通帳を見られたとしても、何に使われているのかまではわからないような状態になっている。

(3)後見人等は候補者が選ばれるとは限らない
 申立人の被後見人本人等が希望した候補者が実際に後見人に選任されるわけではない。そのため、ある日、突然にして希望しない後見人があらわれて困る場合がある。

(4)後見人等は簡単には解任できない
被後見人等は、後見人を簡単に解任させることができない。後見人に問題があった場合解任請求はできるが、それが認められることはめったにない。通常は、原則被後見人等及び後見人等が死亡するまで継続する。例えば、訪問介護の場合は、利用者の意思を尊重しないなどの理由で十分に別の介護員を派遣する理由になり得る。しかし、後見制度は横領・虐待事実の立証などがなければ解任はできない。また、目的を果たしたら終わりというものではない。

(5)審判は裁判官及び書記官の立ち会いがない
 後見人を選任するのが家裁である以上、後見人と本人・家族との初回の面接や、預金通帳等の引渡しは、責任を持って家裁の裁判官及び書記官が立ち会うべきである。家裁は、本人を見てもいないのに流れ作業的に決定を出している状況であるため、実態に則さない不適切な決定につながっている。

(6)後見人に持ち家を売られた上、施設に無理やり入れられた
 後見人は、被後見人が拒否していても施設に入所させてしまうことができるし、現に行われている。その際に被後見人名義の不動産(持ち家)を売却してしまう後見人が散見される。被後見人の本人にとっては、帰れる場所を失い施設に入れられたかたちになってしまう。また、同居家族がいても引越しを要求して被後見人名義の不動産(持ち家)を売却してしまう後見人も稀にいる。

(7)説明方法など接遇全般について
成年後見人は日頃から障害福祉に就く者ばかりではない。法律家を中心に障害特性の基礎的な理解もおぼつかないケースが散見される。例えば、加齢と知的障害のため電話でのコミュニケーションが難しい成年被後見人に対して、財産管理の進捗を電話で伝える成年後見人がいる。また、成年被後見人が理解するまで長時間かけて話しをすることを面倒に思って儀式的に数分で説明してしまう成年後見人もいる。こうした成年後見人の接遇全般を通して監督する仕組みがなく、成年後見人と成年被後見人の間の信頼関係を損ねる原因となっている。

3.障害者権利委員会の総括所見に基づく見直しの検討についての要望
成年後見制度利用促進基本計画には、2020年に出される予定である障害者権利委員会の総括所見を受けての見直しが規定されませんでした。「障害者権利委員会の総括所見を受けての見直し」のための検討の場を設けてください。

4.医療同意を慎重に検討することについての要望
2018年度から厚生労働省に所轄が移動し、医療同意について検討される予定であるが、医療の同意はときに生命の有無を帰結する重大な問題を孕むため、慎重な検討をお願いします。

(1)医療同意へと業務を拡大することの問題点
医療同意とは、医療の中断の同意と医療の実施の同意の双方を含みます。医療は、患者の生命を左右するものであり、ときに取り返しのつかない状況を帰結します。例えば、被後見人等の意思に反した過剰な医療提供や唐突な医療中断による死亡などがそうです。そのため、成年後見制度の医療同意の業務拡大には慎重を要するものと考えます。とくに市民後見等の医療の素人を動員していく計画があるのなら、なおさら慎重でなくてはなりません。

(2)医療同意へと業務を拡大することの立法事実の不透明性
医療同意は、成年後見制度によらなくても第三者による同意が運用でひろく認められてきました。例えば、親族などが一般的ですが、親族等の同意を与える人がいない場合でも、病院が倫理委員会に審査させて民生委員やケアマネに同意させた例があります。このように本来は、医療機関を中心に柔軟な対応がなされることが望ましいと考えます。
また、一般に第三者同意の課題として「病院は誰の同意を優先すればいいのか分からない」といったことがあげられています。しかし、成年後見制度を利用した場合でも複数後見や法人後見で後見人同士の意見が異なる場合には、結局、同様の問題が発生し得るため、「後見を立てて一元化してほしい」という方策では解決しない問題です。

(3)考えられる対案
 成年後見制度と医療同意に関する検討は、法律の定めによるものであり、検討の結果、必要な措置を講じることとされています。そのため、成年後見人が業務として医療同意できないことが原因となって治療が進まないケースへの対応策として次の対案を提案します。「成年後見人の業務の範囲には従来通り、医療同意を含みこまないこととし、その代わりに、従前からの第三者同意を成年後見人が業務外でおこなう場合のガイドラインを示し、つつがなく被後見人が医療を受けられるようにすること。」

以上、よろしくお願いします。