成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案の閣議決定・法案上程に反対します

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 さて、本日3月13日、成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案が閣議決定・法案上程されました。本法案は、主として成年被後見人等を対象とした欠格条項の削除などを規定しております。
 この法案の構造は、一見すると欠格条項の削除など大きな問題がないように見えますが、その実は成年後見制度利用促進法に基づく政策全体の中に位置づくものであり、政策全体の方向性への評価とは切っても切り離せないものとなっております。すなわち、本法案の審査は、欠格条項の見直しが進んだという表面上の成果のみでは評価してはならず、障害者権利条約をはじめとする国際的動向を鑑みた評価や成年後見制度利用促進法に基づく政策の進捗状況の中間評価などが求められる点で通常の単独法案の審査とは一線を画するものになります。
 成年後見制度の対象者は、精神上の障害により事理弁識能力を欠く常態にある者とされており、大部分が精神保健福祉法上の精神障害者に該当します。成年後見制度は、私たち精神障害者の実生活に係るいくつかの深刻で看過できない問題を孕んでいます。それにもかかわらず、私たち抜きに政策が進められ、障害者権利条約について書かれた附帯決議に基づく検討をほとんどしていないなどの問題が認められます。そのため、全国「精神病」者集団としては、本法案に対して反対の立場であることを表明します。

1 障害者権利条約審査及び総括所見に基づく見直しが規定されていない問題
 成年後見制度利用促進法については、第190回通常国会の審議で障害者権利条約第12条(法の前の平等)に係る政府解釈と国連障害者権利委員会の解釈とが大きく異なることが浮き彫りになりました。日本政府は、成年後見制度を廃止せずして批准し得たことから条約違反ではないとし、衆参両院の内閣委員からは国連障害者権利委員会の文書(一般的意見第1号など)を引用するなどして条約違反の可能性が指摘されました。
日本政府は、国連障害者権利委員会による政府審査において、同委員会から出される総括所見によって成年後見制度が条約違反であるとの勧告を受ける見込みです。その理由は、国連障害者権利委員会一般的意見第一号や審査後に各国に出された総括所見から自明であると考えられるためです。
 このことを踏まえて参議院内閣委員会の法案審査では、委員から「勧告をうけたとしても見直しをおこなわないのか」旨の質問がだされ、それに対して加藤勝信大臣(当時)は、「必要があれば見直しをおこなう」旨の答弁をしました。また、これら一連の法案審議を通じて障害者権利条約の観点からの問題点が明らかになり、附帯決議には「障害者の権利に関する条約第十二条の趣旨に鑑み、成年被後見人等の自己決定権が最大限尊重されるよう現状の問題点の把握に努め、それに基づき、必要な社会環境の整備等について検討を行うこと」が盛り込まれ、加藤大臣(当時)からも「その趣旨を十分尊重してまいりたい」との発言がありました。
 しかし、成年後見制度利用促進基本計画には、付帯決議を含む障害者権利条約について、①今後の検討に当たって立ち返るべき理念として示された自己決定権の尊重の註釈部分と、②保佐・補助の活用を含め、早期の段階から、本人に身近な地域において成年後見制度の利用の相談ができるよう、市町村においては、特に各地域の相談機能の整備に優先して取り組むよう努めるべきとされた部分の二カ所にしか言及されず、肝心であるはずの平成32(2020)年に予定されている国連障害者権利委員会による政府審査及び総括所見に基づく検討のことが一切触れられていません。このことは、附帯決議の「現状の問題点の把握」のなかに国連障害者権利委員会の動きをはじめとする国際的動向が含まれていないこと、そして「必要な社会環境の整備等」のなかに障害者権利条約審査及び総括所見に基づく検討が含まれていない点で附帯決議の趣旨を尊重した検討がおこなわれたとは言えません。

2 精神障害当事者不在のままでの検討
 第190回通常国会における成年後見制度利用促進法の審議では、内閣委員から当事者からのヒアリングをする必要性がある旨の意見が出され、加藤大臣(当時)も「しっかりと対応していきたい」と答弁しました。
 しかし、実際にヒアリングの対象として選ばれた障害者関連団体は、日本障害者協議会と全国精神保健福祉会連合会の二団体にとどまり、被後見人の立場を代弁する上では不十分極まりないと考えます。全国「精神病」者集団は、利用促進会議及び同委員会の構成員としての参画とヒアリングを申し入れたところ、いずれも内閣府によって受け入れられませんでした。このことで利用促進会議及び同委員会の構成員及び参考人には、精神障害を代表する団体が入りませんでした。日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構は、病棟患者自治会や地域患者会などの当事者組織を会員としてシェアできておらず、法人の目的を「各種専門職と協働して精神的困難な当事者を支援できる精神障がい者ピアサポート専門員を育成する事を目的としています」としており、組織の形式としてはピアサポーターの職能団体であって精神障害を代表する団体ではありません。
 障害者権利条約の趣旨である当事者参画が実現されないまま成年後見制度利用促進基本計画が策定され法案が上程された点で附帯決議の趣旨を尊重した検討がおこなわれたとは言えません。

3 医療同意への業務拡大の問題について
 第190回通常国会における成年後見制度利用促進法の採決は、日本共産党、生活の党、社会民主党など野党からの反対があり、反対討論でも医療同意の業務拡大については「障害者団体などからの懸念、反対意見」が根拠としてあげられました。
 医療同意とは、医療の中断の同意と医療の実施の同意の双方を含みます。医療は、患者の生命を左右するものであり、ときに取り返しのつかない状況を帰結します。例えば、被後見人等の意思に反した過剰な医療提供や唐突な医療中断による死亡などがそうです。私たちは、成年後見人の業務範囲に医療同意を加えることに反対の立場です。そのため、成年後見制度利用促進委員会等において業務範囲に医療同意を加えるための検討は、もっとも慎重を要するものと考えます。とくに市民後見等の医療の素人を動員していく計画があるのなら、なおさら慎重でなくてはなりません。
 そもそも医療同意は、成年後見制度によらなくても第三者による同意が運用でひろく認められてきました。例えば、親族などが一般的ですが、親族等の同意を与える人がいない場合でも、病院が倫理委員会に審査させて民生委員やケアマネージャーに同意させることを正当化する例があります。このように本来は、医療機関を中心として柔軟な対応がなされることが望ましいと考えます。また、一般に第三者同意の課題として「病院は親族で意見が異なる場合に誰の同意を優先すればいいのか分からない」といったことがあげられています。しかし、成年後見制度を利用した場合でも複数後見や法人後見で後見人同士の意見が異なる場合には、結局、同様の問題が発生し得るため、「後見を立てて一元化してほしい」という方策では解決しない問題です。こうした場合は、成年後見人の業務の範囲に医療同意を含み込まずとしても、従前からの第三者同意を成年後見人が業務外でおこなう場合の運用上の技術的助言が示されてさえいれば、つつがなく被後見人が医療を受けられるようになります。
 しかし、成年後見制度利用促進基本計画では、成年後見人の業務範囲に医療同意を加える方向性を完全には否定しておらず、立法事実に対して成年後見人の業務範囲に医療同意を加えることでしか解決できないのかどうかを検証した形跡も見当たりません。よって、第190回通常国会の審議及び附帯決議の趣旨を尊重した検討がおこなわれたとは言えません。

2018年3月13日
全国「精神病」者集団