精神保健福祉法改正法案に係る意見書

精神保健福祉法改正法案に係る意見書

日ごろより私たち精神障害者の地域生活のためにご尽力くださり心より感謝を申し上げます。私たちは、1974年5月に結成した精神障害当事者の全国組織です。
さて、第196回通常国会では、精神保健福祉法改正法案の上程が予定されております。本法案は、次の通り精神障害者の生活に係る重大な問題を孕んでおり、審議加速を避けるとともに今国会での成立を見送り、やがては出し直される必要があります。

(1)相模原事件の再発防止策
相模原事件は、措置入院の問題ではなく、差別・優生思想(正確には劣者抹殺思想)の問題です。厚生労働省に設置された再発防止検証チームの検討過程は、踏み込んだ検証を必要とする警察の初動のミスがほとんど検証されないなど検証プロセスは明らかにバランスを欠いたものでした。

(2)精神医療が事件の再発防止に資するという考え方の問題
本法案は、相模原事件の再発防止を契機とした措置入院者退院後支援等の新設を盛り込んでおり、医療等の支援の充実によって結果として犯罪防止に資するとの見方に基づくものです。このように医療等の支援と犯罪防止を結び付けた考え方は、精神障害者が犯罪をおかすかのような偏見を助長することにつながるため断じて認められません。

(3)本人及び家族の意思や参加なしで作れてしまう支援計画
措置入院者退院後支援計画は、全ての措置入院者(非自発的入院)に対して原則入院中に作成することとされているため、本人が納得していないのに計画作成されてしまう場合が必然的に出てくることになります。本人の決定を前提としない制度設計は、本人に寄り添うことを旨とする支援の名にもとるのではないかと考えます。
もし、継続的な医療提供のために退院後支援を実施するのならば本人の同意による任意入院にしなければ、本人が自主的に継続した医療を受けることも難しいように思います。

(4)プライバシーの問題
本人が退院後支援に納得していないのにもかかわらず、個別ケース検討会議において本人の情報を援助関係者が共有することや、転居先の自治体に退院後支援計画に係る情報提供をすることは、プライバシーの観点からも問題があります。

(5)警察の関与を想定している
退院後支援には、援助関係者として警察が入ることが想定されています。そのため、警察は個別ケース検討会議を通じて措置入院者の個人情報の取得が可能となります。これは転居した場合も転居先自治体が計画を引き継ぐため、転居先に個人情報が手渡されることになります。なお、一度警察に渡った情報は犯罪捜査への活用を妨げません。まさしく、監視の強化そのものであると考えます。

(6)障害者権利条約政府審査への言及していない附則検討条項
国連障害者権利委員会は、障害者権利条約14条ガイドラインや一般的意見1号において精神障害を要件とした非自発的入院の廃止を締約国に求めています。にもかかわらず、厚生労働省は国連の文書や解釈の存在を知りながら、条約違反ではないとする立場を変えようとしません。とくに、附則に2020年に予定されている障害者権利条約政府審査・総括所見を反映した検討の明記がないことは、障害者権利条約を遵守しようとする姿勢を感じさせない点で問題があります。
以 上 
   2018年1月26日