成年後見制度利用促進法案反対の報告
今国会で上程される見込みの成年後見制度利用促進法案及び家事手続法改正(以下、成年後見制度利用促進法案)は、①後見人の医療同意が可能になる、②意思決定支援への配慮、③信書等の送付を後見人に直接できるようにする、などの改正が見込まれています。
この法案の最大の問題点は、障害者権利条約違反などすでに問題が指摘されている成年後見制度をわざわざ促進しようとする点と、それから成年後見人等に対して医療同意の代諾をできるようにさせたことだと思います。
成年後見制度とは、精神障害等の理由で判断能力がないと見なされた人の契約行為などを有効と見なさずに、成年後見人等の法定代理人が代わりに決定したものを有効と見なす制度です。この制度は、障害を理由に契約行為等を制限してはならないとする障害者権利条約第12条に違反するとの指摘があります。また、従来の成年後見制度においては、成年後見人の業務の範囲に医療同意は含まれていませんでしたが、この先、成年後見人等が医療同意を代諾できるようになれば、それは完全に強制医療ということになります。これまで精神保健福祉法は、強制入院を規定していましたが、強制医療(侵襲行為それ自体を同意なくする手続き)までは規定しているとは言えませんでした。たとえば、無理やり投薬させるとか、無理やり電気ショックをするという手続き自体を定めてはいなかったということです。しかし、成年後見人等が代諾した場合は、精神障害者本人が医療同意したことと同じ扱いになるわけですから、いかなる治療介入をも可能としていきます。もちろん、これまでも半ば強引に、強制医療というべき投薬治療や電気ショックが運用でされてきたわけですが、現在では、これに対して少なくとも裁判において不法行為を主張する余地があるわけです。例えば、ロボトミー裁判闘争は、その先駆的な闘争でした。しかし、成年後見制度利用促進法案は、法律によって精神障害者本人が同意したことと同じ扱いになるため、不法行為であるとして訴訟する余地がありません。否、そもそも成年被後見人は、裁判だって自由にできるわけではありませんし、なにかと法律によって行為を制限されてしまいます。
さらに、怖れるべきは、成年後見人による医療提供拒否の代理決定による尊厳死を開く点に問題があると考えられます。従来の尊厳死は、尊厳のある死の自己決定(実際には本人の決定を根拠とした殺人です)なる優生思想に満ちた提案であったわけですが、今回の場合は、尊厳のある死の代理人による代行決定という、より危ない考え方であるといえます。どういうわけか、2016年2月25日、久方ぶりに「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」が開催されており、意思決定の話しも出されました。厚生労働省が示した「意思決定支援の概要」も医療同意に関するウェートが大部分を占めています。明らかに、意思決定支援をして本人の尊厳のある死を選択する意思を十分に確認した、よって成年後見人が尊厳死の代理意思決定をする、という図式で障害者抹殺が図られていく準備が着々と進んでいることを意味するのだと思います。
3月31日、私たちは池原毅和(弁護士)、関口明彦(全国「精神病」者集団・元内閣府障害者政策委員)、岡部宏生(ALS当事者、NPO法人さくら会)、川口有美子(NPO法人さくら会)による合同記者会見を実施しました。このアクションでメディアが反対の世論を伝える方に動き出し、結果として、疑義が呈されている事実を知らせることができました。また、ALSのグループと共闘、連帯できたことは、私たちにとってもっとも大きな収穫でした。
この法案は、4月8日に国会で可決、成立したため、今後も注意を要します。私たちは、たとえ国会で成年後見制度利用促進法案が可決しても、本体である成年後見制度の解体に向けて、あらゆる手段を尽くして闘わなければなりません。