精神保健福祉法改正に提言をする関係者に訴えます!
部分改正を重ねていて本当に私たちの実情は変わるのでしょうか
2013年6月、精神保健福祉法は、保護者制度を含む医療保護入院等の見直しを含む「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(2010年6月29日閣議決定)を受けて、保護者制度の廃止に伴い医療保護入院も家族等の同意に変更する改正がなされました。このときの改正は、障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の一環として実施されたものの、障害者権利条約に係る議論は一切なされませんでした。
この当時「家族等の同意」は、保護者の同意と比較しても広範囲(三親等以内)の人に同意権を付与することになるため批判の声が高まりました。そこで衆参両厚生労働委員会において法案の審議に質疑の時間が設けられ、付帯決議と施行3年後の見直しの規定が盛り込まれて可決へと至りました。このたびの改正は、ちょうど2013年改正の際にやり残された医療保護入院の見直しに取り組むことが求められている改正ということになります。
2013年度の法改正では、「家族等の同意」によって、従来よりも広範囲の人に同意権を付与することが可能となり、従来なら医療保護入院の対象にならない人までもが医療保護入院の対象となりました。また、大臣指針では、いわゆる「病棟転換型居住系施設」の構想が盛り込まれ、精神科病院の体制・文化が地域移行の過程において維持・継続されることが懸念されました。そしてこの間、新規措置入院患者の急増、医療保護入院の増加、隔離・身体拘束の増加など、拘束性の強い処遇が増しており、およそ改善に向かっているとはいいがたい状況があります。
このように精神保健福祉法の改正は、「より現実的な方法で」「少しでもマシなものに」という動機と裏腹な帰結を招いています。
さて、このたびの改正でも、これまで通りに精神保健福祉法の部分修正を重ねたところで、本当に35万人の入院患者の実情に変化を与えることができるのでしょうか。
私たちは、精神医療の現場に横たわる多くの問題は、精神保健福祉法という法律の部分改正では到底解決に至らないと確信しています。もちろん、現状が大きく変化しない理由には、さまざまなアクターの利害関心の影響によるものや法構造が複雑すぎて改正自体が容易でないこともあるでしょう。しかし、精神保健福祉法という法律それ自体の問題の帰結として、こうした問題が引き起こされていることを見逃してはなりません。
法改正の時期に何かしらの提言をすることはときに必要かもしれません。しかし、法改正では改善に至らないのであれば、どうするべきであるのか、今一度、真剣に考え直すべきではないかと考えます。
そして、精神保健福祉法の入退院手続の問題の当事者は、精神障害者をおいて他に存在しません。あくまで、この法律の対象者として入院するのは精神障害者なのです。その精神障害者というアイデンティティで集まった団体として精神障害者の団体が存在します。私たちは、精神障害者の団体の意見を聴かずして専門職団体が自分たちの経験則や対話可能な精神障害者の語りだけで提言を続けることは危険であると断じます。
私たちのことを私たち抜きにして決めないでください。
2015年11月2日