精神障害者の人権を否定し 差別を固定化する精神保健福祉法改悪を許すな

 私ども全国「精神病」者集団は1974年に結成された全国の「精神病」者団体個人の連合体です。私たちは結成時より、一切の強制入院強制医療の廃止、精神衛生法(当時)撤廃をかかげ、私たちを犯罪予備軍としてとらえ差別的に予防拘禁し強制的に人格矯正しようとする保安処分を許さない闘いを継続してきた。
 また2002年より、国連の障害者権利条約作成への動きに対して、世界精神医療ユーザーサバイバーネットワークWNUSP 全国「精神病」者集団もメンバー)とともに積極的に取り組み、また国内でも日本障害フォーラムに参加して日本政府や国連特別委員会への働きかけを継続してきた。
 2006年12月国連総会はついに障害者権利条約を採択し、日本政府も2008年9月に署名し、批准への意思を明らかにしている。
 そもそも障害者権利条約は強制入院および強制医療を否定しており、すでに締約国政府報告書審査で再三、その旨が委員会より述べられている。強制入院強制医療は、障害者権利条約12条、14条、15条、17条、19条、25条d、26条bおよび3条の非(b) 非差別〔無差別〕という一般原則の侵害であり、廃止されなければならない。
 また拷問等禁止条約特別報告官はこの2月の報告書および3月の国連人権理事会へのスピーチで、以下述べている。
 「障害者に対するすべての強制的で同意のない医学的介入に対して絶対的禁止を課すこと。こうした強制的医学的介入には、同意なしに行われる、精神外科手術、電気ショック、抗精神病薬のような精神を変容させる投薬、その期間の長短にかかわらず身体拘束と隔離拘禁の使用、が含まれる。障害のみを理由とした強制的精神医療の介入を終わらせる義務は即座に適用することであり、財政的資源の不足は義務の履行の延期を正当化し得ない(A/HRC/22/53,パラグラフ 89(b))」

「いかなる例外もなく平等を基礎として自由なインフォームドコンセントのセーフガード、法的枠組みと司法的行政的メカニズムそれは虐待からの保護を実践するための政策と実践を通すことも含む。これと矛盾するいかなる法律の条項、精神保健分野における拘禁あるいは強制的医療を許容するような条項は後見人制度そして他の代理決定を使うものも含め改正されなければならない。自律、自己決定そして人の尊厳を擁護する政策と手続きがとられること。保健についての情報が完全に提供でき受け入れでき、アクセシブルでそして良質なものとして確保されること。こうした情報は地域に基盤を置くサービスと支援が広範囲に行われるように、支援と保護の方策によって、提供され理解されなければならない(A/64/272, パラグラフ. 93)インフォームドコンセントなしの医療の例があれば、それは捜査され、そうした治療の被害者に対してそうしたことがやめられ、償わればならないA/HRC/22/53, パラグラフ 85(e)」

「精神保健を根拠とした拘禁あるいは精神保健施設への監禁、そして当事者の自由なインフォームドコンセントなしの精神保健分野におけるいかなる強制的介入あるいは治療を許容する法律条項の改正。自由なインフォームドコンセントなしの障害を理由とした障害者の施設収容を正当化している法制は廃止されなければならないA/HRC/22/53, 89(d).」

2013年3月4日の人権理事会においての彼の演説で、これについてさらに以下詳しく述べている。「精神疾患を根拠とした自由の剥奪は正当化できない。中略 わたしは精神医療疾患の重篤さが拘禁を正当化しえずまた、自らあるいは他者の安全を守るという動機によってもそれは正当化し得ないと信じる」

したがって障害者権利条約批准に向けては最低限、強制入院の要件を見直し、強制入院を減らし、最終的に廃止する方向性を取る必要がある。ところが今回の法案はとりわけ以下の点でこれに逆行している。

1 強制入院の安易簡便化による強制入院の現状維持と増加
 法案は措置入院には一切手を付けず、保護者制度撤廃と引き換えに、医療保護入院を医師一人の判断でしかも3親等までの家族ならだれでも同意できるという形にし、強制入院をより安易簡便にしようとしている。我々は障害者権利条約批准にあたって、厚顔にも強制入院強制医療を拡大強化する、精神保健福祉法改悪案を決して許すことはできない。
 厚生労働省は「障害者政策委員会第2回 第4小委員会(2012年11月12日開催)」において、病床削減の数値目標は立てないし病床削減という方針はないと明言している。
 厚生労働省は精神病院入院患者については長期化を避け短期間の入院とするという方針を出しており実際入院の短期化の傾向はある。しかしその上で病床削減をしないということ、さらに医療保護入院の要件緩和ということは、現状に倍する精神障害者が精神病院入院を強いられていく結果を招きかねない。

2 精神病院における人員配置基準の差別強化、精神障害者差別の強化
 また法案では新設条項として、厚生労働省大臣が精神医療福祉に向けた指針を作ることになっており、その中には精神科病床のあり方も含まれている。
 厚生労働省「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会2012年6月29日」報告書において、今現在長期に入院している方の病棟については、差別的な特例(精神病院においては他科に比べ医師の配置が少なくていいとするもの)以下の水準でよしとされている。医師は特例以下、看護についても看護師以下の介護士、精神保健福祉士、作業療法士、などをあわせて看護基準を満たせばいい、すなわち看護についても基準の配置でいいとするものである。これでは夜間は看護も医師も当直なしという病棟となるであろう。これを果たして「病棟」と呼んでいいのだろうか?
 精神病院病棟が病院というより生活の場・施設と化してしまっている実態の公認である。しかもこの病棟については「開放的な」とはされているが、開放病棟とするとはされておらず、行動制限をしてはならないとはされていない。また強制入院患者を入れてはならないもされていない。さらにこの病棟を、年限を切って0にするという方針も出されていない。医療と保護のために本人が拒否しても入院が必要という病態の方がなぜ医療保障もないこんな病棟に入れられるのか?  医療と保護のためにやむを得ずするという行動制限を受けるほどの病態の方がなぜこんな病棟に入れられるのか?
 しかも精神保健福祉法によれば、強制入院の医療費であっても本人自己負担が原則である。そして本人が負担できないときは連帯保証人から取り立てられることになっている。こんな基準以下の病棟に強制的に放り込まれ、その上医療費まで取り立てられる。これこそ精神障害者差別以外のなにものでもない。

3 医療観察法対象者およびその家族に対する差別の強化
 さらに医療観察法においては現行の精神保健福祉法における保護者制度の規定がそっくりそのまま移行して新規条文とされる改悪案も一緒に出されている。
 精神障害者にのみ保護者が付けられるというのが差別であるから保護者制度を廃止するというなら、医療観察法対象者は差別されていいということか?
 家族の負担軽減のために保護者制度をなくすというなら医療観察法対象者家族は負担を増して当然ということか?
 もともと精神障害者差別立法である医療観察法はさらに精神障害者一般からも差別されその差別の強化が図られようとしている
 精神病院中心の精神医療からの変換、隔離収容から地域で医療を受ける権利確立、そして何より精神障害者差別と隔離拘禁の廃絶は私たちの積年の要求である。再度私たちはすべての仲間に訴える。障害者権利条約の意味ある批准を そして完全履行を、強制入院強制医療の廃絶、精神保健福祉法の廃止、医療観察法の廃止を
   2013年5月6日