前提
閣議決定2010年6月29日「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」においては、医療分野において以下記述されている。
○ 精神障害者に対する強制入院、強制医療介入等について、いわゆる「保護者制度」の見直し等も含め、その在り方を検討し、平成24 年内を目途にその結論を得る。
なお付け加えれば全国「精神病」者集団の関口は、「○関口委員 どうもありがとうございます。関口です。資料3の別紙3-2の修正についてという厚生労働省が出したものですけれども、留意点についてということで、まず42ページの『保護入院等』の『等』は当然医療観察法でございます。はっきりさせておきたいと思います。」(障がい者制度改革推進会議(第28回) 議事録)と確認している。
しかしながら、厚生労働省検討会内部の議論は医療保護入院および保護者制度の問題に集中しており、措置入院や応急入院、あるいは医療観察法の鑑定入院や入院について議論されていない。このことにまず抗議する。
そもそも障害者制度改革は障害者権利条約批准に向けた国内法整備を目的としたものであり、「障がい者制度改革推進本部の設置について」(2010年12月8日 閣議決定)においても「1 障害者の権利に関する条約(仮称)の締結に必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者に係る制度の集中的な改革を行い、関係行政機関相互間の緊密な連携を確保しつつ、障害者施策の総合的かつ効果的な推進を図るため、内閣に障がい者制度改革推進本部(以下「本部」という。)を設置する。」とされている。
障害者権利条約は、5条(平等及び無差別)、12条(法律の前に等しく認められる権利)、14条(身体の自由及び安全)、15条(拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱いもしくは刑罰からの自由)、17条(個人をそのままの状態で保護すること)、19条(自立した生活及び地域社会への包容)、25条(健康)(d)他のものと平等なインフォームドコンセントの権利、などにより精神障害者のみに対する強制入院強制医療さらに強制的介入、隔離収容を禁止している。さらに4条(一般的義務)(b)において締約国の義務として障害者差別となる既存の法律、規則、慣習および慣行を修正し、または廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)を取ること、とされている以上、批准に向けて医療観察法の廃止、精神保健福祉法の廃止が求められている。なお添付のようにペルーの政府報告書に対する条約委員会の見解では後見人制度や精神保健法の廃止が求められ抗精神病薬の強制投与や10年以上の精神病院への拘禁が15条に触れるとされている(添付資料 1参照)
残念ながらこの検討会ではこうした障害者権利条約の条文を巡る議論が全くなされていないが、これはいったいどういうことなのか、このこと自体が障害者権利条約を署名した国としてはあってはならないことである。2012年中の検証として新たに条約に基づいて議論する場が求められている。
詳細は国連高等弁務官事務所の文書及び、前拷問等禁止条約特別報告官の文書参照(添付資料2参照)
新たな地域精神保健医療体制の構築?
すでに19日に山本が述べたように(添付資料3参照)単科精神病院は終焉の時代を迎えていることを自覚すべきであり(『病院の世紀の理論』猪飼周平 有斐閣 参照)、求められているのは精神病院に代わる一般病院での精神病床(人口10万人当たり10床というのがモッシャーほか著の「コミュニティメンタルヘルス」中央法規出版 1992年)さらに、病院に代わる治療共同体や精神障害者自身による危機センター、ショートステイ、セルフヘルプグループなどであるが、さらに必要な方に対してパーソナルアシスタント制度が重要である。
家族をあてにした体制保護者制度は当然にも廃止されなければならない。
自立支援法は精神障害者にとっては何とも使いにくい制度であり、とりわけ地域移行に際しては精神病院入院中から自立生活体験室で介助者を訓練し、パーソナルアシスタントを獲得していくことが必要である。自立生活訓練は精神障害者が訓練されるのではなく介助者の訓練の機会ととらえられるべきである(これはすでに知的障害者の支援においては先進的に取り組まれている『良い支援?』生活書院 参照)資格さえあれば代替可能という介助では精神障害者は使いにくい。
また居宅介護ではなく、集いの場での介助支援や待機(これについては添付資料4 桐原研究参照)という介助類型も必要である。現在の地域定着支援は生活保護受給者には使えない(長期入院退院患者の多くは生活保護受給とならざるを得ない)ことさらに単価の問題もあり、とてもパーソナルアシスタントや待機を保障するものとはなりえない。もちろんグループホームやケアホームなどという施設ではなく、居住権のある住宅と呼べる住宅保障は最優先である。
医療・保健・福祉の連携や多職種チームによる支援が喧伝されているが、これらに私たちは強い疑問がある。一市民として支援介助を受けながら自立生活する中で、医療はあくまで必要な時に使うものであり、必要な場合における支援介助こそが中心となるべきであり、それにはパーソナルアシスタントこそが中心となるべきである。今現在行われている多職種チームとは専門職による支援とは全く逆な、あくまで本人の介助支援であり、指導や訓練であってはならない。介助者支援者の個別の精神障害者に合わせた訓練こそが必要。たとえば多職種チームによるケア会議は本人吊るし上げ、の場になってしまいがちである。
そして最も必要なのはアドボケイト、本人の権利主張の応援者支援者である。これは入院中のみならずすべての場において最も重要な支援といえよう。アドボケイトのいないままでの多職種チームによるケア会議はわかっているだけで17名の自殺者を出し、さらに体験者がさらし者の場と批判しているような医療観察法の実態にこそ問題点があらわとなっている(添付資料5参照)。いかに人手を増やし、金をかけても本人との信頼関係もなくアドボケイトもいない体制は本人を追い込むだけである。また今予算がついているアウトリーチも私たちは認めない(添付資料6参照)必要なのはスェーデンスコーネで行われているようなあるいはすでに各地で試みられているような本人と信頼関係を作り上げるアウトリーチである。
「新たな地域精神保健医療体制の構築」ではなく、「新たな精神障害者の地域生活支援と権利保障体制構築」に向け、私たち精神障害者団体による研究に資金をつけ、自立支援法上の事業所のない空白地帯を埋めていく取り組みが喫緊の課題である。