COVID-19(新型コロナウィルス肺炎)と精神障害者

PDF [英文原文]
PDF [日本語仮訳]

Pan African Network of Persons with Psychosocial Disabilities(精神障害者アフリカネットワーク)
Redesfera Latinoamericana de la Diversidad Psicosocial(ラテンアメリカ精神障害者ネットワーク)
TCI Asia Pacific (Transforming communities for Inclusion of persons with psychosocial disabilities, Asia Pacific(精神障害者をインクルージョンする地域社会変革へのアジア太平洋横断同盟)
European Network of (Ex-) Users and Survivors of Psychiatry (ENUSP)(ヨーロッパ精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク)
Center for the Human Rights of Users and Survivors of Psychiatry (CHRUSP) (精神医療ユーザー・サバイバー人権センター)
World Network of Users and Survivors of Psychiatry (WNUSP)(世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク)

2020 年3月26日

私たち、世界中の地域および国際心理的社会的障害者団体は、コロナウィルス感染症の感染および死亡に対する精神障害者の脆弱性を案じています。 「精神障害を持つ人々」とは、精神医療のユーザーと元ユーザー、精神医療による暴力の被害者そしてサバイバー、狂人、声の聴く人、多様性を持つ人々を含む、歴史的に差別され疎外されたグループを指します。

精神障害を持つ人々は、以下に上げることの結果として、コロナウィルスに感染するリスクが高くなる可能性があります。

• 彼らが精神病棟や施設、社会福祉施設、浮浪者の家、法外の非公式の「シェルター」、留置所、刑務所、矯正施設に置かれ、自由を奪われている場合、自らの意志と好みに従って人混みを避けたり人と距離をとったりすることができない。
• これらの環境における感染の固有のリスクは、過密で不衛生であることで悪化し、そして虐待が発生しやすい場所であることでも悪化する
• 平易な言葉による情報の欠如やコミュニケーションサポートの欠如を含む、健康情報へのアクセスの障壁。
• 貧困、家庭内の資源への不平等なアクセス、ホームレスによる予防衛生対策の実施への障壁。
• 虐待
• 社会的支援ネットワークとインクルーシブなコミュニティの欠如。そして
• 精神障害者、特に女性、子供、高齢者、LGBTQIA +の人々、先住民族、多様な人種、肌の色、世系、カースト、国あるいは民族的出身、さまざまな宗教団体の人々、精神障害者以外の障害者、さもなければ複数の交差する差別に直面しているその他のグループ、に対する体系的な差別

精神障害を持つ人々はまた、次の原因により、より重篤な症状を発症し、死亡するリスクが高くなる可能性があります。

• 精神科病棟と精神科施設、社会福祉施設、グループホーム、刑務所の栄養、健康状態、衛生状態が悪いこと
• 子どもや精神障害を持つ高齢者を含む、栄養不足、無視、施設化、ホームレスによる免疫システムの弱体化
• 特に精神障害を持つ女性に対する、身体的、心理的、性的暴力および虐待の長期的な結果
• その保健システムでの差別、侮辱、無視、暴力、そしてトラウマの体験、のために保健システムへのアクセスに消極的であること
• しばしば人々の意思に反して、または強制的な同意の下で投与される、精神薬によって引き起こされるか悪化する糖尿病や高血圧などの基本的な健康状態、そして
• ヘルスケアへのアクセスと健康保険の適用範囲の欠如による障壁

国は、国際法の下で、他者と平等に精神障害を持つ人々の人権を尊重し、確保する責任があります。この責任は、COVID-19(新型肺炎)パンデミックなどの国家的および世界的な緊急事態の際に高まります。構造的差別、差別的立法、および地域社会と医療および社会的ケアの両方における排除と暴力の慣行の結果としてパンデミックにおいて強められた脆弱性は、緊急時とその後の両方で考慮に入れられ、是正されなければなりません。

障害者権利条約は、精神保健における非自発的入院と治療を廃止し、そのような体制下で彼らの意志に反して拘束され治療された人々を解放することを国家に要求していることを、私たちは国家に再度指摘します。 差別的な拘禁は決して正当化されず、また意志に反して精神を変容させる治療も決して正当化されないのですから、COVID-19(新型肺炎)のパンデミックの間でもこの義務は停止されません。

国や地方自治体に対し、以下の施策を実行するよう要請します。

制度上の設定

• 精神科病棟および施設の収容人数を大幅に減らし、非自発的入院停止措置をとる。感染、病気の悪化、死亡のリスクが高いばあい、だれ一人としてそうした場所に意志に反して留められないことを確保する

• 精神科病棟や施設、ソーシャルケア施設、グループホームで、感染をさけるための衛生的および予防的な対策を緊急に実施する。この対策には環境の掃除と消毒、空気の入れ替え、定期的な手洗い、そして石鹸、手指消毒剤、トイレットペーパー、ペーパータオルなどの衛生用品が無料で入手できることなどが含まれます。人々は集中配布の場まで衛生用品を入手するために行かなければならない、ということはあってはなりません。職員は衛生と予防対策の全てに従うことを要求されねばなりません。

• 隔離、拘束、同意のない薬物療法の使用禁止、および精神科病棟や施設でのトイレの使用に関する制限の禁止。こうした行為は、人々の尊厳とインテグリティに反するだけでなく、必然的に不衛生な状態を引き起こし、深刻なストレスと身体的悪化を引き起こし、その結果、免疫力が弱めます。

• 精神科病棟、施設、グループホームの人々にCOVID-19(新型肺炎)に関する最新情報へのアクセスを提供し、友人や家族と連絡を取り続けることができるようにします。感染を防ぐ方法として、部屋を出たり、外の世界と接触したりすることを禁止されてはなりません。訪問者からの感染を防ぐための予防策が必要ですが、一括して訪問者を禁止するという措置は不釣り合いであり、人々をさらなる虐待や放置にさらす可能性があります。電話やインターネットなど、連絡を取り合う別の手段を無制限に許可する必要があります。

• 拘置所、刑務所、矯正施設の人口を大幅に削減する。これには、公判前、非暴力の罪で投獄されている者、またはすぐに釈放される予定の人々(他の人と平等に精神障害のある人を含む)の釈放も含まれる。

• あらゆる場合において、自由を奪われた人々と集まった環境にいる人々は、それぞれに異なる脆弱性があることを考慮して、適切な時期に検査を受けることを確保し、またそのようなすべての環境が適切な衛生的および予防的手段の実行を確保します。施設内で集団発生が発生した場合、感染者は適切ない医療施設にうつされ、残りの人は感染環境から移動する必要があります。検疫の結果、人が独居監禁などのより制限された環境に置かれてはなりません。

無差別

• 精神障害のある人が、COVID-19(新型肺炎)に関連する検査、保健ケア、公開情報に平等にアクセスできるようにする。質の高い医療は、いかなる種類の差別もなく、健康保険の適用範囲に関係なく、感染者に提供されるべきです。精神障害のある人は、中心の病院から、COVID-19(新型肺炎)のヘルスケアの水準は低いことが多い、精神科病棟や治療施設に転院させられてはなりません。

• 公衆衛生に基づく公の制限、および法執行機関と保安官の行動は、精神障害のある人を決して差別してはなりません。 COVID-19(新型肺炎)への対応の一部として精神的強制措置を使用してはなりません。自由を奪われた人々および精神科病棟や精神科施設を含む集団的環境の人々に保護を提供する人権基準およびメカニズムは、引き続き有効とされ、緊急措置の一環として削減されてはなりません。

• 苦痛を与えたり、健康や免疫システムを危険にさらしたりする精神薬やその他の治療法を強制されてはなりません。国際法で義務付けられているように、強制的な治療命令は解除されなければならず、新しいものは導入されてはなりません。

• 教育や社会保護プログラムなど、COVID-19(新型肺炎)の発生中にサービスの継続性を確保するために政府が実施する一時的な措置にアクセスする際に、精神障害のある人が差別されないようにする。

コミュニティの支援

• COVID-19(新型肺炎)の集団感染発生時に、苦痛や通常でないな意識状態を経験した人々が、個人の意思や好みを尊重した上で、要望に応じた訪問やオンラインでの支援、ピアサポートを含めて、継続的に支援を受けられるようにする。

• 精神障害者のニーズに対応し、ピアサポートをはじめとする従来の精神保健サービスに代わるものを含め、人々の自主性、選択、尊厳、プライバシーを尊重した地域密着型のサービスを幅広く展開するための取り組みをステップアップさせましょう。

• COVID-19(新型肺炎)集団発生時には、精神障害者を含め、包括的な方法でコミュニティが互いに支援し合えるように準備し、奨励する。これは、強制的な検疫、自宅監禁、情報の過多により、苦痛の状態が高まる可能性があるため、特に重要である。

• 検疫により自宅を離れることができない、あるいは汚染の懸念が高まっているこの時期に自宅を離れることが困難な精神障害者に対して、食料や物資の入手支援などの実践的な支援を行う。

• 自宅軟禁にとりわけ困難を感じるとき、精神障害を持つ人々が、強制的な検疫中に短期間かつ安全な方法で自宅を離れることができるように柔軟なメカニズムを検討します。

• COVID-19(新型肺炎)の発生時に自己隔離する必要があるかもしれない精神障害を持つ人々、特に貧しい生活を送っている人、失業中または自営業している人々をサポートするために、追加の財務措置を採用します。

• メディアにはCOVID-19(新型肺炎)について責任を持って正確に報道するよう奨励し、またソーシャルメディアを読んだり情報を共有する際に批判的な思考と判断を奨励します

脆弱なグループ

• 家庭内暴力の情報とサービスへのアクセスを提供し、家庭で虐待や暴力を経験している子供を含む人々をサポートする。年齢を問わず、精神障害を持つ人々は、家庭での検疫や家庭での隔離中に虐待や暴力のリスクが高まるのを経験しがちです。

• 地域社会に出かけていく活動を実施して、自宅やコミュニティ内で、縛りつけられたり枷をつけられたりすることも含む、自由を奪われたり虐待を受けたりしている精神障害のある人を特定し、救助し、人権を尊重する方法で適切なサポートを提供します。

• 精神障害を持つ人々を含むホームレスの人々が、差別のない、人権を尊重された方法で、充実した清潔な衛生施設へのアクセスや検査と治療などのCOVID-19(新型肺炎)感染に対する予防策を確実に利用できるようにする。政府は、隔離期間中にホームレスである精神障害を持つ人々が当局によって虐待されないようにし、他者と平等に水、食料、シェルターを提供されるようにしなければなりません。

• COVID-19(新型肺炎)が薬物使用者に拡散するのを防ぐために、針と注射器配布プログラムやオピオイド補充療法などのハームリダクションサービスの継続的な提供を保証します。

参加

• COVID-19(新型肺炎)の発生に対する国家の対応に際しては、精神障害のある人そして彼らを代表する組織に相談し、彼らを積極的に参加さ
• 制度的状況についての独立した監視に障害者とその代表する組織を関与させる。

精神保健福祉士養成課程のカリキュラムの修正を実現しました

 全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。
 2019年6月28日に公表された「精神保健福祉士養成課程のカリキュラム(案)」には、14現代の精神保健の課題と支援の③社会的排除と社会的障壁、2日本の精神保健福祉施策に影響を与えたできごととして、想定される教育内容の例に相模原事件(以下、「津久井やまゆり園事件」とする。)を精神保健福祉法における措置入院の見直し等と書き込まれました。2019年7月26日、私たちは「精神保健福祉士養成課程のカリキュラム(案)に対する声明」を出して修正を免れないと断じました。そして、2020年3月6日の最終とりまとめでは、措置入院の見直し等のくだりは完全に削除されました。
 さて、精神保健福祉法改正法案は、何があっても、ほとんどの内閣提出法案を成立させてきた現政権において唯一、廃案となり再提出の目処が立っていない法案となりました。精神保健福祉法の審議過程では、法案概要資料の趣旨の部分に変更が加えられるという前代未聞の珍事件が起こり、立法府の歴史においても2件しかない参議院先議法案の継続審議を帰結しました。なお、もう1件の参議院先議法案は、精神保健福祉法改正法案のように賛否の対立により継続審議になったものではないため、より重く受け止められなければなりません。そして、忘れてはならないのは、精神保健福祉法改正法案が内閣総理大臣の施政方針の法案であったのにも関わらず賛否の対立により継続審議になり、のちに廃案になったことです。このことからも精神保健福祉法改正法案が立法府の歴史上、まったく前例のない顛末をむかえたことがわかると思います。その後、精神保健福祉法改正法案が上程されましたが、私たち当事者が反対したことで廃案になり、現在に至っています。
 このたび措置入院の見直しのくだりは完全削除に至ったわけですが、精神保健福祉法改正法案廃案及び再上程遅滞の事実を重くみて二度とこのようなことが起きないように繰り返し訴えていきたいと思います。
   2020年3月26日

医療法人財団兵庫錦秀会神出病院における虐待・暴力事件に関して(声明)

                                                                                                              2020年3月18日

 

医療法人財団兵庫錦秀会神出病院における虐待・暴力事件に関して(声明)

 

全国「精神病」者集団

 

私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織である。

医療法人財団兵庫錦秀会神出病院(兵庫県神戸市西区)において、入院患者対して虐待・暴行を行ったとして、看護師ら6人が2020年3月4日に逮捕された。一連の報道によると、看護師らは、患者同士でキスやセックスを強要させその様子を動画撮影していた。当事者が経験した屈辱を知るに私たちの怒りの炎は消えることはない。患者への献身が期待されているはずの看護を担う者たちよ、恥を知れ。

本事件は、被疑者の別件での刑事事件が発端となり明るみに出てきた。これはまさに精神科医療の自浄作用の限界の露呈そのものである。昨年の11月には、神戸市は病院への実地指導をしているが、これだけの大問題を把握することはできなかった。監督者としての行政の責任も極めて重い。事件の真相究明と被害者の救済及びこのような事件を二度と生じさせいような厳格なチェック機能を整備することを強く求めたい。

神出病院は、近隣の病院群で市民グループの訪問活動を拒絶し続けてきたと聞く。地域移行が潮流とされる時代においてもなお、密室的・収容的な精神科病院は、数多い。密室の隠ぺい体質を有している病院内ではこのような事案は氷山の一角に過ぎないのかもしれない。あまつさえ、障害者虐待防止法は病院内での虐待を通報義務としていない。地域の障害者団体や人権団体等の訪問活動を拒絶するような病院は、これを機に、むしろ医療の本旨を証明し、また発揮するためにも態度を改めるべきではないか。また、エリアに関わる当事者団体をはじめ関係諸団体が一体となり、各病院内の監視と人権救済に取り組む担保が与えられることが必要である。

精神科病院では、これまでも数々の暴力・虐待・人権蹂躙が行われてきていることからもわかるように、この国のどこかで同様な事件が起きていると私たちは考えている。神出病院が母体なる錦秀会グループは、「やさしく生命を守る」を基本理念に掲げ、神出病院は方針として「社会の求める質のよい医療を提供します」を掲げていると聞く。これほどの言行不一致には、もはや薄気味悪さすら感じる。グループの創始者である籔本秀雄は、法人税法違反、業務上横領、私文書偽造、同行使、診療放射線技師及び診療エックス線技師法違反により有罪判決を受けており、また医師免許の取り消し処分を受けているが、これまで数々の医療法人に対して買収を繰り返し、時にはそれまで地元で評判のあった医療を崩壊させてきた。金権主義に血脈をあげた巨大な民間経営医療法人の末路を私たちは目撃している。錦秀会グループに良心のかけらがあるならば、病院経営を公に移譲し、その座から引き下がるがよい。

最後に、私たちは、長らく精神科病院における人権問題の多くが精神保健福祉法下の帰結の問題だと繰り返し訴えてきた。精神医療審査会が当事者からの退院請求を年間およそ98%以上認めていないこと、曲がりなりにも身体拘束の運用管理を担うとされている精神保健指定医が現場対応を追認してしまっている実態など、人権制約を監視する機能が働いていないことには枚挙にいとまがない。また、上述の通り障害者虐待防止法は病院内での虐待事案を通報義務の範囲としていない。これらの法が内在する問題は、無視され長らく放置されている。このことに立法府は猛省し、即時然るべき法の撤廃、改正の対応をすることを強く求めるものである。

以上

障害者総合支援法の見直しに関する要望書

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長 殿
 同 企画課長 殿
 同 障害福祉課長 殿
 同 精神障害保健課長 殿

 日ごろより障害者の地域生活の推進にご尽力くださり心より敬意を表しております。
さて、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の見直しの時期が近づいてまいりました。
 同法の見直しが附帯決議及び障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」とする。)の趣旨を鑑みたものとなるように下記の通り、要望を申し上げます。

1.検討
1)障害者団体の参画について
障害者権利条約第4条第3項では、障害者に関する問題について政策決定過程から障害者を代表する団体を通じ、障害者と緊密に協議し、及び障害者を積極的に関与させることとされています。よって、同法の見直しの検討には、私たち全国「精神病」者集団を含め障害者団体の参画を保障してください。また、ヒアリングも例年通り実施してください。
2)精神障害者の参画について
障害者基本計画(第4次)では、障害者施策を審議する国の審議会等における障害者の委員については、障害種別及び性別にも配慮して選任を行うこととされています。
また、参議院附帯決議では、施行後三年の見直しの議論に当たっては、障害者の権利に関する条約の理念に基づき、障害種別を踏まえた当事者の参画を十分に確保することとされています。同法第4条第1項において精神障害者とは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に規定する精神障害者(発達障害者支援法(平成16年法律第167号)第2条第2項に規定する発達障害者を含み、知的障害者福祉法にいう知的障害者を除く。以下「精神障害者」という。)とされています。ピアサポーターの職能団体の参画は一定進んでいるものの、地域患者会や病棟患者自治会、自立生活センタースタッフなど幅広い層の精神障害者を構成員とした全国組織から推薦を得た精神障害当事者の参画が不十分です。ピアサポーターの職能団体の代表者だけではなく、地域患者会や病棟患者自治会、自立生活センタースタッフなど幅広い層の精神障害者を構成員とした全国組織から推薦を得た精神障害当事者の参画こそ優先して進めてください。
3)報酬改訂の検討における当事者参画
訪問系サービスの処遇改善加算率見直し、基本報酬の改訂について私たち全国「精神病」者集団を含め利用者である当事者の団体の検討段階からの参画を保障してください。

2.総則
同法第7条に規定された介護保険優先原則は撤廃してください。同法は、障害者の自立生活のための法律であり、介護保険とは本質的に異なるものです。よって、同法のサービスを介護保険のサービスに相当すると見なさないでください。

3.障害支援区分認定と支給決定
障害支援区分認定調査のアセスメントは障害程度区分認定調査から大幅に改善されたが、それでも精神障害者の支援区分が低く出るきらいが否めません。そのため、障害支援区分認定調査のアセスメント又はマニュアルは、さらに見直してください。
現在の支給決定方式は、二次審査のための意見書を精神科医が書くなど医学モデルに依拠しています。将来的には、現在の支給決定の方式を改め、社会モデルの観点からニーズを中心とした協議調整モデルに改めてください。
市区町村によっては、相談支援専門員のサービス等利用計画案よりも低い支給量しかでないことがあるが、もっとサービス等利用計画が尊重されるようにしてください。
障害程度区分認定調査員は、意思決定支援ガイドラインの拘束をうけないが、技能に不均等が認められます。意思決定支援や合理的配慮義務、マニュアルの遵守ほかを徹底するようにしてください。

4.居宅介護
1)育児支援
支給決定する市区町村が居宅介護の業務に含まれる育児支援の存在を知らないがゆえに育児をする親が十分に子どもの世話ができないような障害者である場合の育児支援に対して支給しないケースが散見されます。育児支援の周知が不十分であるため、あらためて地方公共団体に向けて文書で周知徹底を図ってください。また、育児をする親が十分に子どもの世話ができないような障害者であるにもかかわらず、障害者を支援する責務をもった地方公共団体が支援をせずに結果としてネグレクト状態に陥り、児童相談所が一時保護をするケースが散見されます。これについては、障害者行政と児童行政の連携に瑕疵があると言わざるを得ません。
2)通院等介助の自宅発着条件
通院等介助は、自宅発着条件を削除してください。また、勤務先から通院先までの移動にも使えるようにしてください。

5.重度訪問介護
1)障害支援区分と行動障害点数
重度訪問介護は、長期入院者等の退院後の地域生活の資源としてきわめて重要です。しかし、多くの精神障害者は、障害支援区分4以上・行動障害10点以上が出ないためニーズがあっても重度訪問介護の利用ができません。行動障害10点の撤廃と支援区分4以下への適用拡大をしてください。また、入院中の重度訪問介護の利用についても支援区分4及び5に適用拡大してください。
2)通勤、勤務中等の利用
重度訪問介護は、通勤、勤務中、通学、修学中の利用を認めるべきです。重度訪問介護の移動制限である「通年かつ長期にわたる外出」を削除すべきです。
3)重度訪問介護従業者養成研修行動障害課程
重度訪問介護従業者養成研修行動障害課程ができたことを評価しています。但し、精神中心と知的中心で運用に若干の差異を認めるため、利用が促進されるように研修の事例集積をおこなうなどしてベストプラクティスを示してください。
4)3人以上の介護
介助内容によっては、2人介護では不十分な場合があるため、3人以上の介護でも支給をできるようにしてください。

6.自立生活援助
自立生活援助の支給期間が一律3年なのは個別性を無視したものです。ニーズに応じて個別的に期限を決定できるようにしてください。

7.共同生活援助
1)運用の実態把握の必要性
共同生活援助事業者の提供するサービスにはバラツキがあります。あからさまなネグレクト運営がある一方、外出制限等の過度な干渉をする事業者など問題のある例が散見されます。共同生活援助の実態調査をしてください。
2)大規模型について
定員20人以上の大規模型共同生活援助は報酬から削除してください。

8.就労継続支援A型及び就労継続支援B型
1)合理的配慮の不徹底
就労継続支援A型事業における合理的配慮の不徹底が散見されるため必要な措置を講じてください。
2)工賃額と報酬
前回の報酬改訂では、工賃額によって報酬が変わる仕組みが採用されました。しかし、この報酬体系はインセンティブを与えるどころか、単純に居心地が悪くなっただけでした。精神障害者には、休息が必要な人が多いため、就労支援機能と居場所機能が共存してはじめて支援となる場合が多いです。工賃と報酬を連動させるべきではないし、就労支援機能と居場所機能の双方が認められるような仕組みにしてください。
3)就労目標
就労を目標とした制度には限界があります。居場所機能の価値を認めてください。

9.相談支援事業
1)相談支援事業所と相談支援専門員の不足
相談支援事業所と相談支援専門員の数が不足しています。そのため、サービス等利用計画が供給できていません。地域によっては、サービス自体が使えないような状態となっています。また、セルフプランの位置付けが弱いことも問題です。相談支援は、報酬額が低いため基本報酬の拡充と加算を充実してください。
2)利用契約と支給決定
計画相談の支給決定は、利用契約と支給決定が連動しています。しかし、契約解除をしていないのに支給決定が変更されているケースがあります。市区町村が利用者と事業者の契約関係を確認せずに支給決定を変更したためと思われますが、混乱が著しいため改めて文書で注意を促してください。
3)初任研修及び現任研修
初任研修及び現任研修の改訂は評価しています。医学モデルに基づくソーシャルワークに依拠した説明を脱し、社会モデルに基づく研修にしてください。

10.地域移行・定着
1)地域移行・地域定着の機能強化
地域移行・地域定着はあまり機能していません。機能するように見直してください。また、患者等にも知られてないため精神科病院内でも入院患者に周知をしてください。
2)精神科病院の面会制限の非適用
地域相談をおこなう相談支援専門員の面会制限を非適用にしてください。

11.地域生活支援事業
1)移動支援
移動支援の地域格差を解消してください。
2)アサポーター研修
 アサポーター研修の想定するピアサポーターは事業所に雇われた精神障害者に限定されており、自立生活センタースタッフ、病棟患者自治会、地域患者会などのピアサポーターが想定されていません。また、当事者団体がピアサポーターの範囲に含まれていません。ピアサポーターの範囲を見直してください。
3)成年後見制度利用促進事業
国連は成年後見制度を条約違反としています。成年後見制度利用促進事業は、成年後見制度との関係から見直しが求められているはずであり、このまま運用を続けることはできないです。成年後見制度利用促進事業の運用を中止してください。

12.障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン
 国連障害者の権利に関する委員会は、一般的意見第1号において最善の利益を否定しています。そのため、最善の利益を規定した障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドラインは一般的意見を参考にしながら見直してください。
以 上  

緊急事態宣言に関する緊急声明

 私たち全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構される全国組織です。
 政府は、新型コロナウィルス感染拡大の予防策として新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正による緊急事態宣言の発令を検討しています。
 緊急事態宣言は、都道府県知事が「外出自粛」「施設の使用制限」「物資の売渡し」などの要請ができることになっており、著しい私権制限を伴うものになっています。
 わたしたち精神障害者の中には、国策の誤りによって長期入院となった者がおり、地域患者会が公民館等を使って開催する定例会に顔を出すことでなんとか孤立せずに再発することなく地域生活できている者がいます。緊急事態宣言の発令は、このような精神障害者の私生活を脅かし、不可能な状態においやることにならないかと深刻に憂慮します。
 2020年3月6日の衆議院内閣委員会で菅義偉官房長官は、新型コロナウイルスによる肺炎拡大に関し、現時点で緊急事態宣言を出す状況にはないと認識していると答弁しました。現時点でとくに緊急事態宣言を出す状況にはないのであれば、著しい私権制限を伴う緊急事態宣言の検討を見送るべきと考えます。

障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する意見(案)」に関する意見書

内閣府障害者政策委員長 殿
内閣府障害者制度改革担当室 御中

 日ごろより障害に基づく差別の解消の推進にご尽力くださり心より敬意を表しております。
 さて、2020年1月27日に開催された第49回障害者政策委員会では、「障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する意見(案)」(以下、「意見(案)」とする。)が提出されました。当該意見書は、合理的配慮の提供義務を民間事業者にも適用させる以外の進展が見られず、結果として全体的に不十分であるとの印象を否めません。
 障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」とする。)の趣旨を鑑みたものとなるように下記の通り、意見を申し上げます。

1.障害に基づく差別の定義について
 意見(案)は、「差別の定義・概念については、弾力的な対応が困難な法律で定義等を設けるのではなく、柔軟に見直すことのできる基本方針や対応指針等における記載を充実することにより対応することが適当」とされているが、障害者差別解消法の見直しに際しては、差別の定義を明記し、直接差別、間接差別、関連差別、合理的配慮の不提供を差別と定義し、その内容が明らかにされるべきです。

2.障害のある女性と障害のある子どもについて
 障害のある女性や障害のある子どもに対する障害に基づく差別の解消を法律の明文に位置付けられるべきです。とくに障害のある女性や障害のある子どもに対する障害に基づく差別は、複合的なものや交差的なものが含まれうるため、啓発や研修による理解の促進が急務となっています。

3.民間事業者も合理的配慮の提供を義務化について
 意見(案)は、民間事業者への合理的配慮の提供義務に前向きであり評価できます。
 他方で、障害の合理的配慮についての促進策が、さらに求められます。地方自治体の取り組みでは、合理的配慮の提供を支援する助成制度が実施されています。たとえば、民間事業者、自治会、サークルなど民間団体が対象で、点字メニュー作成やスロープ等の購入、工事等にかかる費用を助成し、成果を上げています。民間事業者からの合理的配慮に関する相談機能を強化し、事業規模に鑑みて助成する仕組みを整備してください。

4.紛争解決の仕組みと相談窓口の体制整備について
 意見(案)で指摘されているとおり、事業者に対して具体的にどのような合理的配慮を提供すれば良いのかについて相談できる窓口が設置される必要があります。しかし、意見(案)の建設的対話は、障害者等が社会的障壁を解消するための方法等を伝えるコミュニケーション力を身に付けることの重要性を基本方針等で明確化することとされており、政策として障害者側に挙証や能力を求める内容となっています。しかし、差別していないことの立証責任は、この仕組みにおいて、差別したと訴えられた側に第一義的にあることとし、それを反証する権利は訴えた側にあることとされるべきで、コミュニケーション力によって解決が目指されるべきではありません。
 政府から独立した裁判外紛争解決の仕組みをつくり、相手方との調整、調停を行う権限を持たせる必要があります。その構成メンバーは、障害当事者団体、法律家等とされるべきです。

5.司法救済について
 紛争防止のための取り組みをおこなってなお、紛争の解決に至らず司法救済に移らざるを得ない事例への支援に係る仕組みが必要です。また、司法救済を妨げない裁判規範性のある規定が法律の中に位置付けられる必要があります。

6.立法府と司法府について
 最高裁判所、衆議院、参議院は対応要領を定めたが、内部指針にとどまり法的拘束力がありません。2016年5月には衆議院厚生労働委員会で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性が、「やりとりに時間がかかる」として参考人招致を一度、取り消される事例が発生しました。このようなことが起こらないよう立法府や司法府についても障害者差別解消法の対象とされる必要があります。
以 上 

◆障害者差別解消法の見直しに関する要望書
https://jngmdp.net/2019/07/01/20190701/

医療基本法イメージ案への意見

1 健康・長寿社会の実現に向けた重点施策は「骨太方針」などによって担保される。こころの健康は、健康・長寿社会の実現に向けた重点施策に含まれる。精神医療領域の政策指標は、結果として精神科医を増やすだけの内容となっているが、我々は漫然と量だけを整備することを望んでいない。むしろ、現在の質で量だけが増えるなら有害ですらある。よって、医療基本法の前文が、このような位置づけを示すものであってほしくない。

2 医療法第1条には、「この法律は(中略)もつて国民の健康の保持に寄与することを目的とする。」とある。イメージ案の目的条項は、医療法の目的条項を踏襲したことによって、従来からの医療者側の視点による医療基本法となっており、患者の視点や患者の権利に基づく医療基本法のかたちにはなっていない。また、議連の議論も踏まえられていない。この点は極めて問題が大きく、目的条項の全文を再検討するべきである。

3 「自ら決定する」に用語を統一し、「意思決定」という曖昧な表現は使わない方がいい。

4 医療者の責務規定のなかに患者に対する責務の規定を設けるべきである。

5 患者の政策決定過程からの参画は、努力義務ではなく推進体制を具体的に法律明文に位置付け義務化すべきである。

6 被験者保護の明文を入れるべきである。

7 本法に則した関連法令の見直しを規定すべきである。

8 疾病や障害に基づく差別の禁止、除去に係る規定を設けるべきである。

「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」に関する意見書

意思決定支援ワーキンググループ 御中
 厚生労働省社会・援護局地域福祉課 殿
 最高裁判所事務総局家庭局第二課長 殿
 日本弁護士連合会長 殿
 日本司法書士会連合会長 殿
 成年後見センター・リーガルサポート理事長 殿
 日本社会福祉士会長 殿

 日ごろより、ご尽力くださり心より敬意を表しております。
 さて、わが国の成年後見制度は、精神上の障害により事理を弁識する能力になんらかの問題がある者に対して行為能力を制限するための審判を規定したものです。民法明文上にも「精神上の障害」とあるように成年被後見人等の大部分が精神障害者ということになります。そのため、成年後見制度は、精神障害者の生活にかかわる制度です。
 これら精神障害者の生活に係る法制度が障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)の趣旨を鑑みたものとなるように、次のとおり意見を申し上げます。

1 障害者の権利に関する条約に基づく検討
 「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」においては、障害者の権利に関する条約の解釈をめぐる諸問題について国連障害者の権利に関する委員会の解釈を明記し、位置付けていく必要がある。
 日本政府は、同条約第12条第2項の法的能力を民法においては権利能力のことであり行為能力は含まないものと解釈している。また、同条約第12条第3項の「法的能力の行使」とは行為能力のことであり、成年後見制度が法的能力の行使に当たって必要な支援の一環であると解釈している。
 その一方で国連障害者の権利に関する委員会の解釈は、一般的意見第1号パラグラフ12で、法的能力は法的地位に関する能力と行使に関する能力の両方が含まれるものとされており、日本の民法でいうところの権利能力と行為能力の双方が含まれるものとされている。障害者の権利に関する委員会の解釈に従うと日本の成年後見制度は、精神上の障害と事理弁識能力を欠く常況を要件に行為能力を制限するため同条約の趣旨に違反することになる。「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の中では、政府解釈だけではなく、国連の解釈も示し両論併記とするべきである。

2 「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の位置づけ
 「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」においては、国際的な連帯の下にある障害者運動と国連障害者の権利に関する委員会の解釈に従ったかたちで構築される必要がある。
 条約法に関するウィーン条約によると政府には誠実な解釈が求められており(第31条第1項)、交渉過程や一般的意見を参考にしながら解釈される必要がある。しかし、意思決定支援ワーキンググループは、交渉過程や一般的意見を参考にしているのかが必ずしも明らかではない。「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の作成にあたっては、交渉過程や一般的意見を参考にしながら組み立てられるべきである。

3 最善の利益の否定を明記すること
 一般的意見第1号パラグラフ21では、意思及び選好の尊重に基づく支援が必要であり、最善の利益に基づく判断は否定されなければならないものとされている。最善の利益を否定し、意思及び選好の尊重に基づく支援を明記しるべきである。

4 作成過程からの当事者参画
 「後見人等による意思決定支援の在り方関すガイドラン」の作成にあたっては、障害者権利条約の趣旨を踏まえて精神障害の当事者団体である全国「精神病」者集団からの参画を調整し、早急にヒアリングを実施するべきである。

5 共同意思決定の限界を明記すること
 意思決定支援において注目されているのは共同意思決定である。共同意思決定は、本人と周囲の支援者が共同で決定することで、決定に伴う負担を本人だけではなく周囲に分散していく方法である。この方法は、決定に限ってしか効果を発揮できず、決定によって生じた法律上の効力からの負担の分散までは捉えきれていない。本人や支援者が共同で決定したことに伴う法律上の効力を引き受けるのは本人だけである。支援者は、決める過程にかかわっておきながら法律上の効力には拘束されない。そのため本人と支援者は、非対称な関係に置かれることになる。長所だけではなく、短所や限界も明文で言及されるべきである。

「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言(案)」についてのパブリックコメント

一般社団法人 日本透析医学会
理事長 中元秀友 様

冠 省
全国「精神病」者集団は、1974年5月に結成した精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。本ガイドラインとの関係では、意思決定能力がないとされる人たちが集まった団体ということになります。「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言(案)」についてのパブリックコメントを提出します。

1.意思決定能力
ガイドラインでは、「患者の意思決定能力の評価は、患者・家族等・医療チームで行う。」とされている(p.14)。また、この前提に従って「意思決定能力を有していない患者の家族等から透析見合わせの申し出」などが展開されている。しかし、これでは、あたかも患者が治療内容をよく理解してからじゃないと、同意があっても治療開示をできないかのような誤解が考え方の前提になっている。
もちろん、患者が意思表示できない場合の治療開始等については、考えられる必要がある。しかし、本来、侵襲行為の違法性阻却事由は、侵襲に対する同意だけでよいとされている。判例によると侵襲に対する同意は、「必ずしも意思能力を必要としない」とされており、意思無能力法理を立法事実とした成年後見人による治療の同意云々などということにはなり得ないのである。成年後見人と任意後見人は患者の医療に同意する権限はないが、成年後見人と任意後見人でも代諾を妨げるものではない。よって「意思表示できない場合」の代諾手続きなどに限ったものとし、「意思決定能力」の項目は、まるごと不要なため削除を要する。

2.医師による医療差し控え提案
患者が治療の不開始・継続の中止を求めてきた場合にどうするのかについては事前に考えておく必要がある。しかし、その他治療との関係で治療開始できないなどの場合を除き、医師が医療差し控えを提案することは医師の本務にもとるものである。医師は、治療の必要性を患者に説得することこそ本務である。本人の意思が書面で残されていたとしても、家族に治療の必要性を説得するべきであり、悪しき優生思想とも連なる問題を内在している。この項目は、まるごと削除を要する。

3.結論
全体を通して法律面での完成度がきわめて低い印象を受ける。運用に伴う現場の混乱は免れ得ないだろう。現場で困るのは医療者と患者である。学会としては、検討を延期し再検討しなければ、本当に大変なことになる。
以 上 

◆【重要】「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言(案)」 についてのパブリックコメント募集と公聴会のお知らせ
https://www.jsdt.or.jp/info/2683.html

意思決定支援研修ヒアリング意見書

1 障害者の権利に関する条約について
 意思決定支援研修においては、障害者の権利に関する条約の解釈をめぐる諸問題について国連障害者の権利に関する委員会の解釈を明記し、位置付けていく必要がある。
 具体的には、①同条約の解釈及び一般的意見第一号の概要、②ペルーの実践と発展的解釈、③事前質問事項を含む第1回政府審査の概要にかかわる以下の内容である。

① 障害者の権利に関する条約の解釈及び一般的意見第一号
 日本政府は、同条約第12条第2項の法的能力を民法においては権利能力のことであり行為能力は含まないものと解釈している。また、同条約第12条第3項の「法的能力の行使」とは行為能力のことであり、成年後見制度が法的能力の行使に当たって必要な支援の一環であると解釈している。
 その一方で国連障害者の権利に関する委員会の解釈は、一般的意見第1号パラグラフ12で、法的能力は法的地位に関する能力と行使に関する能力の両方が含まれるものとされており、日本の民法でいうところの権利能力と行為能力の双方が含まれるものとされている。障害者の権利に関する委員会の解釈に従うと日本の成年後見制度は、精神上の障害と事理弁識能力を欠く常況を要件に行為能力を制限するため同条約の趣旨に違反することになる。
 「障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン」には、最善の利益に基づく判断のことが書かれているが、一般的意見第1号パラグラフ21では、意思及び選好の尊重に基づく解釈が必要であり、最善の利益に基づく判断は否定されなければならないものとされている。
 この点は、日本政府の解釈と障害者の権利に関する委員会の解釈が異なるため、少なくとも双方の主張を両論併記にしていく必要がある。

② ペルーの実践と発展的解釈
 ペルーでは、2018年9月に民法が改正され、障害を理由とした行為能力の制限条項が大幅に見直された。この取り組みは、障害者の権利に関する条約第12条に沿って成年後見人制度が抜本的に見直された世界初の取り組みとして注目を集めている。条約法に関するウィーン条約第33条第3項には、事後の合意、事後の慣行といった発展的解釈の規定がある。ペルーの取り組みは、事後の合意や事後の慣行にかかわりうるため、意思決定支援にかかわる者は研修を通じてとくに理解を深めておく必要がある。
 この民法改正は、Sodisという障害者の権利擁護活動をしているNGOが中心になって進めてきたものである。ペルー民法では、能力(capacity)という概念を用いておらず、かわりに識別力(discernment)という概念が同様の用法で用いられている。改革のひとつは、障害者の法的能力を制限すると解釈できる識別力条項の全削除である。識別力欠如は、事実上の障害を理由とした法的能力の制限を帰結するためである。現在では、識別力欠如を理由とした法的能力の制限条項がなくなっている。
 また、この民法改正をうけて、民事訴訟法の障害を理由とした訴訟無能力条項の削除を伴う改正もあわせておこなわれた。改正後は、法廷での手続きに参加するため、また手続き上の配慮にアクセスするための能力をすべての障害者に認めることとされた。

③ 第1回政府審査
 日本の市民社会組織は、予備審査及び事前質問事項の採択あたって国連にパラレルレポートを提出した。同条約第12条と成年後見制度については、合計4団体が報告を提出しており事前質問事項にも影響を与えた。

◆事前質問事項(政府仮訳)
11. 以下のために講じた措置についての情報を提供願いたい。
(a) 障害者が法律の前にひとしく認められる権利を制限するいかなる法律も撤廃すること。また,民法の改正によるものを含め法的枠組み及び実践を本条約に沿ったものとすること。事実上の後見制度を廃止すること。また,代替意思決定を支援付き意思決定に変えること。
(b) 法的能力の行使に当たって障害者が必要とする支援を障害者に提供すること。
(c) 全ての障害者が法律の前にひとしく認められる権利及び意思決定のための支援を受ける権利について意識の向上を図ること。特に,障害者とその家族,司法の専門家,政策立案者及び障害者のためにあるいは障害者と共に行動するサービス提供者を対象とするもの。
 今後は、日本政府として事前質問事項に回答を出し、建設的対話を経て総括所見で勧告がまとめられる見込みである。ここでは、少なくとも同条約の啓発の機会としての研修が求められていることがわかる。

2 研修の講師
 研修の講師は、障害当事者が担うべきである。とくに上述の事項に関しては、障害者の権利に関する条約の政府審査にかかわった障害当事者が望ましい。

3 意思決定支援研修の位置づけ
 意思決定支援研修においては、国際的な連帯の下にある障害者運動と国連障害者の権利に関する委員会の解釈に従ったかたちで構築される必要がある。
 また、意思決定支援を規定した障害者基本法をはじめとする障害者施策の動向(自立支援法違憲訴訟基本合意など)や障害者運動の歴史について言及されるべきである。
 我が国では、成年後見人による意思決定支援が検討されているが、多くの先進諸国では、成年後見制度に補充性要件が設けられていて、成年後見制度の代替手段として意思決定支援が用いられている。このことについても言及されるべきである。

4 交渉過程及び一般的意見を参考にすること
 条約法に関するウィーン条約によると政府には誠実な解釈が求められており(第31条第1項)、交渉過程や一般的意見を参考にしながら解釈される必要がある。しかし、日本国内における先般の民法改正や意思決定支援のガイドラインは、交渉過程や一般的意見を参考にしているのかが必ずしも明らかではない。本意思決定支援研修にあたっては、交渉過程や一般的意見を参考にしながら組み立てられるべきである。

5 共同意思決定の限界
 意思決定支援において注目されているのは共同意思決定である。共同意思決定は、本人と周囲の支援者が共同で決定することで、決定に伴う負担を本人だけではなく周囲に分散していく方法である。この方法は、決定に限ってしか効果を発揮できず、決定によって生じた法律上の効力からの負担の分散までは捉えきれていない。本人や支援者が共同で決定したことに伴う法律上の効力を引き受けるのは本人だけである。支援者は、決める過程にかかわっておきながら法律上の効力には拘束されない。そのため本人と支援者は、非対称な関係に置かれることになる。長所だけではなく、短所や限界も明文で言及されるべきである。