東京都の人権政策推進にむけた要求書

東京都知事 猪瀬直樹  様

人権ネットワーク・東京
代表 八柳 卓史

東京都の人権政策推進にむけた要求書

1. 基本要求
(1)新大久保での民族排外デモなど人権教育や啓発のみでは解決が困難な差別扇動(ヘイトスピーチ)が増加している。「差別禁止条例」の制定など「人種差別撤廃条約」など国際人権条約にそって法的な整備をはかられたい。
(2)人権政策の推進において被差別の当事者の意見等を踏まえることや政策推進への参画が重要であり、専門家や被差別当事者団体と人権政策の推進について定期的に協議がおこなえる常設機関(「人権政策審議会等」)を設置されたい。
(3)人権政策の推進に当たって、現状を把握することは極めて重要であり、「人権意識調査」「被差別者の生活実態調査」「差別事件や人権侵害の調査」を実施されたい。

2.在日本韓国人・朝鮮人差別の撤廃に向けた要求
(1)朝鮮学校への「私立外国人学校教育運営費補助金」を復活されたい。また全ての外国人学校への教育助成を拡充されたい。
政治的、外交的問題をもちだして朝鮮学校への補助金を停止することは国際人権規約(社会権、自由権)や子どもの権利条約などにも抵触する重大な人権侵害です。
即刻、補助金を復活すべきです。
また、他府県と比べても著しく低い水準にある外国人学校への教育助成を拡充することを求めます。
(2)ヘイトスピーチを防ぐための措置を講じられたい。
新大久保などで繰り返し行われている「朝鮮人首吊レ毒飲メ飛ビ降リロ」「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」等のプラカードを掲げ、同様のシュプレヒコールを叫びながら練り歩く排外主義者らのヘイトスピーチを防止するため、人種差別禁止条例を制定する等の措置を講じることを求めます。
(3)制度的無年金状態に放置されたままの障害者・高齢者への救済措置をとられたい。
1959年の国民年金制度発足時より1981年まで存在した「国籍条項」と、その後、経過措置が日本政府によって取られないがために無年金状態となっている、障害者・高齢者への救済措置として神奈川県などが行っているのと同様の福祉給付金を東京都としても支給することを求めます。
(4)神奈川県の外国人居住支援制度や川崎市などで行っている外国人の住まい探しの保証人制度のような外国籍住民の住まい探しへの支援措置を設けられたい。

3.部落差別撤廃に向けた要求
戸籍謄本等不正取得事件、土地差別調査事件、悪質な差別落書(貼紙)事件の再発防止に向け以下の対策を講じられたい。
(1)自己情報のコントロール権の観点からも、戸籍謄本等を第3者が取得した場合に、取得された本人にその旨を通知する「本人通知制度」を確立するよう都内全区市町村に要請していただきたい。
(2)土地差別調査など差別身元調査を規制する「身元調査規制条例」の制定など法制度的な対策を確立されたい。
(3)東京都個人情報保護条例における「社会的差別の原因となる個人情報」に「被差別部落の所在地名」が含まれることを明確にされたい。
(4)差別落書きは社会に対する悪質な差別扇動であることを踏まえ、再発防止に向けた抜本的な対策を講じられたい。

4.婚外子差別撤廃に向けた要求
(1)「婚外子差別をなくすこと」を東京都の人権啓発活動強調事項の一つとし、人権週間などを通じて啓発活動を行ってください。
(2)婚外子に係る戸籍及び住民票事務の以下の項目について各自治体に周知してください。
① 婚外子の出生届に当たっては、「父母との続き柄」欄に「嫡出子又は嫡出でない子の別」の記載がされていなくても届書の「その他」欄に、「出生子は、母の氏を称する。」等と記載すれば受理できること。また、胎児認知の届出がされているとき、又は出生届と同時に認知の届出がされた場合は、「その他」欄に「父は、同居者である。」等の記載をすれば、父を届出人として受理できること。(2010年3月24日付け法務省民一第729号民事局第一課長通知)
② 2004年11月より前に生まれた婚外子の戸籍の続き柄を「女」「男」から「長女」「長男」方式に変更したい場合、更正の申し出だけでは「女」「男」の記載が残ってしまうので、再製の申し出も同時に行う必要があること。それを申し出人に必ず説明すること。
③ 2010年3月24日付け民一第730号民事第一課長通知により、更正申出等の記載のある従前の戸籍(除籍・改製原戸籍)については再製の申出ができると、取り扱いが改められていること。
④ 出生届が受理されず戸籍に記載のない子についても住民票は適法に作成できること(2009年4月17日 最高裁判決)。
(3)以下の7項目について、東京都から国に要請してください。
① 戸籍法49条の出生届に「嫡出」か否かの記載を義務付ける規定をなくすこと
② 婚外子の父に出生届の届出人資格を与えること。
③ 戸籍法13条4項後段の実父母との続柄は不要であり、なくすこと。
④ 戸籍法13条5項後段の養親との続柄は不要であり、なくすこと。
⑤ 戸籍法施行規則における戸籍の父母との続き柄は「女」「男」方式に改正した上で、本人申し出ではなく職権で全て変更すること。
⑥ 税法の寡婦控除制度を改正し、婚姻歴のない母(父)子家庭の母にも「寡婦控除」を適用すること。

5.女性差別撤廃に向けた要求
東京都は2000年に、「東京都男女平等参画基本条例」を制定しました。それに先がけ、国は1999年に、「男女共同参画社会基本法」を成立させました。しかし、日本の女性の地位は、OECD諸国のなかで、昨年は135カ国中101位と、先進国では例のないほど低く、かつ年々後退しています。
残念ながら東京都においても、この男女の格差や不平等は改善されておりません。以下、現在私たちが女性の立場から特に問題としているテーマに沿って、現状と問題点を申し上げ、都の政策の中に考慮していただくよう、要請する次第です。
(1)東京の保育問題
安倍総理は、「育児休業を3年まで延ばし、待機児童をなくすため保育園の整備を加速する、5年間で待機児童をゼロにする」と発表し、大きな議論を呼びました。東京都でも、猪瀬都知事が新聞等で、保育政策について積極的に発言しておられます。
東京都議会では、今年度中に50ヵ所の認可保育園を増設すると決定され、歓迎すべきことと評価しております。しかし、今年の4月時点で2万人の待機児童がいることを考えると、全く不十分であります。知事は小規模保育所などで対応すると意欲を示されていますが、危惧されるのは、「基準緩和」の問題です。
現在東京都で行われている「認証保育制度」は、認可保育所よりは基準が緩和され、保育の質の低下がもたらされると同時に事故も増えています。また、国の援助がないため、保護者の負担も国基準より大きくなっています。小規模保育所においても、認可保育所と同じ基準になるよう、十分なご配慮をお願いいたします。
(2)東京の教育問題
・学級定数の改善について
2011・12年度と小学校1・2年生の学級定数が40名から35名に改善されました。いじめ問題の解決のためにも、学級定数の改善は不可欠です。しかし政権交代により、2013年度の小学校3年生の35人学級は実現しませんでした。現在学級定数は、都道府県独自に少なくできるようになっています。東京都として、小学校3年生以上及び中学校1年生以上の学級定数の改善を行われるようにお願いします。
・教科書と「道徳」教育について
来年は中学校教科書採択の年です。東京都が中高一貫校の中学校と、特別支援学校の一部に採択している『歴史』と『公民』の教科書は、男女平等の観点から見ると問題が大きいと思います。人権の立場からぜひ見直していただきたいと思います。
また国は、『道徳』を教科として位置づけようとしています。すでに現在の指導要領では、全教科において道徳を教えることになっています。しかし、多様な価値観こそが男女平等にとって重要であるという国際的な認識の流れの中で、道徳教育の一元化、家族や国家を絶対的価値とする教育は、東京にはふさわしくないと考えます。都としても慎重な態度をとっていただきたいと思います。
(3)デートDV・セクシュアル・ハラスメント防止のとりくみについて
東京都生活文化局は平成25(2013)年2月に「若年層における交際相手からの暴力に関する調査」を発表しました。大変時宜を得た調査であると考えます。この調査で、交際相手からの暴力(デートDV)を受けたと答えているのは37.4%にも上ります。また、デートDVについて学習機会があった人は、無かった人に比べ「暴力をふるうことは何があっても許されない」と答える割合が10%近く高くなっており、学習効果があることが読み取れます。都内の中学校・高校でデートDV防止の授業が広く行われるように、都としての啓発や、外部講師を呼ぶための補助をお願いします。
また、平成24(2012)年3月に発表された「男女平等参画のための東京都行動計画」には、「セクシュアル・ハラスメントの防止」として、「教育現場においても、~対応が求められています」と記述されています。学校でのセクシュアル・ハラスメント防止のために、教職員研修の啓発や、外部講師を呼ぶための補助をお願いします。
(4)朝鮮学校への補助金の支給について
民主党政権は高校授業料を無償化しましたが、「あらゆる学校に実施」をたてまえとしていながら、朝鮮学校だけに支給しませんでした。安倍政権ではさらに「朝鮮学校排除」を文部科学省の省令で決めてしまいました。私たちはこれを、すべての子どもたちの学ぶ権利を保障した、日本も批准している「子どもの権利条約」の違反であると考えます。
この無償化の問題に連動し、東京都では、朝鮮学校に15年間支給されてきた約2400万円の補助金を、2010年度には予算に計上されていたのにもかかわらず支給せず、その後現在まで3年間支給していません。他の外国人学校には支給されており、これは、あきらかに人権侵害であり、民族差別です。植民地政策によって、在日朝鮮人として生きざるを得なかった人たちの子どもたちの心を、国や東京都が差別によるイジメをして傷つけてはならないと思います。ひとしく納税の義務を果たしている保護者の負担をこれ以上重くしてはならないと思います。すべての子どもたちに学ぶ権利を保障してください。そのためにも補助金の復活を強く要請します。

6.障害者差別撤廃に向けた要求
今年6月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が成立しました。
これは、障害者権利条約を国内において具現化させる重要な法律で、2年間にわたって内閣府の障害者政策委員会・差別禁止部会で議論されたものを具体化させたものでした。
しかしその「部会意見」では、差別の定義化がなされるとともに、当事者団体や法律関係者を交えた紛争解決の仕組みの重要性が提起されていました。しかし残念ながら今回の法律ではそれが盛り込まれなく、3年後の施行までの議論、ないしは6年後の見直しに委ねられることになってしまいました。
一方でこの法律は、自治体のいわゆる「上乗せ・横出し条例」を否定しないと、しています。法律の今後の見直しにあたっては、裁判規範性に耐えうる、より強制力と実効性のある法律が求められます。そういう意味からも、自治体において実効性のある障害に基づく差別を禁止する条例づくりが求められています。
(1)障害に基づく差別を禁止する東京都独自の条例を早急に制定すること
(2)条例制定にあたっては、国の差別禁止部会で提言された、「不均等待遇」と「合理的配慮」の不提供を“差別”とする定義化を図ること
(3)差別を受けた場合、気軽に相談できる、紛争解決の仕組みや相談機関を、障害当事者団体や法律関係者など幅広い立場の人々によって構成するものをつくること
(4)法律では、合理的配慮について民間事業者の場合、努力義務としたが、合理的配慮の概念自身が「過度な負担を超えない範囲のもの」という性質上、民間事業者についても、東京都の条例では義務化とすること
(5)法律の中に「障害者差別解消支援地域協議会を設置できる」とあるが、都の全ての区市町村においてそれが設置されるように促していくこと
(6)条例制定においては、都の様々な立場の障害当事者団体と協議をしていくこと

7.精神障害者差別撤廃に向けた要求
(1)他障害と精神障害者に対する支援の不均衡を差別として捉え是正すること
①障害者医療証を他障害同様精神障害者にも適用する
②交通費割引を他障害同様に精神障害者にも適用すること
タクシー運賃の割引を精神障害者にも適用する
とりわけ介助者の交通費無料化を精神障害者にも適用すること
(2)精神障害者の入院および処遇について
今年5月31日に国連拷問等禁止条約委員会は初めて日本の精神医療を全面的に批判し厳しい勧告を突きつけている。主な勧告の中身は以下通りです。
1.強制入院に法的コントロールを、有効な不服申立てメカニズムを
2.地域サービスの充実で入院患者を減らすこと
3.身体拘束や保護室への隔離を減らすこと、期間も最小とすること
4.身体拘束や保護室隔離などの行動制限による被害者に対して救済と賠償を
5.独立した監視機関による精神病院の定期的監視を
こうした勧告も踏まえ、精神病院への長期入院及び強制入院そして身体拘束や保護室隔離は人権問題であるという認識のもとにいかを徹底すること
① 東京都では新規措置入院が最小の県の17倍もある実態について、そしてもたらされた被害について当事者から聞き取りもふくめ個別ケースの徹底再審査を行うこと 全国平均で措置入院と医療保護入院があわせて在院患者の4割強である実態は国連拷問等禁止条約委員会でも問題にされているが、東京においても4割が強制入院である。こうした強制入院の運用について再審査する必要がある
② とりわけ長期入院患者の存在については、それぞれ個別事例にたいし退院に向けた集中的な支援が必要である。東京には5年以上の長期の在院患者が6253人存在し、そのうちなんと措置入院は6名(うち20年以上2名)医療保護入院は1446人。強制入院が長期化している実態は、強制入院の不当性を立証している。徹底した再審査と退院に向けた集中的な支援が必要である
③ また身体拘束や保護室隔離についても、東京では身体拘束されているもの952名保護室隔離されているものが524名である。この実態についてとりわけその期間についても個別の調査と解決が求められる
④ こうした精神病院への精神障害者の隔離拘禁の実態解決のためには精神病院収容者はホームレスであるという認識のもと速やかな住宅保障が求められている
(これらは全て2010年の患者調査および衛生行政報告による)

8.路上生活者に対する差別の撤廃及び貧困問題の解決にむけた要求
(路上生活者襲撃事件に関して)
今年7月3日に江戸川区内で路上生活をしている男性のテントに花火が撃ち込まれ、中高生5人が逮捕されました。中高生による同様の襲撃事件は毎年のように発生しています。
襲撃事件の背景には、路上生活者への根強い差別・偏見があり、その解消が喫緊の課題になっています。
(1)路上生活者に対する襲撃を生命尊重にかかわる重大な事件として受け止め、都内の学校現場で路上生活者の人権に関する授業実践に取り組むこと。また、教職員対象の研修会も実施すること。
(2)路上生活者の人権に関して都民への啓発活動を積極的に実施すること。
(「脱法ハウス」問題など、住まいの貧困に関して)
多人数の居住実態がありながら建築基準法や消防法、東京都建築安全条例などに違反している「脱法ハウス」(違法貸しルーム)が都内に広がっています。現在、国土交通省が実態調査に乗り出していますが、違法物件の大半が都内に集中していることが明らかになっています。こうした安全性の欠如した物件が広がる背景には、民間賃貸借市場における入居差別や保証人問題、高い初期費用などの問題があることが指摘されています。
(1).国土交通省による「脱法ハウス」(違法貸しルーム)の実態調査に都としても全面的に協力すると同時に、「脱法ハウス」入居者が安全な居住環境に移れるための施策の充実を図ること。
(2)入居差別や保証人問題など、被差別者や低所得者の住まいの確保にあたっての課題を総合的に検討する部局横断的な検討委員会を設置し、被差別当事者や居住支援NPOのメンバーも委員に加えること。
以 上
   2013年12月10日