こころの健康推進議連ヒアリングに向けて

こころの健康推進議連ヒアリングに向けて 20120209
全国「精神病」者集団意見書

結論
私たちはこころの健康推進基本法を求めません。

理由
1 立法事実がない さらに憲法違反、自由権規約拷問等禁止条約違反、そして障害者権利条約に抵触するおそれがある
 精神疾患(心の健康)の問題が重大な問題であるという認識を示しているが、その背景にある、性差別他差別問題、人権侵害、労働環境の問題、経済施策などを個人病理として解決しようとすることは重大な誤りであり、むしろ問題の所在を不明確にし、政策の失敗を糊塗することになる。
 構造的な社会問題を心の健康の問題として、精神医学化するのは、厳に慎まなければならない。
 例えば自殺問題一つとっても一部の都道府県自死遺族会の調査では自殺者の少なくとも半数が精神科利用中あるいは利用歴があり、精神医療は自殺防止に役立っていない。むしろ精神医学化が、差別的ラベリングをし、それによる自殺の疑いすら多く指摘されている(参照 添付資料1 うつ病患者の増大と抗鬱剤の販売数増加が自殺を防止していない事実添付グラフ参照 別紙添付資料2また富士市による自殺防止キャンペーンが自殺を減らしていない事実)
 また月に100時間以上残業している欝の患者さんに残業をやめなければお薬をいくら飲んでもよくなりません、会社と話し合いましょうと主治医が提案し勤務先を聞いたら、なんと労働基準監督署だったという実話すらある。
 自殺防止や虐待防止に対しては、子育て後、病気休職後の復職者が安心して働ける職場作り、総労働時間の削減、労働者派遣の禁止と正規職員化などの労働条件の解決、さらに貧困問題の解決こそが優先されるべきであり、心の健康基本法制定の立法事実はない。(添付資料3参照)
 またすでに精神保健福祉法はその第3条国民の義務において「 国民は、精神的健康の保持及び増進に努めるとともに」とされ、さらに健康増進法第2条(国民の責務)において「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない。」としている。
 これらはすでに健康を国民の義務とし、疾病を持つものや障害者をいわば非国民として位置づけ優生思想を強化するものであり、憲法25条の生存権という権利を国民の個別の義務に転化したものでありそもそも問題であるが、これに屋上屋をかけて心の健康を推進しようとすることは重大な疑義がある。
 そもそも心という目にも見えない形もないものが病んだり健康になったりするはずはなく、「心の健康」の法律による制定は、憲法第19条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」に抵触するおそれすらあり、個人の精神的身体的統一性完全性不可侵性(インテグリティ)の侵害を禁止している拷問等禁止条約および自由権規約、そして政府が署名し今批准に向けた障害者権利条約17条にも抵触する
 こうした立法事実がない法律を作るならば、精神保健福祉医療専門職の利権を拡大し、さらに市民の内心へまで踏み込んだ権利侵害を拡大するだけであり、自殺防止になるどころか虐待や差別人権侵害を強化しかねない

2 今私たちが求めるもの

1 まず精神障害者への差別立法を廃止すること、差別的政策を廃止変更すること
 精神障害者差別をあおり人権侵害を重ね、分かっただけで17名の自殺者を出している心神喪失者等医療観察法の廃止(資料4 別紙東京新聞記事参照)
 何の法的根拠もなく個人に強制介入するアウトリーチ事業を廃止すること(これは本人の同意が取れないからこそ医療保険が使えないと厚生労働省は説明している。全てを拒否している方についてはヨーロッパでも高く評価されている例えばスエーデンスコーネ県のパーソナルオンブートのような試みが試行事業化されるべきである 資料5参照)

2 総合福祉法骨格提言を完全に反映した障害者総合福祉法を制定し、精神障害者にも使いやすい介助体制や支援を準備することで、精神障害者の地域生活を保障していくこと。
 本人の権利擁護者を準備し、施設病院、刑事施設に出張御用聞きをする権限と義務を定め、また相談支援はケアマネージメントではなく権利擁護でもあるべきことを明記すべき。政府の現行の自立支援法における相談支援はケアマネージメントとして位置づけられ、かつ「中立公平」「家族あっての自立」という位置づけであり、人権擁護ではなく裁く機能を持たせられており、これはソーシャルワークの倫理規定「非審判」にも抵触する。
 とりわけ骨格提言の地域移行の法定化を速やかに定め、長期高齢患者20年以上の入院患者が4万人以上いる実態を早期に解決すること(厚生労働省は来年度予算で精神病院に長期高齢患者の地域移行の担当者を各精神病院に一人配置するとしているが、精神病院に雇われた人間に退院促進は不可能、利益相反となる)
 また地域移行は家族が介助している精神障害者についても自立生活に向けた障害者本人への介助支援体制を法定化することであり、この点も重要である

3 精神医療の一般医療への統合を進め、ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会の求める医療基本法制定およびそれに伴う患者の権利法制の確立が必要である。この提言は医師会および日本精神病院協会など医療提供側も含めて賛同したものであり、精神医療の底上げも重要であるが一般医療自体が崩壊している実態(地方は当然、例えば東京ですら小児科の救急は危機に瀕しているし、精神障害者の合併症治療も保障されておらず死亡者が出ている 資料6参照)を考えると、医療の基盤整備こそが今緊急に求められており、医療基本法の制定が何より優先課題である
 在宅医療の強化も必要であり、総合医による精神疾患への対応は今後さらに重要となる

4 強制入院制度については、数値目標を定めた削減方針を定めるべきであり、最終的に精神保健福祉法を廃止し医療基本法に統合すべき
 障害者権利条約は12条、14条、15条、17条、25条で強制入院および強制医療を禁止している
 オランダでは専門職団体が一致して年間10%ずつ強制入院を減らしていく計画が立てられ、そのためのオールタナティブの開発にも予算が付けられている。ノルウェーでは、少女への強制入院強制治療についてヨーロッパ拷問禁止条約の調査が入ったこともあり精神保健法の廃止への議論が始まっている
 OHCHR(国連高等弁務官事務所)のモニタリングガイドおよび資料ではいかなる強制入院も障害者権利条約の下ではあってはならないとしている(添付資料7参照)
 また拷問等禁止条約前特別報告官は強制医療や強制入院は拷問等禁止条約が禁止している拷問あるいは残虐で非人道的品位を汚す処遇に当たりうるとしている(添付資料8参照)
 当面残る強制入院や閉鎖処遇については速やかに拷問等禁止条約選択議定書を批准し、国内防止機関を作り精神病院に対して継続的抜き打ち査察を行うこと(別紙添付資料9参照)
 こころの健康推進議連におかれましては上記意見および添付資料ご参照の上、基本法成立ありきではなく、幅広い議論検討を継続なさることを訴えます